「独り身だからって、遊び歩きもほどほどになさい!」大事な結婚の日にママの怒りで外出禁止!? ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~
「僕は何もなかったなんて言えない」一夜明け帰京する男たち
匂宮と中の君、薫と大君がそれぞれ結ばれればwin-winという計画は、大君の逆鱗にふれ頓挫。薫が未遂に終わったとは夢にも思わない匂宮は、朝になっても起きてくる様子がありません。昨日はお楽しみでしたね!
「道案内の僕のほうが道に迷ってしまいそうだ。こんな、心ゆかぬ夜明けを迎えて」と薫がボヤくと、大君は「ご自分で勝手になさったことなのに迷うなんて。わたし達の気持ちを思いやって下さい」とピシャリ。まったく、おっしゃる通りです。
夜明け前に京につかねばと、男たちはそそくさと帰って行きました。道すがら、宮は「今からもう悩ましい。こう遠くては気軽に行けないじゃないか。とてもあの人と離れて過ごせそうにない。お前の骨折りに感謝するよ」とご満悦の様子。
宮につられて笑いながら、薫はさすがに、自分は何も出来なかったとは告白できませんでした。
早くも今後が不安……心労であれこれ気をもむ姉
大君のもとからも、中の君のもとからも男が出て帰っていった事態に、女房たちは大混乱。一体何がどうなっているのか、それとなく大君に訊ねますが、当の大君は放心して心ここにあらずの様子です。
一方、薫に続いて匂宮に踏み込まれ、今度は本当に結ばれてしまった中の君の衝撃は計り知れません。それもこれも姉が仕組んだものと思い込み(お姉さまはひどい、こんな計画をおくびにも出さないで)と、目を合わせずにふさぎ込んでいます。
気まずい中、早速匂宮からの後朝の文がやってきます。お使いに来たのは大人の使者ではなく、宮がかわいがっている殿上童の男の子です。
「世の常に思ひやすらむ露深き 道の笹原分けて来つるも」。はるばる道の笹を踏み分けながらやってきた私の気持ちを、並大抵のものだとは思わないでくださいよ、と、書き慣れた美しい字で書かれています。しかし、中の君は手紙を見ようともしません。
ただ手紙だけのやり取りなら気楽に返事が書けたものの、こうなった以上、宮に見捨てられるような事態になったらどうしようと、姉の大君は今から心配です。
少年はなかなか返事がもらえないので「時間が……」と困り顔。こんな展開は嫌だったものの、それでも妹の結婚を望んだのは自分。さすがに姉の代筆とはいかないと、なんとか妹に言い聞かせて、書くべきことを教えて返事を書かせ、お使いへのお礼を添えます。でも彼が受け取りを渋るので、お供のものにもたせました。
手紙におまけがついてきたのを見て、ちょっと嫌な気がしたのは匂宮。「大げさにしたくなかったのに。きっと昨日案内した老女房(弁)あたりが下手に気を利かせたんだろう。余計なお世話だ」。
なんとか妹と匂宮の関係を確かなものにしたいと思い、形式通りの作法を守った大君と、身近な少年を遣わし、あくまでも極秘交際のようにしておきたい匂宮との、意識の違いが浮き彫りになります。
いい加減には出来ない!混乱のまま迎えた結婚2日目
当時の結婚は3晩続けて男が通うことで初めて成立します。今夜は2日目。宮は薫を誘いましたが「冷泉院の御用がある」と理由を作ってパス。宮一人での宇治行きになります。大君は「思いがけないことだけど、こうなったらいい加減にはできない」と、なんとか部屋を飾り綺麗にして、花婿を出迎える支度をします。
花嫁の中の君は、相変わらず魂も抜けたようになって、お化粧もお召し替えもなすがまま。混乱から抜け出せず、濃い紅色の衣装が涙でひどく湿っています。
大君も妹が哀れになり、涙をこぼしながら「私もいつまで生きていられるかわからないし、ただただ、あなたの将来が心配でたまらなかったの。
女房たちは結婚、結婚と言うでしょう。確かに、頼りない私一人が我を張って独身を貫くのに、あなたを巻き込んでいいのだろうかと思うところもあって。年をとったあの人達の言うことにも一理あると思ったの。
でもまさかこんな風になるなんて……。でもきっと、これが世に言う“前世からの約束事”だったのでしょう。もう少ししたら、私が今回のことに関係ない理由も話すわ。だから、あまり私を憎まないで。罪のない人を憎むのは罪作りなことよ」。
そう言って優しく妹の髪を撫でると、中の君は返事をしないものの、すこし表情が和らぎます。「そうよね、いつだってお姉さまは私を思って下さっているもの。でもだからこそ余計に、お姉さまの心配事を増やしたくないのに……」。
なんの準備もなく、恐れおののいていた昨日の中の君も可憐でしたが、今夜のきちんとお化粧をし、涙に萎れた花嫁姿の美しさはまた格別。匂宮は有頂天で、簡単に逢えないことに胸を痛めつつ、心をこめて将来を約束します。
しかし中の君にはその約束も、嬉しいともどうとも思えません。男兄弟もおらず、父は俗聖という特殊な環境で、世間から隔絶された山奥で育った彼女としては、いわゆる年頃の男の生理がどんなものか、セックスがどういうものか、まったく知らなかったのです。
そのため、とにかくショックで恥ずかしく、自分はどこか京の人たちと比べておかしいのではないか。田舎っぽくてみっともないのではと、そんなことばかり気になります。普段の明朗で機転の効く彼女らしさは影を潜め、ろくに会話もできません。
九州育ちの玉鬘がその方面にまったく疎く、源氏に添い寝されただけで貞操を失ったと思い込んでいたのが思い出されます。たとえ予備知識があっても大ショックには違いないでしょうが、お気の毒です。
大切な3日目……でも成婚のお餅はどう作る?世間知らずの姉の戸惑い
そうこうするうち2日目もお開き。「明日は3日目ですから、三日夜の餅を召し上がらなくては」と女房たちはいいますが、大君はそれを具体的にどんな風に作って出せばよいのか、見当がつきません。そういうシーンを見たこともないし、自分もやったことがないんですから。
親代わりとは言え、知らない私が指図するのも、女房たちもおかしく思うだろうと顔を赤らめて悩んでいます。姉も妹も、ここへ来て知らないことだらけです。
さて、昨日はパスした薫から手紙が。事務用の陸奥紙に「昨日は行こうと思いましたが、僕がご奉公してもなんの甲斐もなさそうでしたので。今夜は雑用係でもと思いましたが、ちょっと具合が悪くてグズグズしています」とあり、一緒に今夜のための晴れ着やら反物やらが入れてありました。これは、母の女三の宮の手元にあったありあわせの衣類や布です。
女房たちの衣装とは別に、格別に美しいものが2つ、これは大君と中の君用らしい。その袖のところには「小夜衣着て馴れきとは言はずとも かごとばかりはかけずしもあらじ」。結ばれたとは言わないが、添い寝までしたんだから、僕だっていいがかりくらいはつけられますよと、暗に脅しています。脅されてもねえ……。
姉妹ともどもみっともないことになったものだと大君は頭を抱えますが、さすがに言われっぱなしは避けたいところ。気ぜわしい時なので、何のひねりもなく「隔てなき心ばかりは通ふとも 馴れし袖とはかけじとぞ思ふ」と返します。
心を開いてお付き合いをしていますが、身体まで許したとは言わないで――。薫は愛しい人からの素直なメッセージを見ても、気持ちが切れそうにありませんでした。
「遊んでばかりはいけません!」ママの怒りで外出禁止の大ピンチ
三日夜を目前に、匂宮は久々に宮中に参内していました。でも気になるのは中の君のこと、早く抜け出して宇治へと焦っていると、母の明石中宮からお声がかかります。
「いつまでも独り身で気ままに過ごしているのが良くないようですね。風流ごとは何事も過ぎるとよろしくありません。特に遊び歩きはほどほどになさい。あなたの良くないお話を聞いて、陛下もお心を痛めておいでです」と、宮中に留まるように言われます。
わがまま放題の皇子ですが、お母さんには頭が上がりません。でも今日行かないとすべてがパー。さて、どうする?
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/
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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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