【シェアな生活】”シェア”は所有や消費よりも面白くなる――『ブックシェアカフェ』菅谷洋一氏インタビュー(4/4)
”シェア”をすることによって、もっと本やコミックが楽しくなる。そんな場所として生まれた『ブックシェアカフェ高円寺店』の企画担当、菅谷洋一さんへのインタビュー第4回、最終回です。前回はこちら。
※連載シリーズ『シェアな生活~共有・共感・共生がもたらす新しいライフスタイル』関連記事です。
登場人物
菅谷=菅谷洋一さん。『ブックシェアカフェ』企画担当。
深水=ききて。深水英一郎(ガジェット通信)
●情報と物流
――深水:iTunesで映画の「セル」と「レンタル」が始まりました。また、GoogleTVなども話題です。
菅谷:5年くらい前に「放送と通信の融合」という言葉が流行りましたが、それは、TVでドラマを観ていて、その主演の女優が着ている服を端っこのバナーをクリックすれば購入できるという世界観のことを指しているのではなく、「放送インフラ」と「通信インフラ」がボーダレスになることだと思ってます。
「PCインターネット」と「モバイルインターネット」を分けていた時代が長らく続きましたが、これを統合・融合してしまったのがiPhoneやスマホだと思います。端末が統合しました。今度は、GoogleTVのようなものが、「放送インフラ」と「通信インフラ」を統合・融合してしまえば良いなと思っています。またしても端末が統合するのかな、と思っています。放送法と通信法を分けたり、BSとCSを分けたりしていたのですが、それらをインターネットが飲み込んでしまうのかなと思います。
――深水:これは僕だけかもしれませんが……ゲームソフトとか、本とかCDとかDVDといった商品の品切れって腹が立つんです。内容はデータ、それもこれらの商品であれば元はデジタルデータじゃないですか。それをわざわざディスクに焼いて物流に乗せて流しているから”品切れ”を起こす。特にゲームなんかは、ネットで情報交換したりといった体験の共有部分も含めて楽しいという時代になってきているのに、発売日に品切れ。プレイしたいときにプレイできない。読みたい時に読めない。聴きたいときに聴けない。元はデジタルであるんだから、ネットで販売して欲しい。CDとかDVDとかいう容器を使った配信に対する不満も募ってきてるし、それを買って所有するという行為そのものの意味もわからなくなってきています。
菅谷:そうですよね、ほとんどの方は、映像って一回みたらだいたい満足できちゃいますからね。音楽は繰り返し聴くし、活字は繰り返し読むかもしれないけれど、映像はたいがい一回ですね。
――深水:僕も昔は紙の本が好きで本棚に並べたりしてワクワクしてた思い出はあるんですけど、引越しの時に一度綺麗に片付けちゃうとモノが増えるのが苦痛になってきてしまって。本やCDが並んでいる様子を見て、美しいと思わなくなってしまった。
菅谷:たぶん、モノのストレスもあるし、デジタルのストレスもあると思うんですけど、モノのストレスのほうがデジタルのストレスを超えちゃうかもしれないですよねえ。わかんないですけど。
あと、アメリカは再販制度がないので本をディスカウントできるんですよね。そうすると、日本よりももっと小売店が厳しいはずで。だって、値引き率で言ったらネット販売や配信に勝てるわけがないですから、店頭で値段を見てアマゾンで注文するっていうことができちゃうんですけど、そうするとやっぱりアメリカの個人経営の書店なんかは、知識や品ぞろえで勝負することになったり、カフェ化・サロン化が進んだりしていしていってるらしいんですね。
だから、本、CD、ビデオという商材を扱っている店は”モノ売り”はたぶん続かなくて。だから、”モノ売り”ではなくて”施設料”っていう形の経験実験をする必要があったんです。実際、レコード屋さんも本屋さんもつぶれていってます。書店はこの10年間で5000店以上減っているらしいです( http://www.1book.co.jp/001166.html )。
●映像は”脳内消費”でちょうどいい
――深水:本屋さんってどうなっていくんでしょうか?
菅谷:でかい店しか残らないですよね。粗利率25%ぐらいですから、1000万売って250万円。たぶん200万円位は上がりが出ていないと、家賃払えないし、スタッフも雇えないですよね。大きいお店じゃないと成立しなくなってしまった。
――深水:レンタル業は?
菅谷:レンタル業はあまり落ちていないみたいです。特に映像コンテンツって所有するより、借りて返すくらいの”脳内消費”でちょうどいいのかもしれないです。1回しか見ないわけですから。昔、VHSの頃ってセルってあまりなかったじゃないですか? DVDになってから、ゴリ押しでセルDVD市場っていうのを作ってきたような感じがあるんじゃないでしょうか……。2002年ぐらいからでしょうか、もともとそんなにニーズがあるわけじゃないんじゃないかと思います。
――深水:セルDVDって売れてるんですか?
菅谷:セルDVDは売れるものは売れています。あの、1タイトルで10万枚とかいってるものは、あれが大ヒットじゃないですかね。
――深水:あれって誰が買ってるんだろうな、と思いながら見てました。
菅谷:セルDVD市場って、20002年に『PlayStation2』にDVD再生機能がついた頃から普及し始めて、2001~2002年くらいでごり押しして作ったので、2005年くらいまでは流通在庫として、店が仕入れなきゃいけなかったと思うんです。でも、それ以降は実際に売れてないから店が仕入れられなくなっていった。売れないから要らいらないよ、っていう状態ができてきて。全国にたくさんある小売店で1店舗あたり1枚入れてもらえれば数千枚とかそれなりの数にはなってたんです。それが1枚でも売れないものはいらない、ということになってくると、モノによっては、実売100枚、200枚とかいう数字にもなってくる。
――深水:レンタルならまだそういった”ばらまき”みたいなものが可能?
菅谷:モノにもよるんですけど、たとえば、芸人のお笑いDVDみたいなのでも、そこそこ面白くても買うまではいかないじゃないですか。でも、レンタルにあれば、2時間の映画を見るより気軽に見れますし、100円レンタルだったりすると「まあいいか」って。だから、レンタルは売上もいいみたいですね。前年を維持できている。セル部門は完全に落ちてきている。前年比の80%が2年続くと、それって前々年の64%まで下がった、ということですから。
――深水:そこから”シェア”という発想が生まれた?
菅谷:セルやレンタルと違ってシェアサービスを定義するのはまだ難しいです。僕たちもシェアリングですって言いながら、言葉として普及していないので、何をすればシェアなのか判らずにやっています。今試していることを説明するときは「マンガ喫茶です」と言うしかないですかね……。普及しているワードがそれしかないので。そんなのも含めて実験です。
――深水:これから言葉も広がっていくと思いますよ!
●つながりはウェブで
――深水:リアル店舗内での横のつながりはどうやって育てていきますか?
菅谷:それも難題です。コントロールしてどうなるものでもないような気がしていて。後はまあ、これもやってみてなんですけど、横のつながりはどんどん作ってほしいし、会話があってもいいと思っているんですけど、本を読んでいる時間って人としゃべらない時間だったりするので、これもまた難しいなあとか(笑)。
――深水:本を読んでる間はひとりになりたいですよね。
菅谷:ただ、どの本を読んだ、という履歴は管理しているので。そういう意味でその時は本に集中してもらってかまわないんですけどね。
――深水:そしてつながりはウェブで。
菅谷:そうですね。
●映画の制作本数が減っていく?
――深水:菅谷さんは紙の本はずっとあるよみたいなことをおっしゃっていましたが、それって例えるなら「アナログレコードはずっとあるよ」「銀塩カメラはずっとあるよ」みたいな話で。ずっとあるけど、比率は逆転するし急激にメインストリームからははずれていくんじゃないかなぁ。
菅谷:それで言うと、映画もそうですよ。120分の映画って10年後の制作本数は五分の一か十分の一になってしまうんじゃないかと感じていて。やっぱり収支が合わないから。
――深水:映画って究極のリッチコンテンツと言えますが、そういう規模ものは出せなくなる?
菅谷:これまでは映画館でこけても、ビデオで最低限これくらい売れる、っていうのがあったんですよね。だけど、ビデオの最低っていうストッパーが外れちゃったんですよね。最低でもレンタルで2000本は出るとか、例えば映画館で100館公開していた映画ならおそらくビデオで最低何万本は出る、というのがあったんです。でも今、それがなくなってきているので制作費を回収できない。いまの興行ランキングとかを見ると、だいたいテレビ局が出資をしている映画じゃないですか。今だと『海猿』とか。映画業界って小さくて、テレビ業界はすごく大きくて、テレビが唾をつければすぐ一位になっちゃう、そんな世界です。でも、これもまた連発しているとうまくいかなくなるんじゃないかと。テレビのソフト自体もだんだん面白くなくなっているし、それをスピンアウトしたからって、面白くはならないですよね。だんだんそっちまで飽きられてくると、”120分の映像作品”ってどんどん減ってくるのかなって。
――深水:テレビが面白くなくなることによってそういう影響が出てくる。
菅谷:そうだと思います。「パラノーマル・アクティビティ(※)」みたいなのって、年間に500本以上の劇場映画があるうちの、ほんの2~3本ですから。
(※)超低予算・短期間で制作されたホラー映画。小規模公開のスタートだったがクチコミで話題をよび全米興行収入で1位を獲得するまでとなった。
●菅谷洋一の考える”シェア”
――深水:レンタルとシェアの違いについては、どう考えておられますか?
菅谷:レンタルは事業者が仕入れて、貸して、返してもらうもの。シェアは、事業者と消費者、消費者と消費者とで共有していくもの。
――深水:耕しながら共有していく。
菅谷:そうですね。耕しながらとか。難しいんですけど。物々交換なのか共有物なのかってことですかね。ここは一応共有物として回し読み感をウェブを使って演出しているんですけど。
――深水:これからシェアサービスはどんな風に広がっていくと思いますか?
菅谷:モノ+人じゃないですかねえ。安価なものはモノに付帯情報がついて価値が増す。ここで言うと、貸出履歴とそこから広がるコミュニケーション。高価なものは、デフレなので車はシェアしようということで広がっていくんじゃないでしょうか。高いものは経済的な判断でそうなるかもしれませんが、安いものはシェアだから面白いという世界観を作れるかどうかですね。
――深水:安いモノも高価なものも、どちらもシェアした方が面白いし、生活が潤うということは言えるかもしれませんね。所有と消費が美徳という時代とはまた別の面白さを”シェア”がつくりだしていく可能性はありますね。
菅谷:おもしくなればいいですよねえ。買うよりも面白かったらいいわけですよね。本を読んでいる時間っていうのは孤独なわけで、自分と孤独に向き合う時間は必要だからそれでいいんですけど、一方で、ワールドカップの生中継を見ているようなつながってる感って楽しいじゃないですか。本を読んでいる時間にも、つながりを作って見たっていう感じですね。
――深水:最後に、菅谷さんは”シェア”をどう定義しますか。
”シェア”は”つながり”じゃないですかねえ。
――ありがとうございました。
(菅谷洋一氏連続インタビュー、ここまで)
●【連載”シェア”】『ブックシェアカフェ』菅谷洋一氏インタビューINDEX(全4回)
【1】所有と消費が美しい、という時代は終わったのか?
【2】節約だけじゃない。”シェア”が生み出す新しい消費と楽しみ方
【3】あなたは電子書籍で”懐かしさ”を感じることができますか?
【4】”シェア”は所有や消費よりも面白くなる
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