【シェアな生活】所有と消費が美しい、という時代は終わったのか?――『ブックシェアカフェ』菅谷洋一氏インタビュー(1/4)
所有と消費が美しい、という時代は終わったのか?
かつて僕たちの周りにはモノが溢れかえっていた。誰もが欲しいものを手に入れ、自分自身で所有したがった。でも、それって本当に自分で所有する必要があったんだろうか。たまにしか使わないものを自分の部屋に置いておくことに意味なんてあったんだろうか。一回しか読まない本を本棚に並べる理由なんてホントのところはないんじゃないだろうか。
たまにしか着ない服、たまにしか乗らない車。それってレンタルでいいんじゃないだろうか。時代が変わり、”所有と消費”そのものの意味が再考されているような気がする。
積極的な非所有、楽しみのための”シェア”
もちろん、高額なものに関しては”節約”のために『非所有』を選択する場合もある。
しかし、それだけではなく、非所有を選択する人達に、さらなる面白みや価値を提供するサービスが登場してきている。それが”シェアサービス”。シェアという発想のおかげで、今『非所有』が面白くなってきている。場合によっては『所有』より面白くなってきているのだ。シェアされるものは本や車などの『モノのシェア』だけではない。シェアオフィスなど『空間のシェア』や『情報のシェア』などもある。ウェブサービスを含めるともっと高度で面白いシェアサービスが生まれてきている。それら”シェアサービス”に実際に関わる方々の声をきいてみたい、というところからこの企画はスタートした。”シェア”の現状、そして”シェア”の未来について主に実践する人達の話をききながら考えていきたい。
本を”シェア”する『ブックシェアカフェ』
今回お話をきいたのは『ブックシェアカフェ高円寺店』の菅谷さん。2010年8月に東京杉並区の高円寺に登場したこのお店のシステムはとても斬新だ。ざっくりと説明するために、まずは漫画喫茶をイメージして欲しい。ただ、漫画喫茶とは以下が違う。
・個室がない。全席オープン
・ゲーム用PCは置いてない。iPad+キーボード常備
・月額2000円で、月何回でも利用可能。1時間350円のプランもあるけど、月額がかなりお得。混雑時は制限あり。
・読みたい本は必ずレジPOSで”ピッ”とやってもらう。すると読んだ本が会員制サイト「みんなのレビュー」にでてくる。
もちろん、漫画喫茶で見かける以下のようなサービスも
・電源や無線LANが自由に使える
・飲み物はセルフで飲み放題
どうだろうか。漫画喫茶っぽいんだけど、明らかに通常の漫画喫茶とは何かが違う。どちらかというと雰囲気は図書館に近いかもしれない。サイトにログインすれば、他の会員がどんな本をよく読んでいるか、ランキングなども表示される。なかなか面白く実験的なことを実践しているお店だ。この『ブックシェアカフェ』はどうやって生まれたんだろう。お店を訪問し、企画担当の菅谷さんにお話をきいてきました。インタビュー内容は複数回に分けて掲載していきます。
※連載シリーズ『シェアな生活~共有・共感・共生がもたらす新しいライフスタイル』関連記事です。
登場人物
菅谷=菅谷洋一さん。『ブックシェアカフェ』企画担当。
深水=ききて。深水英一郎(ガジェット通信)
●お客さんにお店の権限を開放したい
――深水:モノは所有し消費するのがこれまでの美しさだったと思うのですが、そこから脱却した「シェアする」という考え方がゆるやかに広がってきているように感じます。そのなかでもこの「ブックシェアカフェ」の発想にはとても新しいものを感じました。どういったところからこのお店のコンセプトが生まれてきたんでしょうか。
菅谷:そうですね。お店の仕入れ担当とか本部の販促部とか、そういう人間がどの本を置くかを決める権限を持っているわけですが、それをできるだけ利用者に開放したかった、ということになります。いろんな人が、本のポップも書けるし。実際にそれを仕事としてやる人って「ああ、やべえ。明日までにあと10枚書かなきゃ」って話になって。そうするとメーカーから届いた資料をコピペして、字数を合わせて入稿するというのがオチだと思いますが、そうじゃなくて、ちゃんと読んだ人が、読み終わった感想でもってポップを書けばいいなあと。お店側の機能をできるだけユーザーに任せていきたかったというか。
だから、考え方としてはSNS的なものがベースになっています。サイトの運営者がコンテンツをアップするんじゃなくて、いろんな人が書き込みをしたりアップロードしたりということを、リアル店舗でやってみようとした実験的な店舗企画です。たとえば、『Gyao』と『YouTube』の違いみたいな。『Gyao』というのは、作るないし仕入れて配信するサービス。『Youtube』は違法もあるけれども、いろんな人が動画をアップロードし、それを楽しむサービス。そして『ニコニコ動画』になればユーザーがアップロードした動画へさらにユーザーがコメントをつけてそれ自体がコンテンツとなっていく。
――深水:ユーザーコメントをコンテンツの中に受け容れることにより、コンテンツが重層化し、またそれ自体の価値が増していく。ネットサービスでは見かけますが、それをリアル店舗で実験したいと?
菅谷:リアル店舗の場合、お店がある程度の蔵書を用意する必要はあると思うのですが、元となるコンテンツをある程度の物量で提供したら、後はお客さんが来るということ自体、そしてお客さんが本を読むとか利用するということ自体がコンテンツになっていくんじゃないかと。そうなっていけばいいいなぁと思ったんです。
――深水:店舗側が最初の枠組だけ用意して、あとはみんなで作って行くという考え方ですね。
菅谷:そうですね。ただ、そうなんですけど、それらユーザーがつくったものを受け止めるのは、どこかの誰かじゃなくて、店舗そのものであって欲しかった。例えば、飯を食ってうまかったかどうかを『食べログ』に書くじゃないですか? そうじゃなくて、それをお店が受け止められたら、と思ったんです。
●コメントは『他の人がつくったサイト』じゃなくて『お店自身』が受け止めるべき
――深水:中立的な立場の第三者じゃだめだと?
菅谷:ユーザー自身が創りだすコンテンツをクチコミサイトとしての『食べログ』にぶつけるんじゃなくて、お店が受け止めたらどうなるだろう、と思ったんです。店は消費者と対面しているわけですから。受け皿がお店側にあってもよいのではないかと。お客さんは一人じゃないので、あっちの人も、こっちの人も感想を言いますよね。これがウェブ上に集まって、さらにそのウェブででコミュニケートができるようになれば、それはもうSNSになる。
ここで読んだ本の感想を例えばブログに書くのではなく、お店にブログ的なものが用意されていて、自分がその日読んだ本が自動反映されていれば便利ですよね。ブログもガチで更新しようとすると30分くらいかかると思います。その時間コストをお客さんにできるだけかけさせないで、出来る部分はお店側で受け取ってあげれば、お店がCGM(Consumer Generated Media)に加担できるんじゃないかと思ったんです。POSと会員制ウェブサイト『みんなのレビュー』を繋げたのはそういうわけです。
――深水:ユーザーの感想を受け止めるべき立場としては出版社もそうなんじゃないかと思うんですが、それは店舗がやるべきと?
菅谷:出版社がやってもいいと思います。
――深水:店舗の方が出版社の壁をとっぱらって広く多くのアイテムを取り扱うことができるという利点はありますね。
菅谷:もちろん、ひとつのテーマについて掘り下げてもいいと思います。その場合は出版社がやるのがよいかもしれないです。しかし、品ぞろえという意味では小売なのかもしれないです。ただ、物理空間も共有している上での情報空間の共有だと、アクセスするときの気持ちが違うと思いました。あと、ウェブは情報空間ですが、店は物理空間。ですが、どちらも共有空間としてそこにあることで、店とSNSが両輪でサービスを作っていけるかどうかみたいところを試したいという気持ちがあって。そこが今回の実験店舗における仮説のいちばん大きな部分なんです。
(つづく)
●【連載”シェア”】『ブックシェアカフェ』菅谷洋一氏インタビューINDEX(全4回)
【1】所有と消費が美しい、という時代は終わったのか?
【2】節約だけじゃない。”シェア”が生み出す新しい消費と楽しみ方
【3】あなたは電子書籍で”懐かしさ”を感じることができますか?
【4】”シェア”は所有や消費よりも面白くなる
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トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。
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