「なんでこんな目に…」ゲリラ豪雨からの異常気象に落雷からの出火! 踏んだり蹴ったりのあとに源氏が見たもの ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

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源氏36

「おや、空の様子が…」源氏、ゲリラ豪雨に遭う

3月(旧暦)の最初の巳の日、「今日お祓いをすると大変効果があるといいますよ。ぜひなさって下さい」。源氏は勧めに従い、海辺に祭壇を設けます。今で言う桃の節句です。桃の木は魔除けの霊木、雛人形は身の穢を移す人形(ひとがた)流しが起源になっています。

旅の陰陽師に祝詞を読ませ、船に少し大きめの人形を乗せて流します。源氏には、大海原に向かって流されていく人形が本当に自分そのもののように思われました。春の海は霞んで、海と空との区別もつきません。

「八百万の神よ、私を憐れんで下さい」。源氏がそういった時、急に風が出て、空が真っ暗に。皆が慌てているとあっという間に土砂降りになり、穏やかだった海は荒れ、雷も鳴り響きます。全員、猛ダッシュで家に逃げ込みました。

こんな急変にはあったことがない。天気が悪くなるときは風が吹いてわかるもんだが、いきなり暴風雨になるとは」。今で言うゲリラ豪雨のようなものでしょうか、雷の勢いは衰えず、雨脚はあまりに強烈で、当たると突き破られそうだと表現してあります。「この世の終わりだ」と震える従者たちに混じって、源氏は独りお経を読んで過ごしました。

夕方、やっと雷鳴が遠のきます。「下手をすると高潮にさらわれたかもしれませんね。間一髪、お祈りをしていたのが効いたのでしょう」。ドタバタの恐ろしい一日が過ぎ、源氏が明け方うつらうつらしていると、夢に異形の者が現れます。

「なぜ宮に参られぬのか、お召しであるぞ」。異形の者のその言葉に、はっと目が覚めます。(潮にのまれて海の底の龍宮城へ来いということだったのか…?気持ち悪い…)。源氏はここの暮らしにもうウンザリです。

鳴り止まぬ雷、巨大なヒョウ…相次ぐ異常気象に怯える人びと

豪雨は一過性のものでなく、そのまま数日がたちました。誰もこんな経験はしたことがないので心細く、源氏も(めっちゃ怖い)と内心ビビっています。人間ではどうしようもない自然の脅威。現代でも打つ手が無いのですから、この時代はどんなに怖かったでしょう。

いっそ京に帰ろうか、いや、許しを得ていないのにノコノコ帰るのもかっこ悪い。それよりももっと山の方へ行こうかな。でも「暴風雨が怖くて逃げた」なんて、のちのちまで笑い話になるだろうなあ。そんなダサいことは絶対ダメだ…。)こういう見栄をはらないといけないのがイケメンキャラの宿命ですね…。

夢には毎晩、あの異形の者が現れます。それもすごく気になっていますが、かといって到底外に出られる天気でもない。「このままここで死んでいくんだろうか…」。恋しい京の方ばかりを眺めていると、ずぶ濡れでドロドロになった男がやって来ました。あまりにひどい格好で、誰だかわからないほどでしたが、彼は二条院の紫の上からの使いでした。

紫の上からは「こちらでも、恐ろしいお天気が続いています。須磨はどんなに激しく荒れているでしょう。心配で泣いてばかりです……」。源氏はもう胸がいっぱい。使いは京の様子を補足しました。

「激しい雨風はもちろん、地底にまで通るような大きなヒョウが降ったり、雷鳴が収まらないのです。前例のない異常気象ということで、何かを暗示しているという見方もあるとか。御所に通えないので朝廷も中止しています」。

使者のもたらした情報は源氏たちを余計に不安にさせました。それをあざ笑うかのように、その翌日から更に天候は悪化。風も波も雷もますます激しく、従者たちは冷静さを失って怯えています。

「ああ、前世でどんな悪いことをして、こんな辛い目に遭うんだろう。ついに、親や妻子にもあえずにここで死ぬのか…」誰かがそう言って嘆きますが、源氏は「いいや、こんなところで死ぬ訳がない。なにも悪いことをしていないんだから!」

男たちの祈りもむなしく、今度は家に落雷、出火

源氏は幣を捧げて祈りました。「住吉の神よ、どうかこの天気をお鎮めください。本当にこの世に現れて下さるなら、我らをお助けくださいませ」。

源氏に続き、惟光や良清たちも「罪なくしてここへ来た我が君が、なぜ風雨の犠牲にならねばならないのでしょう。どうか我らの主君をお守り下さい」。男たちは声を合わせて、一心に神仏に祈りました。

ありとあらゆる神様に祈りを捧げていると、凄まじい音がして渡り廊下に雷が落ち、そこから出火!あっという間に廊下が焼け落ちました。「火事だ!!」「殿をお守りしろ!」

全員、大慌てで離れた台所へ避難。もう生きた心地もせず、怖いやら情けないやらで、男たちは雷にも負けない声をあげて泣きました。あれだけお祈りしたのに、落雷と火事…。ほんと、これは泣いていいですよね…。

「神のお導きに従いなさい」疲れ果てた源氏の夢に現れた人物

日も暮れた頃、やっと雨雲が去り、星空が見えてきました。戻ってみると、焼け残った建物は無残な有様。御簾などの軽いものは全部風に飛ばされ、慌てて逃げた時にいろんなものを踏んづけたので部屋の中もボロボロです。

近所の漁村のものたちが遠巻きに「雷が落ちたんだってねえ」「火も出たらしいなあ」「身分の高い方が住んでるのに大変だねえ」と、心配してくっちゃべっています。本来、大変失礼なことですが、惟光たちは片付けに忙しくて追い払いもしません。

「もうちょっとあの天気が続いたら、高潮が来て全部呑み込まれたろうなあ。やっぱり神のご加護があったんだろうねえ」。村人の言葉に、源氏は本当に九死に一生だったんだ、と改めて実感します。疲れたのと、ホッとしたのとで、そのまま眠りこんでしまいました。

「どうしてこんなひどい所にいるんだね」。そう言って源氏の手を取る人がいます。それは桐壺院でした。「住吉の神のお導きに従い、この浦を去りなさい」。源氏は思わぬ再会に「父上とお別れしてから、私には辛いことばかりです。もうここで死んでしまおうかと思います」。我慢していた弱音がこぼれます。

「あるまじきことだ。これは些細なことの報いなのだ。私は帝位にあるとき、思いがけず犯した罪があった。あの世で罪の償いをするのに忙しく、現世のことを顧みる余裕がなかったが、お前があまりに嘆き悲しんでいるので、海から上がってきたのだよ。とても疲れたが、帝にも申し上げることがあるので、このまま京へ行く」。

そういって桐壺院は消えかけます。「待って下さい、私も一緒に行きます!」源氏が見上げると、そこには誰もおらず、月だけが輝いていました。

長い間、会いたくても夢に現れてくれなかった父上が、きっと心配して来てくださったのだ。不運に見舞われ、死にかけた息子を憐れんでくださったのだ…。源氏はそう思うとありがたく嬉しく、ちょっと元気が出た気がしました。

桐壺院があの世で償っていた罪の詳細は具体的に書いていませんが、源氏の母、桐壺更衣を愛しすぎた罪とかでしょうか。そして、源氏には妻を寝取られて子供までできてるのに、そこはあの世で聞かなかったのかな?

「せっかくお会い出来たんだから、もっといろいろお話したらよかった」。もう一度夢の続きが見られるかと、源氏は寝ようと努力しますが、結局眠れないまま朝が来ました。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

(画像は筆者作成)

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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