記者会見オープン化って何? “自由報道協会”主催の小沢一郎会見に参加して思ったこと

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記者会見オープン化って何? “自由報道協会”の小沢一郎会見に参加して思ったこと

「小沢一郎の記者会見に行ってみない?」ふかみん発行人から電話を受けたのは、会見当日の午後。「僕は今日、行けないんで行ってきてください」と言うので、とりあえず行ってみることにしました。今回の会見は、ジャーナリストの上杉隆氏が代表を務める、日本自由報道記者クラブ協会(略称:自由報道協会)が開催するものだとのこと。

記者クラブが情報を独占する現状に異を唱え、記者会見をだれでも参加できるようにオープン化しようとしている人たちがいるということは、ふかみん発行人のインタビュー記事などで知ってはいるものの、筆者は“記者会見オープン化”の意味や意義について、特に考えたことはありませんでした。記者会見オープン化に特に思い入れのない筆者が見た小沢一郎衆議院議員の会見とは……。

開始10分前で人もまばらなニコニコ本社

記者会見の会場は直前まで知らされておらず、主催の自由報道協会がコンタクトできる人間だけに連絡があった模様。「あれ?これって既にオープンじゃなくてクローズだよね……」と不思議に思いながら、16時開場となる会場へ向かいました。場所は意外なことに、原宿のニコニコ本社。開場10分前に到着しましたが、まだ人はまばら。開場時間にようやく、参加する記者たちが行列を作り始めました。

「われわれが連絡した方以外は入場できませーん」と、主催者が呼びかけています。なんらかの方法で場所を聞きつけたメディアも足を運んでいるようです。最終的には希望者は全員入れることになりましたが、この時点では違和感を感じた筆者。事前に連絡しているので受け付けを済ませ、会場に入りました。受け付けも、名刺だけでなく身分証明書の提示を求めるという厳重なもの。何かマズい場所に足を踏み入れてしまったかのような不安が襲います。

開始を待つ記者たち

最前列の席を確保。ひとつイスを置いた隣には、大川興行の大川豊総裁の姿が。週刊プレイボーイの記者証で入場したようです。参加者は政治ジャーナリスト同士、面識があるようで、開始まで和やかに談笑しています。記者クラブには参加していない人たちのようですが、彼らは彼らで何か別の“村”を作っているようで、何やら居心地の悪さを感じながら開始を待ちました。

会見の開始に先立ち、この日司会を務める上杉氏が会見の趣旨を説明。今回は“第0回”という位置づけになるそうで、今後はだれもが参加できる会見の場を作っていくとのこと。自由報道協会は記者会見を代行主催する非営利団体で、“メディア”にはならないなど、設立趣旨を説明していきました。「くだらない記者クラブ論争はやめて、一緒のスタートラインに立ちましょう」とも。記者クラブとケンカするために別の会見を開くのではなく、だれにでも門戸を開いていく考えのようです。

この間、入場できなくて外で待たされていた記者たちは個人として参加すること、名刺と身分証明書のほかに署名することが条件で入場を認められたようです。その前に帰っちゃった人もいるのでは……。

会場に到着した小沢氏

衆議院本会議に出席後、会見に臨む小沢氏は、開始予定の17時を大幅に過ぎて登場。会場がざわめき、緊張感が走ります。大物政治家のオーラを漂わせつつも、にこやかに入場する小沢氏。

上杉氏の司会で会見は進行

テーブルに着席し、上杉氏の進行で会見がスタートします。通常、記者会見は「○○について発表します」「○○について説明します」など、会見の趣旨が説明されるのですが、今回は小沢氏が何を話したいかではなく、「記者クラブ主催ではなく、オープンな場(を目指す)となる自由報道協会の会見で質問に答えます」ということがテーマのようです。上杉氏からいくつか質問した後、挙手した記者を上杉氏が指名し、順番に質問していく形式で会見は進行しました。

質問に答える小沢氏 時には笑顔も

細かい質疑応答の内容はニコニコニュースなどで報じられているので省きますが、『Wikileaks』の報道内容に関する質問や民主党の党運営について、新自由主義への考え、記者クラブに対しての意見、イラク戦争を検証する必要性について、デフレへの対応についてなど、質問内容は記者によってバラバラ。筆者は何をテーマに質問してよいのか分からず、結局質問できませんでした。だれでも自由に質問できるのはよいことですが、何か会見のテーマを絞った方がよいのでは、と感じます。

大川総裁は北朝鮮情勢について質問

ニコニコニュースからは、会見の『ニコニコ生放送』を見ていたユーザーからの質問がピックアップされましたが、内容は「小沢氏が政治理念として掲げる議会制民主主義の定着とは?」という無難なもの。放送を見ていないので分かりませんが、もっと多くの視聴者が知りたいと思う質問もあったのでは。この日、最もキャッチーな質問をしたと感じたのが、大川総裁。北朝鮮に砲撃を受けた韓国・延坪(ヨンピョン)島を訪問していたという同氏は、「海軍の次は空軍が動くのではないかと言われている。北朝鮮にどう対応すればよいのか」と質問し、小沢氏から「中国の了承なくして北朝鮮が戦争を始めることはない。結局現状維持だろう」という回答を引き出していました。

記者会見オープン化を考えるうえでは、次のやり取りが印象に残りました。質問は「議会制民主主義を定着させるには、国民が必要な情報を入手できる必要がある。日本では国民の情報入手が十分機能していないのでは?」というもの。小沢氏はこれに対して、「日本ももっとオープンな社会にしていかなければならない。国民が“情報が欲しい”となり、その情報を咀嚼(そしゃく)して理解できるようになる必要がある。国民の側がもっと成長していかないとオープンになっていかないのでは」と回答します。記者会見のオープン化が先にあるのではなく、まず国民の側が政治について考え、知りたいと要求していくのが重要だということ。これには、「会見があるから来てみた」という自身の姿勢を反省。次回も参加できたら、ちゃんと質問できるようになろうと思います。

畠山理仁氏にコメントをいただきました

小沢氏はすべての質問に丁寧に答え、会見は終了。自由報道協会のメンバーで、ガジェット通信でもインタビューに答えていただいているジャーナリストの畠山理仁氏がいらっしゃったので、今回の記者会見の手ごたえについてコメントをいただきました。

畠山氏:今回は第0回なので、今後は取材したいと思ういろんな人が入れる場を作れればいいと思います。今日は記者クラブの人が入れないと思っていたようだが、入ることはできた。本当なら希望する人全員が入れるようにしたいので、次回は広い場所を用意します。

会見が開かれる場所がオープンにならなかった件については、「次回はオープンにすると思います。今から運営で話し合うので」とのこと。第0回は会場の都合もあったのでしょうが、第1回となる次回は参加を希望する人がだれでも入れる会見になりそうです。

会場で名刺交換したジャーナリストの方には、「頑張ってね! 記者クラブに入ってないネットメディアが活躍できる場なんだから」と応援していただきました。記者会見がオープンになっているから取材に行くのではなく、取材するうえで話が聞きたいから記者会見を活用する、という姿勢。当たり前のことですがそんなことを心がけて次回の取材に臨もうと思います。

井上トシユキ氏

自由報道協会主催の小沢一郎会見についてジャーナリストの井上トシユキさんにコメントをいただきました。全文掲載いたします。

井上トシユキ氏のコメント:
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今回、フリーランスの記者の手により、記者クラブ以外でダイレクトに国民へ政治家の声が届くルートが開拓されたのは、誰もが簡単に情報発信できるネットの特性に加え、前回お話ししたように、ネットが表メディア化したという認識が一般化したことが大きく寄与していると思います。怪しいウラ情報も残りつつ、公式ルートになっていく姿は、既存メディアがかつてそうであったように、まさにメディアとしての黎明期ならではのものと言えるでしょう。

ただ、これまでのものと異なり、情報の発信者と受信者とがダイレクトに向き合えるメディアであるだけに、注意も必要です。政治家や経営者など発信者の発言を咀嚼し、自分の判断に昇華するだけの知見や価値観といったリテラシーが受信側には不可欠になります。さもないと、簡単に発信者にとって都合良く「転がされてしまう」こととなりかねなません。

また、発信者も、ネットに入れ込みすぎて過信しないことには留意すべきでしょう。ネットに出たからといって9000万ユーザーすべてに声が届くのではないし、シンパの声もアンチの反応も増幅して伝わることが多く、また往々にしてそうした声は、てんでバラバラに浮遊する小規模コミュニティ=タコツボでの反応が大きく見えているだけだったりしがち。わざと逆張りで煽っているだけのことすらありえます。声が大きいと見せかけることは、ネット上ではそんなに難しくありません(ほとんどの人は面倒くさいからそんなことをしないだけだが、祭りと称するように、いったん火が着くと愉快犯的に煽る人がいくらでも出てきてしまう)。「ネット≒9000万ユーザーの声は我にあり」などと鵜呑みにするのではなく、リアルとネットとを上手く統合して活動しなければ道を誤ると思います。

仲介者にも、期待が大きいだけに、仲介役としての一層の見識や矜持が求められていくのではないでしょうか。お説拝聴になってしまうと、これまで癒着と批判してきた記者クラブと大差ない場になってしまいますし、晒し上げのようなことが続けば、良いユーザーはいずれ離れていってしまいます。ダイレクトな双方向性を効果的に使っていただければと思います。ネットが便利に、しかし冷静に議論やコミュニケーションをはかる場となっていくことを期待して止みません。
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shnsk

宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

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