【シェアな生活】公の情報共有はどう進むのか~『記者会見ゲリラ戦記』畠山理仁さんインタビュー

畠山さん

 マスコミのつくった利権団体『記者クラブ』が公の情報発信を阻害している。また、省庁によっては大臣そのものが記者会見オープン化に消極的な場合もある。それらに戦いを挑んでいるのが畠山さんだ。公の情報は原則すべてオープンにされるべきものであるにもかかわらず、なぜオープン化されないのだろうか。実は最近ガジェット通信で連載している「規制」の話と同じ”公式”がここにも当てはまる。「利権団体とお代官様(権力者)が手を結んで、自由なやりとりに圧力をかける」という図式。もちろん、「利権団体=マスコミがつくったカルテルである記者クラブ」であり「お代官様=政治家」である。単純にいうと、マスコミは情報を独占すればするほど得をするビジネスであり、会見が閉鎖的であればあるほど喜ばしい。そして現状、政治家にとってはマスコミに喜んでもらった方がメリットがある、というだけの話。もちろん、政治家にとってのメリットとは「票」である。これらマスコミと権力の共犯関係を崩すのは大変なことである。究極的には政治家の世代交代を待つしかないのでは、という気の長い話になりがちであるが、そこへまさに”ゲリラ戦”を仕掛けているのが畠山さんなのである。フリーライターとして日々記者会見に足を運び、少しずつ、分厚い壁に小さな穴を空けていっているのだ。今回の「連載”シェア”の時代」では、畠山さんに公の情報公開と情報共有の現在と未来についての話をじっくりときいてみた。
※連載シリーズ『シェアな生活~共有・共感・共生がもたらす新しいライフスタイル』関連記事です。

登場人物:
畠山=畠山理仁(はたけやまみちよし)。記者会見オープン化を求める活動で注目されるフリーライター。
深水=深水英一郎(ふかみえいいちろう)、ガジェット通信。

畠山理仁(はたけやま みちよし)さんプロフィール
1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーライターとして独立。2009年9月、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。2010年1月には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見をiPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。2010年12月1日、扶桑社新書より『記者会見ゲリラ戦記』を出版予定。

●公の情報共有はどう進むのか

――深水:省庁の情報公開の不十分さについての話は後でたっぷりやらせていただくとして、まずは情報共有の未来というところから話をスタートさせていただければと思います。これまでの省庁・官公庁の情報公開というと、一点からの情報拡散のイメージがありますが、さらにそこから情報の”シェア”に発展すると一方的な情報発信とは違って情報の受け手と一緒に議論を深めていくという要素が加わります。それは発信者と受け手とのコミュニケーションだけではなく、受け手と受け手の間の議論も含みます。公開っていうのは、投げちゃったらそのままの一方的なものなんですけども、シェアはその投げられた情報をみんなで共有して一緒に考えていってるようなイメージですね。

畠山:発信をしてきた人に対する打ち返しが必要ですよね。発信される情報もただ単純に出されているというわけじゃなくて、こういう情報を出したらこうなるんじゃないかという事も、考えながら出してきているところは当然あります。ですので、そこは受けた方も、そのまま素直にストレートに受け取るのではなく、ちょっと疑いながら見ていくというのが大事だと思います。向こうの狙い通りに「ああ、そうだね!」ってなってしまうのではなく。

――深水:疑うっていうのは「ジャーナリスト精神を持つ、批判精神を持つ」という心構えのことですか?

畠山:他人の言ってることってあまり信用ならなかったりするじゃないですか? 例えば僕が言ってることだって、自分に都合のいいように言ってる部分ってどうしても出てくると思うので。それをけっこうみなさん素直に受け止めて「あ、そういうことなんだ」という風に受けちゃう人もいらっしゃるかなと思うので。完全否定じゃなくて「そうじゃないかもしれないよね」っていうのを頭のどこかに置きながら、情報を見ていったほうがいいんじゃないかと。

――深水:官公庁の記者会見を通した情報の発信に関しても?

畠山:記者会見の場合はわりともうストレートに答えられないことは答えられませんと言うことの方が多いので。どっちかというと、「あ、これは言えないんだな」ということがまず情報かなと。

――深水:公の記者会見で「言えない」ってアリなんですか?

畠山:交渉事の途中にあることとか、たとえば分かりやすい例で言うと、今年の4月に常岡浩介さんっていうフリージャーナリストの方がアフガニスタンで拘束されたときに、「どうなっているんですか?」と外務大臣の記者会見で聞くわけですよね。ただ、当然交渉もしているだろうし、その過程を明らかにすることによって常岡さんに危害が加えられる恐れがあるとか、交渉の影響があることもあると思うんです。そんなに深刻な状況じゃなかったら、ポロっと言えちゃう情報かもしれないけれども、それを「言えない」っていうときに、あのとき4連発くらいで常岡さんのことを聞いたんですけど「言えない」と。

――深水:それは畠山さんが質問されたんですか?

畠山:僕と『NHK』の方とジャーナリストの上杉隆さんと『共同通信』の方と4人で連続で聞いたんですけど「コメントを差し控えます」っていう。

――深水:確かにそういう例外は仕方ないですが、基本はすべてさらけ出してほしいなと。

畠山:そうですね、税金使っているわけですから、それは絶対出さなければいけないと思いますね。

――深水:省庁のアウトプットって、記者会見や最近公開されつつある三役会議の他にはどんなものがあるんでしょうか?

畠山:あとはね、記者の”レク”とか。事務方が「こういう法案を出します」っていうことについて、「この法案にはこういう狙いがあります」というのを説明したり。ただまあそれは従来記者クラブの人しか参加していない。

――深水:記者クラブに通知が届く。

畠山:通知が届くという形ですね。今、会見自体をオープンにしているところで、そこにも変化は起きつつあります。例えば金融庁なんですけども、金融庁の会見は、亀井大臣のときに記者クラブの人と、あとクラブに属さない雑誌とかフリーとかネットの記者の会見を別々でやるっていう異常な状態だったんです。それがあの亀井さんが退任するときに合同開催になりました。もうひとつの会見に参加していた方々の連絡先を広報室のほうで管理していたので、広報室の方から会見の予定とか”レク”の情報が記者クラブと同じように流れるようにはなりました。

――深水:それはメールで?

畠山:メールです。とても便利ですね。メールでの連絡は、金融庁と外務省。外務省も記者登録をしてメールアドレスを登録すると情報が届きますね。

――深水:外務省も情報公開が進んでるんですね。岡田外相時代に、岡田さんが率先して記者会見オープン化を進めたという経緯があるそうですが。

畠山:そうですね。岡田外相のときに記者会見オープン化が進みました。でも今ね、ちょっと違うんですね。前原さんになって。岡田さんの時は本当に公の情報を誰にでも平等に提供するっていう意思がはっきりあったので、例えば「緊急のぶら下がりやります」っていうときも、フリーの記者にきちんと連絡が回ってきていました。前原大臣が就任してしばらくしてかな……記者クラブの方が独自にやったから回ってこないっていう言い方もできるんですけど、記者クラブと前原さんのグループインタビューはいつのまにかやっていたりということがありますね。岡田さんだったら、そういうやり方はしないで「グループインタビューをやります」という形で全員に、平等に時間を取る、ということを徹底的にやっていたと思います。

――深水:大臣によって情報公開に対する姿勢が違うんですね。それにしても、フリーのライターさんはいつもききたいことがあるわけではないですし、毎日省庁へ通うことができるとは限りませんから、突然そのようなインタビューが設定されると不利ですね。

畠山:そうですね。何かあったときに行って自由に質問ができればいいんですけど。今まで一切入れなかったっていうのが問題で。なんで、権力を監視する側にいるはずの記者クラブの人たちが、質問したいって言う人たちを排除するのかが全然わからなくて。

――深水:そもそも監視するつもりはあるんでしょうか?

畠山:あることはあると思いますよ。

――深水:記者クラブの人と話しててそう思うんですか?

畠山:会見の場……記者クラブだけの会見の場って僕は入っていないからわからないんですけども、昔は事前の”質問取り”があったりして。「こういうことを聞きます」「じゃあこういう答えを」みたいなセレモニー的な記者会見が続いていた時代もあったといいます。ただ、その頃僕は入れていないから、実際にどうだったのかはわからないですけど。フリーの人たちが入るようになって大分変わったんじゃないですかね。記者会見の時間自体がすごく長くなったので。

 外務省の場合はすごく顕著で、中曽根さんあたりが外務大臣をやっていた頃の記者会見って、会見録が残っているんですけどめちゃくちゃ短いんですよ。聞きたいことは、会見じゃなくてぶら下がりで歩きながら聞いたりとか、ということをやっていたんですけど。岡田外相になってぶら下がりをやめるってことにして、きちっと会見の場で話しますってことにしちゃったので、だいたい会見が毎回1時間くらいになっちゃって。すごく事務方の人は大変だと思います。会見の内容をすぐに文章化してウェブサイトに掲載しなくてはいけませんからね。

――深水:記者会見だと普通の会話より早口で密度が濃いですしね。それで徹夜の作業になっちゃうんだ。大変そうですね……。

(つづく)

フリーランスライター畠山理仁の「永田町記者会見日記」

ふかみん(左)と畠山さん(右)

(編集サポート:kyoko)

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

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