「記者クラブのつくった不当な制限と戦い続ける」畠山理仁さんインタビュー最終回
『公の記者会見オープン化』という難題に立ち向かうフリーライター畠山理仁さんに”公の情報共有”についてきくインタビューシリーズ。今回は第7回目、最終回です。これまでのインタビューはこちらからご覧ください
登場人物:
畠山=畠山理仁(はたけやまみちよし)。記者会見オープン化を求める活動で注目されるフリーライター。
深水=深水英一郎(ふかみえいいちろう)、ガジェット通信。
●なんで記者クラブは公共のスペースを専有してるんだろう?
――深水:以前、総務省会見に行ったんですけど、フリーの人って会見場の小さいイスに座って会見が始まるのを待ってますよね。かたや記者クラブに所属している媒体の人達は、広々とした控え室があり、机や椅子を使えるそうじゃないですか。控え室は「クラブ員以外立ち入り禁止」ということになってますが、よく考えるとそれってどういうことなんだろうと。公共の場なんだから、会見に参加したい人達が共有すべきスペースなんじゃないかなと、素朴な疑問がわいたりしたんです。あれって控室の方に行って「使わせて」って座ったり、作業したりできるようになればいいなと思いませんか?
畠山:なったら便利だと思いますけどね。でも、いつもいるわけではないし、ふだんの仕事もちゃんとした机でやっているわけではないので。僕はどこでもいいやっていう感じなので。まあ、使いたいって言う人がいたら使わせるべきだし、共有の誰でも使えるところはあるべきだと思いますよ。当然、省庁の中なんだからそういうスペースがなきゃおかしいし、総務省みたいに「クラブ員以外立ち入り禁止」って書いてあるのはめちゃくちゃおかしいと思います。ただ、僕自身が使うかって言われたらたぶん使わないと思います。そこにべったりいて仕事するっていうよりは、フラフラ遊んでいる方が好きなので。それは好みの問題だと思うんですけども、記者室にクラブ員以外入れないっていうのは絶対おかしい。ただ、クラブの人がそこに誰かいるっていうのは、それはそれで意味があることだと思うんです。
――深水:どういう意味があるんでしょう? 広報室が「こういうことやるんですよ」って言いたいときに人がいたほうがいいとか?
畠山:彼らは省庁の中を自由にうろうろできるじゃないですか。そういう人がいるのは重要じゃないですかね。警察みたいに誰もうろうろできなかったら、中で何をやっているかわからないじゃないですか。そういう人が堂々と入れる場として記者室があるんだったら、小さいかもしれないけど抑止力というか監視の目が、そこに存在しうる。取りこんじゃえばいいって言い方もできますけど、まずはそこに入れるっていうことは重要だと思います。それは歴史があって獲得してきたものですし。ただ、それをクラブの人に限定するっていうのは絶対におかしいと思いますね。
●記者クラブのひとたちは、僕たちの代表なんだろうか?
――深水:いるのが、「僕達の、みんなの代表の誰か」という意識が共有できる人だったらいいんですけど、今のクラブの人は代表だとは思えないんですよね。
畠山:あ、ぜんぜん代表じゃないと思いますよ。だからやっぱり、入りたいという人がいたらすんなり入れる、っていう形になるのが一番だと思います。
――深水: ところが、今はそういうふうになっていない。そこをどう変えていくかというのが課題ですよね
畠山:記者クラブは入りたいと思った人が『入れろー!』って声を挙げないと絶対に動かない。誰かが言わないと考えることすらしない。なので、言い続ける必要があります。言い続けてもなかなか前に進みませんが、言い続けるしかないんです。『なんで入れないんだ』って僕が電話とかで言うと、『そういうのは前例がないんで』とか『クラブ総会ではかりますので、しばらくお待ちください』と言って逃げる。クラブ総会が終わると幹事社が変わっていて、『それは何の話ですか』って、また最初から説明をしなくてはならない。ずっとたらいまわしなんです。これはひとつの逃げ方だと思います。記者クラブ側にとっての。でもそういう逃げ方は、相手が一人なら有効ですが、複数でしつこくやっていく必要がある。例えば何人もが嫌がらせのようにというか、しつこく電話をしていくと、クラブとしても、やっぱりさすがにこれはちょっと考えなきゃいけないんじゃないか、っていうふうになるんですよね。
――深水:うーん。記者クラブを変えるのがほんとに早道なんですか? たとえば別のクラブを作って『こっちも認めてください』という方法は?
畠山:省庁によっては、クラブが二つあるところもあります。例えば環境省、海上保安庁。新聞テレビ系と専門系のクラブなど、いくつか種類があるんですけれど。
――深水:誰でも入れるようにするための組織を作って、今いる古い記者クラブがあってもいいけれど、こっちにも権限をくださいと省庁に訴えかけるという方法はアリなんでしょうか。
畠山:良いんじゃないですか。求めるのは自由というか、意味はあると思います。けれど、組織というか、人数を集めてそれをやるのって実際問題、大変かなっていうのがありますよね。団体で意見まとめたり……。
●公共の情報を独占している人達をうちやぶる方法
――深水:『会見開放を求める会』というのがありましたよね、USTREAMで発起人の方々がさまざまな意見を述べておられるのを拝見しましたけれど。
畠山:僕も名前が入っている(笑)
――深水: ああいう形で組織を作るのはインパクトがあると思うんですが。実際情勢は変わったんでしょうか。
畠山:マスコミ各社にアンケートを出したんです。回答率が20%ほど。まあ、返ってくるだけ良いんですけれど。
――深水: こういうのが、正面突破みたいな戦略ということなんでしょうか。
畠山:その会が、どういう方向で今後やっていくのかっていうことをあまり知らなくて、まずは記者クラブの現状がどうなっているのかっていうことを知るために、アンケート調査を送ったところで、今は止まっているかな。建前上は、クラブの側もオープンにしましょうという見解を出していたり、記者室もクラブ員だけに限定すべきではないっていうことを日本新聞協会編集委員会の見解として出しているんですけれど、実際は全然そうなっていないんですよ。総論賛成、各論反対みたいな感じで。実際に記者室に行って『僕の机ここにください』って言ったら、『え、駄目だよ、クラブの人じゃないんだから』っていうのが、現実。そこをどうやって突破していくかっていったら、活動家が滑り込んで、仲間をどんどんそこに引き入れていくとか……。
――深水: 畠山さんのことですよね。
畠山: 僕はね、本当ねぇ……もう全然、この活動は仕事じゃないんですよね。
――深水: でも最前線に立っておられますよね。
畠山: ほんと、なんでこんなことやってんだろ、って思うんですよね。
――深水: そうなんですか。
畠山: だって仕事じゃないんですよ。僕は今、普通に雑誌の記事を書いたりしてます。記者会見に参加させてくれって言うのは本業ではないので(笑)
――深水:それ自体は、仕事にならないものですよね。
畠山:仕事にはならない事なんです。ならないっていうか、そのつもりもなくて、そもそも入れないのがおかしいだろっていう思いがあってやっているんです。だからちゃんと他の原稿を書いて、お金を貰って、その合間を縫って『入れろ入れろ』っていうのをやっていたんですけど、この一年は本当に『入れろ入れろ』っていうのを優先していたんですよ。
――深水: そうですよね。他に仕事する時間あったんですか?
畠山:それはありました。ありましたっていうか、しないと生活できないので。すごくつらい一年でしたよ(笑)。なんで俺こんなことやってるんだろう。仕事だけしてりゃいいのにって(笑)
――深水:こういう問題はやる人がつらいっていうのがなんとも……
畠山:つらいですよね。つらいから、やっぱり一人一人と抜けていくんです。相手の方、記者クラブは何十人何百人といるし、意志決定も遅い。向こうは逃げたり先送りして全然進まない。会見開放や記者クラブの問題って本来は政治家にお願いすることじゃないんですよ。だけど、そこに期待するしかないっていう状態なんです。
――深水:その先頭に立つ人が大変なんですよね……。規制問題なども最近ガジェット通信で取り上げているんですが、あれもやっぱり大きな業界団体があって時には政治とつながってがっちり規制をガードしている。それを打ち破ろうっていう人ががんばるんだけど、結局徒労に終わっちゃうような形ができてる。なので、なかなか打ち破れないんです。法律を変えれば無駄な規制はなくなるんですけど、誰か一人で打ち勝つまで何の報酬もなくてがんばれるかっていうところが結局ネックになっているんですよ。記者会見オープン化も、それと同じ構造になっちゃってる気がしますね。
畠山:そうですよね。おかしいですよね。新規参入できない業界なんてつぶれちゃうよ。
――深水: 長い目でみれば実際もうつぶれかかっている部分もあるんじゃないでしょうか。だから時間をかけて待っていればなくなるんだろうけど、情報の共有を妨げているわけなので、改善すべきところはやはり早く改善したいですよね。
畠山: 早くしたほうが絶対いいと思いますね。
(インタビュー終わり)
※このインタビューの後、2011年に入り、畠山氏は『記者クラブの設定したルールには、「国民の知る権利」を上回る「大義」がない』として総務大臣記者会見の「動画中継」を開始した。記者クラブのルールによれば記者クラブに所属していない者は「動画の撮影は禁止」「大臣に対する質問は禁止」である。本来、国民で広く共有すべき公の情報を独占しようとする記者クラブのルールに畠山氏はまさに真っ向から立ち向かっている。
●ガジェット通信読者プレゼント
畠山さんの著書『記者会見ゲリラ戦記 (扶桑社新書) 』をガジェット通信読者の方3名にプレゼントします(畠山さん、扶桑社さん、ありがとうございます)。送料着払となります。希望者はこちらのメールフォームより「記者会見ゲリラ戦記プレゼント係」というタイトルで、今回の畠山さんインタビューの感想を添えてお申し込みください。締切りは2011年1月18日。プレゼント当選者はメールでご連絡いたします。メールアドレスはお間違えのないように願います。
畠山 理仁¥ 798
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トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。
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