出生数と中絶数をだらだら並べてみたり そしたら少妊娠化がみえてきた
今回は資料屋さんのブログ『資料屋のブログ』からご寄稿いただきました。
出生数と中絶数をだらだら並べてみたり そしたら少妊娠化がみえてきた
柳原滋雄さんが都の青少年条例改定に対して賛成意見を自身のサイトの記事 *1 で述べている。で、その論拠の一部として人工妊娠中絶数とできちゃった結婚の増加を挙げている。これに刺激されて前々から取り上げておきたかったことを記事にしてみることにした。
*1: 「東京都の性描写規制条例」 2010/12/17 『yanagiharashigeo.com』
http://www.yanagiharashigeo.com/kd_diary/kd_diary.cgi?viewdate=20101217
なお、今回の記事は東京都の青少年条例改定賛成・反対については(少なくとも直接は)全く検討しない。少子化について拙いながら検討してみただけである。その結果、みえてきたことは下記の通りである。
・子どもは授かりものではなく計画的につくるものに変わった。
・計画が立たなければ妊娠すら避けるようになった。
・20代においてはでき婚が増えたというのは出生が減ったからそう見えるだけである。でき婚ができるくらいでないとこの国で子育てすると言う決断を下すのは難しいようだ。“性の乱れ”ではなく子育ての難しさが現れている。
まずは次の表をご覧いただきたい。中絶数と15〜49歳女子人口千人当たり中絶率、及び出生数を表した表である。20代中絶率はあとで使う。
中絶数、中絶率、出生数の年次推移(画像が見られない方は下記URLからご覧ください。)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/87.jpg
出典
中絶件数及び中絶率……「平成21年度衛生行政報告例」 厚生労働省 『政府統計の総合窓口』
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001068836
出生数……「平成21年人口動態統計」「年次別にみた人口動態総覧」 厚生労働省 『政府統計の総合窓口』
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001066471
20代中絶率……厚生労働省「平成21年度衛生行政報告例」の中絶数及び 総務省統計局「国勢調査」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001007702
及び「人口推計」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000000090001
より算出
なお、出生・中絶数と中絶率をグラフにしたものがトップ画像である。出生数・中絶数が左目盛、中絶率は右目盛である。
出生数・中絶数・中絶率の長期推移(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/1013.jpg
ご覧いただければわかるように、かつては出生数も多かったが中絶数もまた多かった。かつての出生数が多かったのは計画的に産むという意識がなかったためではないか。年を追うごとに中絶数・出生数ともに減ってきている。しかも“フリーセックス” “性の乱れ”は進んでいるというのに。これは即ち家族計画が普及し、妊娠・出産を計画的に行うようになってきたことを意味する。計画がたてられなければ出産はおろか妊娠すらしない。要は授かりものから計画的につくるものに変わってきたのだ。
産まれた子どもに占める“でき婚”の子どもの割合の増加も20代においてはこの観点から説明できる。次の表は母親の年齢が20代である“でき婚”(正確には結婚期間より妊娠期間のほうが長かった子ども)の数、20代日本人女性人口、及び20代母出生数、20代日本人女性人口1000人当たりの“でき婚”率である。なお、ここで20代に限ったのは、人口の年齢構成の影響を排除するためである。
20代母の「でき婚」出生数及び出生率の年次推移(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/1112.jpg
出典
2004年まで……
“でき婚”出生数及び人口……厚生労働省「平成17年人口動態特殊報告」厚生労働省
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001047505
※なお、でき婚出生数は「平均的な結婚週数の場合」の数値である。
2005年以降……
人口……平成17年国勢調査」および「人口推計」総務省統計局
「平成17年国勢調査」総務省統計局
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001005118
「人口推計」総務省統計局
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000000090001
でき婚出生数……「平成22年度「出生に関する統計」の概況 人口動態特殊報告」厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo06/index.html
20代母出生数……「人口動態統計」厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
20代の中絶率と20代女子人口当たりのでき婚出生率、20代の母親から産まれた子どもの数に対するでき婚出生率をグラフにすると次のようである。なお、中絶率と人口当たりのでき婚出生率は千分率、子どもの数に対するでき婚出生率は百分率である。それぞれ単位が違うのでグラフをご覧の際はよく注意していただきたい。
20代でき婚出生率(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/79.jpg
出生に占める“でき婚”の割合の増加ほどには人口当たりの“でき婚”の割合は増えていない。でき婚が増えたのではなく出生が減ったのだ。この現象が見られるのは20代のみである。30代ではでき婚出生数の対出生数比と対人口比がパラレルに動いている。その分中絶が増えたかといえば先の表を見てもらえばわかるように増えていない。1992年ごろまで減少を続け、その後は若干の増減を繰り返しながら横ばいである。20代においても少妊娠化は確実に進んでいる。そんな中でき婚だけはほぼ一定の割合を保っていた。少妊娠化が進む中子を安定して産んでいたのはでき婚組であった。でき婚という決断を下せる集団でないと出生率を保てなかったということだ。
しかし、これってずいぶんひどい国のような気がする。でき婚という決断ができない集団は妊娠すら避けなければいけなかったのだ。そんな決断ができなくてももっと気軽に子どもを産み育てられる、そんな社会があるべき姿ではないだろうか。
<追記>
・“性の乱れ”がないと言っているわけではない。“でき婚の増加”が語るのは性の乱れではなく子育ての難しさということである。@syamashiro0531氏のツイート *2 と意味するところは同じです。むしろそっちのほうがわかりやすくまとまっている。
*2:syamashiro0531さんのツイート
http://twitter.com/syamashiro0531/status/13016534234435584
・「出生数と中絶数をだらだら並べてみたり。そしたら少妊娠化が見えてきた」追補
http://toriaezumitekitayo.blog88.fc2.com/blog-entry-233.html
数学にはきわめて弱いのであまり突っ込まないように。パッパラパーなのはわかっていますから。
・凄まじい反応に改めて驚き。もともと『2ちゃんねる』あたりでやたら親をたたいたりする連中がいたりしたので立ててみた仮説だったりする。子育てのハードルが高くなってしまってハードルがあまり気にならない層しか産めなくなったのではないかと。やっぱりかと合点がいったのであった。皆さん、もう少し子育てする人に甘くなりません? 足りないと思うなら自らも手を貸してあげればいいのだ。
・さらにデータをだしてあるのがこちら。
「出生数と中絶数をだらだら並べてみたり。そしたら少妊娠化が見えてきた」追補2;年齢別に見たり年齢構成を標準化してみたり
http://toriaezumitekitayo.blog88.fc2.com/blog-entry-234.html
執筆: この記事は資料屋さんのブログ『資料屋のブログ』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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