sengoku38の一手で「仙谷」政権、詰んだな

極東ブログ

今回はfinalventさんのブログ『極東ブログ』からご寄稿いただきました。

sengoku38の一手で「仙谷」政権、詰んだな

 「仙谷」政権、詰んだなという感じがした。石にかじりついても頑張った影の薄い菅総理だったが、これでチェックメート。終了か。いや、これでこの政権がすぐに解体するというわけでもないし、総選挙となるわけでもないと期待したい。しかし、もうダメだろう。
 私としてはできるだけ穏当な線で推測してきたつもりでいる。だから、尖閣ビデオを巡って中国政府と「仙谷」政権に密約があったという話は避けてきた。それは密約というほどでもなく、外交上通常の信義というレベルではないかと思っていたからだ。
 しかし、尖閣ビデオ流出について第五管区海上保安本部海上保安官が名乗り出てから、おそらく彼のシナリオどおりに海保内の状況が暴露されるにつれ、この機密指定はそもそも無理だったなという思いがまさり、であれば、そんな無理を押す理由はなんだったか考えると、やはり密約があったのだろうと推論したほうがどうも妥当だ。
 なんの密約か。すでに噂されているのでたいした話ではない。中国政府から尖閣ビデオを公開しないでくれという要望に「仙谷」政権が受諾したというものだ。
 それだけ見れば、「で?」みたいな話だし「なーんだ」ということだろう。だが、これがフジタ社員の解放条件だったとなれば、「ほんとかね」と疑問もつのるし、本当だったらと思うとぞっとする。
 9月末に話を戻そう。尖閣沖衝突事件で中国人船長を釈放した件について触れた9月24日のエントリー「尖閣沖衝突事件の中国人船長を釈放」(http://bit.ly/asza7G)で、私は期限前倒しに中国人船長を釈放すれば中国人は”律儀”だからそれなりのお返しはあると書いたところ、該当コメント欄をご覧になってもわかるが、いろいろと批判が寄せられた。
 その後の経緯はというと、これをきっかけに拘束されていたフジタ社員の解放へ向けた動きがあり、中国政府と日本政府との対話チャネルの再開となった。それでよかったどうかはいろいろ意見もあるだろうが、読み筋としては合っていたことになる。
 かくして中国政府と日本政府のチャネルが再開されたものの、しかし即座にフジタ社員の解放には至らず一週間ほどは揉めた。この再開だが、どのようなものだったか?
 もともと目立ちたがり屋なのか脇が甘いのか山本モナさんとの一件でやばい姿が暴露されるのがクセになっているのか、この間、民主党細野豪志前幹事長代理の隠密訪中が発覚した。なんのための訪中だったか。10月30日付け共同「一切答えられない」 細野前幹事長代理」(http://bit.ly/bC0lGA)より。

 極秘に訪中した民主党の細野豪志前幹事長代理は29日夜、北京市内で記者団に対し、中国側の会談相手や滞在日程などについては「一切答えられない」と語った。
 また「(菅直人首相の)特使ではない。これまでの人間関係の中で来た」と述べた。

 細野氏の隠密訪中はフジタ社員が解放されていない時期なのでそれに関連していることは確かだろう。内実については、外交チャネル再開の結果としてフジタ社員解放に結びつき、加えて、その後の日本政府から中国政府への信義の証拠として、暗黙裏に尖閣ビデオの非公開が決まったのではないかと私は思っていた。つまり、密約まではないだろう、と。また菅首相の言う「人間関係の中」は、小沢人脈ではないかという噂もあり、そうかなと思っていた。細野氏は小沢氏の「長城計画」の事務責任者を務めてきた経歴もあるからだ。
 しかし密約だったのかもしれない。8日付け毎日新聞「アジアサバイバル:転換期の安保2010 「尖閣」で露呈、外交の「弱さ」」(http://bit.ly/dt8Ut0)はこの点にかなり踏み込んだ話を伝えていた。

 仙谷氏は「外務省に頼らない中国とのルートが必要だ」と周辺に漏らし、日本企業の対中進出に携わる民間コンサルタントで、長く親交のある篠原令(つかさ)氏に中国への橋渡しを依頼。調整の末、民主党の細野豪志前幹事長代理の訪中が実現した。
 「衝突事件のビデオ映像を公開しない」「仲井真弘多(沖縄県)知事の尖閣諸島視察を中止してもらいたい」--。細野氏、篠原氏、須川清司内閣官房専門調査員と約7時間会談した戴氏らはこの二つを求めた。報告を聞いた仙谷氏は要求に応じると中国側に伝えた。外務省を外した露骨な「二元外交」は政府内の足並みの乱れを中国にさらけ出すことになった。

 外交・安保分野における与党の機能不全も露呈した。昨年12月に小沢一郎民主党幹事長(当時)は党所属国会議員143人を率いて訪中したが、党の「対中パイプ」は結果的に関係悪化を防ぐ役割を何も果たしていない。

 仲介したのは「友をえらばば中国人!?」(http://amzn.to/cZEfqL)や「妻をめとらば韓国人!?」(http://amzn.to/aWBO6J)などの著作のある篠原令氏であり、会談では、①衝突事件のビデオ映像の非公開、②仲井真弘多沖縄県知事の尖閣諸島視察を中止の約束があったというのだ。記事からは密約だったと見てよいだろう。
 同記事にはないが、時期的に見て、30日に4人拘束されたうち3人のフジタ社員が解放されたことを考えると、それはこの密約の手付けと中国人らしい”律儀さ”だったのだろうと推測することは不自然ではない。
 もちろん本当にそのような密約があったかについては、密約ゆえに簡単にわかるものではないが、密約を仮定した場合、その後の推移からどの程度妥当性があるか考えることはできる。それにはフジタ社員の最後の1人の解放の文脈を時系列に見る必要がある。
 尖閣ビデオが民主党日本国政府として非公開となったのは、10月7日である。8日付け読売新聞「尖閣ビデオは非公開、「日中」再悪化を懸念」(http://bit.ly/aBIrqw)より。

 政府・与党は7日、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の様子を海上保安庁が撮影したビデオについて、公開に応じない方針を固めた。
 公開すれば日中両国で相互批判が再燃し、4日の日中首脳会談を機に改善の兆しが出てきた日中関係が再び悪化しかねないとの判断からだ。
 国会がビデオ提出を求める議決をした場合などは、予算委員会など関連委員会の「秘密会」への提出とし、限定的な開示にとどめたい考えだ。
 衆院予算委員会は7日開いた理事懇談会に法務省の小川敏夫法務副大臣らを呼び、ビデオの扱いについて協議した。法務省側は「中国人船長を起訴するか否かの結論が出ていない段階で、捜査資料を出したケースは今までない」と説明し、現時点での国会提出に難色を示した。与党側も慎重な姿勢を示した。

 残り一人のフジタ社員が解放が通知されたのは9日である。9日付け読売新聞「「フジタ」高橋定さん解放…新華社伝える」(http://bit.ly/c4Y2CK)より。

 【北京=佐伯聡士】「軍事目標」を違法に撮影したとして、中国河北省の国家安全局に拘束されていた中堅ゼネコン「フジタ」の現地法人「藤田中国建設工程有限公司」(上海)社員、高橋定さん(57)が9日午後、解放された。
 新華社通信が同日伝えた。
 高橋さんを除く他の3人は、9月30日に解放されており、これで全員が解放された。

 密約の確証ではないせによ、時系列的にはあまりに”律儀”に展開されており、フジタ社員解放と尖閣ビデオ非公開が密約であったと仮定して妥当に思われる。
 そしてこの密約は、フジタ社員が解放されたらおしまいということにはならない。仮にフジタ社員解放を直接扱ったものではないとしても、密約があったこと自体がその後も影響を持つ。
 尖閣ビデオ自体には日本国民が見ても中国国民が見ても、それほど衝撃的な映像とは思えないが(もちろん衝撃的に見た人もいるだろうが)、問題はこのビデオの非公開継続が密約の証となり、しかもその証は日本から中国に対する信義の証に変質したことだ。
 つまり、中国と民主党政権が外交を続けたいなら信義として尖閣ビデオを非公開にしなくてはならないという状況に追い込まれたことで意味合いが変わってしまった。
 私の推測だが、中国側としても想定外だったのではないだろうか。中国としてもビデオ内容自体はそれほど重視していない。日本側のリークも外交筋ではないので取り合っていない。例えば、5日付け人民網「中日友好委「両国関係、風は吹けども動ぜず」」(http://bit.ly/bTD0Tv)ではさらりとこう述べている。

 確かに、勘繰り合うばかりでなく相互信頼を深めることは大切だ。だが、目で見たものも、必ず当てになるとは限らない。例えば、日本の国会内でいわゆる“漁船衝突事件”のビデオが公開されたが、それによって事件の真相や、日本側の行為の違法性を覆せるわけではない。釣魚島が古くから中国固有の領土であるという以前に、日本保安庁の巡視船が釣魚島沖で中国漁船の進行を妨害し追い払おうとし、さらに拿捕(だほ)したこと自体が違法である。「石と卵がけんかしたら、常に石が勝つ」という言い方があるが、今回の事件がまさにそれである。勝ち目のない卵が石にぶつかっていくはずはない。同様に考えてもらいたい。はたして、小さな漁船が重厚な巡視船にぶつかっていくはずがあるだろうか。

 村上春樹のエルサレム講演のようなテイストに執筆者の知性が漂うところだが、リーク内容については中国政府としては表向き終了している。中国政府として問題となるのは、日本の民主党政府がお墨付きで公開するかどうかだけだ。そのくらいは「仙谷」内閣でも守ることはできるだろうと見ていた。
 だが、れいの海上保安官が名乗り出てから、話がずれてきた。
 保安官のシナリオ(http://bit.ly/9RgZW5)どおり、実際には日本国政府は尖閣ビデオの秘密の管理をしていなかったことが暴露されてしまった。尖閣ビデオの暴露よりも、日本政府の危機管理能力・外交上の信義維持能力の欠落が暴露されたのほうが重大である。
 馬淵澄夫国土交通相が映像の管理徹底を海保側に求めたのは10月18日であり、非公開を決めてから10日近くはだだ漏れ状態であった。馬淵国交相は現在、海上保安官名乗り出の官邸報告が2時間も遅れたとして話題(http://bit.ly/d6hh7X)になっているが、中国側としてみれば、問題なのは、このだだ漏れ放置の10日間である。中国は日本の民主党政権に裏切られたことになる。
 「仙谷」内閣はここに来て追い詰められた。なんとか流出の犯人を挙げ、「これだけ日本も厳罰化をしています。中国風弾圧政治を我々だって理解しています」と中国政府に向けてご忠誠の首を掲げたいところだろう。だがもう失敗してしまった。ついでに言うと、自民党としては馬淵澄夫国土交通相の首を掲げてご忠誠を示したいところでもあるだろう。
 中国側に「仙谷」政権のご忠誠が受け入れられるかどうかは、APECに合わせた菅首相と胡錦濤主席対談の成否でわかる。受け入れられなければ、中国側は「仙谷」政権を信頼できない政府として見捨てたシグナルとなる。
 どうなるか。たぶん、ダメだろう。
 中国と外交対応ができない政権で日本がやっていけるとは思えない。そしてこの東アジアにあって中国とまともな外交ができない国家に他国からの信頼が得られるわけもない。
 「仙谷」政権、詰んだな。まさか、こんなふうに詰むとまでは思わなかった。
 なお、APECへの胡錦濤主席出席だが、「アジア四か国訪問に向けた米国オバマ大統領の声明: 極東ブログ」(http://bit.ly/cIxsfC)で東アジアの貿易で中国外しが明確にされた以上、黙って中国がこれを受け入れるはずはなく、この圏内での貿易のプレザンスを示すためにも不参加はありえなかった。

追記
 さらに呆れた事態が発覚。馬淵澄夫国土交通相が映像の管理徹底を求めた10月18日だが、実態は徹底でもなんでもなかった。通達ですらなかった。つまり実質情報管理はなされていなかった。13日共同「情報管理の徹底は少数部署だけ 国交相の指示、伝わらず」(http://bit.ly/cvZBjv)より。

 尖閣諸島付近の中国漁船衝突の映像流出事件で、馬淵澄夫国土交通相が10月18日に海上保安庁に指示した「情報管理の徹底」は、第11管区海上保安本部(那覇)などごく少数の部署の幹部らだけに伝えられたことが13日、海保関係者への取材で分かった。
 流出元とみられる海上保安大学校(広島県呉市)や関与を認めた海上保安官(43)が所属する神戸海上保安部などに指示は伝わっておらず、流出発覚後の内部調査でも対象外だったことも判明。情報管理に加え、調査のずさんさがあらためて問われそうだ。
 海上保安庁の鈴木久泰長官は11月5日の記者会見で「大臣の指示を受け、責任者を決めて厳重に管理してきた」と強調。8日には「内部調査には限界がある」として捜査当局に告発していた。
 海保関係者によると、海保の指示は「管理者を決め専用保管庫にかぎを掛けて保管するように」との内容で、11管本部のほか、本庁の関連部署、映像を撮影した石垣海上保安部(沖縄県石垣市)だけに発出された。
 国家行政組織法に基づく正式な「通達」ではなく、情報管理者名で庁内の伝達システムを使用し、管理職やシステム関係者に伝えられた。

追記
 エントリーではダメだろうと予想していた菅首相と胡錦濤主席の会談だが、実現した。日本側は「正式な会談」」と見たいところだが、22分という短時間で踏み込んだ話はなかっただろう。会談の位置づけはよくわからないが、これで対中国外交はなんとか繋ぐことができたと言っていい。裏方の尽力もだが政権としても評価できるものだ。であれば、「詰み」とまではいかないか、なんとか維持できるかもしれない。NHK「菅首相 胡主席と日中首脳会談」(http://bit.ly/dt8n9t)より。

11月13日 17時50分
横浜で開かれているAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議に合わせて調整されていた菅総理大臣と中国の胡錦涛国家主席による日中首脳会談が、13日夕方、急きょ行われ、日中関係の立て直しに向けて、両国の利益を拡大する「戦略的互恵関係」を進めていくことを確認しているものとみられます。

 海上保安官の処分は来週に持ち込まれる。逮捕であったら苦笑せざるをえない。

執筆: この記事はfinalventさんのブログ『極東ブログ』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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