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「クマがかわいそうだから殺さないで」と感じる皆さんへ

紺色の人

今回はアサイさんのブログ『紺色のひと』からご寄稿いただきました。

「クマがかわいそうだから殺さないで」と感じる皆さんへ
クマ出没増加のニュースが広まっています。各地で捕殺されたツキノワグマは2010年のみで2000頭を上回り、「かわいそう」「殺さないで」「残酷だ」などの声もあちらこちらで耳にします。実際、クマを殺処分した自治体や猟友会に「なぜ殺した」「麻酔銃を使えばよかったのでは」などと抗議が相次いでいるとのことです。

人間の生活空間に現れたクマは、人間に直接危害を加えない限り、殺さずに放獣するのが理想であるとは思いますが、そうもいかないのが現実のようです。なぜでしょう?

その理由のひとつに、人間にとって、クマは恐ろしい生物であることが挙げられます。

本エントリでは、僕がクマと遭遇したときに感じたこと、そして生活の中でツキノワグマの恐怖をさらされている方の手記を紹介します。エントリの趣旨は、
*****
・かわいいクマは、人間にとって恐ろしい生き物でもあるということ。
・日常的に、クマの被害におびえて生活している方が現実にいるということ。
自分の命や生活がクマによって脅かされているとき、「かわいそうだから殺さないで」と言えるか、ということ。
*****
の3点です。読み物としてもどうぞ。

ある日森の中クマさんに出会ったらすごく怖かった話
僕が森を歩いていたら、ヒグマに出会いました。初めての経験でした。知識としては知っていたはずの”クマの恐ろしさ”について、身をもって体験したときのことを書きます。

*****
昨年の5月のことです。僕は友人ふたりと3人で、森の中を歩いていました。河畔林(かはんりん)、つまり川の周りに育つ森の中を歩いていました。

春にだけ花を咲かせる種類の植物の写真を撮ろうと出かけたのです。森の中は明るく、目当てのクリンソウはあちこちで咲いていました。僕たちは夢中でシャッターを切りました。

ところで北海道の5月というのは、ヒグマが冬眠から目覚め、繁殖期を迎える前に単独行動している時期にあたります。

人家からも林道からも離れて歩いていた僕たちは、ヒグマに警戒しながら歩いていました。

ヒグマの対策としては、遭遇防止がもっとも一般的です。鈴を鳴らす、声を挙げるなどしてクマにこちらの存在を知らせ、いきなり出会って驚かせることを防ごうというものです。用心のため、クマ撃退用のトウガラシスプレーも持っていました。

風もなく、穏やかで気持ちのいい日でした。ひとしきり写真を撮った僕たちは、来た道を引き返し、車へと戻ることにしました。

しばらく歩いて、もう少しで林道が見えてきそうだ、と思ったときのことです。50メートルほど先のササやぶの中に、黒く動く影を僕は見たのです。

「ちょっと止まってください」

ふたりが気づいていないようだったので、僕は小さく声をかけました。そろって立ち止まり、影のほうを確認すると、腰くらいの高さのササの上に、黒くはみ出して動くものが確かに見えます。僕は双眼鏡を取り出して影を追いました。

黒い影は、間違いなくヒグマでした。あんなに黒く大きい生き物は、僕の知る限り、北海道では他にいません。せわしなく動く肩と背中の筋肉が、黒い毛を揺らしているのがはっきりと分かりました。自分がつばをのむ音がやけに大きく聞こえました。

年長で一番経験があったひとの判断で、こちらの準備を整えてから相手に存在を気づかせることにしました。ひとりがクマスプレーの安全ピンを抜き、トリガーに指をかけました。僕は双眼鏡を構え、クマの動きをうかがう用意をしました。そして車までの距離を確認したうえで、大声を出したのです。

年長の彼はオイッ、ともホイッ、とも聞き取れる大声を挙げました。さらにもう一度。

双眼鏡の向こうで、揺れるササやぶがぴたりと止まり、そして、ヒグマが立ち上がってこちらを見ました。息をのむ間もなく、さらに、隣からもう一頭が頭を上げてこちらを見たのです。

個人的な話になりますが、僕は体も小さくありませんし、体力もないわけではないし、ちょっとだけ武道の心得もあるし、子どものころから山の中で遊んでいたこともあって、クマを恐ろしいと感じたことがありませんでした。

「斜面で出会ったら下に位置したほうが有利」とか、「ナタを持って戦ったほうが生存率が高い」などというクマと出会った体験談を読んで対策をした気になり、まぁ、なにかあっても僕はなんとか生き残れるだろう、と考えていました。

もちろん「クマに出会ったときに取るべき」とされる対策の知識もありました。

でも、2頭のヒグマがこちらを見たとき、ただ恐ろしいとしか感じることができませんでした。

肩の筋肉、自分の腰くらいの高さのササから伸びる自分より高さも幅も大きい体。それが2頭、こちらを向いているのです。あの腕でビンタされようものなら、いくら修業していようと、ガードした腕ごともっていかれて……つまり、腕や頭が吹っ飛ばされてしまうだろうな、と思いました。

何より、彼らは生き物なのです。あの大きい体を自らの意思で律しているのだ、と思ったとき、生物として人間よりも圧倒的に強いのだとようやく気づくことができたのです。

結局、3秒ほどにらみ合った後、クマは僕たちの車が置いてある林道とは反対方向、僕たちからも離れる方向に走って消えてゆきました。

その移動速度に僕は改めて驚きました。こちらがササをかき分け進む場所を、ああも速く動けるのか、と。彼らが敵意を持ってこちらに向かってきたら、と考えると、必死で抵抗したとしても逃げ切れる自信は既に喪失していました。

僕たちはササやぶの揺れが見えなくなるのを確認し、言葉を交わさず、ホイッという声をしきりに出しながら、足早に車へと戻りました。

荷物を降ろしたとき、僕の足は震えていました。
*****

山暮らしとツキノワグマ
続いて、日々生活の近くにツキノワグマの存在を感じることの多い、山暮らしの主婦の方の日記を紹介させていただきます。
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私の家は山の中です。さして深いとも思いませんが、家の窓を開けたらカモシカくらいざらにいます。

……ここ7~8年で、そうなりました。

「クマにひっかかれました」……と、報道されるたび、「ああ、その人が回復して、鏡を初めてみたときは……」と、必ず胸が張り裂けそうな気持になります。

クマの肩と腕は、骨が引っかかっていません。筋などでつながっていて、その重い腕を振って遠心力でなぎ倒すんです。その力で真横からハタかれると、柔らかな人の顔というものは、目玉と口と鼻の穴を残して、きれいにはぎとられてしまうんです。

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