児童虐待を減らす為に

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俺の邪悪なメモ

今回は罪山罰太郎さんのブログ『俺の邪悪なメモ』からご寄稿いただきました。

児童虐待を減らす為に
大阪で起きたネグレクト事件について、ちきりん(はてなid:Chikirin)が書いたこのエントリ。

誰が何をネグレクト? – 『Chikirinの日記』
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100801

罪山としてはこの意見は大い支持したいと思います。
で、俺(おれ)自身、子育ての当事者ということもあるし、ちょっと児童虐待の話などを。

1. 混ぜるな危険! 個人(ミクロ)と社会(マクロ)
児童虐待に限らず、犯罪が起きて、「悪いのは社会だ!」的な意見をいうと、必ず出てくるのが「いや、犯人が悪いに決まってるだろ!」という反論。今回のケースでいえば「母親が悪いんだから、社会のせいにしちゃいかん!」みたいなやつですね。

確かにそれはもっともで、俺(おれ)自身、ネグレクトした母親は悪いと思うし、彼女は裁かれるべきだと思います。個別のケースで考えれば、どんな犯罪も、犯人が悪いに決まっています。しかしそういった個人の問題とは別に、社会の中に犯罪を誘発してしまう状況があるなら、それは指摘されなければならないでしょう。こういった個人(ミクロ)の責任と社会(マクロ)の責任は、分けて考えなければなりません。

心理学の言葉で“対応バイアス”というのがあります。これは「人間には、他人の行動の理由を推測するとき状況などの外部の要因を軽視し、性格や能力といった内部の要因を重視する認知の偏りがある」というものです。

個人の責任と社会の責任を同列に語ってしまうと、この対応バイアスにより、個人の責任がより重く取られ、社会の責任が後景に追いやられてしまいがちです。しかしそれでは社会の問題が温存されるので、同じようなことが繰り返されてしまうのです。また、別に社会の責任を指摘したからといって、犯罪者個人が免罪されるワケではありません。

2. 虐待を誘発するもの
で、先のちきりんのエントリでは「頼るもののないシングルマザーが、経済的にも追い詰められて虐待を引き起こしてしまう」といった感じの主張がなされています。

俺(おれ)が知る限り、多くの統計データがこの主張を裏付けています。たとえば以下のリンクは東京都福祉局がまとめた「児童虐待の実態」という報告ですが

児童虐待の実態 ― 東京の児童相談所の事例に見る ― 『東京都福祉局』
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/syoushi/hakusho/0/index.htm

虐待家庭の状況で最も多いのは“経済的困難”。また“ひとり親世帯”でも虐待の発生率が有意に高くなっています。ついでにいえば、シングルマザー世帯の年収は平均で214万円。日本では“ひとり親”と“経済的困難”はセットになりやすく、国際比較でも、ひとり親世帯の貧困率が主要先進国の中でトップだったりするのです。

ちきりんのエントリでは生活保護が挙げられてましたが、福祉によってこういった虐待を誘発しそうな問題を抱えた家庭に手当をするのは、“子どもを守る”という点でも正しいことだと思います。

3. バカを甘やかすとつけあがる?
こうした福祉の議論で必ず出てくるのは、「虐待をするようなバカ親を甘やかすべきじゃない!」みたいな反論です。特に今回の事件のように、母親がホストクラブに通っていた事実があったりすると、とてもリアリティを感じてしまう意見です。

しかし、ここでも“対応バイアス”が働いてる可能性に注意しなければなりません。俺(おれ)たちは他人がバカな行動を取ったとき、その原因を性格や個性といった資質に求めてしまいがちです。しかし、社会心理学の様々な実験・研究によれば、人間の行動は性格や個性といった個人的な資質よりも、外的要因によって大きく左右されることが示されています。人の行動は状況を変えることで、コントロールすることが可能なのです。また、強いストレス下では極端な行動に出る人の比率が増えることも分かっています。

このことから、福祉によってストレスの軽減ができれば、子どもを殺してしまうような極端な行動に出る親を減らすことができると推測できます(後述しますが、ここでいう福祉の役割は単に金を渡すことだけじゃありません)。

ちなみに生活保護の不正受給というのは極めて少数でほとんど誤差の範囲です。生活保護については、別の大問題があり本当に必要な人たちに行き渡ってないことは以前書きました。

生活保護の本当の問題 – 『俺の邪悪なメモ』
http://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20091014/p1

4. 出会い系のシングルマザーたち
ツイッターでもつぶやきましたが、この件に興味のある人にぜひ読んでもらいたい本があります。
鈴木大介著『出会い系のシングルマザーたち ― 欲望と貧困のはざまで』です。

『出会い系のシングルマザーたち ― 欲望と貧困のはざまで』 鈴木大介 著 / 朝日新聞出版
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=11362

余談ですが、著者は『ハチワンダイバー』の監修をやってるプロ棋士の鈴木大介八段とは別人です(笑)。

本書は、出会い系サイトで売春をするシングルマザーたちを追ったノンフィクション。児童虐待の本ではありませんが、困窮したシングルマザーたちが追い詰められていく様子が非常にリアルに描かれています。

本書の中に「他人に頼りたくない」といって、生活保護を受けずに売春をしている母親が登場し、俺(おれ)は軽い衝撃を受けました。よく生活保護を“甘え”だとする意見がありますが、彼女自身そう考え、甘えずに売春という違法行為に手を染めているのです。これは彼女自身の(愚かな)選択ですが、その背景には「シングルマザーでも福祉の助けなど借りず子育てすべき!」という世間の声があります。

繰り返しますが、シングルマザーの平均年収は214万円です。これでも子育てしていくのは相当厳しいですが“平均”ということは、これ以下の人が大多数いるということです。彼女たちは本当に福祉の助けを借りずに売春すべきなんでしょうか? 

もちろん、否です。

問われているのは、必要な福祉が受けられない人や、自分から必要な福祉を拒否してしまう人に、どう手を差しのべるかだと思います。

5. ところで本当に金だけの問題なの?
先ほどの東京都福祉局の資料では、“経済的困難”の他に“親族・近隣・友人からの孤立”が虐待発生のキーとなっているという分析もなされています。三世代家族では児童虐待の発生率が極端に下がるという統計上の事実もあります。『出会い系のシングルマザーたち』の中でも、単に経済的な理由だけでなく、寂しさを埋めるために売春をするという母親が登場します。

ここで見えてくるのは、孤独は人の心を蝕(むしば)むということです。

シングルマザーの困窮の話題では「福祉より親を頼れ!」といった意見もよく聞きます。これはある意味的を射てるかもしれません。しかしだれもが親や回りの人間を頼れるわけではありません。頼る人もなく、頼り方も分からず、孤独に子育てをしてる親は確かにいます。

福祉の手を差しのべるということは、単に生活を援助するだけではなく、そんな孤独を感じている人たちに「あなたは孤独ではない」というメッセージを送ることなのだと俺(おれ)は思います。

ちきりんのエントリの最後にこんなことが書かれています。
***********
だったら、市役所で離婚届けを受け付ける時に、
・母親がトップ女優や歌手ではなく、
・父親が支払うと約束した額と現実的な支払い見通しが不十分で、
・実家に、生活を支援する財力と予定があると確認できなければ、
「では、このまま生活保護課に行って、手続きしていってくださいね」と、離婚届けを受理する係の人が、離婚届けと引き替えに生活保護申請書を渡しながら言う必要があるんじゃないの?
***********
誰が何をネグレクト? – 『Chikirinの日記』より引用
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100801

俺(おれ)はこれ、スゴくいいなと思いました。それは最後の“必要な生活保護の手続きを促す”という部分ではなく、その前段階に市役所の係の人が母親に生活能力があるかどうか確認するプロセスがあることです。

だってそれは

「ここにあなたの生活を心配している人間がひとりいる。役所にはあなたが困ったときに助ける準備がある」

というメッセージを送ることになるからです。

俺(おれ)は今の生活保護のような福祉がベストとは思っていませんが、当面、困窮して子どもを犠牲にしてしまいそうな親の状況を改善するにはこれを上手く利用していくしかないと思います。その上で、時間をかけて、地域のコミュニティを厚くして子育てしやすくするとか、性教育をしっかりやって望まれない妊娠を減らすとか、バウチャーやらベーカム(ベーシックインカム)やらの生活保護以外の福祉を考えるとかしていくべきなんだと思います。

6. ディストピア
ちなみに、福祉を充実させずに児童虐待を減らす方法もあります。それは、虐待リスクを背負いそうな人間には子作りを禁止して、一度子どもができたら絶対離婚できないようにして、祖父母が健在なら同居を義務づけることです。オマケに一度でも子どもを殴ったら即厳罰にでもすれば完璧でしょう。

少子化はスゴく進みますけどね。

俺(おれ)は今の日本の状況ってこれと結構近いと思いますよ。

7. 児童虐待って増えてるの?
で、最後に全部ひっくり返るかもしれない話。
みんな、なんとなくの前提として「児童虐待は増えている」と思いがちですが、実ははかなり怪しいんですね。

児童相談所への報告件数が毎年増えているのは事実ですが、それを持って増えていると言い切ることはできません。これは近年虐待への感心が高まり、また何を虐待とするかという認識が変わってきたため、大量の暗数が表に出てきた可能性が高いのです。と、いうか一年で倍増したりしてるので、そう考えないと説明がつきません。どうも、児童虐待が増えていることをバッチリ示すデータはなさそうなんですよね。

そんなわけなので、児童相談所への報告件数や介入件数だけで、「児童虐待は増えている!」みたいな話が始まったら、眉(まゆ)につばをつけた方が良いと俺(おれ)は思っています。ただ、増えているという確証はなくとも、あるのは間違いありません。子どもが虐待されることを看過する手はないでしょう。

また「児童虐待は増えている!」という印象が一人歩きする世の中は、やっぱり子どもを産みにくい世の中だと思うので、社会の側ではやはり何らかの手当をする必要はあるのだと思います。

※本エントリを書くに当たり、とりあえず手元にあった本で参考にしたもの。

・子どもの貧困について
 『子どもの最貧国・日本』 山野良一 著 / 光文社新書
 http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334034702

・「対応バイアス」や「人間の行動は性格や個性といった個人的な資質よりも、外的要因によって大きく左右される」といった心理学的な知見について
 『「集団主義」という錯覚 ― 日本人論の思い違いとその由来』 高野陽太郎 著 / 新曜社
 http://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1115-6.htm

執筆: この記事は今回は罪山罰太郎さんのブログ『俺の邪悪なメモ』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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