赤字国債で日本の財政は破綻(はたん)するか

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akajikokusai

事業仕分けどころでは全く足りない国の財源確保。国債発行か増税か、私たちの国はどちらを選択していくのでしょう。今回はfinalventさんのブログ『極東ブログ』からご寄稿いただきました。

赤字国債で日本の財政は破綻(はたん)するか
「赤字国債で日本の財政は破綻(はたん)するか」という問いは与太話かもしれない。そうだという人もいるし、そうじゃないという人もいる。経済学的にはどうかというと、経済学者でも意見は割れている。素人がわかることじゃないというのもそうだ。普通に家計の比喩(ひゆ)で考えると、サラ金から年収の二倍を借金した家計はもう無理でしょ。いや、国家経済は家計で比喩(ひゆ)ができるものでもないし、国家にサラ金はない、たぶん。

大丈夫だという議論もある。論拠とやらは、日本の国債はほとんどが日本国内で消化されているから、アルゼンチンのように国家財政破綻(はたん)にはならないというものだ。ごく単純に言えば、日本の富は高齢者に偏在しているから、その投資の見返りを若い世代のためにチャラにしてくれ、とまでは言わないけど、「しゃーないかぁわはは」と、笑ってもらえれば終わりという話だ。たぶん、富を持っている高齢者の寿命とバランスしているんじゃないだろうか、結果的に。と、かくも与太話になっていくのだが、私はなんとなく、与太こいているだけではまずいんだろうなとも思っている。

鳩山内閣になって予算が92兆円というけど、事項要求を含めたら95兆円には膨れるだろうし、削減のための事業仕分けとか言っても3000件のうちの200件を精査してもほぼ無意味。他方、税収は40兆円を下回るじゃなくて、35兆円くらいではないか。すると、95引く35で60兆円の赤字になる。埋蔵金を掘り起こしても足りないだろう。そこで赤字国債だが、小泉政権時代に30兆円で抑えようとしていたのに、鳩山政権時代では倍の60兆円では、さすがにまずいんじゃないか。もっとも鳩山政権としてはそのあたりは余裕で折り込み済みだ。7月8日読売新聞記事「民主バラ色公約、イバラの財源」にこうある。半年経っていないのに、滋味豊かな深まる秋の味わいが感じられるお話だ。

———–以下引用
民主党が事業仕分けを熱心に進めるのは、次期衆院選の政権公約に対し、自民党から「どうやって財源を捻出するのか」と批判を浴びているためだ。

公約には月額2万6000円の子ども手当、高速道路の無料化、農家への戸別所得補償など、政権獲得後、4年目で総額16.8兆円となる新規政策を盛り込み、それに見合う財源を歳入・歳出改革で確保するとしている。事業仕分けは今後、歳出改革を実現する武器になるというわけだ。民主党は仕分けを踏まえ、政権交代後に凍結する事業を列記した資料を作成した。川辺川ダム(熊本県)や八ッ場(やんば)ダム(群馬県)のほか、鳩山代表が「国営マンガ喫茶」と批判する国立メディア芸術総合センターも含めた。政権獲得後に本格的な仕分けを行い、歳出改革で約9兆円を捻出(ねんしゅつ)すると計算している。

しかし、無駄遣いの見直しなどで長期にわたって財源が捻出(ねんしゅつ)できるのか、疑問視する声もある。政府・与党の批判は辛辣(しんらつ)だ。「空想と幻想の世界で遊ぶのは楽しいが、国民生活がそれによって保障されるという錯覚を与えることはほとんど犯罪に近い」与謝野財務・金融相は6日の記者会見で、実現に疑問を呈した。民主党でも、「想定通り歳出をカットするには、相当の抵抗がある」という声が少なくない。

1.3兆円を捻出するとしている「公共事業の半減」には、地元自治体の強い反対が予想される。目玉政策の子ども手当を実現するため、これまで子育て支援の役割を担っていた所得控除を見直すことにしているが、子どものいない世帯には増税となるため、批判を懸念する向きもある。衆院定数の80削減による歳費カットを行うには、比例選の議席減に反対する社民党を説得しなければならない。

財源を重視する岡田幹事長は「税収などはもっと厳しく見積もった方がいい」と指示し、新規政策の総額も小沢前代表当時の20.5兆円から16.8兆円に下方修正した。それでも、「政権を獲得しないと財政の内実は分からないし、財源を作れと言えば出てくるはずだ」という楽観論が根強い。

7日の常任幹事会。大蔵省OBで蔵相を務めた藤井裕久最高顧問は、財源を論じる若手議員にこう語りかけたという。「財源にはそこまで触れなくていいんだ。どうにかなるし、どうにもならなかったら、ごめんなさいと言えばいいじゃないか」
——–引用ここまで
『読売新聞』2009/07/08 「民主バラ色公約、イバラの財源」より引用

藤井財務相が「ごめんなさい」といえば、八方丸く収まる。鳩山総理も先月15日、マニフェスト終了の展望を述べていた。ロイター「赤字国債を極力抑えるとの思いでマニフェスト実行=首相」(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-11961920091015)より。
———–以下引用
鳩山首相は赤字国債を増発させないために、マニフェストを見直す考えがないかを問われ「マニフェストは国民との契約なので、極めて重いものだ」と指摘。ただ「マニフェストの実現よりも、やはり国債をこれ以上発行してはいけないと、国民の意思としてそのようなことが伝えられたら、あるいはそういう方向もあると思う」と語った。
——–引用ここまで
『ロイター』2009/10/15 「赤字国債を極力抑えるとの思いでマニフェスト実行=首相」より引用
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-11961920091015

鳩山さんの日本語は難しいのでシンプルな日本語に翻訳すると、赤字国債のための重税がいやならマニフェストは終了、ということだ。

もっともそれでは財務省がねらっている国家税としての消費税がゲットできない。多少美しい絵を飾って寺銭は取るつもりでいるのだろう。ようはバランスということだが、結局、財政面では鳩山政権は麻生政権と代わり映えはない。成長路線もないのだから、この政権交代のギャンブルは負けだったが、さっさと手仕舞いしたいにも、もう自民党もないに等しい。過去を悔やんでもなんだから、現状から国家財政も考えていかないといけない。

ということろで先の与太話に戻るのだが、赤字国債で日本の財政は破綻(はたん)というのも、意外とありなんじゃないか。私が敬愛するコラムニスト、ロバート・サミュエルソンも先月末、そんなコラム「Up Against a Wall of Debt」を『Newsweek』に書いていた(http://www.newsweek.com/id/220163/)。日本版11・11号に「先進国がデフォルトする日」という題で翻訳もされている。この翻訳はほとんど問題ない。結論から言うと、サミュエルソンもさしたる論拠を述べていないので、与太話という感じもしないでもない。が、私は彼のコラムをもう四半世紀も読んできたので、正しい経済学とは違って、なんというか経済ジャーナリズムの年寄りの知恵みたいなものを感じている。

———–以下引用
The idea that the government of a major advanced country would default on its debt — that is, tell lenders that it won’t repay them all they’re owed — was, until recently, a preposterous proposition. Argentina or Russia might stiff their creditors, but surely not the likes of the United States, Japan, or Great Britain.
主要先進国の政府が財政破綻するかもしれないという想定は、最近までありえないことだった。つまり、国債として国家に貸した金が戻ってこないなんて事態はありえないだろうと思われていた。アルゼンチンやロシアといった国家なら借金踏み倒しがあるかもしれないが、米国や日本、英国のような国ではありえないだろうと。

Well, it’s still a very, very long shot, but it’s no longer entirely unimaginable. Governments of rich countries are borrowing so much that it’s conceivable that one day the twin assumptions underlying their burgeoning debt (that lenders will continue to lend and that governments will continue to pay) might collapse. What happens then?
まあ、あったとしても随分と先の話だが、もはや想定外のことではない。急増する赤字国債を支える二つの前提 — 国民は国債を買い続け、政府は国債を売り続ける — が崩れる疑念が出ない限り、富裕国の政府は赤字国債を出し続ける。その結果はどうなるか?

The question is so unfamiliar that the past provides few clues to the future. Psychology is decisive.
この問題に戸惑うのは、過去の事例から未来への糸口がほとんど見つからないないことだ。国民の心理が、決定的なのだ。
——–引用ここまで
『Newsweek』2009/10/29 「Up Against a Wall of Debt」より引用
http://www.newsweek.com/id/220163/

経済学は心理学ではないと言われる。しかし、案外、心理の問題ではないのか。国家が信頼できるかできないかで、赤字国債が可能かどうか決まるのではないか。これまで日本が赤字国債を積み上げてきたのも、国民が日本国を信頼してきたからだ。というか、信頼するしかないような仕組みにはめられていたからだ。それが壊れると、ヤバイっす、となるかもしれない。ということで、この手の話題は日本に向かう。サミュエルソンもそう。

———–以下引用
Consider Japan. In 2009, its budget deficit — the gap between spending and taxes — amounts to about 10 percent or more of gross domestic product (GDP). Its total government debt — the borrowing to cover all past deficits — is approaching 200 percent of GDP. That’s twice the size of the economy.
日本を例にしてみよう。2009年、日本財政赤字の国内総生産(GDP)比は10%を上回る。債務残高は200%。国家経済の二倍になる。

The mountainous debt reflects years of slow economic growth, many “stimulus” plans, an aging society, and the impact of the global recession. By 2019, the debt-to-GDP ratio could hit 300 percent, says a report from JPMorgan Chase.
膨大な財政赤字は、数年にわたる経済原則や景気刺激策、社会の高齢化、グローバル経済後退の影響によるものだ。JPモルガン・チェイスによると、2019年には財政赤字は300%に上がる。

No one knows how to interpret these numbers.
これの数字をどう考えたらよいのか、だれも知らない。
——–引用ここまで
『Newsweek』2009/10/29 「Up Against a Wall of Debt」より引用
http://www.newsweek.com/id/220163/

現実として日本は国家財政の二倍の借金があり、十年後に三倍になるのも確実だ。民主党政権だとそれどころじゃないかもしれない。サミュエルソンは、20年前にこんな日本が想定できただろうかと問う。当時の経済常識からすれば、国債の金利が上昇するか、リフレ政策に舵(かじ)を切るだろうと見られていた。しかし、そうならなかった。日本人は低金利の国債を買い続け、デフレが続いた。

———–以下引用
Superficially, it’s possible to explain this. Japan has ample private savings to buy bonds; slight deflation — falling prices — makes low interest rates acceptable; and investors remain confident that new and maturing debt will be financed.
表面的になら説明は可能だ。日本には国債を買う個人資産が十分にあるし、軽微なデフレ継続は、物価を押し下げるので、低金利の国債購入を可能にする。国民は新規国債も発行済み国債も償還されると信じている。

But the correct conclusion to draw is not that major governments (such as Japan and the United States) can easily borrow as much as they want. It is that they can easily borrow as much as they want until confidence that they can do so evaporates — and we don’t know when, how, or whether that may happen.
しかし、日本や米国の政府のような大国だからといって、欲しい分だけやすやすと国債が発行できるわけではない。政府が赤字国債が出せるのは、国家の信頼が失われない限りだ。だが、その信頼はいつどのように失われるのか、わからない。
——–引用ここまで
『Newsweek』2009/10/29 「Up Against a Wall of Debt」より引用
http://www.newsweek.com/id/220163/

日本の文脈で言えば、日本人が国家への信頼を失えば、国債は失墜するだろうということだ。だが、日本人にしてみると、カネをグローバルに開かず、国家を信頼するしかないように国営銀行に閉じ込めておけばよいともいえるし、実際、これまでの日本はそうやってきた。ネオ大蔵省も昭和よアゲインの歌を歌うしかないかもしれない。

———–以下引用
In Japan, the existing Value Added Tax (national sales tax) of 5 percent would have to go to 12 percent, says JP Morgan, along with deep spending cuts.
JPモルガンによれば、日本は大幅に財政を引き締めたうえで、さらに消費税を5%から12%に引き揚げることになる。

Against choices like that, some advanced country might decide that a partial or complete default, though dire, would be less dire economically and politically than the alternatives.
日本とは違った選択をとる先進国もあるかもしれない。つまり、部分的に、あるいは全額の借金踏み倒しだ。ひどい話ではあるが、政治経済上の代案よりはましかもしれない。
——–引用ここまで
『Newsweek』2009/10/29 「Up Against a Wall of Debt」より引用
http://www.newsweek.com/id/220163/

日本は結局、消費税を12%に持ち込んで、だらだらデフレのなかで地味に財政赤字を減らすことになるだろう。しかし、そうではなく踏み倒しちゃう先進国もあるだろうというのだ。それって、米国かよ。たぶん、サミュエルソンは米国を想定しているのだろう。ただ、”the alternatives”(代案)がなにを仄(ほの)めかしているのかわからない。米国債を踏み倒しちゃったほうがましな事態って、「ああ、あれかぁ」とわかるものか。

執筆: この記事はfinalventさんのブログ『極東ブログ』より寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信

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