携帯大手3社の2011年3月期決算比較 決算の行方はスマートフォン戦略が全てを握る
今回は大元隆志さんのブログ『ASSIOMA』からご寄稿いただきました。
携帯大手3社の2011年3月期決算比較 決算の行方はスマートフォン戦略が全てを握る
先日、携帯大手3社の決算発表が出そろいましたので、そちらの解説を行います。
・増収増益で勢いが止まらないソフトバンク。各社のトレンドは変わらず
3社の決算書から抜粋した、上期の損益計算書を下図に示します(単位は100万円)。
※画像をごらんいただけない場合は下記URLからごらんください。
https://px1img.getnews.jp/img/archives/pl1.jpg
第3四半期は3社から期待のAndroid端末が登場することで各社のトレンドに変化が起きるかもと注目を集めていましたが、第2四半期に引き続いて、各社のトレンドに変化はありませんでした。NTTドコモが減収増益、KDDIが減収減益、ソフトバンクが増収増益という結果になっています。好調な決算を反映し、ソフトバンクは連結営業利益の予想を従来予想5000億円から6000億円にする上方修正を発表*1 しています。
*1:「業績予想の上方修正に関するお知らせ」2011年02月03日『ソフトバンク株式会社』公式サイト
http://www.softbank.co.jp/ja/news/press/2011/20110203_02/
各社ともに収益の牽引(けんいん)役はスマートフォンであり、減少傾向にある音声ARPU(Average Revenue Per User、加入者1人当たりの月間売り上げ高)をスマートフォン需要で補うという傾向に違いはありません。
決算の注目ポイントは前回*2 も記載しましたが、営業利益では既にソフトバンクがKDDIを抜いているという点です。4月~12月までの加入者増加数でも、1位がソフトバンクで252万人、2位NTTドコモ113万人、3位KDDI66万人となっておりソフトバンクはNTTドコモの二倍、KDDIの4倍という圧倒的な加入者獲得に成功しています。この勢いを反映して、市場の注目は累計加入者数でソフトバンクがいつ2位に浮上するのかに焦点が集まりだしています。
*2:「携帯電話大手3社の上半期決算と、今後の展望について考察する。データARPU上昇の鍵はソーシャルメディアとの融合にあり」2010年11月07日『ASSIOMA』
http://blogs.itmedia.co.jp/assioma/2010/11/arpu-1858.html
急速にスマートフォンに舵(かじ)を切り出したKDDIがどこまで巻き返せるかが今後のポイントになるでしょう。
・ARPUの比較
ARPUについても各社共に音声は減少傾向、データARPUが上昇傾向というトレンドに変化はありません。またソフトバンクのみデータARPUがARPUの過半数を越えているというのも第2四半期同様です。
※画像をごらんいただけない場合は下記URLからごらんください。
https://px1img.getnews.jp/img/archives/arpu.jpg
・注目のスマートフォン販売台数
NTTドコモが126万台に到達し、今期の販売目標は130万台でしたが、今期中にあと100万台上乗せし、250万台販売を目標にすると発表しています。来年度には600万台を目指すということなので、スマートフォンに対する大きな期待を感じさせます。
KDDIは期中に期待の『IS03』を発売し、素晴らしい順調な滑り出しを記録したと発表しています。現時点の累計販売台数は50万台で、今年度中に100万台の大台に乗せると発表しています。
ソフトバンクは具体的な数値は公表しておりませんが、新規加入者数252万人のうちのかなりの数が『iPhone』/『iPad』が占めているのではないかと推測されます。
・ARPU向上に寄与するスマートフォン
各社がスマートフォン販売に注力するのは、もちろん市場の追い風に乗りたいという点もありますが、データARPU向上に貢献するという側面もあるからです。
トラフィックから見たスマートフォンの特徴は大量のパケットが発生することです。あまり利用していないつもりでも、バックグラウンドで自動的に同期やバージョンアップが行われるため、自分は利用していないつもりでも、通信が行われていることがあります。
このため、『W定額』等を申し込んでいても、上限値まで使い切ってしまう人が多いと言われています。
NTTドコモ:パケ・ホーダイ・フラット(3月15日から開始) 5460円/月
KDDI:ISフラット 5460円/月
ソフトバンク:パケットし放題S 5985円/月
※712.5万パケットまで3985円/月のパケットし放題 maxも有り
現状各社がスマートフォン向けパケット定額サービスの価格競争に入ろうとしていますが、各社共に上述した統合ARPUを上回る価格設定になっていることがわかります。スマートフォンを契約してもらうことで、減収傾向にある音声ARPU分を吸収することができるため、各社はARPU上昇という側面でもスマートフォン販売に力を入れていることがおわかり頂けると思います。
・設備投資
今回の決算で、筆者が注目したのは設備投資です。こちらは、今回の決算発表で公開されたQ3の移動通信事業における設備投資額の比較になります。今まで最も設備投資額の少なかったソフトバンクがKDDIを抜き2位になりました。
NTTドコモ:1263億円
KDDI:812億
ソフトバンク:1163億円
これらは、『iPhone』/『iPad』によるトラフィック上昇による設備投資が原因ということであり、品質改善に取り組んでいる模様。それでもまだなお回線品質に関する不満の声は多く、今後も加入者増が続くようであれば更なる設備投資が必要となるのではないかと予想されます。
ただ、『iPhone』/『iPad』によるトラフィック増は以前からも相当あったわけで、今の時期に設備投資が上昇した背景には、将来的なSIMロック解除や、他社が『iPhone』を取り扱う可能性を鑑み、回線品質はキャリア選択要素になり得るとの判断から、顧客離れを防ぐために先手を打っているのではないかとも筆者は推測しています。
また、今期からスマートフォンに注力しだした他2社についても、ソフトバンクの後を追うようにスマートフォントラフィック対応のための設備投資が来期以降上乗せされるのではないかと予想します。
・スマートフォンの調達/開発コストが今後の経営を左右する
各社共に主力事業としてスマートフォンに注力していく傾向は鮮明になっています。現在、ソフトバンクはiPhone、NTTドコモ、KDDIはAndroidに主軸を置いています。
販売数も大きく、ソフトバンクが手を入れる必要のないiPhoneに対して、使い易いスマートフォンを作るためにはある程度手をいれざるを得ないAndroid。更にAndroidは、度重なるバージョンアップの度に追随するコストも発生します。
スマートフォンのトラフィックに対する設備投資に加えて、開発/販売後にもコスト負担がかかるAndroid。
ソフトバンクはiPhone、他2社がAndroidという構造でいくなら、ソフトバンクが利益を出し易い戦況になっていくのではないかと筆者は予想します。
・今後はWindows Phoneにも要注目
2011年2月11日 ノキアはスマートフォンのOSとして縮小傾向にある自社製OSではなく、マイクロソフト製Windows Phoneを選択すると発表しました。
日本国内ではまだまだAndroidが話題ですが、全世界携帯電話販売台数シェアNo.1のノキアがWindows Phoneを選択したことは、国内携帯キャリアの今後のスマートフォン展開にも影響を与えるのではないかと予想します。
こちら*3 にも書きましたが、今後はWindows Phoneもスマートフォン戦争に参加し、以下の層に向けてマートケットが3分割されていくのではないかと予想します。
*3:「“Android”は本当に世の中を席巻するか? 市場の予測に疑問を投げかけてみたい」2010年12月30日『ASSIOMA』
http://blogs.itmedia.co.jp/assioma/2010/12/android-af23.html
AndroidはITリテラシーの高い層、男性向け。
iPhoneは、女性、一般層向け。
Windows Phoneはビジネス用途向け。
スマートフォンが新規加入者獲得に大きく貢献する時代、携帯事業者にとっては、Android一本で勝負を掛けるのではなく、適材適所を考えた、スマートフォン展開戦略が重要になってくるといっても過言ではないでしょう。
執筆: この記事は大元隆志さんのブログ『ASSIOMA』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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