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「これは、君の本じゃないから」と出版社の人に言われたんです 『佐藤秀峰』連続インタビュー

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漫画家、佐藤秀峰連続インタビュー、2回目です。前回はこちらです。

登場人物
秀峰=佐藤秀峰(さとうしゅうほう。漫画家。代表作『海猿』『ブラックジャックによろしく』など)
ふかみん=ききて:深水英一郎(ふかみえいいちろう。ガジェット通信の中の人)

【沈んでいく船から他の船に乗り移るタイミング】

ふかみん:今、まだ多くの漫画家さんが出版社側についているのは現実的な選択だと思いますけども。秀峰さんみたいな人が先陣を切って、それがもしうまくいったら今後皆が真似する、ってことになるんじゃないですか?

秀峰:そもそも、うまくいくと思われてないんでしょうね。

ふかみん:秀峰さんが実践しているものの他に、漫画家が漫画を描き続けるためにどんなモデルがあると思いますか?

秀峰:今はほんとにハザマで、何がいいってのは言えないんですよね。

ふかみん:明確なのは、今の出版モデルが沈没しかけているということですよね。ただ、次が見えないから、次どこにいこう、何をしたらいいんだ、というところで皆迷ってる。わからないから踏み出せない。踏み出せないから、こちら側の『出版社丸』に乗っている状態なわけで。

秀峰:乗っててもなにも良い事ないんですけどね。

ふかみん:いうても、まだ原稿料も出るし、単行本を出すチャンスはあるわけですよ。そっちに乗っかっておけば。

秀峰:どうですかね。電子出版時代に向けて、出版社は今、ものすごく”あくどい”契約書をつくってるんですよ。

ふかみん:どんな内容ですか?

秀峰:電子出版に関する印税は一律15%にする、とか。出版から電子出版まですべて包括し独占的に配信できるようにする、とか。

ふかみん:紙の出版だと、印税は10%ですよね。

秀峰:印刷する必要もないし、トラックを走らせる必要もないのに、15%なんですよ。

ふかみん:秀峰さんの紙の単行本のときの印税は? 普通は10%ですよね。

秀峰:11%です。むちゃくちゃモメて、やっとそうなりました。

ふかみん:基本的に横並びなんですか。

秀峰:そう言われてて、例外はない、という話だったんですけど、少女誌掲載の漫画など売れにくいものの場合は8%など、下げる場合はあって。下がるのはあったんですけど、上がるのはなかった。

ふかみん:モメないと上がらない、と。

秀峰:そうですね。僕だけだ、という話です。11%なのは。漫画以外のジャンルならもっといい、という話もあるんですけど。例えば写真集などでは30%という設定もあったようですよ。

ふかみん:それは凄い。そんなに違うんですね。でも、漫画は一律なんですね。

秀峰:漫画はそれが不文律みたいですね。

【出版社は次の時代に向けて準備ができているのか?】

ふかみん:秀峰さんの日記などを読んでいると、出版社に対していい印象を持っているとは思えないんですが、出版社のどこが気に入らないんですか?

秀峰:気に入らないということじゃないです。おかしいところをおかしいと言っているだけで、普通のことしか言っていませんよ。今、話題になっている電子出版の新しい契約書の話で言えば、すべてを自分たちの統括下におきたがっていますよね?

ふかみん:まぁ、その契約書にサインすればそういうことになっちゃいますね。

秀峰:包括的な独占契約書ですから、サインしちゃえばそうなりますよ。

ふかみん:でもビジネスとして出版をやっている立場からすれば契約書一発で包括的に押さえちゃう、というのは当然やりたいんじゃないですかね。

秀峰:まぁそうですね。

ふかみん:そういう思惑自体がいやなんですか?

秀峰:それを「作家さんのためにやっています」という顔でやられるとウソですよね。いやそれ、自分たちのためでしょ? と思っちゃう。

ふかみん:偽善的なのがいやなんですね。ウソがあると。

秀峰:デジタルやネットも含めた包括的な契約をして権利は全部おさえたがるのに、次世代に向けてのなにかを用意しているかというと、特になにもないんですよ。なんの準備もないのに「とにかく、俺達に任せてくれ」と言っている。そして「逆らったら、仕事なくなるよ」というプレッシャーが背後にあるわけです。フェアじゃないですよね。

ふかみん:『出版社は来るべきネット時代に向けて、何か準備できているのか?』というのが疑問なんですね。

秀峰:答えを示してないじゃないか、と思います。答えは示せないけど、何か起こりそうだから権利だけを押さえようとしている

ふかみん:それがズルいという気持ちは、わかります。ビジョンがないのに、契約だけ先行しているのは変ですよね。そういう出版社に、失望している?

秀峰:少なくとも僕は、参加しない。「まだそんなことやってるんだ」と思う。音楽業界が先に失敗していて、だめだとわかっているのに同じ道を歩んでる。

【「書店に並んでるコミックは、君の本じゃないから」】

ふかみん:秀峰さんは以前、書店に並んでる単行本は僕の本じゃない、と言ってたじゃないですか。やっぱり腑に落ちないんですよね。例えば『ブラックジャックによろしく』が秀峰さんの本じゃない、というのは変だなぁと思う。著者として名前が入っている本が自分の本じゃないというのは変です。

秀峰:たぶん、5年ぐらいしたらみんなそう思うようになると思いますよ。

ふかみん:マジですか。

秀峰:出版の人に何回も「だってこれ、僕の本じゃないですか」と言ったんですよ。そしたら、「これは君の本じゃないから。落ち着いて。」と言われたんですよ。

ふかみん:出版社の人に言われたんですか?

秀峰:そうです。「これは、僕たちの本だから」って。

ふかみん:あ、そうなんですか。どういう状況だったんですか?

秀峰:自分のサイトをつくって、自分の著作本を売りたいから、出版社の人に原価で売って欲しいと言ったんですね。

ふかみん:原価は難しいかも……。

秀峰:原価は無理でも半額ぐらいで売ってもらえませんかと言ったんです。そしたら「いや、だから、これは君の本じゃないんだから」と。「あなたは、『僕の本』って言ってるけど、『僕の本』じゃないんだよね、ボク。」と。

ふかみん:作家の本じゃない、というのは、出版社側から言い出したことなんですね。そこを理解できてませんでした。

秀峰:これは出版社側の『僕たちの本』だからと。「印刷する紙も全部準備して、この紙に君の描いた絵を印刷してるだけで、これは全部僕たちのものだよ」と説明されて。

ふかみん:なるほど。

秀峰:だってこれ、僕が内容も全部考えて、僕が描いたものでしょう」と言ったんだけど、「著作権が誰にあるかと言えばあなたの著作物ではあるけど、著作権とこの本の所有権を一緒に考えちゃいけない。著作権はあなたのもので、『あなたの著作本』という言い方は正しいけど、『あなたの本』ではない。出版社の所有物である本だから。」という話でした。

ふかみん:出版社の商品だ、っていう話ですね。でもほら、ここにある単行本の表紙にも背にも、『佐藤秀峰』って書いてあるじゃないですか。どう見ても『佐藤秀峰』の本でしょう、これは。作家は『自分の本』って思いますよね。

秀峰:そう思い込むように、できてるんですよ。

ふかみん:う~ん。ちなみに今、サイト販売用にいくらで卸してもらってるんですか? 印税分抜いたぐらい?

秀峰:『著者・関係者価格』というのがありまして。著者とその関係者は、社員価格で買えるんです。

ふかみん:社員価格? それはどれくらいで買えるんですか?

秀峰:77%ですね。

ふかみん:23%オフ。

秀峰:そうですね。

ふかみん:僕は秀峰さん自身が『僕の本じゃない』と言い出したものとばかり思っていました。下調べ不足で勘違いしてました。

(つづく)

漫画家『佐藤秀峰』連続インタビューシリーズ
第3回:ミリオンセラー『ブラックジャックによろしく』全巻無料公開のインパクト
第2回:「これは、君の本じゃないから」と出版社の人に言われたんです
第1回:マンガのカタチはこれからどうなる? 紙への希望を失った漫画家『佐藤秀峰』

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記者:

ニュースサイト『ガジェット通信』発行人。未来検索ブラジル代表。東京産業新聞社代表。ハリウッドエンターテイメントビジネス誌『Variety Japan』Senior Editor。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラクターに興味がある。好きな食べ物はシュークリーム。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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