学校に”踊り場”が必ずあるのは規制のせいだった! ”規制バスター”原英史さんにきく学校の規制たち
通商産業省を辞め、日本では前例のない政策コンサルティング企業「政策工房」を立ち上げた原英史(はらえいじ)さん。利権や規制に詳しい原さんは、さまざまな”規制”の事例をご存知だ。先日、雑誌『SAPIO』でも規制に関する連載を開始し、そこでいくつかの事例をわかりやすく語っている。今回は、その『SAPIO』に掲載された事例の一部をご紹介いただきながら、雑誌では書ききれなかった部分まで掘り下げていただいた。
登場人物
原=原英史さん(政策工房)
ふかみん=深水英一郎(ガジェット通信の中の人)
【『SAPIO』ではじめた連載について】
ふかみん:連載第1回はまず学校にまつわる”規制”の話をいくつか採り上げておられますが、”規制”の実例を教えてください。
原:まず連載で最初にもってきたのが「なんで学校には必ず踊り場があるのか」という話なんですけども。
ふかみん:確かにありますねー。踊り場。
原:必ずありますよね。階段が途中で折れ曲がっていて踊り場がある。あれって、法律に書いてあることなんです。”規制”なんですよ。
ふかみん:へー!
原:それも、2つの法律の合わせ技でして。まず、「高さ3メートルを超える階段は、踊り場をつくらなくちゃいけない」というきまりがある。
ふかみん:なんでだろう。
原:長い階段を上から下まで転がり落ちると大怪我しちゃう、という理由があるらしいんですよね。
ふかみん:えー! まぁ…小学生ならありえますねぇ。
原:うん、この理由は、まぁわかります。だけどこれに絡んでくる規制ってのはもうひとつありまして。「学校の天井の高さは3メートル以上」と決められているんです。学校の天井の高さが必ず3メートル以上ってことは、階段の高さも3メートルを超えてしまうわけです。それですべての階段に踊り場がある、ということになります。
ふかみん:3メートルの天井って、一般的な建物と比べるとかなり高いですよね。
原:そうなんですよ、今いるこの会議室の天井だって、2.5メートルぐらいですよね。3メートルってのはなかなかない。しかも小学校ってまだ小さい子供たちがいるわけです。そこでなんで3メートルなの? と。
ふかみん:んー。「開放感があったほうがいい」とか?
原:(笑) 実は、明治15年(1882年)につくった”文部省示諭(もんぶしょうじゆ)”という古めかしい文書がありまして。そこに「天井ノ高サハ一丈ニ下ラサルヲ要ス」と書いてある。
ふかみん:一丈ってどれくらいでしたっけ……。
原:およそ3メートルですね。その頃の規制が、まだ残ってるんです。
ふかみん:最初に”一丈”という高さを決めたのって何か理由があるんですか。
原:当時学校では冬に”石炭ストーブ”をつかってたんですよ。それで、一酸化炭素中毒のリスクを下げるために天井を高くしたんです。
ふかみん:体積を大きくとって空気の循環をよくしたんですね。でも”石炭ストーブ”なんてもう……。
原:もう使ってないですよね。だからもうその規制は必要ないんです。でも規制だけが亡霊のように残り続けていて、天井高が3メートルになってしまっていた、ということなんです。天井の高さがこれだけ高いと、建設コストにもかなり響いてきます。そこに気づいた埼玉県草加市が、小学校建て替えの際、天井高の規制を撤廃して欲しいということで「規制改革要望」というのをやったんです。でも当時の国交省から「子供の心身に与える影響の調査結果が出ていない」との理由で却下されます。それでも草加市は粘り強く交渉して、最終的には建築基準法は改正されたんです。
ふかみん:おー。
原:つまり「規制は絶対」ではない、ということなんですよね。変えることができるものなんです。当たり前になってしまっているものでも、よくよく考えてみると不要な決まりってあるんですよ。そいうのって、一般の人でも「これ、必要ないですよね」と話をもっていけば、それで通っちゃったりすることがあるんですよ。
ふかみん:一般の人の方が、おかしな点に気が付きやすいかもしれませんね。
原:その世界をよく知っている人ほど気づかないっていうのはありますね。「いや、学校の天井の高さって3メートルって決まってるんですよ!」とか言ってみたり。「それで設計するもんなんだから」とか。
ふかみん:思い込んじゃってる部分はありますよね。
原:そういう思い込みを捨てて、もう一回見なおしてみようよ、ということなんです。
ふかみん:なるほど!
【商売敵が審査する!? 審議会という名の同業者組合「私立学校審議会」の謎】
ふかみん:連載で学校法人設立をはばむ規制について触れておられますけど、ここに出てくる「私立学校審議会」というのはそもそもどういう組織なんですか?
原:よくある審議会っていうのは、国や自治体が政策をつくるときに外部有識者の意見をきく場なんです。でもこの”私立学校審議会”っていうのは、別物なんですよね。
ふかみん:別物!?
原:例えば東京都であれば都内にある私立学校の校長とか理事長といった人たちが審議会メンバーの4分の3を占めています。それが都道府県ごとにあるんです。
ふかみん:同じ私立学校をやっている同業者が集まって、商売敵となる新しい私立学校をつくってよいか決めるんだ。
原:地域の同業者の集まりである私立学校審議会にOKしてもらわないと学校をつくれないんです。
ふかみん:ハードル高いっすね。
原:すごく変ですよね。他の業種だったら有り得ない。例えばレストランでも本屋さんでもいいんですが、地域の同業者の組合があって、新規参入の際にはそこの了解をとってくださいって……。
ふかみん:普通は入れたくないですよね。商売敵が増えるわけだから。そこを乗り越えるのはどう考えても厳しいなぁ。
原:これって江戸時代の”株仲間(かぶなかま)”の名残じゃないかと私は思っているんですよ。
ふかみん:株仲間、ですか。
ふかみん:同業者組合、カルテルですよ。それが冥加金(みょうがきん)、いわゆる上納金を納めて、そのかわり特権的に商売をやったり権益を得たりしてたわけです。時代劇で、上納金を納めて「お代官様、あいつが目障りなんでなんとかしてください」というシーンがあるでしょ。ああいうのの延長線にあるんじゃないかといわれてるんです。
ふかみん:へー、そんなの残ってるんだ。
原:現代においては考えられないような仕組みですね。
ふかみん:しかも学校関係でまだそういうものがあるというのが、ちょっと怖いですね。
原:学校だけじゃなくて、同じような仕組みって他にもあったりするんですけどね。
ふかみん:えっ、例えば?
原:例えば旅館とか。これは法律にはちゃんと書いてないんですが、やっぱり同業者組合というのがあって、ここの了解を得ないと入れないような実態があった。明治維新以前の文化の名残でこういった”同業者による規制”というものがまだ存在するんですよね。
ふかみん:それについて文部科学省に問い合わせたんですよね。
原:はい。私立学校審議会って結局同業者の組合で、その同業者組合が新規参入を阻むことができるんであれば、それはおかしな話ですよね、という質問を文部科学省にしてみました。どういう答えが返ってきたかというと、「私立学校審議会は、私立学校の自主性を尊重するため、所轄庁である都道府県知事の監督事項を制限するとともに、その監督事項を処理する場合にも、私学関係者をはじめとする有識者で構成される同会の意見をあらかじめ聞くことにしているものです」とのことです。
ふかみん:”自主性を尊重”ってよくわからないな、どういうことでしょう?
原:これって結局「同業者の人たちの意見をききなさい」ということですよね。それを”自主性”と言っているようです。
ふかみん:それって”自主性”なんですかね?
原:誰にとっての”自主性”かっていうことですね。結局、同業者のインナーサークル(仲間内)にとっての”自主性”を”尊重”するということらしいです。「ここは入れたい、ここは入れたくない」というのを認める、ということをやっているわけです。
ふかみん:本来競争相手である同業トップ達に対して参入に関わる権限を与えて放置することを”自主性”と言っているんですね。
原:私立学校の”自主性”っていうのは、おそらくそういうことで、文部科学省によれば、それを尊重するために私立学校審議会を設置している、ということみたいです。ちなみにこの私立学校審議会は各都道府県にあります。
ふかみん:いやぁ、学校にまつわる規制もいろいろあるもんですね。
原:そうなんです。
【原さんは、今後どんな規制に挑んでいくの?】
ふかみん:このSAPIOの連載ではさらにいろんな”規制”の問題につっこんでいく、とのことですが、今後の予定は?
原:インターネットの話、医薬品や医療、労働にまつわる話などなどいろいろテーマはあるんですが、次回予定しているテーマは「道路」です。
ふかみん:こっちもまた根が深そうな……。
原:道路とか車についてもいろんな話がありますよ。例えば「セグウェイ」。
ふかみん:立ったまま乗る電気スクーターみたいなものですよね。僕も乗りましたが、すごく楽しい乗り物です。でも日本じゃ公道走れないんですよね。
原:外国ではセグウェイでまわる観光ツアーってあるんですよ。パリやワシントンなどの市内をセグウェイで走るんです。
ふかみん:日本は路上で乗れないんですよねー。便利なのにもったいないなぁ。
原:何故日本の路上で乗れないのか……これについては次回。
ふかみん:おおっ、楽しみです! 今日はありがとうございました。
原:ありがとうございました。
”規制”に関するみなさんからの質問に原さんが答えてくれるそうです! 質問はこちらからどうぞ。
原さんの連載「おバカ規制の責任者出てこい!」は国際情報誌『SAPIO』に掲載されています。こちらもチェックしてみてくださいね。
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