これから設立される10人以下の新会社のみ 解雇規制をなくしてはどうか

Zopeジャンキー日記

今回はmojixさんのブログ『Zopeジャンキー日記』からご寄稿いただきました。

これから設立される10人以下の新会社のみ、解雇規制をなくしてはどうか
“これから設立される新会社”で、“正社員が10人以下の会社”のみ、解雇規制をなくすというのはどうだろうか。

解雇規制の議論の最大の問題は、解雇規制をなくすとどうなるか、裏を返せばいま解雇規制があることによってどんなデメリットが生じているかがそもそも理解されていないということだ。

つまり、解雇規制がある状態と解雇規制がない状態を“比較”できない、ということが最大の問題なのだ。比較できないために、いまの解雇規制がいいと信じる人たちを納得させることができず、「クビを切りたい経営者のポジショントークだろ」というふうに話が矮小(わいしょう)化されてしまって、議論というより人身攻撃になりやすい。

だから、まず特区などの形でもいいので“実際にやってみる”ことで、解雇規制をなくすとうまくいくということを証明するのがいいと思う。そこでうまくいくことが証明されれば、解雇規制の問題点が一気にわかりやすくなり、緩和・撤廃派の主張に説得力が出るだろう。逆に、それがうまくいかなければ、緩和・撤廃派の主張が間違いだったことが証明されるだろう。

しかし特区の場合、それをどの地区にするかがやはり問題になり、その地区の会社に勤める正社員や労働組合、公務員などが大反対して話が進まないだろう。だから“これから設立される新会社で、かつ正社員が10人以下の小さな会社”といった範囲であれば、そこで解雇が自由化されることに反対する人は少なく、この“実験”がやりやすいと思う。

もしかしたら、これから起業する人の中にもいまの解雇規制がいいと思っている人がいるかもしれないので、会社の設立時に解雇規制の適用免除を受けるかどうかを選べるようにしてもいい。その会社が求人するときは、解雇規制の適用免除を受けているかどうかを必ず明示するようにする。そうすればその会社に応募する人は、解雇規制に守られたいか守られたくないかによって会社を選択できる。解雇規制に守られたい人は解雇規制の適用免除を受けている会社は選ばないだろう。

「解雇規制に守られたくない人なんているのか?」と思う人もいるかもしれない。しかし、少なくとも私が応募する立場であれば解雇規制に守られたくない。なぜなら、解雇規制に守られるということはその会社ではどの社員もクビにならないということだから、仕事をしない人、仕事ができない人の分も自分が割を食う、ということを意味しているからだ。

経営者の観点でいえば、解雇規制があるかないかで給料は倍くらい違ってもおかしくないと思う。“解雇規制に守られる”ということは、社員側から見ると解雇されるリスクを回避できるということなので、そのリスク回避には“コスト”がかかっているのだ。その“コスト”が、給料の安さや長時間労働などにシワ寄せされているのが現状の日本である。この“コスト”の仕組みをわかっていない人が多い。“タダメシは絶対にない”という経済の大原則を理解していないために、“解雇規制に守られる”ことが“タダ”だと思っているのだろう。

“これから設立される新会社で、かつ正社員が10人以下の小さな会社”に対して解雇規制が免除されたら、何が起こるだろうか。以下、これに該当する会社を“解雇自由会社”と呼んで、予想してみよう。

解雇自由会社はいつでも自由に解雇できるので人を気軽に採用できる。職歴・学歴・年齢・性別・国籍などにこだわらず「この人は何か面白そうだ」「この人は他業界からの転身で、この業界は未経験だが、きっとすごい戦力に化ける」といった直感だけでどんどん人を採用する。解雇規制のある普通の会社ではなかなか採用されないような“属性”の人であっても、解雇自由会社は、面白そうな人であればおかまいなしに採用するのだ。

解雇自由会社がどんどん採用する人の中には、すごい才能をあらわす人、平凡な人、ぜんぜんダメな人など、いろいろな人がいるだろう。解雇自由会社は自由に解雇できるので、ぜんぜんダメな人は即解雇だ。平凡な人を残すかどうかは、その人の能力の程度や、会社の事情にもよるだろうが、もっと有能な人が来たら、解雇されるかもしれない。

こんなふうに、解雇自由会社は冷酷なほど解雇するだろうが、ムダな人を抱えないので早く成長できる。会社が成長すれば、オフィスを借りたり、コンピュータを買ったり、社員が近所でランチを食べたりするので、経済効果が生じる。利益が出れば国と地方に税金も払う。また成長にあわせて人を雇いつづけるので、どんどん雇用が生まれていく。特に、解雇自由会社で雇う人というのは、普通の会社ではなかなか採ってもらえないけれども、何か光る才能があったりユニークな人が多い。隠れた実力があるのに“属性”がイマイチなため放置されていた、いわば“割安”な人材である。解雇自由会社がなければどこにも拾ってもらえなかった人材かもしれない。こういう人に活躍の場が与えられて、会社も利益を得られるので、お互いハッピーになる。

しかし残念ながら、解雇自由会社が成長してきて、10人を超えてしまうと、解雇自由でなくなってしまう(“10人以下の会社”というルールにした場合)。よって、この解雇自由会社はどんどん子会社・関連会社などを作り、組織を分散するだろう。これは面倒でもあるが、事業ごとに独立採算制になるし、会社を経営できる人材を育てられる効果もある。また会社が細かい単位に分かれていて、採算もはっきりしているので、M&Aによる会社の譲渡などもやりやすいだろう。

このように、“10人以下の会社”という制約によって、解雇自由会社は大企業病に陥ることなく、機敏さを維持しながら、グループ全体として成長できるかもしれない。M&Aなども活発なので、投資資金の出入りも活発になるだろう。いまの日本では銀行は投資先がなくてカネが余っており、仕方なく国債を買っている状況だが、その余っているカネも投資されるかもしれない。

そして、解雇が自由なのであれば、自分も起業しようという人が増えるだろう。普通の会社では人を雇う場合、その社員と家族の生活をずっと保障する覚悟で採用しなければならない。しかし解雇自由会社では、相性が悪いと思ったらすぐ解雇できるし、応募してくる人も会社に生活をずっと保障してもらうことを期待していないのでお互い気がラクだ。このように“起業の敷居”が下がるので、大企業に勤めていた人が思い切って独立したり、これまでまったくビジネスに縁のなかった主婦が起業するなど、さまざまな人が起業に挑戦しはじめるだろう。

このように、“これから設立される新会社で、かつ正社員が10人以下の小さな会社”だけに限定したとしても、解雇規制をなくすインパクトはきわめて大きく、たくさんの起業と人材の移動と活用といった経済効果が生じるだろう。

このようなことが実際に起きれば、解雇規制がある通常の会社から解雇自由会社に向かって人材はどんどん移動していくだろう。解雇自由会社のほうが成長していて、給料も待遇も良く、多様で面白い人材が集まっていて、活気があるからだ。そのくらいまで来れば、“解雇規制で守られる”ことを希望する人は少なくなるだろうし、解雇規制という制度が誤っていたことも常識になり、見直しの機運が起きるだろう。

そうなるころには、経済誌で“日本経済復活”特集が組まれ、“解雇自由世代”のベンチャー起業家たちが紙面を飾り、ひきこもりや主婦から世界的起業家へ大化けした人たちのインタビューが載っているかもしれない。

執筆: この記事はmojixさんのブログ『Zopeジャンキー日記』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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