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「最悪のシナリオ」という脅しに騙されないために

東日本大震災発生直後の東京電力からの報道向け発表より

※この原稿は作家である田口ランディさんのブログに掲載されていましたが、エキサイトブログが19日朝より閲覧不能のトラブルに見舞われているため、急遽ガジェット通信にも転載させていただくことにしました。(ガジェット通信 深水英一郎)

● 「最悪のシナリオ」という脅しに騙されないために
(田口ランディ)

福島第一原発事故が発生してから、さまざまな情報が錯綜しました。非常時に風評被害が出ることは、ネット社会では避けられないかもしれません。実際にはどういう状況なのか。そしてこれからどうなるのか?

3月15日に個人的に知りあった原子力関係者の方たち、さまざまな分野の友人に声をかけて、メーリングリストを立ち上げました。私が最も信頼し、共にダイアローグ研究会を立ち上げた、原子力の技術者である東北大学の北村正晴先生は仙台で被災したために連絡が取れませんでしたが、15日にやっとメールを交換できるようになりました。それで、先生を中心に意見交換ができるような場を作ろうと思いした。

この三日間、非常に活発な意見交換が行われ、さまざまな情報がポストされました。やはり一人で考えていては知りえないことがたくさんありました。ネットワークの大切さを痛感いたしました。

意見交換されたことの主軸は「現状の危険性」「放射線被害」でした。それに関して、被災してご不自由な生活の中でたいへんていねいにお答えくださった北村先生の意見はこちらで見ることができます。

「退避すべきかとどまるべきか」放射線被ばくを深く心配されている方々へ(2011年3月17日午後時点の情報を踏まえて)
http://getnews.jp/archives/105218

また、ネット上で話題になっていた、広瀬隆さんの「ニュースの真相」における発言に関しても、メーリングリスト上で意見交換が行われました。それは、参加者である深水英一郎さんによって、こちらにまとめてアップされています。

広瀬隆氏『ニュースの深層 福島原発事故 メディア報道のあり方』での発言へのいくつかの修正(2011年3月17日放送)
http://getnews.jp/archives/105404

そしてメーリングリストでは「マスコミが言う最悪のシナリオ」の内容がわからない、ということで意見交換しました。「最悪というけれども、その内容を具体的に開示しないとなにが最悪なのかわからない」このような状態では人間の不安は強くなってしまいます。

それに対して、「想定しうる一番悪いケース」の意見交換をし、それはほぼ一致したので、こちらに発表することにしました。

「最悪のシナリオ」という言い方はよくない。メディアで発するべきではない。その内容を説明しないで言葉を独り歩きさせるのは、ジャーナリストや科学者はしてはいけない。具体的に、一番悪い状況ではどうなるのか知りたい。
という発言に対しての、北村先生からの意見です。

※北村正晴 東北大学名誉教授 プロフィール
1942年生まれ。東北大学大学院工学研究科博士課程(原子核専攻)修了。工学博士(東北大学)。研究分野はリスク評価・管理学、大規模機械システムの安全学。

==========北村先生からの意見ここから==========
前段の再臨界可能性に関しても、小生は若干厳しい見方をしておきたいと思います。話が錯綜するので箇条書きにします。「最悪の可能性」というと『どこまでがありうることなのか?』という議論が避けられません。「悪い方のシナリオ」と言い換えさせていただきます。

●(1)
まず、燃料貯蔵プールについてです。プールの中には今のところ海水と一緒にホウ素が投入されたとは聞いていません。設計段階からホウ素入りの仕切りが入っている燃料プール設計もありますが、福島第一発電所は違うように思います。いずれにしてもホウ素はないと考えておいた方が、燃料プールの安全性を評価する上では合理的でしょう。

●(2)
燃料プールが再臨界になる可能性については、簡単な計算評価をすれば一応可能と思います。大学が機能停止していて(編註:北村先生は仙台にある東北大学の名誉教授です)小生の手元には物理定数や核反応断面積のデータがないので今は計算できません。手順としては、燃料集合体中のウラニウム総量(重量、体積)を導出する。それが燃料プール底面に一様に広がって横たわったとして、タテヨコは10m×12mでしたかね。堆積した厚さを計算すると、多分形状的に臨界になりにくいと思います。
通常炉心部分を構成している直径4m、高さ4mの円筒形が臨界になりやすい形状だとするとプールの底に沈んで広がった溶融燃料は、臨界になりにくい(体系外への漏れが大きい)形状になるのではないかと思うのです。
でもまぁ仮に臨界になったとしたら、(5)へ。(現実には燃料の関しては(5)の記述がより正しく、ここ(2)での想定は計算上の仮定です)

●(3)
原子炉の炉心内の燃料(正確には燃料被覆管)が大部分溶けて燃料が圧力容器底部に集まった場合は、燃料プールの場合より相対的に臨界になりやすいかも知れません。この計算も定数データがないと困難ですので、以下、仮に再臨界になったと想定します。

●(4)
その再臨界現象を定性的に考察しましょう。圧力容器の底部を想定します。詳細に言うと燃料がどろどろに溶けて流れながら集まってくるのではなく、燃料被覆管という部分が破損することによって燃料ペレット(小さな円柱状の核燃料)が下部に落っこちてきて集積するように思います。なぜなら被覆管が溶融する温度は、ウラニウム燃料が溶ける温度より大幅に低いからです。集まった燃料ペレットの量がある限度(臨界質量)を超えたときに再臨界状態が出現します。ただしこのシナリオでは、ホウ素の投入量が大きければそれだけ臨界状態が生じにくくなります。

●(5)
その時何が起こるか? これも色々なシナリオがありえます。しかしはっきり指摘してきおくべきことは、その状態をチェルノブイリ事故と類似のものとみなすと大きな誤解が生じることです。チェルノブイリの場合は、飯田さん(編註: 飯田哲也さん。環境エネルギー政策研究所)が引用されている資料(編註:『チェルノブイリ原発事故:何がおきたのか』今中 哲二 京都大学原子炉実験所)にも記されているように「出力上昇率高」(炉周期20秒以下)とか、冷却水が全部なくなったときの反応度添加は+5βであり、フィードバックのドップラー効果は-4βという状況です。反応度印加量が即発臨界を大幅に超えていて、かつ反応度印加速度も大であるという、再臨界では到底ありえない状況が生じています。つまり出力の爆発的上昇に続いて、/炉心部が丸ごと中央ホール空間に浮かび上がり空中で核暴走にともなう爆発が発生した/というような極めて激しい現象が起こっています【この部分,専門語の説明をしていると長くなるので、とりあえず飯田さん向けの書き方ということで読者の皆様ご了解ください。最後で要約補足します。】

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深水英一郎(ふかみん)

記者:

見たいものを見に行こう――で有名な、やわらかニュースサイト『ガジェット通信』発行人。トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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