【シェアな生活】出入り自由な空間は“シェア”の可能性がある――『ガケ書房』山下賢二さんインタビュー(4/4)

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ガケ書房店長 山下賢二さん


京都の『ガケ書房』は、新刊書籍・雑誌を置く「普通の街の本屋さん」でありながら、店内には古本を売りたい人や店に場所を提供する『貸し棚』や、出店・イベントを受け付ける『もぐらスペース』など、店の一部を“シェア”する仕組みもあるユニークな書店だ。『ガケ書房』の店づくりのアイデアはどこから生まれているのか? また、ネット書店や電子書籍についてどんな風に考えているのかについて、『ガケ書房』店長・山下賢二さんにインタビューで聴いた。
※連載シリーズ『シェアな生活~共有・共感・共生がもたらす新しいライフスタイル』関連記事です。

登場人物:
山下=山下賢二(やましたけんじ)。京都市左京区北白川の書店『ガケ書房』店長。
聞き手=ガジェット通信記者・杉本恭子

●電子書籍という“黒船”の姿はまだ見えない

ガケ書房 書棚の前に立つ山下賢二さん

――ちょっと話が飛びますが、電子書籍についてどう思われますか?

山下:僕は『iPad』も『Kindle』も持っていなくて、一度『iPad』を触らせてもらっただけですが、持ってみた感じではまだ初期型やなあという印象ですね。まだまだ大きいし、文庫本の携帯性にはかなわない。それに、電化製品ってモロいからいろんな情報を詰め込んで歩くのは怖いなあと思います。

――紙の本がなくなるんじゃないかと言われたりしますが、そういう話は気になりませんか?

山下:買う人が電子書籍に魅力を感じているのかどうか、僕からはまだ見えないんですよね。本当にみなさんは、紙の本より電子書籍がいいと思っているのかなと。

――『iPhone』で電子書籍を読む人もわりといるし、本をバラバラにしてスキャンして“自炊”で電子書籍化する人もいます。本がなくなると引越しが楽だという意見もあるようですが。

山下:僕の趣味のひとつは、友達の家で本棚を見ることなんですが、それもできなくなりますね。本棚のなくなる部屋は殺風景だし、「ちょっと本棚を見せてよ」って、個人情報が入っている『iPad』を借りることもできないから、コミュニケーションがひとつ減るんじゃないかな。

――本棚には、その人の内側の世界が現れますよね。それが全部デバイスの中に入っていくような気がします。本も、本屋さんもデータになっていくのは少しさびしいですね。

山下:教科書が『iPad』になって、全部電子書籍になる時代が来たら、紙の本はレトロの逸品になるのかもしれませんね。未来は誰にもわからないですけど、僕自身のベクトルだけで話をすると今のところは興味無いし、紙の本を売っていくのに手いっぱいなので、まだその黒船は見えていないです。ボォーという汽笛の音は聴こえますけど(笑)。

――黒船の姿が見えても、リアルな書店であり続けることは変わらない?

山下:僕は、買う人が本当に電子書籍を求めているのかまだわからないので。もしかしたら供給する企業側だけが新しいビジネスチャンスとして盛りあがっているだけなのかも? とかね。本当に90%の人が電子に移行してしまったら、紙の本は売れなくなって僕自身が生活していけなくなるけれども、果たしてそうなるかどうかは僕にはわからないです。ただ、僕みたいな人がいるのであれば、紙の本は続いていくのではないかと思います。

●『ガケ書房』自体のコンセプトが“共有”

ガケ書房 見ているだけでも楽しくなる手作り雑貨

――東京の高円寺にある『ブックシェア・カフェ』さんでは、お客さん同士のSNSを作っておられるのですが、たとえば『ガケ書房』ではお客さんのSNSを作るということはありえますか?

山下:僕からはないです。お客さん同士が勝手にやってくれるのはいいと思いますけどね。『mixi』で『ガケ書房』のコミュニティを作ってくれた人がいて、最初の頃こそ「『ガケ書房』で買ったもの」というトピックもあったけれど、今は僕がイベント情報を書いているくらいだし(笑)。結局、誰もが生活のなかでいろんなお店に行っているわけだし、そこまで情熱を注いでひとつの店を中心に考えて生きてはいないので。お客さんを引っ張って意見を書いてもらうのはプレッシャーになるだろうし、自然発生的にそうなればうれしいというくらいですね。

――実際、SNSを介さなくてもお客さんとお店、お客さん同士のコミュニケーションがあるから、『ガケ書房』でいろんなことが起きているのかなと思います。

山下:そうですね。ごく普通に本を通してお客さんとしゃべるなかで。また、左京区という土地柄もあるのかな。左京区に来たのは『ガケ書房』を始めてからなんですけど、一気に人のつながりが増えますよね。初対面の人と握手をしたら、その後ろの友達同士がうわーっと広がっていてすでにつながっていたりする。本当に、広がりがあるというか狭いというか、噂が広まるのも早いですしね。

――“シェア”というテーマでインタビューに来てこういうことを言うのも何ですが、『ガケ書房』において“共有している”という感覚はありますか?

山下:商品選択を含めたすべてにおいて、共有している感覚はありますね。この『ガケ書房』自体がそういうコンセプトだと言ってしまっていいかもしれない。お客さんはそういう意識はないかもしれないですけど、僕からしたらお店を作ってもらっている感じがすごくある。細かいコーナー作りも、イベントも、作家さんの納品も、本当にそういう感じはしていますね。

――“シェア”の基盤になっているのは、山下さんの「他の人が喜んでくれるとうれしい」という感じなのかなと思います。

山下:そうですね。空間があって、来た人の話を僕が聴いて「面白いやん!」と言って具体化していろんなことが起きて、みんなの笑顔につながってくると思います。僕からすれば、出入りしてもお金の発生しない空間は基本的に“シェア”できるものになりえるんじゃないかと。書店はもちろんのこと、ギャラリーとか公園とか。入場無料の空間というのは、格差が発生しない場所ですからそこに集う人々の幅がそのままアイデアの幅に繋がる可能性っていうのはあると思いますね。
 
山下賢二さんプロフィール
1972年京都生まれ。21歳の頃、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌編集部勤務、古本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年に『ガケ書房』をオープン。外壁にミニ・クーペが突っ込む目立つ外観と、何が起きるか分からないスリル、そしてワクワクする書籍・雑誌、CD、雑貨・洋服などの品ぞろえで、全国にファンを持つ。これからやりたいことは「『ガケ書房』が出版する本を作ること」。

ガケ書房
http://www.h7.dion.ne.jp/~gakegake/
京都市左京区北白川下別当町33
075-724-0071
 
 

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Kyoko Sugimoto

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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