歳月を経るほど美しく─東京都『日野市立中央図書館』【ぶらり、図書館めぐり】
名建築家が残した、光と余白。
本好きライターによる散策企画『ぶらり、図書館めぐり』第10弾は、東京都の「日野市立中央図書館」を訪れました。
設計を手がけたのは、図書館建築の名手として知られる建築家・鬼頭梓。
歳月を経るほど美しくなる建物を―そんな思いで設計され、国の登録有形文化財として認められた赤レンガづくりの図書館。
50年以上の時を経たいまも、凛とした存在感を放っています。
光に満ちる吹き抜けと、中庭の緑。鬼頭梓の名建築
扉を開けると、視界がひらけます。
1階は仕切りの少ないL字型のワンフロア。低い書架が整然と並び、大きなガラス窓の向こうには中庭の緑が広がります。
書架や机は建物と一体で設計されたもの。高さや配置まで計算され、空間にやわらかなリズムを生んでいます。
本を手に取り、顔を上げると木々が揺れている。館内にいながら、外の気配を感じられます。
この吹き抜けは、設計時に「本棚を増やすべきでは」と議論になりました。それでも鬼頭は、光と余白を選びました。
その決断が、静けさとひらきのある読書空間を生み、いまもこの場所をかたちづくっています。
大人も子どもも、ゆるやかにつながる
同じフロアには児童書コーナーもあります。
一般書架と自然につながる配置で、親子が同じ空間で過ごせる設計。子どもは絵本を選び、大人は小説を読む。お互いの気配を感じながら、それぞれの時間を楽しめます。
低い棚、小さな椅子、やわらかな光。空間そのものが、子どもの「読んでみたい」をそっと後押ししてくれます。
光を感じ、知にもぐる。とっておきの特等席
階段で2階へ上がると、空気が変わります。
窓ガラス越しのやわらかな光を背に、重厚な書架にぐるりと囲まれたレファレンス(研究)室。ここは、時間を忘れてじっくり本と向き合える“静かなこもり場”です。
木の温もりを感じる調べもの用デスクは時間制。電源も備えた座席も用意され、集中を支える環境が整っています。
利用させるから、利用してもらう場へ―図書館を変えた初代館長
設計を手掛けたのは鬼頭梓。そして、その構想の中心にいたのが初代館長・前川恒雄(つねお)です。
1960年代の日本では、図書館は“静かに閲覧する場所”という色合いが強く、貸出には条件があり、子どもが自由に棚から本を選びにくい空気もありました。「利用させる」側の発想が前に出ていた時代です。
イギリス視察で、利用者が思い思いに本を手に取り、司書と自然に言葉を交わす光景に触れた前川は、図書館は「利用してもらう場」であるべきだと確信します。
帰国後の1965年、トラックを改造した移動図書館車によるサービスを開始。翌年には引退車両を活用した「電車図書館」も誕生しました。
引用元:日野市立図書館のあゆみ
市民の暮らしのそばへ、本を届けるための実践を重ねた先に、1973年、日野市立中央図書館が完成します。
色褪せない建築の美しさ。その背景には、“市民のための図書館”を実現しようとした前川の一貫した思いがあります。
時が磨く、赤レンガの図書館
レンガはゆっくりと色を深め、窓からの光は変わらず差し込みます。その下で、人は本を開き、ページをめくります。
鬼頭梓と前川恒雄が思い描いた、歳月を経るほど美しくなる建物。この図書館は今日も市民に親しまれながら、静かに時を重ねています。
日野市立中央図書館図書館
住所 :〒191-0053 日野市豊田2-49
開館時間:火曜日~金曜日 午前10時から午後7時
土曜日・日曜日・祝日 午前10時から午後5時
休館日 :月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
アクセス:JR中央線豊田駅南口から徒歩6分
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