本好きが“趣味”で始めたフシギな図書館 — 鎌倉「材木座文庫」【ぶらり、図書館めぐり】
夢のようで、本当のお話。
図書館好きライターによる散策企画『ぶらり、図書館めぐり』。第6弾は、神奈川県鎌倉市・材木座にある私設図書館「材木座文庫」を訪ねました。
鎌倉幕府の建築に使われる木材が集まったことから名付けられた「材木座」。
古い町並みに海の気配が重なるこの町の路地裏で、築100年を迎えた古民家が小さな図書館に生まれ変わっています。
開館理由は、趣味…? 清々しい管理人さん
材木座文庫は、管理人であるノラさんが“自費”で営むちょっと変わった私設図書館。
営利でも福祉でもない。
「本が好きで、人が好き」—そんな素朴な思いが、この場所の出発点になっています。
入口には大人100円からの寄付金ボックスを置いているものの、家賃や光熱費といった費用の大半は、ノラさんのポケットマネーで賄われています。
会社員として働きながら、非営利の施設を自費で運営する。
普通なら尻込みしてしまいそうなその状況を、「趣味です」とノラさんは軽やかに笑います。
100年後も残っていてほしい本を集めて
ノラさんは、鎌倉の学生団体の有志と力を合わせ、2階建ての古民家を丁寧にリノベーションしました。
本棚などの家具はほとんどが手づくりで、「こんな空間があったらいいな」という気持ちがそのまま形になっています。
やわらかな照明に照らされた棚には、ノラさんが「100年後も残っていてほしい」と思う本が並んでいるそう。
古典、哲学書、美術図鑑、ポルトガルの童話まで…多様なジャンルが横断する美しく、ユニークな本棚。
信頼という見えないものがそっと中心に置かれた、優しい図書館です。
温もりのある空間で、本と思索にふける
1階には、素敵なデスクスペースも。
机の上には、「ご自由にどうぞ」と白い紙が置いてある粋な心遣い。
他にも、階段下にひっそり籠れる読書スペースがあったりと、遊び心ある空間設計。
心地よく、ほどよい距離感。子どもたちの新しい居場所に
階段で2階へ上がると、絵本や漫画がずらりと並ぶくつろぎの間が広がります。
昔の名作から最近の話題作までそろう漫画コーナーや絵本の種類も豊富です。
囲碁や将棋、百人一首など昔ながらの遊び道具も。
「子どもたちが来たら挨拶はしますが、後は自由に過ごしてもらっています」とノラさんは話します。
好きな場所で、好きなように過ごしていい。ほどよい距離感が、子どもたちの安心につながっているようでした。
材木座文庫誕生の背景に、奇人の存在……?
ノラさんに大きな影響を与えた、ひとりの“奇人”。
その人こそ、戦後にBBC日本語放送のアナウンサーとして海外で活躍し、その風変わりな生き方が『ある奇人の生涯』(木耳社)として書籍化された、故・石田達夫さんです。
戦争を経験し、世界を渡り歩いた石田さんは、晩年に長野県の自宅で英語塾を開校。
その塾に生徒として通っていたノラさんは、当時の石田さんの印象を「変わり者のおじいちゃんだった」と振り返ります。
奇人・石田さんは、見ず知らずの旅人たちに道で声をかけ、仲良くなったら自宅に住まわせることもあったようで、彼の英語塾兼自宅には、生徒である子どもたち、旅する大人たちが垣根なく集い、混ざり合っていたといいます。
そんな体験から、「大人も子どもも関係なく集まれる場所って、いいなって思った」と話すノラさんは、コロナ禍で在宅勤務へ切り替わったことをきっかけに、長年ふんわりと心に描いていた場づくりに一歩を踏み出していきました。
路地裏で見つけた、ほっとする居場所
近所に知り合いも少なかったノラさんは、「人は来るだろうか」と少し不安を抱きながら、2023年に材木座文庫を開館。
静かな路地裏に、「面白そう」と興味を寄せた大人たちがふらりと訪れ、やがて子どもたちも遊びに来るようになりました。
編み物や読み聞かせが好きな地域の人たちと出会い、協力してイベントも生まれ、ノラさんが始めたユニークな試みは、少しずつ、やさしく温かな輪を広げています。
材木座文庫
〒248-0013 神奈川県鎌倉市材木座4丁目5-4開館時間
月・水・金・土:13~18時
※火・木・日は定休日
※詳細・最新情報は公式インスタグラム(@zaimokuza_library)を参照。アクセス
バス停「九品寺」から徒歩5分
「鎌倉駅」から徒歩20分
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