レトロ商店街を地元の若者達が再生! セレクトショップやオフィスなどでにぎわい生み、鉄道会社とコラボイベントも 埼玉県飯能市・飯能銀座商店街
全国各地で商店街の衰退が課題になっています。そんななか、埼玉県飯能市にある「飯能銀座商店街」では、まちづくりユニットAkinaiが、市民や町に関わりたい次世代の人たちを巻き込み、商店街の空き店舗を再生しています。個人的に始めた取り組みはどんどん幅を広げており、ついに地元鉄道会社とも連携。なぜ彼らはそこまで飯能のまちづくりに熱を込めているのか、その思いを話してくれました。
自分たちが暮らす街に面白い拠点が欲しかった
今回訪ねたのは、埼玉県西部にある人口8万人ほどの街、飯能市。西武鉄道池袋線「飯能」駅があり、特急電車も停車します。森林文化都市と宣言する市の面積は約75%が森林。豊かな緑に囲まれたエリアです。都心から約 50 km圏内の距離で、気軽に非日常を味わえることから、最近は日帰り観光やキャンプで訪れる人が増えています。また、2018年から2019年に、ムーミンをテーマにした施設「メッツァビレッジ」と「ムーミンバレーパーク」がオープンしたことから耳にしたことがある人もいるかもしれません。
このように観光業が発展する一方で、地元住民にとって悩ましいのは街に暮らす人が高齢化していること。飯能駅前は市内で唯一の活気あるエリアですが、商店街も店主の高齢化により次々廃業となり、閉店する店が増え始めていたのです。西武鉄道池袋線「飯能」駅北口から徒歩5分ほど歩くと見えてくる、飯能銀座商店街もしかり。
シャッターの閉まる店舗がポツリポツリと存在しますが、現在は新旧のお店が入り交じる飯能銀座商店街(写真撮影/片山貴博)
そんななか、2017年から当時30代だった若者たちがシャッター商店街を盛り上げようと仕掛けをつくり始めました。彼らの拠点は、飯能銀座商店街の中央部にあるシェアスペース「Bookmark」です。ここを運営するのが、代表の赤井恒平さんと徳永一貴さんを中心としたAkinaiのメンバー6人。全員、飯能市在住か在勤しています。仲間の中には一時は都心で暮らしていたけれど、この活動に賛同して家も仕事もUターンすることを決意した人もいます。
「2017年にオープンした『Bookmark』は元書店で、長らく空き店舗となっていたスペースでした。大家さんから“ここを使って、商店街が少しでも活気付き、若い人が集まる場所にしてほしい”と相談をいただいたのです」(赤井さん)
赤井さんは、商店街の至近距離にある金属工場跡地を利用した、クリエイティブスペース「AKAI FACTORY」の立ち上げ人。ここでは地域に住むクリエーター達が創作活動や販売活動を行っています。彼らの存在に光を当てたことで、「何も特徴のない街と思われていたのに、実は地域にこんなに面白い人がいた!」と商店街周辺ではにわかに話題となりました。
その様子を目の当たりにした大家さんが「面白い取り組みをしている」と驚き、赤井さんたちに相談を持ちかけたのだそうです。
飯能銀座商店街の中央部に位置するシェアスペース「Bookmark」(写真撮影/片山貴博)
「実家で暮らしていたときは、飯能を田舎で特徴もなく、中途半端な街と思っていました。しかし一度飯能から離れて暮らし、その後この街で仕事を通じて地域の人たちと関わるようになり、考え方が変わりました。実は面白い活動をしている人や個性的な人がもっといるんじゃないか?と思ったのです。彼らが集まったらもっと街の魅力の発信力が上がるし、個性あふれる場所や人のつながりが生まれるのではと思い、2016年に『AKAI FACTORY』を立ち上げました。その勘は間違っていなかったです」(赤井さん)
拠点をつくったら自然と仲間が集まり、商店街から必要とされる存在に
こうして赤井さんは、幼少期からの仲間を集めてシェアオフィスとイベントに利用できるスペースとして「Bookmark」の立ち上げに挑戦することになりました。
書店跡を活かした「Bookmark」は、シェアオフィスとイベントスペースが共存するつくり。室内は地元木材である西川材を使用してつくられていて、穏やかでゆるやかな空気が流れています。
「Bookmark」の室内。室内は、イベント用スペースとシェアオフィスブースが共存している(写真撮影/片山貴博)
イベント用スペースでは、地元の作り手を中心に、ワークショップが定期的に開催されている(写真撮影/片山貴博)
「Bookmark」を開業後、この場に興味を持った人やクリエイティブな人々が、続々と集まってきます。シェアオフィスにはデザイナーや小商いをする人が集い、イベントスペースではものづくりワークショップや読み聞かせイベント、ヨガ教室などが行われるようになりました。
こうしてじわりじわりと商店街が若者の往来する姿に変化をしていきました。
同じ商店街内の古民家を活用したコワーキングスペース「Nakacho7」もAkinaiの運営(写真撮影/片山貴博)
「Nakacho7」は2階建ての一軒家の中に、2つの会議スペースを備える。Akinaiのメンバーもここをよく利用する(写真撮影/片山貴博)
「Bookmark」の活動を機に、商店街の取り組みはどんどん広がっていきました。そして、2022年のこと。赤井さんの元にはさらに新しい相談が寄せられるのでした。
その主は、商店街で70年近く営んできた金物店「深田屋商店本店」の店主。110坪ほどある商店街一間口の大きな店内に、鍋や包丁、ジョウロやホース、ほうきや釘にネジまで、街の人の暮らしを支える生活雑貨がそろう、まるで生活雑貨の総合デパートのようなお店でした。店主の山﨑さんの年齢は90代。継ぎ手がないことなどさまざまな理由から2021年にこの店を閉め、空き家になっていました。ここを活用してほしいと赤井さんに相談をしたそうです。
金物店時代の深田屋商店の姿(写真提供/Akinai)
「話をいただき、『何ができるだろう』と改めて店内を見せていただきました。するとたくさんの時代を感じさせる日用品が残っていたのです。今では貴重な農具やレトロな食器などもありました。これらを活かした『生涯現役』『生活に近い活用』をキーワードとしたスペースづくりをしたいと思ったのです」(赤井さん)
彼らは、一部のスペースを次世代の地元クリエーターが入居するシェアショップにリノベーションすることに。店内にたくさん残っていた「深田屋商店本店」の商品はAkinaiの審美眼で厳選し、アンティークショップに変化させました。そしてシェアショップの登録メンバーが店番をするように仕組み化したのです。こうして、「深田屋商店本店」は2023年5月に「くらしの循環センター フカダヤ」として再オープンしました。
「くらしの循環センター フカダヤ」。前店時代の日用品をAkinaiのメンバーによって選別し、古道具として販売している(写真撮影/片山貴博)
今やあまり目にすることがなくなった黒電話や、茶箱、そろばんなどが並ぶ。懐かしい道具を喜んで購入していく人もいるそうだ(写真撮影/片山貴博)
もちろん「生涯現役」をキーワードに掲げたのは、古き良きものを掘り起こすこと、若者を活性化させるためではありませんでした。Akinaiのメンバーはこのスペース内に、地元のシニア団体のショップスペースも設けたのです。こうすることで、古き良きもの、これからも長く生き生き活動をするシニア、未来を担う若者が共存する空間ができあがりました。
地元のシニア団体が営む布小物店と旅行代理店が入居。多世代の人たちが一つの場所に集うのも特徴(写真撮影/片山貴博)
主体的なまちづくりを見て、地元の鉄道会社が動き出した
リニューアル後の「くらしの循環センター フカダヤ」外観。ファサードは、眠っていた日用品を活かして作成した(写真撮影/片山貴博)
シェアショップ内に入居する市内在住のペーパークラフト作家の小針真菜実さんは、車でフカダヤに通い、ここで店番をしながら創作活動をしています。
「今までクリエーターの交流地点がなかったので、こうした場所ができて嬉しい。店番をしていると、街の人との交流ができるので、日々の生活に潤いができた。知っているようで知らなかった街のことを知ることができている」と嬉しそうに話します。
日用品コーナーの店番をしながら、自分のシェアショップにて作業をする小針真菜実さん(写真撮影/片山貴博)
拠点づくりにとどまらず、飯能市内でイベントやワークショップ、マルシェの実施を行うようになったAkinai。折しも自治体としての飯能市は街への移住者、就農者をもっと増やしたいと願っているタイミングでした。そこに、地元の鉄道会社・西武鉄道株式会社が着目したのです。
沿線の価値を上げたいと願っている同社は、Akinaiに声をかけ、飯能エリアでの移住促進プロジェクトを共に実施していくことになります。
同社事業創造部 沿線深耕担当の今成瞬さんと佐藤友美さんは、当時のことをこう話します。
「私たちも街に住む人と接点を持ちたいと思っていたけれど、どうしたら接点が持てるかわからなかったのです。ところがAkinaiのメンバーは市民を上手に巻き込み、街のコミュニティをつくり上げている。そのことに感銘を受けました。私たちよりも、街をよく知るプレーヤーである彼らが主導となって地域のイベントの運営をしたり、人と人を繋ぐ役割を積極的に自由にしてくれたら、もっと街は面白くなる。ひいては沿線の価値向上も期待できると思ったのです。そのために力を借りることにしました」
名栗エリアで実施した自然体験イベント「ピクニックデイ」(写真提供/Akinai)
西武鉄道株式会社の社有地で開催した「はんのーとマルシェ」には、多くの地元客が来場した(写真提供/Akinai)
現在は双方が手を組み、地域でのマルシェやワークショップ、街歩きイベントやローカルWebメディア「はんのーと」の運営など、あらゆる角度から飯能の魅力や面白さを発信する「はんのーと」プロジェクトに取り組んでいます。まちづくりといえば、とかく行政や民間が主体となることが多いなか、Akinaiは市民の代表という立場で、まちの魅力をつたえ、周囲の人たちの心を動かし、行動させたのです。
強制しないゆるやかなつながりと場所づくりを
「地域に関わりたいけれど、気後れして足が遠のいてしまっている人がいることはもったいないことですよね。飯能にも多分、何かに挑戦したいと思っている人たちは、まだまだいると思うのです。僕たちはその敷居を取り除いていけたらと思っています」(Akinai徳永さん)
とはいえ、Akinaiのメンバーは肩肘はらず、これからもできることを淡々と、そして楽しく時間をかけて取り組んでいきたいそうです。
マルシェを運営するAkinaiのメンバーと地元のクリエーターたち(写真提供/Akinai)
「自分達が“思いっきり前面に出て街づくりをアピールしたい”という気概はなくて。ただあるのは、せっかくならば住んでいる街をもっと面白くしたいよねという純粋な動機のみです。この街に眠る面白さや人との出会いを少しずつ紡いでいき、柔らかくつながれる関係と場所をつくっていきたい。みんながやりたいことをやれるようにできたら暮らす街はもっと楽しくなります」と、Akinai代表の赤井さんは穏やかに話してくれました。
Akinaiの徳永一貴さん(左)と、赤井恒平さん(右)(写真撮影/片山貴博)
飯能に限らず、今地域にある商店街は店主の高齢化、継ぎ手の不足により閉店を余儀なくされています。こうした跡地を利用して街を面白くしたい、活性化させたいと思っている若者がいるものの、由緒ある商店組合の存在に敷居を感じてしまい、なんとなく挑戦しにくく思っている人もいるようです。
飯能銀座商店街のように、Akinaiのメンバーをはじめとした地元のクリエイターたちがゆるやかにつながり、自分の持つスキルを活かす形でまちに関われば、街はもっと発展していくのでしょう。そのためには受け手である商店街の店主たちも、柔軟に門扉を開くこと、規則やルール、既成概念をほんの少し緩めてみることによって、新たな街の担い手と関係を築くことができるのかもしれません。
実際に、ここ飯能銀座商店街を訪れる人たちの顔ぶれがじわりじわりと変わっていることを思うと、未来はそう遠くないと感じさせてくれますね。
●取材協力
・Bookmark
・Nakacho7
・くらしの循環センターフカダヤ
・株式会社Akinai
・西武鉄道株式会社
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