“最後の職業作詞家”及川眠子と吉田豪が赤裸々トーク! 作詞の奥義・アイドル論・それからあんなお話も……
作詞というのは、集めてきて、チョイスして、捨てていく作業。(及川)
吉田 本書の「フレーム」という概念はすごく勉強になりました。
及川 そこが基本で、今後はそれをどう動かしていくか。あえてフレームを外していろんなところに飛ばす、それこそ春夏秋冬をひとつの歌の中で扱ってしまうとかね、そういうことは基本があるからできるわけですね。だからこの本に書いたのはあくまで基本なんですよ。
吉田 ひとつのフレーム、つまり映像的なイメージから浮かんだ言葉を次々にボックスに入れていくという。
及川 そう、作詞というのは、集めてきて、チョイスして、捨てていく作業だと思っているので。みんな必死で集めちゃうんですよ。必死に集めたものを当てはめようとするから無理が出てくる。そうじゃなくて、いっぱい集めてきて、そのなかから選ぶんです。
吉田 原稿を書くときもそうですよね。コラムにしても、つい山ほど入れ込みたくなるんですけど、どう捨てていくかが重要じゃないですか。
及川 エッセイを書く人に聞くと、1万字の原稿なら1万5千字くらい書くらしいですね。そこから削っていくみたい。ただ、うさぎさんとかは頭から順に書くようですが、私は詞と同じで、いきなり真ん中や終わりから書き始めて、隙間を埋めていくという方法論なんです。だから短い文章ならいいですけど、小説は書けないなと思いました。
吉田 あと気になったのが、これだけ作詞のノウハウをわかっている人なのに、コンペで全然勝てないという話なんですけども(笑)。
及川 うん、参加すること自体、途中でやめちゃいましたね。あまりにも勝てないから。私が作詞を始めた時代はわりとコンペが多かったんです。新人の登竜門だった。だから私も出すんだけど、まったく通らない。しかもなんでダメなのかを言ってくれないんです。これはこういう理屈で違う、と教えてもらえれば直せるんだけど、「もっと売れるように書いてくれ」と言われてもわからないじゃないですか。そのいわゆる売れ線の意味がわからなかったですね。私は基本的にどこか邪道なんですよ。でもコンペに勝てるのは正統派タイプの人なんじゃないかなっていう気はします。ちょっとへんちくりんだと勝てないんですよね。
吉田 参加の仕方というのはどういうものだったんですか?
及川 私がやっていた頃はまだ親切だったと思いますよ。電話があって、コンペに出しますかと聞かれる。それから打ち合わせがあって、資料をもらう。つまりこういうイメージでやりたいのでお願いしますと説明してもらえた。でも今は、作詞家のリストがあって、こんなアルバムを作るのでやりたい人はどうぞと一斉にメールする感じみたいですね。
吉田 作曲家の人からコンペの愚痴みたいなことはよく聞くんですよ。大きな声では言えないですが、(AKB)48系の場合は、曲がボツでもそのまま先方預かりとなってしまうから、ほかで発表できないと。だから下手に自信作を出して使えなくなってしまうとまずいから、比較的グループに寄せた曲を作る。だから似た曲が多くなるそうで。
及川 そうそう。しかも使い回しがダメで、書き下ろしでなければならないんですよね。対してJ(ジャニーズ)系は、たとえば嵐の曲としてはダメでもKis-My-Ft2で採用されるみたいなこともけっこうあるそうです。
吉田 それは48系もあるみたいですよ。ただ採用されなければお金が出ないんですよね。
及川 うん、だからタダ働きなんです。実はね、「残酷な天使のテーゼ」も曲はコンペだったんです。大月(俊倫/プロデューサー)さんが3曲集めたなかで、「大森くんはどれが好き?」「ん~、これかな」「じゃあそれにしよう!」みたいな感じでしたね。
吉田 また、本書にはやしきたかじんさんの話も出ていますが、百田尚樹さんのことにまで触れていたのはビックリしました(笑)。
及川 ここで書いてやろうと思って(笑)。
吉田 ただ重要な話ですよね。最後に仕掛けのある歌詞は途中だけ引用するものではないと。
及川 途中だけ引用するうえに勝手な解釈をするのはやめてほしい。だったら全部引用してということだったんですよ。全部引用したうえでこれはこういう歌ですと言うんだったらいいです、それが百田さんの見解ということだから。でもねえ……。
吉田 その後の関係というのはどうなんですか?
及川 私はまだ百田さんから(SNSで)ブロックされています(笑)。そういえばこの間、霊能者に会いましてね。
吉田 なんですかそれ?
及川 で、雑談がてら「やしきって今どうなってます?」と聞いたら、しばらく目を瞑ったあと、「……成仏してます。」とか言って(笑)。こっちではいろいろあるのに本人は成仏しているようですよ。
吉田 いい話ですね(笑)。前のインタビューのときもこの話が掴みでしたよね。ボクも百田さんからブロックされているんですと。でもボクはもう解除してもらいましたよ。
及川 ああ、そうなんですか。私はね、たまに百田さんが暴れてるツイートが回ってくるのを眺めてるだけですね。
吉田 しかし引用の件だけは黙っていられなかったと。
及川 そのことに関して彼は何も言っていなかったので、どうなの?ということだけですよ。「売名行為の作詞家」と言われたのも、本当に思ったことを言う人なんだなあと思っただけで。
吉田 それをボクが「さすがにこれはどうかと思います」と書いたら、こちらまでブロックされてしまったという(笑)。
及川 そうそう(笑)。水道橋博士もね、「せっかく逃げ道を残しながらたしなめてくれる作詞家の人を売名行為だなんて攻撃するのはどうなのか。」と言ったら、今度は博士が百田さんの標的となって。百田さんはあれぐらいの時期からよく炎上するようになりましたよね。
吉田 こういう作詞術の本においてもチクリと書くのがさすがだなと思いましたよ。
及川 うふふふ。
吉田 最近おもしろいなと思った詞とかありますか?
及川 もう大森靖子ちゃんが大好きで。
吉田 あの人も独特ですよね。
及川 お互い邪道ですよね。ものっすごい感情をぶつけて生身で書いていながら、同時にものすごい計算もしているんです。だから「この子ほんとに天才だな」と思います。言葉の持っていき方がおもしろいですよね。私の好きな人って、やっぱりどこか邪道みたい。ほかには野田洋次郎くんなんかも邪道だと思うんです。正統派ではないからこそ、一生懸命あぜ道を駆けていく感じが好きなんですよね。
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