第71回 <怪獣ブーム50周年企画 PART-12(最終回)>『怪獣総進撃』
●「怪獣ブーム」とは
今から51年前の1966年1月2日、記念すべきウルトラシリーズの第1作目『ウルトラQ』が放送を開始した。『鉄腕アトム』や『鉄人28号』などのアニメを見ていた子供達は、一斉に怪獣の虜となった。すでにゴジラ映画は6本を数え、前年の1965年にはガメラがデビューした。『ウルトラQ』終了後、これに拍車を掛けたのが同時期に始まった『ウルトラマン』と『マグマ大使』。見た事もない巨人が大怪獣を退治していく雄姿に、日本中の子供達のパッションがマックスで弾けた。
これに触発された東映も『キャプテンウルトラ』『ジャイアントロボ』『仮面の忍者赤影』と次々に怪獣の登場する番組を制作。大映はガメラのシリーズ化に併せて『大魔神』を発表し、日活と松竹も大手の意地を見せて参戦した。そして少年誌はこぞって怪獣特集記事を組み、怪獣関連の出版物や玩具が記録的セールスを計上した。これは「怪獣ブーム」と呼ばれる社会現象となり、『ウルトラセブン』が終了する1968年まで続いた。
ちなみに『帰ってきたウルトラマン』『仮面ライダー』が始まる1971年から1974年にかけて再ブームを起こすが、これは「第二次怪獣ブーム」(「変身ブーム」ともいう)と呼ばれ、最初のブームは「第一次怪獣ブーム」として厳密に区別されている。
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『怪獣総進撃』
1968年・東宝
監督/本多猪四郎
脚本/馬渕薫、本多猪四郎
出演/久保明、小林夕岐子、愛京子、土屋嘉男ほか
1968年の夏休み、怪獣ブームも終焉が近づいていた。ゴジラのライバル・ガメラは、製作会社・大映の営業不振から春休み映画『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』の予算を3分の1に縮小(コラム第67回参照)。テレビでは、常に30%以上の視聴率を上げていた『ウルトラマン』の後継番組『ウルトラセブン』が大苦戦し、6月には遂に20%を割った。
飽きやすい子供たちは、『ゲゲゲの鬼太郎』、『妖怪人間ベム』、『巨人の星』、『タイガーマスク』など、怪獣に替わって台頭した「妖怪」と「スポ根」に興味を移していった。ここで東宝は怪獣路線の休止を決定し、次のゴジラ映画で今まで登場した怪獣を大挙出演させ、グランド・フィナーレを華々しく飾ろうと考えた。
登場する怪獣は、古今東西の怪獣映画では例のない11種! 主演9回目のゴジラ、その息子ミニラ。過去にゴジラと死闘を繰り広げてきたアンギラス、ラドン、モスラ(幼虫)、クモンガといった対戦怪獣の復活。さらにゴジラ映画以外の作品からも、バラン(『大怪獣バラン』58年)、マンダ(『海底軍艦』63年)、バラゴン(『フランケンシュタイン対地底怪獣』65年)、ゴロザウルス(『キングコングの逆襲』67年)の4匹が参戦しゴジラとの初共演が実現した。そして、これら地球怪獣10匹相手にたった1匹で立ち向かうのが、今回で3度目の登場となる宇宙超怪獣キングギドラだ!
時代設定は公開時から約30年後の1990年代末。人類は月面に基地を構え、国連科学委員会は今まで暴れた怪獣10匹を小笠原群島に集め、サファリパークのように怪獣ランドで飼育(!)していた。だがある日、怪獣ランドの管制センターが連絡を絶ち、島から全ての怪獣が忽然と消える。やがて行方不明になっていた怪獣たちが世界各国の主要都市に出現! モスクワにラドン、パリにゴロザウルス、北京にモスラ、ロンドンにマンダ、そしてニューヨークに現れたゴジラは国連ビルを放射能光線で破壊する。
国連委員会は急遽、月ロケット・ムーンライトSY–3号(以後SY–3)を地球へ呼び戻す。SY–3のクルーは怪獣ランドの管制センターで、所長(土屋嘉男)と職員の杏子(小林夕岐子)に出会う。所長はSY–3艇長・山辺(久保明)らに、シルバーラメの衣装に身を包んだ夏目雅子似の美女(愛京子)を紹介する。彼女は地球侵略を狙うキラアク星人の指揮官で、怪獣たちとランド職員は体に操縦器を埋め込まれ遠隔操作されていたのだ。
そしてついにキラアク星人の東京攻撃が始まる。まずラドンが飛来し、東京港からゴジラとマンダが上陸する。これを防衛隊は迎え撃ち、3匹にミサイルを浴びせる。だが、あまり怪獣に命中しないミサイル(笑)はビルというビルに次々と被弾(司令官! 被害を広げていますよ!)。さらにモスラも出現し、千代田区一帯は焦土と化す。
やがて杏子が軍司令部に現れ、「伊豆半島にキラアク星人の居住権を認めよ」とメッセージを伝える。ここで山辺は杏子のイヤリングが怪しいと睨み、それを「ブチッ」と強引に引き千切る。綺麗なお姉さんの耳たぶからポタポタ垂れる鮮血に、8歳の筆者、興奮を覚える。山辺の勘は的中し、イヤリングは操縦器内蔵だった。今度はキラアク星人自ら「地球は人間だけの物ではない。富士火山脈一帯の地底は、ただ今よりキラアク星人の領土であることを宣言します。侵入者があれば武力で撃退します。わかりましたね」。高飛車だ。
やがて怪獣操縦電波の発信元が月と判明し、SY–3は月へ飛びクレーターの底に隠されていたキラアク基地を破壊。そこで山辺らは、地面を這いずる鉱物状のナマコのような生物を発見する。それはキラアク星人の本当の姿で、基地の壁が壊され月の低温により活動が弱まったのだ。彼らは数千度の高温の中でしか生きられないため、富士火山帯に住もうとしていたのだ。国連委員会は操縦装置を奪い、怪獣たちを使って大逆襲を開始する。
富士裾野でテレビ中継が始まる。アナウンサーが呑気な口調で「怪獣はまだ見えません。一番乗りはゴジラかラドンかアンギラスか……あ、見えました! ゴジラか?」。伊福部昭の怪獣出現音楽が「ジャ~ン」と重厚に鳴ると、現れたのはヨチヨチ歩くミニラだった。一番手がゴジラではなくミニラという外しの演出が楽しい。
モスラ、アンギラスと続々と集結する怪獣軍団。ただ1匹、名前を呼ばれず人形だけが吊るされているバランが哀しい(泣)。しかし、富士山をバックに10匹の銀幕スター怪獣が揃うシーンは壮観の一言。スクリーンで観る怪獣映画の究極シーンだ。
そして、ここで空からラスボス降臨! 「テケテケテケ」(鳴き声)。キングギドラだ! モニターにキラアク星人が映し出され「キングギドラは宇宙の怪獣です。地球の怪獣では歯が立ちません。あたくしに御用の節は、いつでもお呼び出しください」。「あたくしに御用の節は」って(汗)。かなり追い詰められている状況にも、あくまで強気な女……いや正体は鉱物ナマコだし、女かどうかもわからん(笑)。
上空を旋回しながらゴジラたち怪獣軍団を凶悪な眼で睨みつけるキングギドラ。そして猛然と降下していくキングギドラは、豪胆にも地球怪獣の輪のど真ん中に着地! 果たして1対10のハンディ・マッチに、キングギドラは勝てるのだろうか! ……おっと、失礼。筆者はキングギドラ推しなので、つい。ここから先はDVDで楽しんで欲しい。
さて、ゴジラ映画は終わらなかった。作品は優秀な興行成績を上げ、東宝上層部は「まだまだ怪獣は金になる」と、結局ゴジラシリーズは現在まで続いている。怪獣ブーム……この1966年から1968年までの濃密な3年間は筆者にとって夢のような時代。今の自分の基礎を作った人生最大の宝物だ。ありがとう、怪獣ブーム!
(文/天野ミチヒロ)
<おまけ>
ソノシート付きの怪獣図鑑形式ムック本。切り抜いて怪獣ランドが再現できるパノラマは涙物。劇中で何もしなかったバランが堂々と真ん中に(笑)! (朝日ソノラマ) ※筆者私物 二社が競作したソノシート。人気の高さが窺われる。(左・ケイブンシャ、右・朝日ソノラマ) ※筆者私物- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
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