電気料金をさらに上げて東電を不死身にするための法案が今、国会を通過しようとしている――松田公太議員×原英史氏対談
【対談】松田公太(参議院議員、みんなの党)×原英史(政策工房)
「規制」をテーマとした松田公太議員と原英史氏の対談がおこなわれると聞き、ガジェット通信もお邪魔してきました。1時間を超える対談の中から、最近ホットな「原子力損害賠償支援機構法案」についての話題等を抽出してウェブでも掲載させていただきます。対談に関する詳細は8月3日発売の雑誌『SAPIO』8月24日号(小学館)をご覧ください。
「原子力損害賠償支援機構法案」とは、簡単に言えば東電に関係する利害関係者(株主、銀行、経済産業省)を体よく保護しつつ、今回の原発事故の負担を国民や将来の若者に押し付けてしまおうという法案です。もちろん、これまでの歴史の中で原発を中心に据えたエネルギー政策を精力的に推し進めてきた自民党、公明党、民主党、一部マスコミやジャーナリスト、大学の先生や研究者の方々は東電が事業再生し、解体などしようものなら、知られたくない情報も解体されてリークされてしまうおそれがありますし、利権もなくなっちゃいますので、大慌てでこの法案の成立をすべくがんばっておられるようです。しかし、単純に考えて「国民負担が増える方」の法案を選択する合理的理由って、あるのでしょうか。ないですね。……じゃぁ、なぜそちらが選択されようとしているのでしょうか。
松田公太(まつだこうた)さんプロフィール:
1968年宮城県生まれ。幼少期から青年期をアフリカとアメリカで過ごす。大学卒
業後、銀行へ勤める。その後独立しタリーズコーヒーを設立。ナスダック・ジャ
パンに上場。2007年に代表取締役を退任。2010年、参院選にみんなの党公認候補
として東京選挙区より出馬し当選。原英史(はらえいじ)さんプロフィール:
1966年東京生まれ。東京大学法学部卒、米シカゴロースクール修了。89年通商産
業省入省、07年から安倍晋三、福田康夫内閣で渡辺喜美・行政改革担当大臣の補
佐官を務める。09年7月に退官後「政策工房」を設立。政策コンサルティングを
スタート。近著に『官僚のレトリック』(新潮社)
事故さえ利用しようとする人達
松田:私は経営者時代から「ピンチをチャンスにしよう」と常に言い続けてきました。今回も同じ気持ちですが、今回の原発事故をマイナスからプラスにしようと行動に移している政治家は少ない。しかし、官僚は違います。正しく、今のピンチを自分達のチャンスにしようと動いています。たとえば原子力損害賠償支援機構法案は、官僚が描いた絵です。頭のいい方が作られたものだと思うのですが、もの凄く力を持った機構をつくりあげてしまいます。この法案は、事故が起こった後に、他の電力会社からお金をひっぱってきて機構を作り、東電も1千億近く出す事によって、それらを賠償金に使おうという仕組みです。更に足りない分は、政府が援助をします。私は、2週間ほど前、海江田大臣に、この機構は、今回の賠償が終わって、平時に戻ったらどうなるんですかと聞きました。すると、このまま続くんじゃないかと、たぶん規模はちょっと小さくするかもしれない、電力会社の負担金は減るけれども、機構は続くことになると。この機構は、ずっと存続することを想定しているんですね。なぜかというと、それは将来的にもまた同じような事故が起こった場合に……。
――事故賠償のための機構にします、と。
松田:言わば保険組合のようなもの。互助会といっていますが、結局保険ですね、それを続けさせるといっているのです。これって、ものすごい金額が、どんどん機構に内部留保して残っていくようになるわけです。まさしくまた天下り先みたいなところができます。
――預金保険機構の原発版を作ろうとしているのですね。
この法案が通れば、電力改革はフリーズしてしまう
松田:そういうことです。ですから、この法案を通してしまえば、それを発案した方々というのは「素晴らしい!」(拍手のジェスチャー)という話になるんじゃないかなという風に思っているんですがいかがですが。
原:今の体制、制度のフリーズですよね、あの法案というのは。今回の10兆だか20兆だか分かりませんけども、それだけの損害賠償っていうのを何十年かけてでも東電が機構に対して返済をしていきます、ということになるわけですから、東電は基本的にこのままいじれなくなっちゃうわけですね。菅さんが発送電の分離ということを言ったり、発送電の分離っていうことの裏側には、地域独占の体制だったり総括原価方式であったり、一連の今の電力村みたいな規制制度があるわけですけども、結局今回の法案が通っちゃて機構がいったん東電に大量のお金を流し込みますと、あとは何十年かけて返しますという状態になると、全ての現行制度がフリーズになっちゃうんですよ。
――そうですね、潰せなくなるから発送電分離もできないし。
松田:そうです。今の体制が続くと。それも自分達=経産省にとっては「いいこと」ですよね。「東電さんとの関係が続く」と。もっというと東電さんと経産省の力関係はこれまでバランスを保っていたんですが、東電さんよりも経産省のほうが強くなっていくという可能性もあるんじゃないでしょうかね。どうでしょう。
原:東電はまだまだ負けないと思いますよ。
松田:そうですか。そんなに強いですか、東電は。ゾンビのようですね。
――つまり賠償責任を負っているから、東電が赤字を出して潰れるわけにいかない、という話に経産省はしたいんでしょうが、そうすると総括原価方式も残るし、最終的には電気料金で国民が負担するという形になってしまう。例えば税金という形であろうと電気料金という形であろうと、最終的に賠償を国民が負担という形になってしまうとすれば、「東電を残す」ということに拘る必要はないはずですよね。
松田:自由化がもし発送配電の分離という形で進んでいくと、だんだんとそちらの分野に関する経産省の力がしぼんでいってしまうわけですから、それはなんとしても避けたいという意識はたぶん働いているんじゃないかなと思います。
――やっぱり政治家が考えるべきことは、国民にとってどういう形が一番メリットがあるかということなんじゃないでしょうか。発送電分離なりをやって、将来的には競争によって電気代が下がっていく仕組み等を考えて欲しい。あるいはいろんな特定規模電気事業者が増えてリスク分散ができるとか、そのような形で国民にメリットがある形に結びつかないことにはだめだと思うんです。今やろうとしているのは、既得権もそのまま残しつつ国民負担だけは変わらないという形で、何にもメリットを生まない。
電気料金の値上がりで日本から企業が出て行く
原:電気の値段が上がるといえば、「再生エネルギー法案」も値段が上がる一因となり得ますよ。菅さんが「何十年来の課題だ」と言って取り組んでおられますけれども、結局再生エネルギーを買い取る金額というのは全部そのまま電気料金にはね返る仕組みですから。あれをやるんだったらそれこそ、「電力の自由化」とセットでやって値段下げるのと一緒にやらないことには。原子力損害賠償支援機構法案で値段が上がり、さらに再生エネルギーの買取で値段が上がり、ってやっていったら電気料金は大変なことになっちゃいますよ。
――そうですよね。企業にとっては値上がりした電気料金なんてとてもじゃなくて、結果「日本から出て行くのが当然」ってことになってきますよね。
原:企業からしたら日本から出て行くちょうど良い理由になるんじゃないですか。
――なるほど。これじゃもうだめだと。
松田:そんな会社私も経営したいですよ。コーヒー会社作ってですね、総括原価方式で全て原価に上乗せして、更に地域独占で他のコーヒー会社が参入できない。こんなおいしい会社ないですよね。更に、政府が債務超過にしないといってくれてるわけですから、なにがあっても潰さないと言っているわけですから、そうすると銀行はいくらでもお金を貸してくれますよね。いくらでもお店出せるじゃないですか。いくら赤字になろうと、最終的には値段を上げていけば国民のみなさんは買わざるを得ないと。まぁ、コーヒーだったらみなさん飲まなくても済みますけども、電気はどうでしても使わないと生活できませんから。
――こんなにいい経営はないですよね。
松田:こんなに楽な経営ないですね。国民のみなさんに負担していただいて、自分は楽な経営。
日本をもう一度「自慢できる国」にしたい
――松田さんが、政治家になろうと思うきっかけは何だったんでしょうか。
松田:私が政治家になろうと思ったきっかけは、「経済が凄く弱くなってきてしまっている日本をもう一度元気にしたい」というところにあります。私は子供の頃海外に住んでいたのですが、その頃、海外から見ていた日本と、大人になってアジアから見てる日本にあまりにも差がありすぎたんです。子供の頃見ていた日本というのは、凄く元気があってアメリカを含め他の国々は日本のことを経済的に脅威に感じていた程です、「ジャパンバッシング」というものがあったぐらいです。アメリカの方々が日本車の上に乗っかってハンマーで叩き割るニュース映像がありましたけども、そういう光景をずっと子供の頃見ていたわけです。ある意味海外で育つというのは日本人にとってちょっと大変なことで、やはり差別も受けます。ところが「経済が元気」だとプライドは保てるわけです。「みんな日本車乗ってるじゃないか」とか、「クリスマスになったらみんなソニーのウォークマン欲しがるじゃないか」と。だから「日本はやっぱり凄い国でしょ」って自慢できる。
ところが過去2年間、政治家になる前にシンガポールに行っていたんですが、自慢できるものがほとんど無くなってきているなということに気づいたんですよね。私は食のビジネスでしたから、文化を広めるという意味で、日本食というものが広がってきていましたから、その部分に関しては多少は自慢できるんですが、経済的に日本は非常に弱くなってきていて、アジアの方々がみなさん日本のことを心配されているのですよ。日本って大丈夫なのと。このまま本当にどんどん下がっていって、もう浮上できないんじゃないかと。
私は経営者として、なにか日本経済のプラスになることを出来ればと思っていたのですが、それではあまりにも分野が小さすぎると思いました、政治経済というのは当たり前ですけど切っても切れない関係ですから、政治の世界から変えていかないと日本の経済は良くならないんじゃないかと。こう思って政治家になろうとしたのです。色んな規制があるというのは、これまで私もビジネス上経験しましたけども、正直、政治家になってみて知れば知るほど恐ろしい位、規制や既得権者の力というのが凄いんだな、という風に感じています。これを打破していかないと、絶対によくならないという風に思っています。
――なるほど、本日はありがとうございました!
……タリーズコーヒーをはじめとして、さまざまなビジネスを経験しながら、日本の経済を復活させるには政治に飛び込むことが必要と感じた松田公太議員。そして元経産省官僚でさまざまな規制に詳しい原英史氏。このお二方の対談の詳細は8月3日発売の雑誌『SAPIO』8月24日号(小学館)でご覧いただけます。
そしてこの対談で登場した原英史さんがさまざまな「おバカ規制」について面白おかしく特にはマジメに語った内容が新書になったそうです。興味のある方はAmazonの書籍関連ページをご覧ください。
「規制」を変えれば電気も足りる(原英史著 / 小学館)
http://www.amazon.co.jp/dp/4098251124/
編集協力:SAPIO
http://www.zassi.net/mag_index.php?id=55
[編集サポート:猫目さん]
トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。
ウェブサイト: http://getnews.jp/
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