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300万ダウンロード突破『Jコミ』が目指すもの – 赤松健インタビュー(後編)

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ヒット作『ラブひな』『魔法先生ネギま!』の作者である漫画家 赤松健氏は2010年11月に「絶版となった漫画作品を広告入りPDFファイルにして無料でダウンロードできるようにする」と発表、ネットで大きな話題となった。赤松氏が代表である『Jコミ』はこの電子書籍事業のための会社。サイトオープン直後、渦中の赤松健さんに様々な角度からじっくりお話をうかがった。(このインタビューは2010年12月におこなわれました。)

※前編はこちらです

○登場人物
赤松健さん(漫画家。絶版漫画を広告モデルで電子的に配布する『Jコミ』を作った人)
深水英一郎(ガジェット通信)
長田恒司(ガジェット通信)
ピカ田チュー太郎(夕刊ガジェット通信)

●ニコニコ批判について

深水 赤松さんは『ニコニコ動画』のことをやや批判的に書いておられましたが。

赤松 その発言をした夜に『ニコ生』に出てるんですけどね。

深水 そうそう。「もう出てるわ!」と思いながら拝見してたんですけど。

赤松 だって「誰も出てくれないんですぅ―」ってニコニコ動画の人が言うから。

深水 なんだ、先生やさしいんですね。

赤松 前々日くらいに依頼が来て「週刊連載やってるんだから出られませんよ」って断ったんです。「ただし、本当に他の誰も漫画家の先生がみつからないようでしたら、番組が成り立たないので私が出ますから、そのときにもう一回正式に言ってください。でも本当に探して下さいよ!?」って言ったら、次の日に「誰もみつかりませんでした」って。ホントに探したのかよ!?(笑) だから出ましたよ。それで。

深水 僕だったら「他の人がみつからなかったら出る」と言われた時点で確定だと思いますね。出てもらえるんだったらおいしいもんね。赤松先生有名だし。

長田 そもそも『ニコニコ動画』は好きじゃないんですか?

赤松 『プレミアム』には入っていませんよ。だからね、『ベルセルク』の先生が、すごく協力してイラストとか描いてあげているのを見て、そういうことをしているとアニメ版ベルセルクとかがアップロードされたときに「削除して」って言いにくいでしょって思ってましたよ。

ピカ田 作者側にとってはつらい事ですよね。

赤松 他の漫画家はみんなは見てるかもしれないですけど、私はノーコメント。とにかく、『プレミアム』に入って金を払うつもりはないです。

長田 このグレーゾーンが容認されている限りはということですか?

赤松 何かあったとき、『プレミアム』見てるじゃないかって言われると困るから。

深水 システム自体についてはどう思われますか?みんなが何かについてコメントをして楽しむという。

赤松 まあそれは素晴らしいんじゃないですか。

深水 動画とかご覧にならないんですか?

赤松 それもノーコメントですね。言質とられるのもなんなので。

深水 別に言質とってどうこう、なんてないですよ(笑)。

赤松 ええ(笑)。しかし「観てるじゃないか!」ってことになるので。

深水 でも、アカウントはお持ちのような口ぶりですよね? でも『プレミアム』には入らない。

赤松 それは、削除するときに必要ですから。

深水 権利者として?

赤松 そう。ふふふ、ボロは出しませんよ(笑)。

深水 お好きな動画はどれですか? とか。

赤松 ないですね。

深水 『Youtube』は見ますか?

赤松 『Youtube』も同じことです。

ピカ田 『バンダイチャンネル』は?

赤松 『バンダイチャンネル』は見てますよ。『GyaO』とかも好きですし。そういう、ちゃんとした手続きを経て公開されているものは日記とかもに書きますけども。「『ニコニコ動画』や『Youtube』で昔のアニメを見たよ!」ということは、日記にもtwitterにも書くことは絶対に無いですね。

●頼まれてもないのに、カバーを2種類描いてます

赤松 『ネギま!』OAD(オリジナル・アニメーションディスク)に関してですが、これはDVDや単行本が入っています。だけどこれ、私の印税が発生するのは本の部分だけなんです。DVDやカードとかあらゆる本以外のモノに関しては、講談社がほとんど持って行きます。でも面白いアニメが見れたら私も楽しいし、みんなも楽しいだろうからいいかなっていうことで毎巻やってます。

深水 印税とったらいいじゃないですか? なんでとらないんですか?

赤松 かわいそうだから、講談社が。私は結構儲けさせてもらったから、もういいかなっていうのもあって。

深水 やさしいなぁ。

赤松 いや、でもみんな喜んでるんです。アニメが見られて。ただ、3700円って高いですよね。毎巻これを買っていただいている読者には、感謝していますよ。私にはお金がきてなくても、本当にありがとうございますって心の底から思ってます。で、あのですね、ここに通常版の32巻と、限定版の32巻があります。よく見るとわかるんですけど、こちらは通常版の表紙です。そしてこれは限定版の表紙。限定版は違うバージョンになっていて、キャラが全員水着なんです! この表紙は2バージョン描き下ろしなわけです。別に頼まれたわけでもないのに。これね、このカバーには原稿料は一切発生しませんよ。でも、「水着になってる!すげぇ!」っていうことで、読者が喜ぶならいいじゃないですか! っていうのが私の考え。

ピカ田 そこらへんは佐藤先生と全然違いますね。

赤松 違いますね。

深水 みんなが喜んでくれるっていうのが楽しいんですね。

赤松 楽しいです。そう。合っていると言ったら佐藤さんのほうが合ってますよ。楽しいから原稿料いらない、というのはプロじゃないでしょう。

ピカ田 いや、合ってますよ! 理想を追求するだけの力があるからできる正論ですよね!

赤松 いや、正論を言っているのは佐藤さんの方ですよね。これは正論じゃないですもん。いろんな人が喜ぶように、都合をつけてるだけ。

長田 折り合いをつけた結果ですよね。

赤松 表紙を2枚描くのは大変なんですよ。すごい大変で。毎号ですよ! 毎巻2枚ずつやってる。巻ごとに工夫して、「この巻では、キャラクターが入れ替わっている」とか見つけてもらうのが楽しいんですよ。

深水 カバー制作にどれくらい時間をかけてらっしゃいます?

赤松 週刊連載の合間にやります。執筆しながら合間にじわじわ描いて行くようなやりかたです。

深水 トータルの時間はけっこうなものになるんでしょうか?

赤松 なりますけど、まあ何とかしてます。

長田 佐藤先生と対極ですねえ。

深水 お二方とも成功されているんだけど、考え方に違いがあって面白いですね。

赤松 私の手法だと、いろんな企業が寄ってきますよね。楽だし儲かるから。

深水 そうですよね。完全に余計なお世話なんですが、思わず直接佐藤先生に、ケンカばっかり売ってたら広がりませんよって言ってしまったことはあります。一人ならいいけど、作家さんが集まることで面白くなるサイトの運営者でもあるわけで。

赤松 そうなると作品の面白さで勝負するしかないわけでしょう。私は自分の作品に自信がないから、アニメ化してもらわないと困るんです。アニメ化すると私の実力以上の『ネギま!』ができる。そのなかには、キャラデザ人気や声優人気とかいろんなものがありますけども。そのときに、私のシルエット以上の大きなシルエットができますから。私はそれが目的で、いろんな人に媚を売っているんです。自分の作品に自信がある人と、自信がない人の違いかもしれない。

深水 媚を売っている意識があるんですか?

赤松 ありますよ。声優さんにも作画さんにも。アニメスタジオにだってお中元とか送るし。

長田 それは、媚を売るというよりは、さっきの話と同じでサービスや気配りの部分になってくる気がします。

赤松 だから、広告代理店に行ってもどこに行っても結構うまくできる。

長田 「僕のコンテンツを使ってみんなでもっといいモノを作りましょう」って言ってるように聴こえるんですね。

赤松 最後は自分に帰ってくるんですよね。みんなにサービスした結果、戻ってくるっていうのがキレイですよね。

深水 そういうスタイルって、誰かを参考にしたりするんでしょうか。

赤松 江川達也先生がアンケートを分析してキャラや展開その他をやっていると聞いて、私もアンケートを毎週持ってきてもらってました。「こういう話のときはこのくらい」「だいたいこういうときはこのぐらい」と一位率とか二位率を調べて。最近はもう、アンケート関係ないなって思うようになっちゃったんでもうやめました。

長田 アンケートのリターンが少ないんですか?

赤松 それもどうだけど、アンケートが良くても単行本が売れていないっていう形が多くなってきて。雑誌が売れなくなっているから、実情を反映しなくなったんですね。『ジャンプ』は違うと思いますけど。

●『東方Project』はすごく参考にしている

深水 今は何を参考にされているんですか?

赤松 今は何も参考にしてないですけど、あえて言えばハリウッドのやり方とか。なるべく当たったら次に繋げたいですよね。

長田 今まで培ってきた経験のなかで、法則みたいなものができあがってきている。

赤松 そうです。

ピカ田 それは「萌え」がもう終わる、というところと繋がるんですか?

赤松 そうです。萌えも終わって。萌えに関しては、“萌えの赤松”って言われていましたから、『ネギま!』の初期では萌えのパワーを使いましたけど、萌えは消費財なんですよね。男性向けの『コミケ3日目』に行くと、流行りのアニメのエロパロがいっぱいあるんですけど、翌年にはもう次のアニメに移ってます。男はね、同じ女を1年しか愛せないんですよ。それは動物学的なもので。女は『スラムダンク』のパロを延々とやっているとか、長いんですよ。ひとつを愛すると。そうすると、萌えは消費財だっていうのは現場的にはわかります。私だって、新しいアニメを見るとそのヒロインキャラが好きになりますから。
すると、萌えはですね、『ネギま!』だったら31人分をやって、それで3年くらいは回せますけども、その後は飽きられるってことは最初からわかっていたんです。それで最初の方からバトルの要素を、『ラブひな』のファンが引かないぐらいな割合で導入してあって。今は完全にバトルですけども。バトルはですね、フリーザを倒した後はセルが出てくる。どんどんどんどん回転する。萌えは消費財ですけど、バトルは回転するというのがあって。ぐるぐるぐるぐるデカくなって、みんな強くなってって敵だったやつが味方になってって、どんどん続けることができる。『ジャンプ』でも、バトル以外で長く続いているのは『こち亀』だけですよ。さっき私は長く続けるべきって言いましたけど、バトルじゃないとほぼ不可能なんです。そういうわけで『ネギま!』はこういう形になっているわけです。これも最初から意識してやってます。

長田 『コミケ』で『東方Project』は息が長いですよね。

赤松 『東方』は女子入ってるし。『東方』に関しては、すごく私も参考にしているんですけど。あれは自由に二次創作ができて『東方』で儲けてもいいことになってるじゃないですか? 実はね、みんな他のアニメで二次創作をやっているときに後ろめたいなあって思ってるんですよ、少し。一応伏せ字にしたりして。でも『東方』がきて自由にできるってことになるとすごく盛り上がって、儲けても大丈夫ということで、すごい安心感につながっているということがわかってきて。それは、今回の『Jコミ』に関してはデータになっています。合法的に読んでいいということになったら、日本人はネットの電子書籍を読みますよ。ネットの違法マンガは、無料でも違法だから読みたくないんだっていう人もいます、ゼッタイ。『東方』はすごく「ああそうなんだ」ということを思いましたよね。
もちろん作品自体に魅力があるのが前提条件ですが。

長田 それはすごく興味深いです。

赤松 みんなどこかですごく罪悪感があるんですよ、やっぱり。真面目な人も多いんです。

長田 正規版を買って初めて胸をなでおろすことができる、ということはありますね。

深水 『東方Project』とか『初音ミク』とかキャラクターを二次創作したい人に対して解放する事は考えていらっしゃらないんですか?

赤松 そういう人がいたらプロデュースすることは考えますけど、自分では実力もないし。

●漫画家は芸術家なのか?

長田 先生はクリエイターではないと?

赤松 プロデューサーですけど、クリエイターではないです、やっぱり。こだわりが無さすぎですよ。でも、こだわりある人って、みっともないなっていう体験はありますよ。大学に行って後輩の原稿を見せてもらったとき、「ちょっとここのところ良くないなっていうか。面白くないよ?」って言うと「え? 面白いですよ」って言うんですよ。おいおい、そんなわけないでしょ(笑)。こだわってる人ってみっともない。
あと市民は、芸術家っていうのは何のパクリもなく、自然発生的になんだかピカソみたいな画風をふっと思いつくっていう幻想を抱いていますから、彼らのそういうロマンを破いちゃだめです。でも実際には、芸術家で完全オリジナルの人はいません。全てが模倣です。こういうことを言うと、非難しますけどみんな(笑)。

深水 漫画家って芸術家なんですか?

赤松 そう思いたがっていますよ、市民は。

長田 僕は違うと思うなあ。

赤松 だから「先生」って呼ぶんでしょ。

ピカ田 基本そうですよね! そのへんがプロダクションみたいな感じになってて、ホントはかなり変わって来ていると思いますけどね。

赤松 もうちょっとしたら、「赤松先生」じゃなくて「赤松プロデューサー」って言われるかもしれない(笑)。でも市民は「漫画家は芸術家たるべし」と思っています。だから、パクリは絶対に許さない。

長田 しかし偉大なる先人たちもなにもないところから総てを生み出したわけではない。どこから何かをもってきている。

赤松 そうですよ。ただ、それを認めたがらない。

深水 間違いないのは、漫画家は現代日本を代表する表現者だということですね。芸術家かどうかは、作家さんの姿勢によるかもしれません。

赤松 皆が漫画家に求めている姿というのは、『バガボンド』の井上先生とか浦沢直樹先生のような、すごく飄々としていて、でも何かやるとすごくオリジナリティが感じられるっていうものでしょう。だから、私みたいなのが出てきていろんなメディアミックスを駆使してヘンなことをやるやつはイマイチなんですよ。ペンだけを持って剣豪のようにですね、えいっ!とやるとバッチリ描けた、みたいな感じ。これがいいんですよね。

長田 でも本当にアーティストになりきって描いてしまったら編集さんに「ここ直せ、ここも直せ」っていう言われてしまうんじゃないですか?

赤松 みんなそんな夢の無い話は聞きたくないですし(笑)。

深水 でも、赤松さんがそういうスタイルだからこそ生まれた『Jコミ』という感じがするんですね。

長田 ブレないバックボーンがあることがわかりました。

●『Jコミ』で儲けるつもりがないというのは本当か

深水 赤松さんは『Jコミ』で儲けなくていいと仰ってますけど、僕は「ほんとかなあ?」って疑問に思っています。将来的には、儲けるつもりじゃないと辻褄が合わない。

長田 もうお金はたくさんあるからいいってさっきおっしゃってましたよね。それは嘘じゃないんだろうなって思います。すべてがブレない感じで。

深水 いや、いつか売却したり上場したりということを考えているはずですよ。

赤松 まあ、将来的に絶対無いとはいいませんが。でも軌道に乗らないと買いたい企業だって出てこないでしょ。まずは地道に頑張りますよ。

深水 途中ではいらないけど、最終的には夢があるっていうことですよね。

赤松 ノーコメントですね(笑)。ただ、私が読者視点で始めたっていうのは事実だし、利益主義ではないことも確かです。最後はどうなるかはわからないです。だってこれ、一生やっていくわけにもいかないでしょう? 次回作だって描けないですよ、こんなことをやっていたら。そしたら売却を視野に入れることがあるかもしれない。

深水 ということであれば納得です。それぐらいの夢があるということであればすっきり納得できます。

赤松 でも「最後に売る」なんてインタビュー記事が上がってきたら、修正しますよ、私は。(笑)

深水 いやいや、それでこそ納得できる、きれいな話だと思うんですけど。

赤松 市民はそんな話を求めてないですよ。予想は裏切って期待は裏切らないっていうことです。

深水 そういうものなんでしょうかね。本日は沢山のお話、ありがとうございました。

赤松 何だこのまとめは。(笑)

(インタビューおわり)

(編集サポート:kyoko)

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記者:

ニュースサイト『ガジェット通信』発行人。未来検索ブラジル代表。東京産業新聞社代表。ハリウッドエンターテイメントビジネス誌『Variety Japan』Senior Editor。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラクターに興味がある。好きな食べ物はシュークリーム。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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