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PC遠隔操作事件:すべての謎が解けたあとに残るもの(音楽家・作家 八木啓代)

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今回は八木啓代さんのブログ『八木啓代のひとりごと』からご寄稿いただきました。
※この記事は2014年05月20日に書かれたものです。

PC遠隔操作事件:すべての謎が解けたあとに残るもの(音楽家・作家 八木啓代)

さて、色々な報道が錯綜する中、遠隔操作事件の公式の記者会見の通知が届いたのが、10時半頃。弁護士事務所からのメールを見たのが43分頃。
それで11時開始って……と、あきらめかけたが、記者会見が遅れて始まることと、長引くことに賭けて、家を飛び出した。
その内容は、ビデオニュースドットコムやIWJなどで配信されるのはわかっているのだけど、とりあえず、ツイッターで逐一ツイートした。
その途中に、「小刻みに書くな」(←ツイッターに文字制限があるのを知らないらしい)とか「弁護士の代弁をするな」(←弁護士の記者会見をツダってるだけですが)とかいうリプライを入れてくる(お前みたいな無知がツイッターやるなよと言いたいような)超絶アホがいたりしたが、そういうのは無視して、ひたすらiPhoneでツダる。
まあ、それはこちらで読んで頂くとして。

結論から言うと、片山氏が犯人であることは確定的である。というのが、犯人しか知り得ないことが佐藤弁護士に告白されており、且つ、それまで私が持っていた疑問も解決したからである。
その点では、片山氏が無実であることを信じていた佐藤弁護士も、私たちも、見事に騙されていたことになる。ちなみに、昨日、佐藤弁護士が「うろたえた感じ」で記者会見していたと報道していた社があり、それを鵜呑みにしていた人もいたようだが、これは事実ではない。
昨日の記者会見の段階でも、佐藤弁護士は微動だにせず、片山氏無実を確信していたのである。(それは記者会見の実際の映像を見れば明らか)

では、なぜ、こういうことになったのか。正確には、なぜ、佐藤弁護士や多くの人が、片山氏以外に犯人がいるのではないかという心証を持ったのか。それはもちろん、単なる検察叩きとかいうレベルの低い問題ではないので、それを検証してみようと思う。
ちなみに、昨日今日のブログのエントリだけを読んで、私のことを「まったく事情を知らない素人が想像だけで片山無実の陰謀論を書いている」と思ってコメントしている阿呆もいるが、むろん、そちらのほうが妄想である。

さて、これは私自身が記者会見でも質問したことだが、弁護団が、片山氏が犯人ではないのではないか、警察・検察が暴走しているのではないか、という論理的な疑惑を持った最大の理由は二つある。

ひとつは、警察・検察から、事実と異なるリークがマスコミに対して積極的になされていたことだ。
それは、具体的には「江ノ島の猫に首輪をつける決定的な瞬間を捉えた監視カメラの映像がある」というものと、「FBIとの捜査協力で、Dropboxから片山氏がウイルスを作っていた決定的な証拠が見つかった」というものだ。

この2点を、実は捜査当局はマスコミに流し(実際に一部報道されている)、そのことをもって、「片山冤罪説など書くと、とんでもないことになるぞ」と脅しをかけていたのである。
この事実は、私は、複数の司法記者や警察記者から聞いて知っている。

一方で、早い時期から弁護団は、検察側に「堅い証拠があるなら見せてほしい。それであるなら、ちゃんと片山氏を説得し、有罪を受け入れるようにするから」と申し出ている。しかし、そのような証拠を検察は、一切出してこなかった。

これは矛盾である。

もう一つ。検察は再逮捕を繰り返し、片山氏を1年以上も接見禁止で拘束した。いわゆる、絵に描いたような人質司法である。そして、驚くべきことに、その間、片山氏の取り調べを行っていない。弁護団は、可視化に応じるならという条件で、取り調べに同意していたのだが、検察は、可視化に応じないで取り調べを拒否していたのである。
検察にやましいことがなく、かつ、決定的な証拠があるなら、可視化した取り調べで片山氏に、その証拠を突きつければすむだけの話だ。
それができないということは、そもそも、決定的な証拠などないのではないか。また、取調べの可視化を断固として拒否するのは、「可視化されたら困る理由が検察にある」からではないのか、というのは、誰でも抱く疑問だ。

さらに、検察の主張は、「片山氏以外に犯人はあり得ない」というものだったが、論理的には、「片山氏のパソコンもまた遠隔操作されていたとしたら可能である」というのも、事実である。結果的にはそうでなかったわけだが、それは結果論であって、もし、非常に優秀なプログラマである真犯人が別にいれば、片山氏のパソコンを遠隔操作して、偽の証拠を残すことは、技術的に可能である。

可能である以上、その可能性も、当然ながら検察は真摯に検討するべきなのだが、検察には、その形跡はなかった。(だからこそ、ハッカソンをやることによって、検察の主張に無理があることを証明しようとしたわけだ)

そんな中で、私は、ある検察関係者から「検察は決定的な証拠を実は持っていない」ことを裏付ける内容の話を聞いた。すなわち、「江ノ島の猫に首輪をつける決定的な瞬間を捉えた監視カメラの映像」もなければ「犯人のメールに添付されていた猫の写真がスマホから復元」も、「FBIとの捜査協力で、Dropboxから片山氏がウイルスを作っていた決定的な証拠」もないということである。

だとすれば、なぜ、検察は、そのような事実と反することをマスコミにリークするのか。明らかに、世論誘導しか考えられないのである。そして、実際に、陸山会事件などで、検察は、石川議員を逮捕して、してもいない自白をしたと偽のリークをおこなって世論誘導をやった「実績」があるときている。

つまり、「検察の主張には重大な嘘がある」「可視化を拒否して取り調べを行わない」という2点によって、弁護側は、むしろ、片山氏が冤罪ではないかという疑いを強めたことになる。(これは会見でも、佐藤弁護士は肯定している)

弁護側だけではない。これらの事実を知れば、誰でもが、検察が「正当ではない捜査を行い、正当ではない起訴を行った」と考えるのは当然のロジックだ。(これを知っていて、なおかつ、片山が犯人に違いないから、デマをリークしようと、証拠なしに長期拘束しようと構わない、と信じる人がいるなら、ある意味、その方がよほど怖い)

そして、公判にあたって、弁護側は検察側の証拠提示をすべて呑んでいる。
片山氏もそれに対して、平然としていたことから、佐藤弁護士は、無罪の心証を強めたという。常識的にはそうだろう。

しかも実際の公判では、まさに、検察が決定的な証拠など持っていなかったことが裏付けられてしまうこととなってしまった。細かい状況証拠の積み重ね、というが、最初にリークしていた「決定的な証拠」の話が嘘だったということにほかならないのだ。実際、検察は、ウイルス作成罪での起訴はできていないのだ。

そういう意味では、河川敷でスマホを埋めたのが、捜査員に目撃されていたことで、片山氏が観念し自白した、という点では、ある意味、警察の地道な捜査が実ったともいえるのだが、そもそも、デマリークをしたり、可視化を拒否したり、1年も長期拘束していなければ、もっと簡単に解決した事件を、警察と検察が「怪しさ満開」の行動を取ることで、かえって、話をややこしくしてしまったといえる。
ぶっちゃけ言えば、片山氏が河川敷にスマホを埋めるという行動を取らなければ、無罪になってしまった可能性も高かったわけで、ある意味、まぐれでホールインワンを入れたようなもの、といった方が良いかもしれない。

そして、最大の問題は、その河川敷まで行動確認(尾行)していた警察が、その後、弁護団にも知らせずに、まず、マスコミにリークするということをやったことだ。
このことで、昨日、病院に行くはずだった片山氏は、弁護士からの電話で、河川敷での行動が目撃されていたことを知り、逃亡する。
しかし、マスコミにリークすれば、当然、それは予想範囲のことのはずだが、この日、警察は、何と、片山氏を行動確認していないのだ。
というのも、片山氏は、その後、呆然として、都内の公園でベルトで自殺を図った。しかし、ベルトが切れて死にきれず、その後、アルコールを飲みながら高尾山を彷徨って、何度も自殺を図ったという。
被疑者が自殺の恐れがあるなら、身柄確保を目的とした逮捕は可能なのだが、それをしていないこと自体が、警察の大失態だ。
もし、ここで片山氏が告白しないまま自殺していたら、この事件は、被疑者死亡ということになる。そうなれば、たとえスマホにメールがあったとかDNAが検出されたとか発表されたところで、多くの人には、それこそ「ものすごく後味が悪い感じ」、ぶっちゃけて言えば、文字通り、陰謀論の火に油を注ぐ状況にしかならなかったはずだからだ。

だからこそ、佐藤弁護士は、とっさに告白電話を録音しつつ、自殺しないよう必死で説得したという。もしも佐藤弁護士が、片山氏を冤罪ということにしたければ、そのようなことをする必要はないわけで、これは佐藤弁護士の名誉のためにも書いておかなくてはならないだろう。
ちなみに、この夜、ジャーナリストの神保氏は片山氏にメールを送り、「何があっても、佐藤さんは許してくれるよ」と書いたそうだ。偶然だが、私も昨夜、Lineで似たようなことを片山氏に送っている。
むろん、佐藤弁護士は、弁護人としては裏切られたという否定的な思いはないし、見捨てるつもりもないとのこと。

さて、それにしても、何故、片山氏はこのようなことをしたのか?という問題は残る。
実は、その前の記者会見で、片山氏は犯人像を聞かれて、「犯人はサイコパスだと思います」と言っていた。その時、私は、そこまで言わんでも、と思ったのだが、片山氏の告白によると、それは自分自身のことを言ったのだそうだ。
なぜかわからないが、自分にブレーキがきかなくなることがある。犯人の人格になりきってしまうとなんでもできる、とも。その点で、「犯人になりきって書いた」メールの中で、失礼なことを書いてしまった江川紹子さんには本当に申し訳ないと言っていたという。
そして、遠隔操作事件そのものについては、検察や警察に恨みがあるというより、やってみたらできちゃった、という感じ、ヤッターという感じ、だったという。
「検察や警察に恨みを持ち、それが動機である犯人像」そのものも、片山氏が、創作して創り上げたものだったのだ。

しかし、決して公判が不利ではなかったにもかかわらず、何故、この時期に、河川敷にスマホを埋めるようなことをしたのか。それは、ほかならぬ母親が、自分に疑いを持っていることに気づき、裁判から早く逃れて2人で暮らしたかったからだという。
本当は、万一有罪になったら、収監後に送るつもりだった真犯人メールを早めたのが、母親の安心させたかったためというのが、なんとも幼い。その幼さは、犯行の一方での周到さと、その反面、スマホが発見されることをまったく考えていなかったという幼さともつながる。
今日、弁護士から検察公判部に連絡をし、迎えに来た検察官に身柄を渡される間も終始平静だったが、お母さんから「真犯人であっても受け入れる、帰ってくるのを待っている」というメールを見て、ちょっと涙を見せたようだったという。

片山氏は、以前、解離性人格障害の診断を受け、さらに、別の医師から、適応障害とうつの診断を受けたという。精神障害の認定は、ほぼ自己申告なので、実は難しい。
しかし、たとえば、15日の「真犯人メール」を江川紹子さんから見せられたときに、「読み進むにつれ、みるみる顔が紅潮して」といった演技が「できてしまう」、息をするように「嘘がつけてしまう」、「犯人になってしまうとブレーキがきかない」、「だから自分はサイコパス」という片山氏には、精神鑑定の必要はあるだろう。(だから無罪にするべき、という話ではない)

「検察が決定的な動かぬ証拠を持っている」という情報が流れている中で、堂々としていられ、その証拠の開示に積極的、というのは常識では考えられず、だからこそ、(弁護団も私たちも)片山氏には本当に身に覚えがないのだと思ったわけだが、彼が精神に問題があったのだとしたら、それはもはや論理を越えた世界であって、論理で太刀打ちできる話ではない。

だからといって、検察がありもしない証拠を、あるとデマリークし続けたことが許されるわけではないし、可視化を拒否しつつ、長期間の拘束を続けたことも正当化はされるべきではない。それによって、むしろ検察の横暴を際立たせて権威を失墜させ、さらに弁護を混乱させ、事件を複雑にしてしまったのが、事実だからだ。

むしろ、このような事件があるからこそ、マスコミへのリークとそれに乗った報道は断罪されるべきだし、取り調べの全面可視化の法制化は必然であると、私は改めて考える。被疑者のためだけではなく、むしろ、検察や警察のためにも。

執筆: この記事は八木啓代さんのブログ『八木啓代のひとりごと』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年05月22日時点のものです。

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