STAP事件簿15 「公知」に供する科学者のプライド・・・恩を感じる日本人(中部大学教授 武田邦彦)

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STAP事件簿15 「公知」に供する科学者のプライド・・・恩を感じる日本人(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

STAP事件簿15 「公知」に供する科学者のプライド・・・恩を感じる日本人(中部大学教授 武田邦彦)

(少し、軽い話題です)

私は科学の世界でコピペは何の問題もないと考えているが、コピペに対して反感を持つ人が多いのも確かである。なぜ、私が科学者でありながら、コピペを容認してきたかというと、それは「科学の本質はなにか」が理由だが、それ以外に「公知」と「平和」である。それについてリラックスして一言。

学問の世界は「学問の自由」で守られている。この学問の自由は「内的・精神的自由」で、社会に対して実行力を持たないのが特徴であり、仮に何かの力を発揮するなら自由は奪われる。

一方、科学者のプライドは「自らの仕事の成果が「公知」になる」というところにある。つまり、「公道、公園、公海」と同じように、人類が自由に使える「知恵」の仲間入りをさせてもらえるのだ。

これは素晴らしいことで、自分の頭脳活動の産物が、誰かの所有物になるのではなく、人類共通の財産として「公知」になり、その後は誰でも私の産物を利用してくれる。これほどうれしいことはない。

今回のSTAP事件でも、小保方さんは自分の研究をネイチャーに投稿し、それが掲載された。その瞬間から小保方さんの頭脳にあったSTAP細胞の考え方は人類共通の財産となった。

その意味で「著作権」が「思想又は感情に基づく創造物」と限定されたことは科学者の私としてはうれしいことだ。もし、小保方さんの論文が公知にならなければ、その成果を利用するときに、いちいち小保方さんにメールを出して了解を取るか、代理人が理研なら、お金を取られるだろう。

でも、公知になったものなら、公道や公園のベンチのように誰にも断らずに自由自在に使える。だからこそ利用価値があり、小保方さんも「どこにでも行って、一緒に実験する」と言われている。立派だ。

私は、自分の論文や著作物が公知になるのは、「学問の自由を与えてくれた社会への恩返し」ととらえている。西洋流に言えば「学問の自由と言う権利と、その成果を公知にする義務」と言うことになるのだろう。人間はもらうだけではダメで、もらったら必ずお返しがいる。

学問の自由はとても快適だ。人が何と言おうと自分がやりたい学問をすることができ、どうやるか、何を目的とするか、どこで飽きてやめても良い。こんな気軽な人生ってあるのだろうか?と思う。だから、その恩返しに自分の成果はご自由にと私は希望する。

ところで、小保方さんや私が書いた「文章」はどうだろうか? 科学の論文の文章も事実の説明だから「思想又は感情に基づいて」いない。したがって、何の権利もない。「データ」、「写真」、「文章」ともに「公知」である。

今まで、私はそれでやってきた。「先生のデータを使いたいのですが?」・・・「どうぞ、どうぞ」、「先生の講演を録音してよいですか?」・・・「どうぞ、どうぞ。オールOKです」。そういうと多くの人が訝しい顔をされる。中には「本当に良いのですか?」と念を押してくる人もいる。

大学に移ってから、いろいろ発明をした。そのたびに企業が来て「特許を出しますが、先生の取り分は?」とお聞きになるので、「要りません。必要ならそちらで出願してください。発明者は私なので、そうしておかないと詐欺と言われますから発明者には入れてください。でも、お金はいりません」と言ってきた。

時に特許を出した会社が一杯、飲ませてくれることはある。それは恐縮していただいた。人情があってよいものだ。ある時、大きな発明で大会社が私の発明したことで、世界の数10カ国に特許を出した。その時はさすがに責任者が大学に来て「先生、本当に権利を放棄するのですか?」と聞いた。現代の日本社会では「自分の業績が公知になることがうれしい」という学者は少なくなってきたのだろう。

「コピペは良いことだ」と私が言うのは、科学の成果は公知だから、できるだけ多くの人が、できるだけ多くの文章やデータを利用して欲しい、それが「人類にとって良いことだ」と思うからだ。そして人類共通の財産が増えれば、「俺だ、俺だ」と言う人が減って、国際関係は良好になるだろう。

でも、「人のものを使うのはなにか気が引ける」という人もいる。そう感じるのは良いことのように思うけれど、「公知」にプライドを持った科学者がいること、その科学者は自分の文章、データが利用されることを望んでいることを知ってほしいと思う。

自由に使ってください。卒業論文でも博士論文でも、なんでも活用してください。まったくかまいません。

でも、それは「科学の目的」に限ることで、私の文章やデータを使って私や科学をバッシングするなら、それは「世俗」の世界のことだから、私は権利を主張する。今回も、もしSTAP論文をもとに小保方さんを社会的にバッシングするなら、論文を読むこと自体を小保方さんに断る必要がある。

また公知のものだから、誤字があったからとか、写真を取り違えていたとか、少しのことはご勘弁いただきたい。もちろん最善は尽くすが、もともとは小保方さんや私の頭の中にあったものを、恩返しで公表したのだから。

執筆:この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年04月22日時点のものです。

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