【ここは法廷だゼ!】これで最後となるか? 甘ちゃん息子が犯した“わいせつ誘拐”という罪
坊主頭に濃くて垂れた眉毛。目は半開きで口元は笑っているのかいないのか、まさにアルカイックスマイルをたたえ、無駄に神々しい被告人Sは、煩悩まみれのわいせつ誘拐罪で逮捕、起訴されていた。半袖の白い大きめなワイシャツをグレーの大きめなスラックスにイン。若さゼロの装いだがこれでも昭和57年生まれの30歳というからどんな人生を送って来たのだろう。そんな疑問は起訴状や冒頭陳述で即座に解消することとなった。
Sは今年の3月29日、チャットを介して知り合った被害者(中3男子)を、「遊びに行こう」「とりあえずドライブに行こうよ」などと行って車に乗せて数日間連れ回し、4月5日の昼下がり、逮捕された。無職のSだが、被害者に対しては知り合った当時から「高校教師だ」と偽り、「勉強を教える」と呼び出しては、風呂に一緒に入って下半身を触らせたり、また触ったりしていたという。今回の犯行についても“一緒に宿泊してワイセツ行為に及ぼう”という気持ちがあったそうだ。
もちろん被害者は家に帰りたい、と何度か訴えたのだが、「他の先生から、君のお母さんに伝えてもらっているから心配しなくて良い」とあくまでも先生を装ってウソをつき、やり過ごしていた。
こんな思いきったことをやってしまったS、やはりと言うかなんというか、初めてではなかった。
http://uni.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1365890882/
未成年者誘拐などの前科が2犯あり、服役していた。昨年9月に仮釈放されたばかりだったのである。しかもチャットを始めたのは今年2月。全く懲りていない。
Sの祖父か? と思うほど年老いた男性が情状証人として出廷したが、父親だった。尋問の最後に「多少の金でも稼いでほしい」と切望していた。被告人はこれまでバイトを転々としたことはあるがマトモに働いた事がないらしい。また、なぜか会社や仕事は敢えて伏せられたが、父親は社会人としてそれなりに責任のある立場であり、息子に頼まれると多額のお金を渡してしまっていたようだ。
父親「もう今回は出るつもりはないと言ったんですが……」
弁護人「でも結局ここにいるのはなぜなんですか?」
父親「親子、2人なんですよ。妻は息子が小3の頃亡くなり……親子2人だとそうは言ってもなかなか切れないもんで、どうしてもできるだけのことは……」
Sは裁判のたびに反省を誓い、僧侶になると言ってみたり修行すると言ってみたりしているらしい。今回も、犯行前の3月に「カッパ道場に行くから」とSに言われ、そのための旅費として5万5000円渡したというのだが、それを犯行に使われた。また、その前にも一度、“カッパ道場”なる施設には行っているそうなのだが、すぐに出て来たのだという。前々回のときは裁判で誓っておきながら、実際は修行には行ってないらしい。僧侶になる気なんてないんじゃないのだろうか?
いよいよ始まった被告人質問では、S自身も少年時代に性的被害を受けた過去があることや、未熟児で産まれて来たことなどを話題に出しつつ、「今回出て来たら、“カッパ”一筋というか、生涯の仕事として……」と、やはり“カッパ道場”に世話になるつもりであることを強調していた。
「信用を失ったままでは誰のためにもならない。カッパ道場でしっかりした僧侶になる。死ぬまでに信頼を少しでも回復できれば」と、誓っていた。それはともかく、こんな真剣な場面でカッパカッパ連呼されるのはちょっとキツすぎる……。どんな施設か気になってしまう(のちのやり取りでSが“更生自立塾”だと言っていたので調べたところ、“カッパ”はあのカッパではなかった……)。
しかし法廷で僧侶になることを誓いつつも、実際はやる気が見られず、果ては更生のためと言って父親から出させた金で犯行に及んでいた、そんな親不孝もののSには裁判官たちも黙っていなかった。かなり長く質問が続いたが、裁判ではあまり質問をしない右陪席裁判官からの質問が長く続いた。
右陪席「自分のしたことで被害者にどんな悪影響を与えたと思ってますか?」
S「自分が中学生の頃に受けた心の傷……その……そういう気持ちというか……」
右陪席「具体的にどんな心の傷を与えたんですか?」
S「一生消えない……」
右陪席「何が消えなくなる?」
S「自分が行為、したことに対しての、そういうのが、一生残るんだろうと……」
右陪席「今回初めてじゃないでしょ? それなのにやるってことは、やったことで被害者がどんな気持ちになるか、どうなってしまうのか、考えてないからじゃないですか!?」←ひときわ大きな声で
S「そこまで真剣に考えて……」←声が小さくなって消えた
右陪席「あなたの話聞いてても、あなた自身がどういう影響を与えるか、深く考えてないように見えるんですけど!! 自分が被害に遭ったことを思い出せば、自分も自分も、っていうけど、ヘタしたらその子もあなたと同じような事をしてしまうかも、って考えないんですか!! あなたの行為によって、その子が歪んで、同じ行為をしてしまう可能性を!!」
S「……(何か言うが全く聞き取れず)」
右陪席「お父さん、あなたに何をしてほしいと言ったか覚えてる? 自分で稼げる、そういう人間になってほしいと。難しい事ではないですよね!? 決してカッパ道場に入って僧侶になってほしいとか言ってないですよね? どっちもあなたの希望! 父の希望に添って、できる限り努力していくべきなんじゃないですか!!」
Sには懲役4年6月の判決が言い渡された。出て来る頃はもう30代半ばだ。今度は僧侶やカッパ道場を口実に、父親から金をせびるんじゃなくて、自分で稼いだ金でそこまでたどり着けるようになっていればいいが……。
画像引用元:flickr from YAHOO
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傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。
ウェブサイト: http://tk84.cocolog-nifty.com/
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