宿主のクモを“都合のいい場所”に誘導する新種の真菌を発見!(彩恵りり)

キノコやカビなどを含む「真菌 (菌類)」は、地球上の様々な場所に生息し、その生態も極めて多様だよ。真菌の中には、いわゆる “冬虫夏草” のように昆虫の宿主を苗床にしてしまうものもいて、その中には昆虫の行動を制御するものすらいるんだよね!

CABインターナショナルのHarry Evans氏らの研究チームは、ドキュメンタリー番組の撮影のために訪れた古い火薬庫の廃墟にて、クモの身体から生えている新種の真菌を発見したよ!「ギベルルラ・アッテンボローイ (Gibellula attenboroughii)」と名付けられたこの真菌は、状況証拠的にクモの行動を制御し、胞子を飛ばしやすい場所まで誘導している可能性があるよ!

このように宿主の行動変容を促す真菌は口語的に “ゾンビ菌” と言われることがあるけど、ゾンビという言葉からイメージされるものとは違う性質もあることに注意してね。これについては後で詳しく解説するよ!

奇妙なクモの死骸から新種を発見!

【▲図1: 最初に見つかったギベルルラ・アッテンボローイの標本。この標本 (IMI 507230) が、種の基準となるホロタイプに指定されているよ。 (Image Credit: H. C. Evans, et al.) 】

この新種の真菌が発見されるきっかけとなったのは、BBC (英国放送協会) のドキュメンタリー番組『Winterwatch』の撮影だよ。同番組は2021年に、ラムサール条約にも登録されているイギリスは北アイルランドのキャッスル・エスピー湿地保護区 (Castle Espie Wetland Centre) を訪れたんだよね。

名前の由来であるビクトリア朝時代のエスピー城そのものは現存しないけど、同時代の火薬庫の廃墟は残されているんだよね。論文の筆頭著者であるCABインターナショナルのHarry Evans氏らは、この火薬庫を訪れた時、真菌で覆われたクモの死骸をたくさん見つけたんだよね。

クモの死骸はすぐに、ヨーロッパに多く見られる種である「メテルリナ・メリアナエ (Metellina merianae)」であると分かったよ。和名はないけど、英名を直訳すれば「円網洞窟グモ (orb-weaving cave spider)」であることからも分かる通り、このクモは洞窟や木の洞、他の生物の巣穴などに生息しているんだよね。そして今回廃墟で見つかったように、地下室や倉庫のような人為的な暗い場所にも生息しているよ。

しかし、メテルリナ・メリアナエは洞窟でも少し引っ込んだ、あまり人目につかない場所に生息していることが多いんだよね。ところが今回見つかった真菌に覆われた死骸は、火薬庫の天井や壁のように、どちらかと言えば目立つ場所にあったよ。これはどういうことなんだろう?

そこで、採集された真菌の形態やゲノムについて詳しく調べてみたよ。すると、クモに対して病原性のある真菌である「ギベルルラ属 (Gibellula)」であると特定されただけでなく、これまで記録されたことのない新種であると判明したんだよね!

この真菌は、新種であることが明らかになっただけでなく、いくつかの点で興味深いことから、BBCの自然番組に長年の貢献を果たしている生物学者であるサー・デイビッド・アッテンボローに因み、この新種は「ギベルルラ・アッテンボローイ (Gibellula attenboroughii)」と名付けられたよ。当初この新種は火薬庫の廃墟から発見されたことから「ギベルルラ・バンバンガス (Gibellula bangbangus)」 (bang-bangは爆発音の擬音) という学名が提案されたんだけど、そこから変更された形なんだよね。

胞子を広げるのに “都合のいい場所” に誘導する?

【▲図2: 後の調査でホワイトファーザー洞窟 (Whitefathers’ Caves) にて見つかったギベルルラ・アッテンボローイの標本 (IMI 507598) 。クモから生えていることが分かりやすいことから他のメディアでも盛んに使われている写真だけど、これ自体はホロタイプ標本の予備であるパラタイプ標本なんだよね。 (Image Credit: H. C. Evans, et al.) 】

ギベルルラ・アッテンボローイで特徴的な点と言えば、メテルリナ・メリアナエの死骸から生えていることだよね。クモなどの節足動物に感染し、宿主を苗床に成長する、いわゆる “冬虫夏草” のような生態を持つ真菌そのものは珍しくないこと、ギベルルラ属は固有のクモを殺す病原性を持つことはよく知られているから、これ自体はなんの不思議もないよ。

しかし、死骸の位置が問題だよ。メテルリナ・メリアナエは本来目立たない場所にいるはずなのに、見つかった死骸は目立つところにいる。なぜだろう? この議論の時に思いつくのは、クモではないけど、同じ節足動物である昆虫の事例だね。「タイワンアリタケ (Ophiocordyceps unilateralis)」と呼ばれるこの真菌は、カムポノトゥス族 (Camponotini) のアリに感染すると、巣から離脱して樹木に付く高い位置の葉に誘導、アゴで嚙みつかせた後に毒素で殺すよ。アリの肉体を栄養源として十分に成長すると、胞子を放出する子実体を成長させるよ。この行動は、風の当たる外に子実体を晒すことで、胞子を遠くに飛ばすための戦略である、と考えられているよ。

実際、火薬庫の廃墟でこの標本が採集された後、北アイルランドだけでなくアイルランド共和国など、アイルランド島の各地にある洞窟で、壁や天井などの目立つところにメテルリナ・メリアナエ付きのクモ死骸が観察されたよ。また、宿主は別種のクモである「メタ・メナルディ (Meta menardi)」である場合もあったよ。

この状況証拠から、ギベルルラ・アッテンボローイは宿主のクモの行動を変え、風通しの悪い奥まった場所から、風通しの良い場所へと誘導している可能性があるね。もちろんその理由は、胞子を拡散させやすい場所に苗床を移動させるためだよ。

この真菌を “ゾンビ” と呼ぶのはちょっと待って

今回の真菌によるクモの行動変容はあくまで予測であり、今回の推定も観察結果に基づくものではないよ。ただし、今回のように宿主の行動に変容を促す真菌は、昆虫では比較的多く見られることから、昆虫に比較的近い節足動物であるクモでも同じことが起きていると考えるのは自然なことと言えるね。むしろ今回は、クモにおけるおそらく初めてのケースとして興味深い話になるよ!

タイワンアリタケが俗に “ゾンビアリ菌 (zombie-ant fungus)” と呼ばれることから、宿主の行動を変容させることを俗に “ゾンビ” と呼ぶよ。よって今回のギベルルラ・アッテンボローイは “ゾンビグモ菌” と呼ばれるべき感じかもしれないけど、あくまで “ゾンビ” は一般向けの口語表現である、という点に注意しないといけないよ

今回見つかったギベルルラ・アッテンボローイが、クモの行動をどのように変えているのかは分からないよ。ただしタイワンアリタケの場合、アリの脳そのものには干渉せず、神経系にドーパミンなどの神経伝達物質を送り込むことで行動を操ることが分かっているんだよね。だから、ギベルルラ・アッテンボローイが似たような方法でクモを動かしている可能性も十分にあるよ。そして当然ながら、ゾンビと言っても移動中のクモは生きているよ。

人間の行動を変容させる真菌が出たという設定のゲーム『The Last of Us』が知られているし、その他の映画やゲームでもゾンビはめちゃくちゃ使われているから、ゾンビと聞けば何となくピンとくる、というのはスゴくよくわかる。ただ今回のように宿主の行動変容を促すことは、必ずしも一般世間で言うゾンビのイメージとは違うことには注意しないといけないよ。 “ゾンビ” は専門用語ではなく一般向けの表現であることを加味しても、この表現は適切ではないという批判があることには注意しないといけないんだよね。

真菌の多様性を広げる発見

ところで、今回の新種が属するギベルルラ属は、主にアジア地域熱帯雨林で見られる種であり、そこからだいぶ離れたアイルランド島で見つかるということ自体が珍しいんだよね。しかもギベルルラ属自体、今回の新種以外では確実に記録されているのは1種であると言われている一方で、どうにも複数の種がちゃんと同定されないまま眠っていることが示唆されているんだよね。これらを考えると、今回新種が見つかったのはある意味で必然であり、ちゃんと調べれば、その地域では未発見だった種が見つかる可能性が十分にあるんだよね。もちろんその中には、どの地域でも記録されていない新種も混ざっているだろうね。

一見すると、真菌は食用キノコやチーズの熟成を除くと身近な存在ではなく、むしろ食品や水回りに付くカビのような厄介者のようなイメージがあるかもね。しかし真菌はペニシリンを始めとして、抗生物質などの薬になりうる様々な有機分子を合成しており、間違いなく私たちの健康的な生活の立役者となっているんだよね。ギベルルラ・アッテンボローイも、クモを殺す一方で、自身の食糧源が絶たれないよう、細菌による腐敗から守っているわけで、何かそういう抗生物質のような物を合成している可能性は十分にあるよ。

たとえ新種が見つかったとしても、今回のように何か特徴が無いと話題になりにくい真菌だけど、今回のように1つ見つかれば他の種も芋づる式に見つかるかもしれないし、その過程の中で何か面白いものが見つかる可能性は十分にあると思うよ!

真菌の多様性は1000万種とも2000万種とも言われているけど、記録されているのはそのわずか1%であると言われているよ。今回のように宿主の行動を変えてしまう真菌は、おそらくこの先も見つかると思うんだよ。

(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)

<参考文献>
H. C. Evans, et al. “The araneopathogenic genus Gibellula (Cordycipitaceae: Hypocreales) in the British Isles, including a new zombie species on orb-weaving cave spiders (Metainae: Tetragnathidae)”. Fungal Systematics and Evolution, 2025; 15, 153-178. DOI: DOI: 10.3114/fuse.2025.15.07
Wayne Coles. (Jan 29, 2025) “New fungal species named in honour of Sir David Attenborough making zombies of cave spiders on the island of Ireland”. CAB International.
Jean-François Doherty. “When fiction becomes fact: exaggerating host manipulation by parasites”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 2020; 287, 1936. DOI: 10.1098/rspb.2020.1081

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