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民主党公約、高速道路の無料化案。その手品のタネは?

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「無料」という言葉に、ついひかれてしまうのだが、かかるコストが「無料」ではないとなると、簡単には信じていけないのだな。今回はfinalventさんのブログ『極東ブログ』からご寄稿いただきました。

民主党公約、高速道路の無料化案。その手品のタネは?

高速道路の無料化は民主党マニフェストの目玉商品らしい。外国では公共道路は無料であることが多い。日本でもできないわけもないだろう、と言われればそう思わないでもない。とにかくやってみたらという声もある。だが、それは違うんじゃないか、という感じもする。もわっとした感じを自分なりに探ってみた。

日本は地方によってはまだ新設の道路が必要だろう。だったら、その財源を補うために課金があってもよいのではないか、あるいはもうけが出るなら、困窮した日本のための一般財源にしてもよいのではないか。なんとなく思っていたが、どうなのだろうか。

問題を少し調べていくと、日本特有の課題にぶつかる。8月14日の日本経済新聞社説「多くの疑問がある高速道路の無料化案」(http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20090813AS1K1300113082009.html)が触れていたが、高速道路を管理する日本高速道路保有・債務返済機構は34兆5000億円もの債務を抱えていて、その返却のために、高速道路は有料でなければならないらしい。ただし、この話には別のからくりもあるのであとで触れたい。

債務返済以外にも、日本の高速道路は有料でよいのではないかと思うのは、2点気になることがあるからだ。最初に触れておきたい。「コモンズの悲劇」と「ピグー税」である。

「コモンズの悲劇(The Tragedy of Commons、「共有地の悲劇」ともいう)」とは、だれでも自由に利用できる共有資源は適切に管理されないために、過剰搾取や資源劣化が起きることだ。米国の生物学者ギャレット・ハーディン(Garrett Hardin)が提唱した。高速道路を無料化し、極端な話、造りっぱなしのようにすれば、十分な管理がなされないだろう。先日の静岡・駿河湾を震源とする地震で東名高速道路が崩落したが、有料なら迅速な修繕体制も維持しやすい。
「ピグー税(Pigovian tax)」は、温室効果ガスの低減を意図したものだ。簡単に言えば、一種の罰則としての税金だ。使えば使うほど社会的には害になるものに課税することで、その使用を抑制するのが目的。タバコにピグー税をかけ、高額にして喫煙者を減らすという政策も各国で取られている(日本では取られていない)。経済学者アーサー・セシル・ピグー(Arthur Cecil Pigou)が考案した税の考え方だ。日本の高速道路もピグー税として有料であったほうがよいのではないか。高速道路の無駄な渋滞も緩和するだろう。

しかし温室効果ガス低減を目的としたピグー税ならば、高速道路料金にかけずにガソリンにかけてもよいはずだ。そのあたり民主党はどう考えているのだろうか。民主党政策集を読むと、「ガソリン等の燃料課税は、一般財源の『地球温暖化対策税(仮称)』として一本化します」とあるが、高速道路無料化とのバランスは言及されていない。

具体的に高速道路の無料化でどの程度二酸化炭素の排出量が増えるのだろうか。朝日新聞記事「民主公約の高速無料化→CO2急増 シンクタンク試算」(http://www.asahi.com/eco/TKY200908130136.html)に報道があったが、シンクタンク「環境自治体会議・環境政策研究所」がすでに試算していた。それよると高速道路の無料化と自動車関連の暫定税率の廃止が実施された場合、従来鉄道など自動車より環境に優しい交通手段からの乗り換え(モーダルシフト)なども考慮すると、二酸化炭素の排出量は年980万トン増加するらしい。一般家庭の年間排出量に換算すると約180万世帯分に相当する。現状の国内の二酸化炭素の排出量を4%増やすことにもなるようだ。

試算にもよるのだろうが、日本国全体で温室効果ガス低減を推進している現状からすると、かなりの量になるとも言えるだろう。そのしわ寄せは排出権取引など別の形にもなるはずだ。またモーダルシフトによって、鉄道は36%減、バスは43%減、航空機は11%減と公共交通機関は軒並み割を食う。しかし、民主党はこの件にも言及してない。

いろいろ調べてみるとこの問題は、民主党を支える労働組合の「ヤミ専従問題」のように、あまり突かれたくない問題というより、単に環境問題への影響については十分に想定してなかったのではないかという印象を受ける。環境問題が重視されない時代の古い政策をポンと持ち出したかのようだ。

なぜ民主党は高速道路無料化という政策を出してきたのだろうか。この政策は以前からあったはずだ。いつからあるのか調べ直すと、2003年であった。当時のことを少し調べていくと、環境問題以外に財源に関連して面白い話に出くわした。いや面白いで済むことではない。

話の背景は2003年8月、当時2年後に道路関係4公団の民営化が予定されるころだ。日本道路公団の財務報告を虚偽とする内部告発がなされ、債務超過が問題になった。それまで民主党も、小泉内閣と同様に高速道路有料制で民営化を主張していたが、自民党に対抗するために奇策も模索していた。そこにはまるように同年の中央公論9月号で元ゴールドマン・サックス社パートナー山崎養世氏が高速道路無料化案を唱え、これに当時の民主党菅代表が飛びついたように見える。いや、経緯からすると、中央公論寄稿の前に山崎氏から菅氏への提言があり、その公表としての寄稿であったようだ。菅氏は同年の6月時点でこの妙案を当時のマニフェストに盛り込むと息巻いていた。

高速道路無料化策は山崎氏の起案とはいえ、以降は菅氏の、いえば持ちネタになったようだ。当時はまだ奇策の印象が強いせいもあり、財源問題も現在とは異なり民主党もそれなりに考慮していた。管氏も「日本には現在約7000万台の車があり、1台に年5万円課税すれば3兆5000億円になる。料金所も廃止できる」(http://www.47news.jp/CN/200306/CN2003062201000335.html)と主張していた。自動車に年5万円の課税というと重税感がある。現在の民主党がこの課税を未だに考慮しているのだろうか。もうわからない。

奇策の提案者、山崎氏はどう財源を想定していたのだろうか。この点は、同氏が運営するサイトで現在でも威勢よく「山崎養世の日本列島快走論」(http://www.yamazaki-online.jp/kaisoron/gaiyo/index.html)として展開されている。

———–以下引用
現在四公団で約40兆円の借金を抱えていますが、仮に民営化したとしても、この借金と将来の金利を加えた120兆円(50年間にわたって4%の金利で借り続けることができるという楽観的仮定に基づいても金利は80兆円になり、借金40兆円と合わせて120兆円になる)は、結局国民のツケになってしまいます。これは、金融機関が実態の分かりにくい子会社(公団の場合は保有・債務返済機構へ)に不良債権をこっそりと移す「飛ばし」と同じ手法です。つまり、民営化は根本的な解決にはつながらないのです。
———–引用ここまで
※『山崎養世の日本列島快走論』より引用

小泉改革案の民営化は「飛ばし」であって「民営化は根本的な解決にはつながらない」と言われると驚きをうける。ではどうするのか。

———–以下引用
親会社がオーナー(国民)の財産を守るために、超低金利のいま、30年国債を2%で発行(=これを“世直し国債”と呼ぼう!!)し、40兆円のいまの借金を返済してしまう。30年国債の金利コスト(2%固定)は24兆円になり、80-24=56兆円の金利コストが削減できる。これは、高速道路の基本法である道路整備特別措置法にかなったやり方である。なお、国債の返済の財源には、いまの道路財源の一部を充てる。試算では、いまの一般道路向けの財源の36%を振り向ければ、借金の返済だけでなく新規高速道路の建設と保守もまかなえる。
———–引用ここまで
※『山崎養世の日本列島快走論』より引用

住宅ローンの借り換えと同じ理屈のようだ。金融の専門家だけあって妙案と呼びたくなる。でも、もう少し読んでみよう。

———–以下引用
この“世直し国債”の返済総額は64兆円。年間約2兆円ずつを道路財源からまわし、30年間で完済は可能である。そもそも道路財源のほとんどが一般道路の建設に充てられていたことがイレギュラーだった。これを変えることがポイント。高速道路が無料になり出入口が増えれば、いまの高速道路と一般道路の輸送力は増大するから、新規の道路を作る必要性は低下するはず。一般道路への支出を削って、高速道路無料化の財源に充てることは理にかなっている。
———–引用ここまで
※『山崎養世の日本列島快走論』より引用

この案では年間2兆円30年間が国民の借金になる。しかも、道路財源を使って高速道路無料化のための借金に充てなさいということになる。無い袖(そで)は振れない。手品にはタネがある。

低金利借り換え方式は本当に妙案と言えるのだろうか。当時この案を聞いた道路関係四公団民営化推進委員会委員長代理だった田中一昭拓殖名誉大学教授はこうコメントしていた。読売新聞記事『高速道路の無料化 山崎養世氏 VS 田中一昭氏』(2003.8.26)より。

———–以下引用
――道路四公団の債務を国債で借り換えて高速道路をタダにしろという議論が出ている。
田中 国債の発行残高が四百二十兆円に膨れ上がり、税収確保が大変な時なのに、安易に国民負担を求める考え方には、反対する。高速道路のように、社会的施設を使って利益を得るのが特定の人々に限られるケースでは、費用は、可能な限り、利用者による受益者負担で賄うべきだ。実際、道路四公団の四十兆円の借金は、料金収入によって、四十―五十年で確実に返済することが可能だ。
――低金利の長期国債の借り換えで全額繰り上げ返済し、無料化する方法をどう思うか。
田中 それでだれが損をするかを冷静に考える必要がある。国債という形でつけ回しをされる国民だけでなく、財投資金の原資となっている郵便貯金などの預金者も被害を受ける。財投資金は一定金利で運用しているため、借り換えはその約束を反故(ほご)にすることだ。簡単な話ではない。
———–引用ここまで
※読売新聞記事『高速道路の無料化 山崎養世氏 VS 田中一昭氏』(2003.8.26)より引用

小泉改革の民営化だと返済に年月はかかるが、国民への負担は少ない。負担は高速道路の利用者にかかるからだ。これに対して山崎氏の無料化案は、保有・債務返済機構の債務を国が引き取り、国債の形で返済するため、最終的には税徴収の形で国民の負担になる。また、「世直し国債」と名づけても国の財政の健全性を示すプライマリーバランス(国債などの借金を除いた歳入と、借金の元利払いを除く歳出のバランス)の均衡を難しくする。

借り換えをすることによって、総額的には減額されることになるが、借金しているのは保有・債務返済機構から国に変わる。つまり、この話の前提は、「国が40兆円の負債を背負うならばその減額に妙案がありますよ」ということだ。しかもその妙案の減額で長期に安定した金利が得られない割を食うのは、借り換えされる側であり、これは郵便貯金などの預金者になる。さらにその前提はといえば、民営化だと、親会社にあたる国の道路という財産が守れない事態になるから、国イコール国民がその財産を守るために国民がツケを払えというということだ。この前提は正しいのだろうか。なんとなく、憎き小泉改革の民営化をつぶしてしまえということではないかなと少し勘ぐりたくなる。

民主党による高速道路無料化案という手品のタネだが、元ゴールドマン・サックス社パートナー山崎氏が提起した国債による買い取り案なのか、あるいは以前民主党の管氏が述べていたように、自動車の年間5万円課税するのか、現状ではわからない。いずれせよ、税金という形で国民へ直接的な負担となるだろう。

のんびりと直接国民の負担にならないように返済してもらうか、それとも、高速道路無料化のツケを国民みんなで分かち合うか。いや、今となっては事実上もう選択肢はないのかもしれない。

執筆: この記事はfinalventさんのブログ『極東ブログ』より寄稿いただきました
文責: ガジェット通信

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