入浴する場面が児童ポルノとされた事例
「児童ポルノ」というテーマは、女子的にスルーしてきた話題なのですが、ここまできっちり説明していただけると、「ほー、そうなんですか」と、納得。「こんな専門家の方がいらっしゃったのか!」と、驚き。
今回は奥村徹さんのブログ『奥村徹弁護士の見解』からご寄稿いただきました。
入浴する場面が児童ポルノとされた事例
児童ポルノ該当性というのは客体の要件ですから、医学・学術・芸術などの撮影目的によって児童ポルノ該当性は左右されないです。性欲刺激興奮の要件も一般人基準、つまり、見た人基準。えづらで決める。
盗撮の場合、撮影されていることを知らないから、特段に性器等を誇張することなく、普通に入浴している場面だと思うんですよ。
・山形地裁 衣類の全部を付けずに入浴する児童の姿態
・横浜地裁 「露天風呂」付近において露天風呂に入浴中の女子児童の姿態(実刑)
これは、3号ポルノ。
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法2条
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
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じゃあ、これを親が娘の入浴シーンを同じ構図で撮ったとしたら、やっぱり、3号ポルノですよね。まあ、製造罪の要件を満たさないので現行法では処罰されないですが、物としては児童ポルノに該当する。
でないと、仮に盗まれて陳列・提供されたりしたときに、児童ポルノ罪に問えないですから。
理解できない人に説明しておくと、「児童ポルノ」というのは、物の属性ですから、持ち主によって、児童ポルノであったり、なかったりすることはない。
<例:娘の入浴シーン>
親が撮影・所持 3号ポルノ
↓
盗まれて陳列・販売された……3号ポルノ公然陳列罪・提供罪
↓
警察が押収した 3号ポルノ
↓
親が取り戻した 3号ポルノ
↓
また盗まれて陳列・販売された……3号ポルノ公然陳列罪・提供罪
↓
警察が押収した 3号ポルノ
↓
親が取り戻した 3号ポルノ
又は、
<例:娘の入浴シーン>
親が撮影・所持 3号ポルノ非該当とすると
↓
盗まれて陳列・販売された……3号ポルノ非該当
↓
警察が押収した 3号ポルノ非該当
↓
親が取り戻した 3号ポルノ非該当
↓
また盗まれて陳列・販売された……3号ポルノ非該当
↓
警察が押収した 3号ポルノ非該当
↓
親が取り戻した 3号ポルノ非該当
森山 眞弓と野田 聖子は心配ないというのですが、これで興奮する人がいるから、温泉盗撮というアダルトビデオのジャンルがあるのですから、この説明は現実に合いません。しかも、成立しないと断定しているわけでもないです。
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森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」P201
Q49:第7条第3項で、他人に提供する目的がないのに児童ポルノを製造する行為を処罰することにすると、親が自己の子どもの入浴、水遊びの情景を写真撮影する等の行為についても処罰の対象になるのではないですか。
A:このような情景を撮影した写真に関しては、現行法第2条第3項第3号に該当するか否かが問題とされるのかもしれませんが、同号については、その要件として「性欲を興奮させ又は刺激する」との要件がついており、子どもの入浴、水遊びの情景を見て通常、一般人は性欲を興奮させ、刺激するというところまで至らないと思いますので、このような写真は児童ポルノに当たらず、その撮影行為についても改正後の第7条第3項の犯罪が成立しない場合が多いのではないかと思われます。
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3号ポルノの定義をそのままにして、与党案のような単純所持罪を設ければ、親の場合でも、児童ポルノ該当性を認めた上で、性的好奇心や正当行為などの要件で切ることになると思います。
これは危険な解釈ではなく、法文の普通の解釈です。
こういうのを世論に迎合して「入浴とか噴水は児童ポルノにはなりません。ご安心を」というのは、どっかで解釈を曲げているので、かえって予見可能性を害します。
<間違った説明の例:娘の入浴シーン>
親が撮影・所持 3号ポルノではない
↓
盗まれて陳列・販売された……3号ポルノ公然陳列罪・提供罪
↓
警察が押収した 3号ポルノ
↓
親が取り戻した 3号ポルノではない
↓
また盗まれて陳列・販売された……3号ポルノ公然陳列罪・提供罪
↓
警察が押収した 3号ポルノ
↓
親が取り戻した 3号ポルノではない
<間違った説明の例:医学書の写真>
医師が撮影・所持 3号ポルノではない
↓
盗まれて陳列・販売された……3号ポルノ公然陳列罪・提供罪
↓
警察が押収した 3号ポルノ
↓
医師が取り戻した 3号ポルノではない
↓
また盗まれて陳列・販売された……3号ポルノ公然陳列罪・提供罪
↓
警察が押収した 3号ポルノ
↓
医師が取り戻した 3号ポルノではない
同じ画像が児童ポルノになったりならなかったりというのはこういうことです。
児童の心臓手術の写真やビデオとかは、誰がみても性欲刺激要件に欠けるから、誰が持っても児童ポルノではないと言えそうですが、それで興奮する人が多数いるとアウト。
これが現行法です。
まあ、そんなのを検挙しなくても、援交ものの取り締まりで手一杯なので、そこまでは検挙してないですけど。
<追記>
上記の裁判例と京都地裁h12.7.17との関係については、ともに地裁の裁判例なので、優劣関係はありません。実際、京都地裁h14は児童ポルノ該当性と芸術性は別次元だと判示していますし、さらに、大阪高裁H14.9.12の「性欲を興奮させ又は刺激するものと感じる者が多数いると考えられれば,それで足りる」によれば、親が撮影したものでも学術でも芸術作品でも「性欲を興奮させ又は刺激するものと感じる者が多数いる」ことになると児童ポルノ性を備えることになることになって、京都地裁H12.7.17の手法がそのまま追認されたわけではないです。
最近は製造元や被害児童を突き止める捜査はそこそこにして、見た目で判断してますので、見た目でわからない製作意図は考慮していません。
今後、仮に、親が撮ったほほえましい裸の写真が流出して、流出先でDVDとかにされて売られた事件が立件されて控訴されて「どこの人かは知りませんが、親が撮ったほほえましい裸だから、児童ポルノではない」と主張すれば、それが初の判例になります。
(こちらの記事は奥村徹弁護士のブログより寄稿頂きました : 元記事はこちら)
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