警察の情報漏洩問題 佐々木俊尚さんの見解をきく(深水英一郎)

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「当事者」の時代 (光文社新書): 佐々木俊尚

警察幹部による情報漏洩は、夜おこなわれる

警察幹部に対しておこなわれるマスメディア記者による「夜回り」の問題など、これまでタブーとされてきた問題に切り込んだ佐々木俊尚さんの新著「『当事者』の時代」(光文社新書)。

本書は、「なぜ日本のメディアは現在このような状況になっているのか」を解き明かすことに挑んだものであり、日本人が生み出したメディア空間の在り様の一端を知るために「夜回り」の問題にも触れています。

結論から言えば「夜回り」そのものは警察幹部による公務員法違反行為、すなわち違法行為なんですが、この違法行為が見過ごされる独特の状況がなぜ生まれ、現代に至ってしまったのか。なぜ警察はこの違法行為を止められなくなってしまったのか。佐々木俊尚氏の「『当事者』の時代」ではまるまる一章をつかってこの問題の解析に取り組んでいます。興味ある方は是非手にとってみてください。

Amazon.co.jp: 「当事者」の時代 (光文社新書): 佐々木 俊尚: 本

「夜回り問題」はタブーに触れるものですから、ここまで詳しく書かれた本はこれまでないのではないかと思います。また、ネットで調べてもこのタブー問題に関する記述はほとんど見つかりません。

「夜回り問題」から逃げる警察幹部たち

そんな佐々木さんに今回、警察の「夜回り」問題についてストレートな質問をぶつけてみました。

実は先日、ガジェット通信発行人の私から警察庁長官に対して「夜回り問題」に関する質問をさせていただいたのですが、その回答は無責任きわまりないものでした。問題であることは認識しながらも質問からは逃げざるを得ない、警察幹部の置かれている状況がよくわかるやりとりですのでこちらもあわせて読んでいただければと思います。

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「夜の警察ダダ漏れ問題」違法行為をマスメディアに責任転嫁する警察
https://getnews.jp/archives/227681 [リンク]

■「夜回り」とは
「夜回り」とは新聞社・テレビ局など一部商業媒体の記者を警察関係者が自宅付近または自宅へ招き入れるなどし、そこで記者の質問を受け、場合によってはそれに答えるなどして情報提供をおこなう公務員法への抵触が疑われる行為。この違法行為は日常的におこなわれており、実態解明が急がれます。朝におこなうものは「朝駆け」といい、夜におこなうものは「夜回り」といいます。「夜討ち」と呼ぶ場合もあります。

佐々木俊尚さんに警察の「夜回り」の問題についてきいてみた

回答者:作家・ジャーナリスト佐々木俊尚さん http://www.pressa.jp/ [リンク]
質問者:ガジェット通信発行人 深水英一郎

質問1:単刀直入におききします。「夜回り」は、警察からマスメディアへの情報漏洩だと思われますか?

佐々木:
どの視点から見て「情報漏洩か」ということが問題です。

まず、当局から見れば「情報漏洩」です。

警察当局は、正規の情報ルートは記者会見に加えて、捜査一課長と理事官(一課のナンバー2です)への夜回りに絞っていました。これ以外のルートはイレギュラーであり、当局の目線から見れば情報漏洩ということになると思います。

新聞社などのメディア目線では、夜回りは「情報漏洩」ではありません。「情報をこじ開ける手段」として捉えられているでしょう。

難しいのは、こうした警察内部からの情報漏洩が「メディアコントロールのための意図的リーク」であるケースだけでなく、たとえば刑事と記者の人間関係に基づいた「人情的リーク」、さらには警察の内部の人間が義憤に駆られて「内部告発」する場合など、さまざまな理由や背景があるということです。

となると読者=国民から見て、夜回りは情報漏洩なのか?

その問題は「質問3」への回答に続きますが、最終的には夜回りによって得られた情報が社会として有用であるかどうか、というところに行き着くのではないでしょうか。

質問2:佐々木さんが警視庁捜査一課担当当時、夜回りは警察による公務員法に抵触する守秘義務違反だ、という認識をお持ちでしたか。それとも、法には触れていないと考えておられましたか。

佐々木:
公務員法に抵触するよね、というのは同僚たちの間でも共通認識としてありました。ただ報道機関には「警察が隠している情報を開示させ、国民に伝えなければならない」という社会の公器としての責務があり、この責務を遂行するためには多少は法からの逸脱があってもしかたない、というような空気だったと思います。

この空気感の背景には、「われわれ記者は正義の味方であり、社会のために働いているのだ」という強烈な自意識があるわけです。そしてこの自負の正当性が激しく揺らいでしまっているのが、実のところ最大の問題になっているわけです。

質問3:今現在、「夜回り」は悪いことだとおもいますか。「夜回り」は今後も必要だと思いますか。

佐々木:
まとめてお答えします。

夜回りのシステムがまったく国民に向かって開示されておらず、警察もメディアの側もそれが存在しないかのように振る舞っているのは「悪」だと私は考えています。だから「『当事者』の時代」では、夜回りの実態と、さらに記者会見との二重構造について明らかにしました。

ただし「夜回り」そのもの自体は悪ではありません。

警察当局・司法当局が良好な情報公開を記者会見などで行ってくれるのであれば問題はないと思うのですが、実態としてはそうした捜査機関の記者会見ではほとんどの情報が開示されず、捜査機関内部で何が行われているのかはまったくわかりません。そのインサイドへのリーチの方法としては、現状では夜回り以外に方法がありません。

しかし実態としては、夜回りで記者がとってくる情報の多くは「今日にも逮捕」といったどうでもいいスクープネタばかりで、新聞社が「夜回り」を権力監視にきちんと活用しているとは到底言えません。「今日にも逮捕」ネタを取ってくるための手段でしかないのであれば、夜回りの脱法性は決して正当化されないでしょう。

とはいえ、ときおりは社会に貢献できるようなスクープももちろん存在しています。結局はそのバランスの問題ということになるのかもしれません。

「社会に貢献できるスクープ」が「どうでも良い「今日にも逮捕」スクープや警察当局との単なるなれ合い」を凌駕できるかどうか。

それができないのであれば、夜回りのような構造は透明性の高いネットメディア空間が広がっていく中で、消滅へと向かうべきなのかもしれません。ひょっとしたら将来にはウィキリークスのようなかたちで捜査機関インサイダーが直接情報を国民に内部告発できるしくみも生まれてくるということも期待できるでしょう。

質問4:警察庁長官に夜回りについてたずねる質問状を送ったところ、警察庁長官官房総務課広報室より「報道機関が都道府県警察に対して行う取材方法の在り方について、警察庁はお答えする立場にありません。」との回答が届きました。佐々木さんはこの回答をみて、どうお感じになりますか。

佐々木:
私は「『当事者』の時代」で、捜査当局と記者の間でつくられる<記者会見共同体>と<夜回り共同体>の二重構造を指摘しました。前者は公開され可視化されているけれども、後者は決して明らかにされない裏側の協同体である、と。だから警察庁広報がその存在自体を認めないのは、当然の回答だと思います。逆に言えば、その回答そのものが私が「『当事者』の時代」で指摘した二重の共同体構造が真実であることを浮き彫りにしていると考えます。

――ありがとうございました

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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