マンション価格推定サイトが続々オープン。どう使えばいい?

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マンション価格推定サイトが続々オープン。どう使えばいい?

2015年の夏ごろから「IESHIL(イエシル)」をはじめ「おうちダイレクト」「HOME’Sプライスマップ」など、各社から中古マンションの推定価格を自動計算してくれるウェブサイトのサービスが出てきている。なぜ、タイミングを同じくして価格推定サイトが相次いでオープンしているのだろうか? 私たちはどんなふうに価格推定サイトを利用すればいいのか?———不動産学者で、国の不動産行政の審議会委員なども務める清水千弘氏にお話しを聞いた。

アメリカの「Zillow(ジロウ)」をモデルに、売主獲得の営業ツール

―― まず最初に、なぜ2015年に続々とマンション価格推定サイトがオープンしたのでしょうか?

アメリカの不動産検索サイト「Zillow(ジロウ)」は全米で最大のシェアを占めています。このZillowが2006年から住宅の登記情報や自治体の統計データを基に、IT技術を使って現在価格を推定する「Zestimate(ゼスティメイト=Zillow+Estimate)」をウェブサイトで公開しています。いまでは不動産市場で売られている物件だけでなく、売却予定がない物件にも推定価格をつけて公開し、価格の推移や過去の売買履歴も公開しています。

この不動産価格推定エンジンが日本でも注目を集めたというわけです。ただ、あちらでは、一戸建て住宅を中心とした不動産価格を推定しますが、日本では中古の一戸建て住宅は推定が難しいということで、中古マンションに特化して、マンション価格推定サイトがつくられたということです。不動産分野にIT技術を活用したことで「不動産テック」と呼ばれています。【図1】おもなマンション価格推定サイト(SUUMOジャーナル編集部作成)

【図1】おもなマンション価格推定サイト(SUUMOジャーナル編集部作成)

各社がこぞって不動産価格推定サイトを開発した理由は2つあると考えられます。

1つ目は、不動産業側からのニーズです。不動産仲介の業務行程のなかで、まず、不動産を売却しようとする顧客と接点を持ち、売却の依頼を獲得することが重要になります。不動産仲介には、「売り側の仲介」と「買い側の仲介」の2つがあります。売り側の仲介を依頼されれば7〜8割は成約に結びつけられると言います。買い側の仲介の成約が3割以下と確率が低いことに比べると、不動産会社は、売り手にアピールして顧客を獲得したいと考えます。そこでこの価格推定サイトが、売主獲得のための営業ツールとして役立つというわけです。また、ソニーがIT技術をバックに不動産業界に参入したことも大きかったでしょう。【図2】売主側の仲介の方が成約率が高いと言われている(SUUMOジャーナル編集部作成)

【図2】売主側の仲介のほうが成約率が高いと言われている(SUUMOジャーナル編集部作成)

もう1つは、日本の不動産消費者の意識が大きく変わってきたことです。リフォーム、リノベーションが注目されるようになり、住宅取得者がそれまで新築一辺倒であったのが、中古住宅にも目を向けるようになってきました。国が「中古住宅・リフォームトータルプラン」を掲げ、中古市場・リフォームの活性化を進めていますが、この流れに乗って消費者の意識も変わってきたということです。そうすると、これまで不動産会社しか知り得なかった中古不動産価格について、一般の消費者に価格の見える化が図られることはメリットと言えます。売り手が知りたいのは、自分の売ろうとする不動産が幾らで売れるのか。価格によっては、ローンの残債が残るのかどうか知りたいところです。

メリットは客観的な推定価格による、売却・成約までの期間短縮

―― 価格推定サービスがあることで、消費者にはどのようなメリットがあるでしょうか?

不動産を売りたい人からは、「売れるまでの期間が短縮できる」という効果が期待できると思います。例えば、従来は売りに出してから4カ月くらいかかっていたとすると、それが例えば1〜2カ月で決まる……ということです。

まず、売主は、仲介を依頼する不動産会社を選ぶ際に、高く値付けをしてくれる会社を選びがちです。仮に本来は2500万円でしか売れない物件であっても、相場を知らないと「3000万円で売りに出しましょう」と高く言ってくる会社に依頼します。そうすると、なかなか買い手が見つからない。会社に言われるがままにジリジリと値を下げて、その挙げ句に2500万円で売却が成立するまで数カ月を要するというわけです。

買う側も、価格推定サイトで示された客観的な推定価格を踏まえて物件を評価できます。そのうえで、仲介サイトにある物件の情報や写真を参考にすれば、従来であれば10軒内見したうえで購入を決めていたところを、半分の内見で決断ができる。探して決めるまでのサーチコストが下がります。

つまり、中古不動産価格について不動産会社だけが知り得ていた従来に比べ、売主、買主ともに価格に対する比較的精緻な情報が得られるようになり、「この価格が妥当なのか」という不安が解消され、成約までの期間が短くできるというメリットがあります。

―― 価格推定には、どのような要素が影響を及ぼすのでしょうか? 同じ中古マンションでも各社で推定結果が異なることもあるようです。

わが国の中古マンションの価格については、「立地」と「築年」、それから「広さ」と「方角」がそのほとんどを占めるようです。それに、各社何らかの調整をかける。同じマンションでも、ある会社のサービスでは、階数・方角・広さで推定価格を出したり、別の会社のサービスでは、具体的な部屋毎の価格を推定するものもあるなど、違いはあるようです。

これらは、過去の取引情報というビッグデータを統計処理で解析して求められています。

ただし、ほんとうにそれだけで良いのか、消費者は満足するのか、という疑問は感じています。これからは、例えば、アメリカではそうであるように、公園が近くにある、いいバーがあるなどといったアメニティの充実度が価格に反映されるべきだろうと考えます。子どものいる家庭では、その住所はどの小学校区なのか……などの情報も重要になってくるでしょう。また、マンションであれば、修繕や管理の良し悪しなどは、情報としては盛り込まれていない。今後はこうした情報も取り込んでいく余地があるでしょう。

―― アメリカ、イギリスなどでは不動産価格の変動は大きいと聞きますが、日本では地域の違いや将来価値の変動などは、どのように影響するのでしょうか?

日本は、欧米ほど時系列で不動産価格の上下動はありません。価格変動が静的だと、その分、価格を当てやすい側面はあります。ただし、日本では同じ地域でも物件によって価格の差が著しくあるのが特徴です。同じ地域で、豪邸の横に小さな質の悪い住宅が建っている場合があります。欧米は、地域の特性が価格を牽引する要素が大きくて、高級住宅地であれば、同じようなレベルの住宅が同じように建っています。日本は、そうではない。日本では地域のなかでの価格相場のばらつきが推定のうえでは難しいと言えます。

―― 価格推定サービスは首都圏の人口密集している地区で行われています。今後、これらは全国また一戸建てにも波及していくのでしょうか?

不動産取引の情報がある程度充実している関西圏などにはすぐに広げることが可能でしょう。

国がすすめようとしている住宅診断(インスペクション)の普及が今後進んでいき、また、不動産取引の情報が整備されていけば、全国・一戸建てにも広げていくことは可能だと考えられます。

価格推定サービスは、不動産取引円滑化・透明化の一つの手段

―― 価格推定サービスの留意点、課題や展望についてはどのようにお考えでしょうか?

過去の取引事例をIT技術による統計解析を行って価格を導き出すだけでは、なかなか消費者に評価されるようにはならないのではないかと考えています。

先に話した、マンションの管理状況だけでなく、例えば省エネ性能や、長期優良住宅に認定された住宅、旧耐震の住宅など、住宅の性能の優劣に応じた適正な価格推定を行うなど、消費者に不動産に対する知識を深める手助けをして、きちんと評価されるようなサービスとしていくことが大切でしょう。

価格推定以外にも、サービスの可能性はまだあるでしょう。買い手がどんな物件を求めているのか解析・カスタマイズし、その客に勧める物件の順番を変えて表示することで、探す時間を節約することができます。

消費者に対して、世の中を便利にしていく手段として、関係者は取り組んでもらいたい。不動産取引を短期で、かつ適正に行えるように、IT技術を取り込む余地はまだまだあると思います。そのためには、これからつくっていきたい不動産市場のあり方について、どのようなものにしていきたいかという思想の部分が大切だと思います。

―― 価格推定サービスが、不動産業界に与える影響についてはどうお考えですか?

私は、不動産仲介というのは、全てがIT技術や情報に取って代わられるものでもないと考えています。私は「アート」と「サイエンス」と呼んでいるのですが、プロの仲介会社が物件を案内して成約に結びつける人間的な部分は「アート」として重要だし、残ると思います。価格推定など統計解析による「サイエンス」によって不動産市場の透明化や迅速化に役立てられる部分もあります。これら「アート」と「サイエンス」が共存してよりよい不動産市場が形成されていくものだと思います。

―― 住宅消費者は、どのように活用していけばいいのでしょうか?

わが国の不動産取引については、不動産会社が持っている情報と消費者が知り得る情報の差が指摘されていました。いわゆる「情報の非対称性」と呼ばれるものです。

価格推定サイトの登場によって、消費者側も不動産価格について比較的客観的な情報が得られるようになったことは喜ぶべきことです。これからは、消費者も不動産会社と交渉する材料を集めるなどして賢い消費者となる必要があるでしょう。そうした際に、こうしたサイトを活用していくことは有効です。

また、当面売却の予定がない人も、自らの所有する不動産の現在価格を気軽に知ることができ、ローン残債と現在価格はどうなっているのか、賃貸に出したらいくらで貸せるのかなど、資産管理や人生設計に役立てることもできるでしょう。
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