古きよき時代の少女の姿がここにある 世田谷で『声かけ写真展』開催中
※5/13編集部追記
当記事で取り上げた『声かけ写真展』について、会場となったIID 世田谷ものづくり学校を運営・管理する株式会社ものづくり学校は5月10日に「多くの皆様に不快を与える内容の展示を許可したことに関して、深くお詫び申し上げます」とする謝罪コメントを発表しています。
2016年5月4日〜8日開催された展示「声かけ写真展」につきまして【IID事務局】
http://setagaya-school.net/FromIID/16168/[リンク]
当記事内の見解は執筆者によるものであり、ガジェット通信を代表するものではありません。
※※以下本文
今からおよそ30年前、日本に『声かけ写真』という文化が存在していた。
聞きなれない言葉かもしれないが、要するにカメラを趣味にする人が、公園や学校などで子どもたち(主に少女)に声をかけて了解をもらい、写真を撮影する、というものである。
言われてみれば、筆者がまだ若いころ、写真誌や新聞の投稿欄にはそのような写真が多く掲載されていた記憶がある。
撮る側も撮られる側も、そこに警戒心など感じなかった、おおらかな時代の文化であったと言えよう。
そんな『声かけ写真』の展示会が開催されるということで、早速行ってきた。
会場は世田谷にある『IID 世田谷ものづくり学校』。実際に、廃校となった学校を利用した施設だ。
今回は、その中の一室で展示が行われていた。
中に入り、受付で入場料1000円を払うとパンフレットがもらえる。これが入場券にもなっており、途中退室もOKだ。
レイアウトはまさに教室そのもの。黒板、ロッカー、教卓、そして生徒用の机とイスが整然と並べられ、その机の上に写真が展示されている。
展示された写真も含め、教室内は撮影可能。ただし、会場の意向と思われるが、窓の外の景色が写ってしまうのはNGとのこと。
あらためて、展示された写真を見ていく。
カラーやモノクロ、サイズも大きいものから小さいものまであるが、そこにはいずれも生き生きとした少女の姿が収められている。
必ずしも笑顔ばかりではない。寂しげな憂いを含んだ表情や、凛(りん)としてカメラを見つめる瞳など。
どこか懐かしさを感じさせる背景や服装とも相まって、郷愁を駆り立てられる。ひとつの時代を切り取った貴重な写真だといえよう。
なお、掲示板のコーナーには、より多くの写真が貼り出されており、一枚100円で焼き増しプリントをしてもらうことができる(別途送料250円が必要)。
今回の展示会を主催した、株式会社土の福田信哉代表と、キュレーターの器具田こする教授にお話を伺うことができた。
-今回の展示会開催に当たっての経緯を教えて下さい。
昨年の年末ぐらいに、「かつて撮られた市井の女の子の写真を今の人たちに見てもらう機会を作りたい」というところから始まりました。
そこで、当時からそのような写真を発表していた方の作品を提供してもらい、今回の開催となりました。
-「声かけ写真」の魅力というのは何でしょうか?
モデルやアイドル、女優といった撮られるプロの人とは違い、間にメディアが介在していない素の姿が見られるところですね。私たちは『モロ少女』、略して『MoRoS(モロス)』と呼んでいます。“本物の少女”や“スレていない少女”という意味合いです。ある意味“野生の少女”と言ってもいいでしょう。
-展示を見たお客様に感じて欲しいのはどんな点ですか?
この展示会のことを知った時点で、何らかの興味や疑問を感じる人が多いのではないかと思っています。
この場所に来てもらうことで、それぞれの疑問に対する回答を見つけてもらえればいいと思います。
-現在は、『声かけ事案』などに発展しかねないことから、この文化は衰退していますよね。その点についてはどのようにお考えですか?
いろいろな点で難しい時代になったと感じています。『声かけ』という言葉だけで、悪い意味にとる方もいらっしゃいますし。
しかし、だからといってかつて撮られた写真が悪いものになるわけではないんです。
その偏見を無くし、作品を残すということをしたかった。
たとえ否定的な意見があったとしても、何もしないよりは行動を起こしたいと思いました。
-今後はどのような活動をしていきたいと考えていらっしゃいますか?
グッズを作りたいですね。マグカップとかペナントとかシールとか(笑)、ノスタルジーを感じるものがいいです。
-開催二日目(取材日は5月5日)ですが、どのような方が来場されていますか?
男性が多いですが、若い女性や、お子様連れの方もいらっしゃいます。
あまり身構えずに、たくさんの方に来て欲しいです。
-ありがとうございました。
実は、インタビュー後、個人的な興味もあり“少女写真の素晴らしさ”について、しばしお話をさせていただいた。
その中で感じたのは、少女というのは、神聖で、はかなくて、不可侵な存在だということ。
『声かけ写真』は、そんな少女の尊い瞬間を切り取った芸術作品であり、未来に向けてそのことを伝えていくタイムマシンのような役割を担っているのではないだろうか。
写真に写っている少女たちも、成長し、母親になり、子供を育てている人も多いだろう。
あの日、撮影したカメラマンに心を許し、笑顔を見せた子も、今では自分の娘に「知らない人に声を掛けられたら逃げるように」と言いきかせているかもしれない。
繰り返しになるが、今、同様の写真を撮ろうとすれば、警察に通報されかねない。
また、撮られる側も(昨今の事件などもあり)、決して無防備に屈託のない笑顔を見せてくれることもないだろう。
多分、時代が変わるというのはそういうことなのだ。
本当のところを言えば、人々の間に信頼感があり、このような写真が数多く撮れた時代があったことを思うと、現代のような状況に一抹の寂しさを感じなくもない。
インターネットもデジタルカメラも無い時代、それでもそこには、現代の日本が無くしてしまった貴重な文化があったのだ。
いつの日かまた、人々の間に信頼感が生まれ、「写真を撮らせて」とお願いすれば、屈託の無い笑顔を見せてくれる時代が来ることを、たとえそれが夢物語だと思いながらも、想像せずにはいられなかった。
『声かけ写真展』
場所:IID 世田谷ものづくり学校
日程:5月8日まで開催(午前11時~午後18時、5月8日は15時まで)
入場料:1000円(パンフレットつき) 中学生以下は入場無料
※トップ画像は『声かけ写真展』公式サイトより http://koekakephoto.strikingly.com/
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(執筆者: プレヤード) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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