高齢者に多い高血圧、降圧薬で副作用の真偽

高齢者に多い高血圧、降圧薬で副作用の真偽

日本老年医学会が「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を公表

日本老年医学会は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)」を公表しました。その中で、高齢者高血圧患者に原則的には適さない、血圧を下げる薬(降圧薬)について表記されています。

高齢者の高血圧の一番の特徴は、いわゆる上の血圧(収縮期血圧)が高く、下の血圧(拡張期血圧)が低いということです。収縮期血圧は、主に体内の食塩の量によって決まり、心臓から出される血液に含まれる水分量(心拍出量)と末梢の手足の血管の収縮によって決まる抵抗(末梢血管抵抗)が関係しています。そのため、塩分の取り過ぎで体内の水分量が増えた時、緊張やストレスにより血管が収縮して手が冷たくなっている時など、収縮期血圧は上がります。

一方、収縮期に心臓から出された血液が大動脈を押し広げますが、その押し戻しによって決まるのが拡張期血圧です。大動脈が柔らかいほど押し戻しが大きいため拡張期血圧は上がり、逆に硬いほど下がります。動脈硬化が進んで大動脈が硬くなってくると、拡張期血圧は下がっていきます。

血管を制御する自律神経が弱まり、血圧が変動しやすい

高齢者の多くは収縮期血圧が上がり、拡張期血圧が下がるので、両者の差(脈圧)は大きくなります。「最近下の血圧が下がってきた」と喜ぶ人もいますが、上の血圧が高いのに下の血圧が下がってきているということは、硬くガラスの様に柔軟性がなくなった血管に強い圧がかかるようなもので、危険な状態です。

高齢者の高血圧のもう一つの特徴は、血管を制御する自律神経が弱くなっているということです。これにより、血圧が変動しやすくなっています。高齢者においては血圧を下げなくてもいいという乱暴な意見もありますが、「日本高血圧学会」では、診察室血圧で150/90mmHg未満、元気な人であれば140/90mmHg未満を推奨しています。

この数字は、日本人における疫学調査によって求められた、心血管病が起こりやすくなる血圧値です。血圧の数値を下げることが目標ではなく、血圧が高いことによって起こる脳卒中や心筋梗塞などの心血管病を予防するという認識が重要です。

降圧薬の副作用を恐れ、高血圧のまま放置する方が危険

このような前提条件の上、降圧薬のリスクについて考えていきます。降圧薬で高齢者に対してリスクが懸念されるのは「非選択的α1遮断薬」「非選択的β遮断薬」「ループ利尿薬」の3種類です。いずれの薬も高齢者では代謝が落ちているため、自律神経の調子が悪くなり、服用すればふらついたりといった症状が出る人がいます。

「ループ利尿薬」は心不全でよく使用されますが、血圧を下げる目的では一般的に用いられません。「日本高血圧学会」では、これらの薬剤ではない「カルシウム拮抗薬」「降圧利尿薬(主にサイアザイド)」「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」「アンジオテンシン受容体拮抗薬」が第一選択薬として推奨されています。その後、その薬剤を組み合わせていきます。

それでも、高齢者の場合、脳卒中など心血管病予防のために積極的に血圧管理はされるべきで、降圧薬の副作用を恐れるあまりに、高血圧のまま放置しておく方がはるかに危険でしょう。適切な降圧薬を選択すれば、安全に血圧管理が行えるということを理解することが重要です。

(大西 勝也/内科医)

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