登録した素材の著作権譲渡は「本意ではなかった」 スパイクの『ニコゲー』が利用規約を改訂

登録した素材の著作権譲渡は「本意ではなかった」 スパイクの『ニコゲー』が利用規約を改訂

9月15日にスパイクがリリースした、ユーザーがブラウザ上でFlashゲームを作成、共有できるサービス『ニコゲー』。現在早くも5000本以上のゲームがユーザーにより作成され、盛り上がりを見せていますが、開始直後にある問題が浮上しました。『ニコゲー』ではグラフィックや音などゲームの素材を公開してユーザー間で共有できるのですが、一部のユーザーからブログや『Twitter』で「公開した素材はスパイクに権利が譲渡されてしまうのではないか」と危惧する声が上がったのです。問題は『ニコゲー』の利用規約にありました。この声を受けて、スパイクは10月28日に利用規約を改訂。最初に公開された利用規約は、何が問題だったのでしょうか。スパイクに取材して改訂までの経緯を聞いてみました。

・利用規約は素材にも及ぶのか
『ニコゲー』は、『ジェネレーター』と呼ばれるツールを使ってゲームを作成します。『ジェネレーター』は、アクション、シューティング、アドベンチャー、クイズなどジャンルごとに用意されており、テンプレートとして用意されたゲームやほかのユーザーが作成したゲームをカスタマイズしてゲームを作ることも可能。ゲームには、自分やほかのユーザーが作成したグラフィックやサウンドなどの素材を『素材おきば』から取り込んで使うことができます。

ゲームづくりに自信がないユーザーは、素材の作者として参加することもできるのが特徴なのですが、あるユーザーが素材を公開後、利用規約の下記の部分に注目しました。

*****
「ニコゲー」における利用者の制作した作品に関する著作権については、利用者が投稿した時点においてその一切が運営会社に無償にて譲渡されるものとし、運営会社は当該作品を利用した出版等のあらゆる事業を行うことができます(著作権法27条及び28条に規定される権利も運営会社に譲渡されます)。ただし、運営会社は当該作品について、制作を行った利用者自身が利用することを許諾するものとします。利用者は当該作品に関して、運営会社及び運営会社が指定する者に対して、著作者人格権を含めいかなる権利の主張及び行使も行わないものとします。
*****
『ニコゲー』利用規約(改訂前)の「8. 運営会社の対応」から引用

ここで言う「作品」とは、『ニコゲー』で『ジェネレーター』を使って作ったゲームのことを指しますが、そのゲームを構成する素材についても、著作権がスパイクに譲渡されると解釈したのです。この利用規約を問題視したユーザーがブログ記事や『Twitter』のツイートで指摘すると、ネットでは規約の内容に疑問の声が多く上げられました。

・「本意ではない」解釈だった
スパイクは、この騒ぎを『Twitter』とユーザーからの問い合わせで知り、9月18日に『ニコゲー』のお知らせページで下記のようにアナウンスしました。

*****
【お知らせ】利用規約に関して
一部ユーザーの方から利用規約に関してご質問ご意見を頂いております。
頂いたご意見をもとに確認しましたところ利用規約に説明不足の部分があり、ユーザーの皆様に誤解を受ける内容でありました事をお詫びいたします。
弊社としては本意ではない部分ございますので、取り急ぎ皆様の懸念に関してご回答させて頂きます。

・ユーザーがニコゲーにアップした自分で作成した素材を、ニコゲー以外で使用する事に関してスパイクは制限(権利主張)をいたしません。
※ただしニコゲーの名称等を使用し、商用利用される場合は個別に相談の上とさせて下さい。

上記内容を含め利用規約の改訂を行ってまいりますが法的な確認作業がございますので、少々お時間を頂きたく思いますのでお待ち下さい。
引き続きニコゲーをよろしくお願いいたします。
*****
『ニコゲー』 9月18日『ニコゲーからのお知らせ』ページより引用

ここで言う「本意」とは何だったのでしょうか。スパイク ニコゲーグループマネージャーの配野良太氏は「スパイクとしては、ユーザーが作った素材はユーザーのもの。どこに提供しようが自由だと考えています」と語り、素材の権利が譲渡されるという意図はなかったと説明します。「規約の内容が本意とずれていたことは申し訳なかった」ともコメント。

この規約が作られた意図は、素材を公開したユーザーがその素材の権利を他社に譲渡した場合、権利を譲り受けた他社が『ニコゲー』に権利を主張して、使用料の支払いなどを求めるような事態を避けることにあったようです。他社が権利を主張する事態が発生した場合、「その素材を使ったユーザーに迷惑がかかる。スパイクとしてはユーザーの利益を最優先に考えたい」(同氏)ことから、「譲渡」という表現を用いることのない内容で、規約の改訂が検討されました。

・「譲渡」から「ライセンス」へ
改訂した規約では、権利はスパイクに「譲渡」されるのではなく、「ライセンス」されるという内容になっています。

*****
利用者アカウント管理のシステム上自動的に生成される属性情報
1. 利用者は、ゲーム素材を投稿することにより、運営会社に対し「ニコゲー」における利用、複製、配布及び派生著作物の作成、並びに「ニコゲー」のプロモーション活動、その他運営会社が指定する媒体及びサービスにおける表示及び再配布について、投稿素材に関する、非独占的、世界的、永久的、無償、サブライセンス可能及び譲渡可能なライセンス(著作権法27条及び28条に規定される権利を含む)を付与するものとします。
2. 利用者は、投稿素材に関し、上記ライセンスを付与するために必要な権原を有することを保証するものとします。
3. 利用者は、本利用規約に基づく投稿素材の利用に関し、運営会社及び運営会社が指定する者に対して、著作者人格権を含めいかなる権利の主張及び行使、並びに金銭その他の請求を行わないものとします。
4. 投稿素材に関する上記ライセンスは、①の規定に関わらず運営会社が投稿素材を削除した時に終了するものとします。利用者は、運営会社による投稿素材の削除について、運営会社に対して異議を唱えないことに同意します。
5. 運営会社は、「ニコゲー」及び運営会社が指定する媒体及びサービスにおいて、他の利用者が投稿素材を利用することを許諾するものとします。
*****
『ニコゲー』利用規約(改訂前)の「3. 投稿したゲーム素材の取り扱いについて」から引用

素材を公開するユーザーは、スパイクに素材を『ニコゲー』内で利用できるようにライセンスし、スパイクは『ニコゲー』ユーザーにこの素材の利用を許諾する、という内容になっています。

利用規約を問題視して、公開した素材の削除を要請していたユーザーに対しては、いったん個別対応で素材を削除。スパイク側の意図を理解してもらい、再度公開してもらうことになったそうです。

・ゲームのアイデアはどうなるのか?
グラフィックや音の素材については、ユーザーが権利を持ち、『ニコゲー』にライセンスする形で利用されることが分かりました。では、『ジェネレーター』を使って作ったゲームの“アイデア”は、どのような扱いになるのでしょうか。

配野氏によると「これも譲渡ではなくライセンスになる」とのこと。たとえばゲームアイデアをほかのゲーム会社に譲渡することも問題はないですが、その他社がスパイクに権利を主張してくることは避けたいという考え。スパイクがゲームのアイデアを利用する可能性については、「『ニコゲー』で公開されたゲームのアイデアを抽出してスパイクがゲーム化するのでは、と言われていますが、そんなことは考えていません。もし利用したいアイデアがあったら、ユーザーに個別に相談させてもらいます」と、公開されたゲームのアイデアをそのまま流用する考えはないと主張します。

改訂後の規約には、下記の「制作したゲームコンテンツの取り扱いについて」という項目が追加されています。

*****
利用者アカウント管理のシステム上自動的に生成される属性情報
1. 利用者は、制作コンテンツを公開することにより、運営会社に対し「ニコゲー」における利用、複製、配布及び派生著作物の作成、並びに「ニコゲー」のプロモーション活動、その他運営会社が指定する媒体及びサービスにおける表示及び再配布について、制作コンテンツに関する、非独占的、世界的、永久的、無償、サブライセンス可能及び譲渡可能なライセンス(著作権法27条及び28条に規定される権利を含む)を付与するものとします。
2. ゲームの制作に利用する投稿素材に関する知的財産権及びその他の権利は、当該素材を投稿した利用者に帰属するものとします。また、ゲームの制作過程において運営会社が提供するプログラムに関する知的財産権及びその他の権利は、運営会社に帰属するものとします。
3. 利用者は、本利用規約に基づく制作コンテンツの利用に関し、運営会社及び運営会社が指定する者に対して、著作者人格権を含めいかなる権利の主張及び行使、並びに金銭その他の請求を行わないものとします。
4. 制作コンテンツに関する上記ライセンスは、①の規定に関わらず運営会社が制作コンテンツを削除した時に終了するものとします。利用者は、運営会社による制作コンテンツの削除について、運営会社に対して異議を唱えないことに同意します。
5. 運営会社は、「ニコゲー」及び運営会社が指定する媒体及びサービスにおいて、他の利用者が制作コンテンツを利用することを許諾するものとします。
*****
『ニコゲー』利用規約(改訂前)の「4. 制作したゲームコンテンツの取り扱いについて」から引用

利用規約の内容が問題になった騒ぎは、今回の規約の改訂で収束することになりそうです。ユーザーが安心して素材やゲームを公開し、今後も数多くのゲームを遊べるサイトとして盛り上がっていくことに期待したいと思います。

ニコゲー

■関連記事
スパイクがFlashゲームを作って共有する新サービス『ニコゲー』をリリース
『ニコニコ動画』がどこかで見たことのあるポータルサイト風にリニューアル(大会議前編)
本日オープン! 『ニコニコ動画』のニュースサイト『ニコニコニュース』編集部にインタビュー 20代ユーザーはニュースを読んでくれるのか?
子どもだけにはもったいない!? ブラウザでカンタンにプログラミングできる『プログラミン』
「この時間泥棒!」なFlashゲームがiPhoneアプリになって登場! 『iマモノスイーパー』

  1. HOME
  2. ゲーム
  3. 登録した素材の著作権譲渡は「本意ではなかった」 スパイクの『ニコゲー』が利用規約を改訂

shnsk

宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

ウェブサイト: http://mogera.jp/

TwitterID: shnskm

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。