「免許更新時の講習を受けると事故が減る」ってホント? ”規制バスター”原英史さんにきく道路の規制たち

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原英史さん

あなたは自動車免許を持っていますか? 免許を取ると、3年毎にやってくる”免許更新”(優良運転者は5年)。この当然のようにやってくる”更新”という行事も、よく見てみると疑問な点があります。規制問題に詳しい政策工房の原さんと、今回は免許更新に潜む謎に斬り込んでみます。

登場人物
原=原英史さん(政策工房)
ふかみん=ききて:深水英一郎(ガジェット通信)

原さんプロフィール:
原英史(はらえいじ) 1966年東京生まれ。東京大学法学部卒、米シカゴロースクール修了。89年通商産業省入省、07年から安倍晋三、福田康夫内閣で渡辺喜美・行政改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月に退官後「政策工房」を設立。政策コンサルティングをスタート。近著に『官僚のレトリック』(新潮社) 10年10月、国際情報誌『SAPIO』にて連載開始。

【そもそもなんで更新が必要なの?】

原:なんで更新が必要か、という疑問に対する、警察庁の公式な説明があります。お役所言葉でわかりづらいのですが、かいつまんで言えば二つ理由があるということです。まず、ひとつめ。

1)道路交通法令について、新しい知識を身につける

交通に関する法令がときどき変わることがありますよね。例えば、シートベルトを必ずつけなくてはいけなくなった、とか、後ろの座席もシートベルトが必要になった、とか。最初に免許をとったときとは法令が変わっていることがある。そして、二つ目。

2)安全意識を高める

免許更新にいくと、ビデオを見たりします。あれで安全意識を高めます、ということです。

ふかみん:確かにビデオ見せられますね。あれに意味があるとは思えないですけども。

原:まずひとつめの”法令改正があるから”という理由。聞いた途端におかしいと気付く人もいるかと思うんですけども、更新の時にそれをきいて意味がありますか? という話なんです。知らないで運転してたらその間に捕まっちゃうじゃないですか。

ふかみん:前回の更新直後に法令改正があれば、最長3年間、改正のことを知らない期間ができてしまいます。

原:そうなんですよ。それは免許更新時に教わるのではなく、例えばテレビCMを流すなど、他の方法で知らせたらいいわけです。

ふかみん:免許更新時の講習でそれをやるという事にこだわるのはどうも変です。

原:そしてもう一つ、”安全意識を高める”という点。これもまた妙で、ビデオを見せられて、安全意識が果たして高まるのかというのが疑問です。

ふかみん:ビデオや講習自体が形骸化してる気がしますね。僕が更新したときは「左折のとき右にふくらむのは意味ないです」というビデオを30分ほど見せられた記憶があります。豆知識としては面白かったんですけど。”法令改正”にせよ”安全意識”にせよ、常に意識すべきことであって、3年に1度おこなえばよいという性質のものではない気がしますね。

原:免許にもいろいろあって、お医者さんの免許や、学校の先生の教員免許などもありますよね。教員の免許って、もともと更新はなかったんですが、今、更新にする、しないでモメてます。現在は”更新する”ということになってるんですが、民主党政権は昨年の選挙のときに、またそれを”更新やめる”にするという話をしていました。教員免許については更新についての議論がまだおこなわれている状況です。

ふかみん:政治に振り回されて学校の先生達も大変ですね。

原:お医者さんの免許については、全く更新はおこなわれていません。さきほどの”法令改正”や新しい技術、意識を高めるなどといった話に関しては、お医者さんこそ必要だと言えるんじゃないでしょうか。新しい医療技術が出てきたり、倫理の問題、例えば”脳死”の問題などについての新しい情報がでてくるわけです。勉強せず、最新の情報も取り入れないままのお医者さんがいるかもしれない。それってすごく危険じゃないですか?

ふかみん:常時情報をアップデートしておいて欲しいなぁ。

原:どうしてお医者さんの免許は更新不要で、自動車免許は更新が必要なんでしょうか? お医者さんの方がよっぽど必要なんじゃないでしょうか? 自動車免許に関して、ご年配の方が、例えば70歳など決められた年齢に達したとき一回チェックしましょうよ、という話であればまだわかりますけども。いずれにせよ3年、優良ドライバーでも5年という更新間隔は狭すぎる。

ふかみん:免許更新に関してひとつ思ってたのは、もし無期限にしてしまうと、警察はその人が亡くなってしまったことを把握できないんじゃないかということです。亡くなったら近所の役場に届けを出しますが、役場が持ってるデータと警察が持ってるデータってリンクしてないから、一度免許とらせてしまうと、警察側にずーっとデータが残ってしまう。だから定期的に生きてるかどうか確認して、更新に来なかったら消す、という作業が必要なのかなと。「僕は生きてるよ」というのを免許センターまで出向いて知らせに行く。更新の意義としてはそれぐらいしか思い当たるところはないですね。しかもわざわざ平日などに休みをとって免許センターまででかけて行列に並んでお金とられるという。

原:本来は役所と警察のデータがリンクしているべきですね。やったらやったで大変なことになりそうですが。

ネクタイと原英史さん

【講習を受けると事故が減る?】

原:警察庁がよく使うデータっていうのがあって、それは「免許更新時の講習を受けると、事故が減ります」というものなんです。

ふかみん:事故が減るんですか。

原:10年前ぐらいのデータなんですけども。講習を受けた後2年間の事故の件数をとると5.8%減ってますというんです。

参考) 運転免許証の更新制度の効果等に関する調査結果について
http://www.npa.go.jp/koutsuu/menkyo/tyousa.htm

ふかみん:それが講習のおかげか、というところがキモですね。

原:講習のおかげなのかは全然わからないんですよね。そのデータだと、特に免許とりたての人や、重大な事故を起こしていた人の場合、飛躍的に事故件数が減少するということらしいです。

ふかみん:重大事故を起こした人の事故件数がさらに増えるなんて考えにくいですね。

原:この考え方でいけば、優良運転者に関しては、”飛躍的に”事故が増えているはずです。過去に事故を起こしていない人が優良運転者として更新時に優遇されるわけですから。

ふかみん:調査の対象となっている過去2年間、優良運転者は事故が0件ですから、そこからはもう、増えるとしか考えようがないですね。警察庁は、なにやらうさんくさいデータを根拠にして主張を展開しているわけですね。

原:5.8%という数字だけをとって、これがすべて講習の成果だというのであれば、優良運転者にとって講習は事故を増やすものである、ということができるわけです。

ふかみん:(笑)そもそも特定の集団をトレースすれば運転経験を積むことによって事故は減っていくことになるんじゃないかなぁ。それをすべて講習のおかげであると結論づけたその調査結果は、そもそも結論ありきではないかという気がします。

原:そういう”数字”を出されて言われると、もっともらしいと思ってしまうものなんですよね。でもよく考えると説明になってないんです。

微笑む原英史さん

【それでは改めて。何のために免許更新があるのか】

原:じゃぁ自動車免許の更新が必要なホントの理由ってなんなんでしょうか、ということなんですけども。これが理由ですという断言はできないんですが、いろんなところで言われているのが『交通安全協会』の存在です。これは、事業仕分けでも問題になってきています。

ふかみん:『交通安全協会』って何をやってるんですか。

原:免許更新に行くと、お金集めているところがあるでしょ?

ふかみん:昔、窓口で協会にお金払うかどうかきかれました。

原:「年500円の会費で、3年分1500円払ってください」などと言われるあれです。

ふかみん:窓口で払わないといったら、なんで払わないのかときかれたことありますよ。

参考)交通安全協会の会費徴収方法に係る適正化について(PDF)
http://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/kouki/kouki20060425.pdf

原:「任意です」と言ってくれるところはいいんですけど、昔は言ってくれないところもありました。「交通安全協会費を払ってください」と、当然のように言われたり。こっちは「警察の部局なのかな?」と思って払ってしまうこともあるわけです。でもこれって、公益法人なんですよね。

ふかみん:警察とは別なんですね。

原:払っても何のメリットもないんですよ。

ふかみん:う~ん、そもそも『交通安全協会』って何のための組織なんですか?

原:民間団体なんですが、警察と表裏一体。端的に言えば『天下り団体』です。とても大きな組織です。中央の交通安全協会があって、その下に都道府県レベル、その下には警察署ごとの組織があります。それぞれのレベルに於ける警察の人達の天下りを受け入れる組織なんです。中央のトップは元警視総監。常勤の理事は警察幹部です。

ふかみん:警視総監といえば、警察官僚の頂点ですね。

原:都道府県や警察署レベルになってくると、そういうクラスの警察の人達が入ってくるわけですよね。で、中央の全日本交通安全協会ってところは免許更新の講習で配られるテキストをつくったりしている。テキスト制作を一手に引き受けているんです。

ふかみん:一手に?

原:はい。

ふかみん:あのテキストって全国共通なんですか?

原:全国共通です。

ふかみん:すごい部数じゃないですか。

原:隠れた大ベストセラーですよ。

ふかみん:雑誌の日本一が1000万部を超える日本自動車連盟の『JAFメイト』だという話はきいたことがありますが……こちらもデカいでしょうね。3年に一度、免許保持者は必ず手にするわけだから。

原:1400万部発行して、年間32億円の収入を得ていますね。

参考)行政刷新会議ワーキンググループ「事業仕分け」運転免許の更新時講習
http://www.cao.go.jp/sasshin/shiwake/detail/gijiroku/a-27.pdf

ふかみん:え、お金はどこから?

原:国民の払う更新手数料です。

ふかみん:みんなが任意の協会費を払わなくなっても、そっちで収入があると。

原:免許更新をしょっちゅうやって、教材をバラ撒いておけば自動的にお金が入ってくる仕組みですね。協会費を集めることでお金がさらに入ってくる。分かりやすく言えば、そこから天下りの人達がお給料を貰っているという構図ですね。そこでもし更新間隔が10年などになってしまうと、免許センターに集まる人の数が今の3分の1程度になってしまいます。

ふかみん:商売あがったりですね。

原:そうなるといきなり収入も激減してしまう。

ふかみん:それにしてもすごい仕組みですね。平日仕事をしている人ならわざわざ休みをとって免許センターまで更新しに行ってたというのに。どんだけ膨大な時間とお金がそこで消えていったんだろう。

(つづく)

原さんへの質問と回答をこちらへまとめました。ひきつづき原さんへの質問も募集しています。

原さんの連載「おバカ規制の責任者出てこい!」は国際情報誌『SAPIO』に掲載されています。こちらもチェックしてみてくださいね。

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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