『2020年、日本が破綻する日』
今回は城繁幸さんのブログ『Joe’s Labo』からご寄稿いただきました。
『2020年、日本が破綻する日』
『2020年、日本が破綻する日(日経プレミアシリーズ)』 小黒 一正著 日本経済新聞出版社
http://www.nikkeibook.com/book_detail/26092/
本書について、既に各所(ここ *1 とかここ *2 とか)で本職の方が取り上げているので、いまさらながらという気もするが、紹介しておこうと思う。
*1 :「「埋蔵金」の正体は国債」 池尾和人 『アゴラ』
http://agora-web.jp/archives/1096708.html
*2 :「財政危機は世代間対立である − 『2020年、日本が破綻する日』」 池田信夫 『アゴラ』
http://agora-web.jp/archives/1087441.html
『世代間格差ってなんだ』の共著者である小黒氏の新刊だ。世代間格差という大きなテーマに沿いつつ、財政と社会保障の課題と改革の方向性について解説する。
本書も指摘するように、日本の財政が急速に悪化している原因は、増大する社会保障給付にある。1975年に給付12兆円、保険料収入10兆円に過ぎなかった社会保障予算は、2007年には給付91兆円、保険料収入57兆円の規模にまで拡大し、公費で負担しなければならない差額は34兆円にまで拡大した。しかも、この差は、毎年約1兆円ずつ拡大すると予測されている。
医療や年金といった社会保障の見直しもせず、かといって保険料引き上げや増税による財源確保にも手をつけないことで、何が起こっているか。聖域なきコストカットの対象とされているのは、教育や子育てといった現役世代向けの給付である。著者の言うとおり、まさに“二重のツケの先送り”というわけだ。
そういった負のスパイラルを断ち切るためには、社会保障を一般財政から切り離し、財源を規定する“ハード化”が必要だというのが、本書の提案である。制度としては、賦課方式ベースから事前積立方式への移行が望ましいとする。高齢者にとっては、社会保障の見直しも財源確保もされない方がトクだろう。今の日本ではどうやっても給付カットにつながるからだ。そういう意味では、政治がこの問題に目をつぶるのも当然かもしれない。
もっとも、既に終わりは見えている。多くのエコノミスト同様、著者も2020年に家計が財政をファイナンスできなくなると予測し、それまでに何らかの異変が起こると指摘する。ただ、ギリシャの例を見ても分かるように、必要なあるべき改革は、そういう形で危機が顕在化しない限り不可能なのかもしれない。
非常に充実した内容で、ある程度関心のある人から学生まで、幅広い層に推奨できる良書だ。
さて、本書では全編通じて、様々な“民間信仰”について、オーソドックスな立場からの解説が加えられている。以下、よく目にする迷信とそれに対する回答をピックアップしてみよう。
・「景気回復まで財政再建は進めるべきではない」
→不況だから安定しているにすぎない。むしろ好況になればより痛みは大きくなる。
・「経済への影響から、段階的な増税が望ましい」
→むしろ一度に増税した方が、経済的損失は少ない。
・「国の債務は、資産を引いた純債務でみればそれほど多くはない」
→売却できない河川や道路、企業であれば負債に計上すべき年金預かり金までカウントするのは間違い。さらには、社会保障における暗黙の債務1150兆円を、これからの世代は負担しなければならない。
・「なんだかんだいっても、厚生年金は払った以上に返ってくる仕組みだ」
→企業負担分は結局は本人負担と同じであり、そう考えると45歳以下は既に払い損。
・「借金してでも景気対策を優先すべき」
→政府借金の増加で世代間格差が拡大すると、経済成長率は低下する傾向がある。
前回の参院選に際し、若者マニフェスト策定委員会の出した各党マニフェスト採点において“みんなの党”の財政・社会保障政策に対する評価があまり高くはなかった(11党中5番目)。結構、あちこちで理由を聞かれる。確かに、小さな政府を目指す政党なので若年層にとっては魅力ある政党には違いないのだが、“みんな”の一部の政策は上記のようなスタンスからは若干ずれたものだ。
特に“純債務でみれば財政危機ではない”といって財政再建を先延ばしにするのは、若手からすればとうてい看過できない誤魔化しである。何か別の意図があるのだと思うが、自民党などがきっちりとオーソドックスな政策を打ち出している以上、我々としてはその部分は減点せざるを得ない。これが、同党の評価を下げた理由である。
執筆: この記事は城繁幸さんのブログ『Joe’s Labo』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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