Salyu「話したいあなたと」第一回:オカモトレイジ(OKAMOTO’S)

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2014年から続くデビュー10周年のメモリアルシーンズを迎えているSalyu。天賦の才を感じさせるその歌声で、日本のポピュラーミュージックシーンにおいて孤高と言っても過言ではない立ち位置を築いている彼女の魅力を多角的にひも解く全4回にわたる対談企画を始動する。第1回目のゲストはかねてからSalyuの大ファンだと公言しているOKAMOTO’Sのオカモトレイジ。この日が初対面だったふたりだが、実に微笑ましいクロストークが繰り広げられた。

 

——ふたりは正真正銘の初対面ですか?

Salyu「はい、初対面ですね」

レイジ「フェスの出演日が同じだったことはあるんですけど、なかなかタイミングが合わずご挨拶できなくて」

——でも、レイジくんはずっとSalyuさんのファンだったと。

Salyu「それホントなんですか? ありがたいです」

レイジ「いや、もう、こちらこそって感じです。前からSalyuさんの歌がすごく好きで、バイトしてるときに聴いてました(笑)」

——なんのバイト?

レイジ「お寿司屋さんですね」

Salyu「これまた意外な(笑)」

レイジ「お寿司屋さんと言っても、チャリに乗って店のチラシをいろんな家にポストインしてたんですけど。そのころよく聴いて癒されてましたね」

Salyu「あははははは」

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——ある日、僕のiPhoneにレイジくんから動画が送られてきたんですよ。それは彼がカラオケでSalyuさんの曲を歌ってる動画で(笑)。「to U」とか。

レイジ「ありましたねー!」

Salyu「これまた意外な(笑)」

——これでもかっていうくらいのファルセットで。たぶんあれ原曲キーでしたね。

レイジ「バリバリ原キーっすね。一昨日もカラオケに行って“Tower”を歌いましたよ」

Salyu「おもしろい!(笑)。レイジくんはコーラスのファルセットも美しいですよね。ドラムを叩きながらブレのないコーラスをしてるなって」

レイジ「え! ライブを観てもらってるんですか!?」

Salyu「観てますよ」

レイジ「ありがとうございます。超うれしいです」

——Salyuさん、レイジくんの印象はどうですか?

Salyu「日常ではあまり出会うことのない雰囲気を持った青年だなって(笑)。今おいくつですか?」

レイジ「来年(2015年)の1月9日で24歳になります」

Salyu「お若いですね。24歳くらいの青年と話すことってあまりないんですよ。サポートのバンドメンバーもお兄さんが多いし。お肌がきれいですね。そこにまず感動です」

レイジ「ホントですか(笑)。ありがとうございます」

Salyu「さっきフェスで一緒になったという話が出ましたけど、バックステージにケータリングがあるじゃないですか。そこのドアがあって、開けたときにハマ(・オカモト)さんがいらっしゃったんですよ。そのときに丁寧に『どうぞ』って譲っていただいて。なんてジェントルな青年なんだって思ったんですよね。素晴らしいマナーをお持ちなんだなって。それで、ライブを観たらすごくカッコいいロックサウンドを鳴らしてるから『なんだこの人たちは!?』って思いました。そのギャップがまたミステリアスというか。ライブだけを観たらやんちゃなイメージなんだけど」

レイジ「いきなりめっちゃ褒められてありがたいです」

Salyu「私は人としてのマナーがきちんとしてる人って音楽も素晴らしいと思うんですよ。絶対にそこは共通してると思っていて。素晴らしい音楽家は人間性も素晴らしい。ま、人間性がよくなくても音楽性がいい人もたまにいますけどね(笑)」

——確かにOKAMOTO’Sは両方を兼ね備えてますよね。

Salyu「そう思います。生意気な言い方になりますけど、とにかく演奏がうまいですよね。プレイヤーとして成熟してるなって」

レイジ「ようやく渋い演奏ができるようになったんですかね。昨日、僕は新宿の路上でウンコを踏んだりしてるんですけど(笑)」

Salyu「あはははは。それはしょうがないよね(笑)。でも、これだけみんな演奏力があって人間性も素晴らしいって奇跡的だと思うんですよ。みなさん幼なじみで学校が一緒だったんですよね?」

レイジ「中1から一緒ですね。バンドは中3からやってます」

Salyu「和光学園ですよね。不思議な学校ですよね。いろんなアーティストを輩出していて」

レイジ「小山田(圭吾)さんや小沢(健二)さんやスケシン(SKATE THING)さん、あとTHE BAWDIESも和光の先輩ですね」

Salyu「いい先輩がいっぱいいますね」

レイジ「校風自体はべつに音楽に力を入れてるわけじゃないんですけど、日本でいちばん休みの多い学校なんですよ。365日中120日くらい休みみたいな。だからやりたいことを見つけた子は伸びる学校だと思うんですよね。やりたいことをとことんやれる学校というイメージが強いですね。でも、やりたいことを見つけられないやつはとことんダメになる」

——中高から大学生みたいな生活を送るような感じなんですかね。

レイジ「そう、ホントに大学みたいでしたね。自由だけど、自由をはき違えるとロクなやつにならないっていう。俺が父親に言われて印象的だったのは、『勉強しないでバンドやるんだったら、勉強するやつが東大に行くレベルでがんばらないとダメだよ』っていう言葉で。それくらい音楽を聴き込んで練習しなさいと。確かにそれはそうだよなって思いました。だから好きなものを見つけられてよかったですね。音楽は一生聴けるし、演奏できるし、自分次第で引退しなくてもいいから。最高だなって思います」

Salyu「ホントそうだね。なぜみんなが学生時代から岡本太郎さんに惹かれてOKAMOTO’Sというバンド名をつけたか訊きたかったんです。そういうところも早熟だなって思うから」

レイジ「もちろん岡本太郎の好きな作品はいっぱいあるんですけど、彼を芸術家として捉えてるというよりは、俺らにとっては仮面ライダーがカッコいい、ロボットがカッコいいなど、男の子が夢中になってしまう世界観を作り上げてるヤバい人みたいな感覚なんですよね。うちの母親が岡本太郎のことが好きで、小さいころから演説のCDなんかを聴いてたというのもあるんですけど。家に岡本太郎関連の本もいっぱいあって。だから、一般的な人が思う岡本太郎のイメージとはちょっと違うのかなって思います」

Salyu「なるほどね。日常的なヒーローみたいな感じだったんだ」

レイジ「そうですね。画集で『森の掟』を見て子ども心にすげえカッコいいなって思ってました。たしかOKAMOTO’Sっていうバンド名を僕が提案したんです。『ラモーンズみたいにみんなオカモトって名前についてたらカッコよくない?』って。ラッキーなことに岡本太郎財団の方たちにも喜んでもらえて。最初は絶対に怒られると思ってたんですけど(笑)」

Salyu「素敵なエピソードですよね」

レイジ「2011年が岡本太郎生誕100周年だったんですけど、そのときに『太陽の塔』のなかにも入らせてもらったりして」

——「太陽の塔」にしても何度見ても圧倒されますよね。

レイジ「異常だし異様ですよね。それが最高にカッコいいなって」

Salyu「20代のころにある先輩から岡本太郎さんの『今日の芸術』という本を勧められて読んだことがあるんですけど、そのときはあまりピンとこなかったんです。でも、今日レイジくんと会うからあらためて読んでみたら、すごく感動して。こんなにも愛情と情熱と怒りに満ちてる人がいたんだ!って。カッコいいし、生意気ですけど、ちょっとかわいらしいとも思って。それで、OKAMOTO’Sってバンド名をつけたことにも興味が湧いたんです」

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——レイジくんがSalyuさんの音楽に惹かれたのは自分の音楽的なルーツを重なるところもあったんですか?

レイジ「意外と俺は女性シンガーの曲ってそんなに聴いてこなかったんですよ。ビョークも通ってないし。だから、Salyuさんはちょっと特別ですね。YUKIさんや好きな女性ポップシンガーもいるんですけど、Salyuさんはまた違うベクトルというか」

Salyu「ありがとうございます。赤い公園の津野(米咲)さんも好きだと言ってくれて」

レイジ「そうだ、米咲ちゃんもめっちゃSalyuさんのこと好きですもんね」

Salyu「若いミュージシャンのみなさんが自分の音楽を好きでいてくれるのはうれしいですよね」

——Salyuさんの学生時代は音楽とどういう接し方をしていたんですか?

Salyu「私はレイジくんとは全然違う感じですね。レイジくんたちはいわゆるイケてる学生って感じだったと思うんだけど。和光で、私服で、好きなことのために自由に時間を使うみたいなね。でも、私は地味というか、小さいときに音楽を始めたきっかけはピアノだったんですよ。それから合唱団に入るのね。まず合唱団というところが人種としてロックな感じとは違うから」

レイジ「そうでしょうね」

——合唱団にはご自身の希望で入ったんですか?

Salyu「歌を始めたきっかけが、肺炎になって入院したという背景があって。それで病院の先生が親に『水泳や歌をやるといいですよ』って言ったらしいんですね。私自身、歌をうたうのが大好きだったし、それで合唱団に入って。あと、小さいころからすごくシャイだったんですよ」

——人見知りだったり?

Salyu「今でもそうですね。気さくなお姉さん風を装ってますけど(笑)。合唱団って同い年くらいの小さな子から大人のお姉さんまで世代を超えてたくさんの女性がいるわけですよ。私はそのなかでずっとオロオロしていて。だけど、今でも合唱団に入ってよかったなって思うことは、リアルタイムにあらゆる方向から人の声がサラウンドで聴ける体験ができたこと。それと、合唱が響く音のスペースを体感できたこと。それは大きいですね。大人の女性を見て、私もああいうふうになりたいなって憧れの対象がすぐそばにいたのもよかったし。そのころから私は声や音の響きというものにずっと執着してるんです。“響きオタク”みたいなところがあって」

レイジ「“響きオタク”っていうフレーズいいですね。ピアノもずっと続けていたんですか?」

Salyu「中学までやってたんですけど、歌とピアノを同時にやることができなかったんですよ。だから今でも弾き語りができなくて。私のなかで別ものだったんですよね。歌には歌のおしゃべり、ピアノにはピアノのおしゃべりがあるみたいな。違うものとしてそれぞれの道の先生に習っていて、一緒にやるという発想自体が生まれなかった」

レイジ「へえ!」

Salyu「だから私はピアノでもギターでも弾き語りできる人を尊敬するんです。ドラムを叩きながら歌える人もそうだし」

——それこそレイジくんはSalyuさんの曲を歌いながらドラムの練習をしたことがあるって言ってたよね。

レイジ「そうそう。ひとりで練習するときに」

Salyu「え!? ホントに?(笑)」

レイジ「ホントです。歌のうまい人の曲のドラムってどういう感じなんだろうと思って。カラオケしながらドラムの練習するみたいな感覚で(笑)。楽しいですよ」

——Salyuさんが小林武史さんと出会ってポップミュージックのフィールドにいくまでにはどういう経緯があったんですか?

Salyu「中学で合唱もピアノもやめて、オーディションを受けるようになったんですよ」

——きっかけはなんだったんですか?

Salyu「ピアノはなんでやめたか覚えてないんですけど、歌に関しては合唱団を経てだんだんソロで歌うことの興味が芽生えてきて。雑誌にオーディションの情報が載っていて、こういう窓口があるんだって知ったんです。率直に私もトライしてみたいなって思って。そのころ学習塾に通ってたんですけど、そこの先生がすごくいい人で。その先生には『私は歌手になりたいからあまり勉強したくないんです』って言ったことがあって。そしたら、その先生が『応援してあげるよ』って音楽学校の資料とかを用意してくれたんですよね」

レイジ「すげえいい先生ですね」

Salyu「『でも、私は音楽学校には行きたくない』って言ったら、今度はいろんなオーディションの情報を集めてくれて。そのなかのひとつに当時、秋元康さんがやっていたオーディションがあって。受けてみたら最終選考まで行っちゃったんですよ」

レイジ「すごい」

Salyu「最終審査で秋元さんにお会いしたときは『うわー! ボスキャラが出てきた!』みたいな感じでしたよ(笑)。結局そのオーディションには受からなかったんだけど、そのあとソニーミュージックのSDっていうアーティスト育成部を通じて小林武史さんに出会ったんですよ」

レイジ「そんな経緯があったんですね」

Salyu「OKAMOTO’Sはオーディションって受けたことないでしょ?」

レイジ「OKAMOTO’Sではないですけど、ズットズレテルズという別バンドでは閃光ライオットっていう10代限定のオーディションを受けたことがあって。そこで決勝までいったんですよ」

Salyu「それは遊び半分で受けたという感じ?」

レイジ「そうですね。優勝賞金の100万円がほしくて。ぶっちぎりで優勝できると思ってたんですけど、決勝までいったときに『ああ、俺たちは悪役だから優勝できないな』と思って。ほかの出場バンドのなかでは明らかに浮いてたから。自分たちではいちばんカッコいい音を鳴らしてると思ってるんだけど、お客さんはポカーンとしてるし。今ではあそこで優勝しなくてよかったなって思ってますけどね」

Salyu「もし優勝して100万円もらったら何に使うつもりだったの?」

レイジ「なんの宣伝もないのに広告スペースを買って、みんなのなんてことのない写真を載っけたいと話してましたね(笑)。それはやりたかった」

Salyu「OKAMOTO’Sの前に別バンドで活動していたんですね」

レイジ「ズットズレテルズってOKAMOTO’Sの前身バンドって勘違いされがちなんですけど、OKAMOTO’S自体は中学3年のときからあって。高3のときに当時のベース(オカモトマサル=吉田匡)と今のギター(オカモトコウキ)が受験のために勉強しなきゃいけなくなって。一旦活動を止めたんですね。そのあいだ俺らは暇だし、大学にも行くつもりがなかったから、別のバンドやろうかという話になって。そこにハマくんと沖縄に住んでいた幼なじみのラキタってやつを呼んで。あと地元のラッパー2人(呂布とドカット)を加えて、OKAMOTO’Sのボーカルの(オカモト)ショウがズレテルズでも歌うと区別がつかなくなるからという理由でパーカッションをやってもらって。それと、後輩のヒデちゃんっていう変わり者も入れて7人でヒップホップファンクみたいなバンドを結成したんです。100万円を獲るために。ズレテルズでもレコーディングしたんですけど、アルバム(『第一集』)がリリースされたのは解散した3ヶ月後っていう(笑)」

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——名盤ですよね。

レイジ「俺らのなかではふざけてるだけっていう感じでしたけどね」

Salyu「自由でいいですね。でも、リズム隊としてハマさんとの出会いって大きかったでしょ?」

レイジ「大きいと思います」

Salyu「やっぱりバンドにおいて成熟したリズム隊がいることっていちばん大事だと思うから」

レイジ「そこで俺らが恵まれてるなと思うのは、前任のベースもすごくよかったんですよ。今、彼は相対性理論とOpen Reel Ensembleで弾いてますけど。ハマくんもOKAMOTO’Sのメンバーとして絶対に欠かせない存在になって。すべての流れが自然だったんですよね」

Salyu「なんかハッピーでいいね。羨ましい」

——OKAMOTO’Sが幸福な音楽キャリアを積んでることは間違いないんだけど、近年は自分たちの立ち位置をシリアスに見つめてますよね。

レイジ「そうですね。まずやっぱり最初のイメージで『うまい』って言われがちで。Salyuさんにもさっきそう言っていただいてすごく光栄なんですけど、それと同時にプロとして演奏がうまいのはあたりまえだよなとも思うんです。正直に言うと、俺らレベルでうまいって言われちゃう日本の音楽シーンって大丈夫なのかなと思うところもあるし。演奏がへたなバンドがいてもいいと思うんです。でも、へたなりの魅力がないとつまらないですよね。そういう意味では同世代で競いたいと思えるバンドがあまりいなくて。ライバルと呼べる存在というか」

——そこに孤独感も覚える?

レイジ「同世代のバンドに対する孤独感はありますけど、それはもうあきらめてる部分があって。だから、フェスのバックステージでも年上のミュージシャンとばかり話しちゃうんですよね。それでもいいかなと思ってるし。俺個人としてはヒップホップ界隈の人たちと仲がよくて、そこにはカッコいいと思える同世代がいっぱいいるんです。だから広い意味では孤独感は感じてないですね」

Salyu「私もそうだけど、みんながOKAMOTO’Sに魅力を感じてるところは、もちろん演奏がうまいというのもあるんだけど、意外性みたいなところだと思うんですよ。最初にも言ったけど、やんちゃそうなのに衝動だけみたいなことを言い訳にしないでスタンダードな基礎を踏まえたうえでほとばしる熱を音楽に乗せていて。それをひとことで言うと、うまいっていう言い方になっちゃうんだけど。下の世代でこんなバンドがいるんだって感動したんですよね」

レイジ「ああ、それはすごくうれしいです。今、日本で流行っているロックの流れと俺らのスタイルって別のところにあると思うんですけど、俺たちは絶対に音楽をやり続ける自信があるので。だからこそ、選んだ道がクラシカルなところでよかったなと思うし」

——一生やれることを今もやってるっていう。

レイジ「そうですね。この先何十年もバンドを続けられるんだろうなと思ってるので」

——SalyuさんはSalyuさんで誰とも比較されないこの10年だったと思うんですよね。ずっと独立した立ち位置にいるというか。

Salyu「ああ、そうなのかな。それは、小林武史さんというプロデューサーが私の希少価値を守り続けてくれたというのが大きいですよね。楽曲もそうですけど、そういうふうに育ててくれたこともプロデュースなんだなと今にして思うんですよね。『あなたはただおもいきり歌っていればいいから』っていつも励まされてるような感覚があって」

——でも、ときには意見が対立することもあったんじゃないですか?

Salyu「ありましたね。生意気にも小林さんの言ってることがさっぱりわからないときもあったし(笑)。今にしてみれば笑い話なんですけどね。私も小林さんにだけはテキトーな嘘はつきたくないから。わからないことをわかるって言ったらその先一緒にやれなくなると思ってました。だからこそ小林さんにキバを剥いたときもあって。小娘が大人の前で感情を剥き出しにして『ワーッ!』って言ってたのは、今では恥ずかしいことをしたんだって思うけど、それも必要なことだったんですよね。キバを剥いてこそ実感できることってあるから。バンドだとまた全然違うと思うけど」

レイジ「そうですね。メンバー同士だと同級生だから、気を遣うこともあるけど、その遣い方がもうわかりきってるというか。逆に俺らは基本的にセルフプロデュースで、曲単位でプロデュースしてもらうことはありますけど、最初からずっとお世話になってるプロデューサーっていないんですよ。だから、その感じは羨ましくもありますけどね」

——Salyuさんはバンドを組んでみたいと思ったことってないんですか?

Salyu「ないですね。私はレイジくんたちみたいには絶対にできないと思う。性格的にも。そこまで血が湧かないというか(笑)。ライブにおいては自分なりにおもしろいバンドサウンドがどういうものかはつかみ始めてるとは思うんですけど」

レイジ「俺らも音楽好きの友だちからそのままバンドメンバーになったので、よくも悪くも最終的にはメンバーしかいないよなって思う瞬間がよくありますね。ホントに同級生のままで始まったから、バンドの方向性やビジネスの話をするのが照れくさい時期もあったんですよ。でも、あるタイミングでボーカルのショウがリーダーっぽくなった瞬間があって。そこからちゃんと制作や活動に関するまじめな話し合いができるようになりましたね。ただの音楽好きの同級生がビジネスパートナーにもなったというか」

——CDデビュー5周年を経たOKAMOTO’Sにとって、音楽的な核を守りながらいかに強いポピュラリティを得ていくかがテーマになると思うんですけど。

レイジ「そうですね。俺らはあくまでポップにやっていきたいと思っていて。コアなことをやろうと思えば簡単にできると思うので」

——Salyuさんにとってポップであるというのはどういうことですか?

Salyu「う〜ん、そうだな、ボーカリストの立場で言うと、やっぱりフックだと思いますね。曲にどれだけフックをつけられるか」

レイジ「なるほど、フックか」

Salyu「私は女性だから、たとえば愛嬌がフックになることもあると思うんですよね。サウンドに表情をつけるという意味でも」

 

——OKAMOTO’Sもフックはいっぱい持ってますよね。それをどこでどう使うか。

レイジ「フックありますかね? 愛嬌はあるかもしれないですね(笑)」

——これはレイジくんも気になるところかなと思うんですけど、Salyuさんがサポートメンバーに求めてることってなんですか?

Salyu 「ライブのアプローチによっても違うんだけど、ポップスの場合は圧倒的にバーンと持ち上げてくれる人がいいですね。音的にも安心して歩ける道を作ってくれる人たち。一方で、ピアノトリオとか歌と並列でジャジーなライブをやるってなるとまた違うんですけど」

——何かのタイミングでレイジくんと一緒にどうですか。

Salyu「楽しそうだなって思う。すごく興味はありますね」

レイジ「緊張しちゃうので(笑)。でも、話が来たらぜひご一緒させていただきますけどね! 俺、ハマくん、米咲ちゃんでSalyuさんのバックをやったらおもしろそうだな……」

Salyu「うん、おもしろそう」

——Salyuさんはこの10周年シーズンにどう音楽と向き合っていきたいと思ってますか。

Salyu「抽象的な表現になっちゃうんですけど、歌の可能性というものをより研究していきたいなと思ってます」

レイジ「さらに歌って感じですか?」

Salyu「そう。まだまだ新しい勉強が必要だなと思っていて。私は今34歳なんですけど、だんだん言葉の価値観が変わってきたんですよね。今までは響きにこだわり続けてきたけど、自分のなかでついに歌詞の時代がやってきたんです。歌詞を自分で書きたいとかではなくて、音として歌詞をどういうふうに聴かせるかということ。言葉の力って偉大だなってあらためて思ってる。意味でもメッセージでもない言葉の力。たとえばいろんなシンガーがカバーしてる“The Christmas Song”というスタンダードのクリスマスソングがあるじゃないですか。あの曲のなかにも音としての言葉の感動がすごくあるんですよ。〈Chestnuts roasting on an open fire〉という一節から始まるんだけど、チェスナッツがどういうふうに暖炉から香ってくるかをいかに豊かに表現できるか。そういう奥深さをもっと学びたいなと思ってますね」

レイジ「それはずっと追求できそうですよね」

Salyu「そうなんですよ。そこに気づいちゃったら終りがないじゃんって思って。人生が成熟すればするほど言葉の意味の受け取り方も深くなっていくだろうし。音楽におけるコードとメロディと歌詞の相性って恋愛みたいなものだと思うんですよね。ありがたいことに誰かが決めてくれた絶対的なルールのなかで追求できることがまだまだあるなって」

レイジ「めっちゃいい話だなあ。そういう自分なりのテーマを追いかけていったら絶対楽しいですよね」

Salyu 「そう思うでしょ?」

レイジ「俺はまだそこまで大きなテーマは見つけられてないですね。バンドとしてはとにかくヒット曲がほしいですね。誰でも知ってるような楽曲。売れてるバンドっていっぱいいるけど、今は誰もが知ってるヒット曲ってなかなかないじゃないですか。そういうものをOKAMOTO’Sで作りたいなと思います」

 

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Salyu

2000年、Lily Chou-Chouとして2枚のシングルと1枚のアルバムをリリースする。2004年、小林武史プロデュースのもとSalyuとしてデビュー。以降17枚のシングル、4枚のアルバム、1枚のベストアルバムをリリース。2011年には、「salyu × salyu」として小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を発表し、数多くの海外フェス出演により国外でも注目される。2013年には「攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Paina」のED曲を担当し、大きな反響を呼ぶ。2014年はSalyuとしてデビュー10周年を迎え、リリースやライブなど精力的に活動。今年2015年春には5枚目のオリジナルアルバムと全国ツアーが決定している。

http://www.salyu.jp/profile/

 

OKAMOTO’S

OKAMOTO’Sオカモトショウ(Vo)、オカモトコウキ(G)、ハマ・オカモト(B)、オカモトレイジ(Dr)。2010年5月にアルバム『10′S』、11月に『オカモトズに夢中』、2011年9月に『欲望』を発売。2013年1月に4thアルバム『OKAMOTO’S』を発売。2014年1月15日に岸田繁(くるり)を迎えた5th アルバム『Let It V』を、8月27日にはRIP SLYME、奥田民生、黒猫チェルシー、
東京スカパラダイスオーケストラ、
ROY(THE BAWDIES)らとコラボを果たした5.5 thアルバム『VXV』を発売。5周年アニヴァーサリーツアー「OKAMOTO’S 5th Anniversary HAPPY! BIRTHDAY! PARTY! TOUR!」のファイナルでは東京・日比谷音楽野外大音楽堂を埋め尽くした。2015年2月4日、6thシングル“HEADHUNT”をリリース。同作品はアニメ「デュラララ!!×2 承」の主題歌となっており、期間生産限定盤ジャケットは完全書き下ろしイラストを使用。初の映像作品『OKAMOTO’S 5The Aniversary HAPPY! BIRTHDAY! PARTY! TOUR! FINAL@日比谷野外大音楽堂』が3月18日に発売される。

http://www.okamotos.net

 

 

撮影 田口まき/photo  Maki Taguchi

文 三宅正一/text  Shoichi Miyake

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都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。

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