出版バブルは自業自得 流行を追う者はやがて廃れるだけ

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BOOKS AND THE CITY

今回は大原けいさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。

出版バブルは自業自得、流行を追う者はやがて廃れるだけ
欧米で日本の様な“特定の著者”バブルは起こらない。そりゃ、人気のある著者はいるが、茂木健一郎〜勝間和代〜池上彰みたいに平台を見るだけでゲンナリするような集中はしない。「もう、ネタが尽きちゃったんですね」ってなペラペラのスッカスカ。どれ読んでも大して変わんねーよ、ってな論旨であっちからもこっちからも。柳の下にだってドジョウはもう1匹もいやしないような出版ラッシュ。今は電子書籍、かな? あれが日本独特の理由はいくつかあるが、総じて書籍出版システムの違い、そして日本のシステムのどこがバブルを生むのかといえば、やっぱり日本の編集者がいかんだろ、という結論に至ることをあらかじめ書いておく。

とりあえずアメリカでは、本というものは末永く読まれてこそ作る価値があるモノとされている。っつーか、そのために“本”にするんだよ、ってな。今出さなければ売れないものは本の編集者ではなく、雑誌や新聞が、それこそウェブが取り組むべきことであって、本を作る人間が考えなくてはならないことではない。今、こういう本があったら売れるだろうな、と考えるのはたいして難しくない。そんなの編集のプロじゃなくてもわかるだろ。群れと一緒にミーハーなこと追いかけてればいいんだから。そうやって、せっかく何か他とは違う、目新しいものを掘り起こした人の手柄をむしり取って、おれにも稼がせろと群がる。結局そうやって目新しいモノも手アカにまみれ、陳腐になる。

反対に、アメリカの編集者は少なくともこれから1年半〜2年後に読まれそうな企画を考えなくてはならない。入稿してから刊行までに少なくとも半年はかけて、じっくりマーケティングのプランを立てなければいけないからだ。ノンフィクションの本なんて、企画で買ったら入稿は半年後、ってのが普通。

そしてできればその後もずっと絶版にならず、コンスタントに売れ続ける“バックリスト”の本を作ることを期待されている。ガーッと売れてガーッと売れなくなる本よりも、長期的に粗利が多いからだ。こっちの方が大変だ。時代の波がどちらに向いていて、何が本という形で残っていくべきなのか、いつの時代にも色あせないメッセージを語れる著者はだれなのかを見極めなければいけないのだから。だから、バックリストでロングセラーになっている本をたくさん持っている出版社の方が経営も安定する。

著者は著者で、エージェントを付けなければ編集者に相手にしてもらえない。エージェントは芸能人のマネージャーみたいなもので、印税からコミッションを取る代わりに、著者の才能を引き出し、最大限に活かせるキャリアプランを立ててやるのも仕事だ。本と言えども締め切りはバッチリ契約書に書かれているので、「そのうちね」などとテケトーな予定の著書はない。スッカスカで中身の薄い本を次々と出すなんてことは、エージェントが許さない。シリーズもののスリラーの著者でも1年に1冊出していれば、ファンはついてくる。

原則として1人の著者はひとつの出版社から著書を出し続ける。もっとお金を出すから、という話につられて他の出版社に移籍する著者もたまにいるが、もっと儲(もう)かるようになったとしても、金の亡者というレッテルからは逃れられない。

日本のシステムでは、締め切りはあってないようなもの。著者は、バブルの本なんだから「できるだけ早く」というムチャクチャなスケジュールに追われることになる。締め切りまで時間いっぱいリサーチしたり、取材したり、インタビューしたりするより、とっとと書き上げることを要求される。

今が旬の著者に対して、あっちこっちの編集者がコネを使って著者を義理攻めにして書かせたり、とにかくすりよって「ぜひうちにも」と書かせようとするわけだ。大手出版社の編集者なんか、給料いいし、別に本が出せない/売れないからといってクビになることもないが、こいつらの方が金もコネも持っているし、一方で、小さいところや編集プロダクションだったりすると、「書いていただけないとこっちもつぶれる/クビになる」などと泣きつくわけだ。罪は同じ。

そんなリクエストにおだてられ、調子こいていっぱい企画を抱える著者は、1冊1冊の内容が薄くなり、入稿もどんどん遅れて、やがてバブルが弾けた後で新しいキャリアがあるとは思えない。ま、本を出すのはあきらめて、テレビや雑誌で稼ぐんですな。“今さら”感のある著者っていうのも扱いにくい。

他にも刊行点数の問題があるだろうね。出版社は今どこも自転車操業、どんどん作って取次に渡さないと、返本の分のお金を払わないといけなくなるから。払ったらどこもつぶれるぐらいに膨らんでいるんだろうな。でもさぁ、本なんてノルマで出すモノじゃないだろ。

書籍のバブル化については編集者〜出版社は自業自得だろうけど、それって結局、著者のためにも、読者のためにもなってないと思わない? で、著者のためにも読者のためにもならない出版社なんてつぶれて当然でしょ。

ま、今のままだと、書籍バブルがやがて消えるのと同じで、出版社が消える。そうしたら少しは書籍バブルも収まるだろう。著者も「編集者に頼まれるから」なんて言い訳してないで少しは考えろよな。それは傍目(はため)にとっても恥ずかしいし、“キレイなアタシ”なんて本をうかつに出すと、後々まで残るんだからね。ブックオフで売れ残ってる、ってイヤじゃない?

やっぱり、ガラガラポンで再編成するしかないのかな。

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アメリカでの電子書籍事情をレポートした本が間もなく上梓(じょうし)されます。着々と進みつつある本のデジタル化の行方に興味のある方はどうぞ。
『ルポ電子書籍大国アメリカ』
http://ascii.asciimw.jp/books/books/detail/978-4-04-868960-1.shtml

拙ブログでは、ニューヨークの書籍出版業界の裏話、知られざるアメリカの一面などを紹介しています。
『BOOKS AND THE CITY』 http://oharakay.com/
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執筆: この記事は大原けいさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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