ウチダバブルの崩壊

内田樹の研究室

今回は内田樹さんのブログ『内田樹の研究室』からご寄稿いただきました。

ウチダバブルの崩壊
ブックファーストの川越店の店長さんが、“池上バブル”について書いている。

「池上彰「伝える力」」 2010年8月12日 『一個人』
http://www.ikkojin.net/blog/blog6/post-2.html

きびしいコメントである。

とくに以下に書かれていることは、かなりの程度まで(というか全部)私にも妥当する。

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書店「バブル」になった著者は、自分の持っている知識なり、考え方が他の人の役に立てばとの思いで本を出すのだと思うのですが、そうであるならばなぜ出版点数を重ねる度に、「なんで、こんなにまでして出版すんの?」と悲しくなるような本を出すのでしょう。
すべて「バブル」という空気のせいだと思います。
このクラスの人にお金だけで動く人はいないと思います。
そうでなくてせっかく時代の流れがきて、要請があるのだから、全力で応えようという気持ちなのだと思います。
けれどそれが結果、本の出来に影響を与え、つまり質を落とし消費しつくされて、著者本人にまで蝕んでいくことは、悲しくなります。
著者もそれが分からなくなってしまうほど、「売れる」というのは怖い世界なのかも知れません。
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「池上彰「伝える力」」 2010年8月12日 『一個人』より引用(抜粋)
http://www.ikkojin.net/blog/blog6/post-2.html

今年になってから単著で『邪悪なものの鎮め方』、共著で『現代人の祈り』、『若者よマルクスを読もう』、『現代霊性論』、『知の現場から』、『白川静読本』、つごう6冊本を出した。もうすぐ『街場のメディア論』と『おせっかい教育論』の2冊が書店に並ぶ。

私のデスクに今積み上げられていて、校正待ちのゲラは『街場のマンガ論』、『武道的思考』、『村上春樹にご用心・増補改訂版』、『ひとりでは生きられないのも芸のうち・文庫版』、『街場の家族論』、『街場の文体論』、『中沢新一さんとの対談本』の7点。進行中の本は『名越先生との対談本』、『狼少年のパラドクス・文庫版』、『街場の結婚論』、『安田登さんとの対談本』、『成瀬雅春先生との対談本』、『講演録』の6点。そのほか既発ものの文庫化がいくつか予定されている。

これを“バブル”と言わずして、何をバブルと呼ぶべきであろう。

もちろん私が嬉嬉としてこれらの本を書いていると思われては困る。ずいぶん以前から、新規出版企画は全部断っているのである。にもかかわらずこれだけ大量の企画が同時進行しているのは、編集者たちの“泣き落し”と“コネ圧力”に屈したためである。

彼らだって、べつに私を“バブル”状態に追い詰めて、どんどんクオリティを下げて、読者に飽きられて、“歴史のゴミ箱”に投じられることを願って、泣き落としているわけではあるまい。

ひとりひとりはまごうかたなく善意なのである。“よい本”を“いま読まれるべき本”を(そして“できれば利益のあがる本”を)出したいとつよく念じておられるのである。編集者としては当然のことだ。

しかし、その“善意”も数がそろうと、“バブル”になる。

「なんで、こんなにまでして出版すんの?」とブックファーストの遠藤店長はおっしゃるが、それを言いたいのは私の方である。バブルがはじければ(いずれ必ずはじける)、そのときは“善意の編集者”のみなさまもみな“ババ”をつかむことになる。何を措いても“バブル”だけは回避せねばならない。

というわけで、この稿の結論はもうご理解いただけたであろうが、「ゲラは編集者のみなさんの手元には、ご期待の期日までには決して届かないであろう」ということである。

申し訳ないが、しばらく“塩漬け”にさせていただく。

最初の2冊だけは、もう出版予告をしちゃって営業に入っているそうなので、ゲラを送るしかないが、あとについては、すまぬがそういうことです。というのも、ウチダ本がどれくらいの頻度で書店に並ぶことになるのか、ある程度把握しているのは、ウチダ本人だけだからである。

編集者の方々は同時並行企画がどれほどあるか、実数を知らない。

“バブルのバルブ”を止めることができるのは、書き手だけなのである。
ごめんね。

執筆: この記事は内田樹さんのブログ『内田樹の研究室』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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