スポーツとゲームが結婚してアートが生まれました 『eスポーツを合成する』

eスポーツを合成する

真っ白なスペースにひかれた赤と青のライン。コートのように見える2本のラインは微妙にズレている。一方にはサッカーゴール、そして床すれすれに斜めにとりつけられたバスケットゴール。床自体も斜めになっている。かたわらに置かれたカートにはサッカーボール、テニスボール、ピンポン玉、おもちゃのバット、ラケット、ロープ、麻袋、ブブゼラ等。奥にはブラウン管テレビが置かれ、時間がカウントされている。

これは先日秋葉原にオープンした廃校になった中学校をリノベーションしたアートセンター『Arts Chiyoda 3331』のオープニングイベント『グランドオープン記念展|3331 Presents TOKYO : Part 1』に展示されているアート作品『eスポーツを合成する』だ。

「まずルールを決めてください」設置されているモニターから流れる無機質なアナウンス。ルールを決めるためのカウントが始まる。見に来た人々は観客となりプレイヤーとなる。プレイヤーはチームを組み、ゼッケンをつけ、ルールを決める。

単純にボールを追ってゴールをしたり、二人でロープの端と端を持ったままボールを追ったり、袋の中に足を入れてピョンピョン跳ねていたり、おもいおもいの遊具を手に取り、ゲームが始まる。使う道具やルールによって、生まれるゲームは千差万別。プレイする中でルールが調整されたり、途中から参加する人もいたり、そこで作り出されるゲームも変化したり、ぐちゃぐちゃになったりする。

eスポーツを合成する

「突然ですがeスポーツの時間です」ゲームの途中でアナウンスが流れ、床(グラウンド)をスクリーンにもうひとつのコートとボールが映し出される。コントローラは身体、センサーを取り付ける必要はない。身体が生み出す影がボールをうちかえす。三次元の体を動かして、二次元のボールを追う。コンピュータゲームが合成される。最初に決めたルールのままつづける人もいれば、二次元に映し出されたボールを夢中になって追いはじめる人もいる。二次元と三次元、両方のボールを追う人もいたり、ボールを使わずに動いている人もいる。

eスポーツを合成する

少し離れたところにある台には、もうひとつの小さいコートが映し出され、目の前のコートで走り回っている人たちの姿がプロットされている。小さいコートに手をかざすと、大きいコートにも巨大化した手がプレイヤーとして現れる。大小のコートはネットワークでつながり、二次元のボールを追って対戦することができる。

eスポーツを合成する

おもいがけない要素が加わり、混沌(こんとん)が加速していく。盛り上がりは最高潮。ギャラリーなのに笑い声と歓声があがる。こどもたちが夢中になって走り回っている姿が印象的だった。

この作品は、編集者であり、『パラッパラッパー』などのゲームクリエーター、ポップユニット『口ロロ(クチロロ)』のメディアアート的なライブ演出を手がけるなど、幅広い活動をされている伊藤ガビンさん率いるボストーク(BOCTOK)と人工知能の分野をはじめ、様々な技術分野での活動を展開するエウレカコンピュータが共同で作り上げた作品。

『グランドオープン記念展|3331 Presents TOKYO : Part 1』 参加団体とアーティスト(BOCTOK)
http://www.3331.jp/go/boctok.html

伊藤ガビンさんは10年ほど前にNYのクイーンズ地区にある小学校をリノベーションしたギャラリーで“宇宙に出て行った時にどうやってスポーツをしたらおもしろいか”をテーマに行われた展覧会のために作品を制作した。出品したのは重力がおかしくなった場所でのスポーツ、スケートボードのランプ(ハーフパイプ)をバスケットのコートにした『無重力スポーツ』という作品。会場を訪れた人は自分たちでルールを決め、自然と(勝手に)ゲームを始めていたそうだ。

『無重力スポーツ』の後も美大や芸大で新しいスポーツをデザインするという授業やワークショップを続けてきた伊藤ガビンさん、今回の作品は「安全でだれでもすぐ遊べてフェアな方向に行きがちなスポーツ、行きすぎるとこんどは逆に、ちょっと危険とか、シンメトリーじゃないとか、ルールの上に何個かルールが重なってきて、なんだかわからなくなってきちゃうようなものが好まれる。そんなバランスそのものがテーマにしている」とのこと。

エウレカコンピュータはTVモニターではなくグラウンド(床)にステージを映し出し、コントローラーではなく身体を使ってコンピュータゲームをプレイする『eスポーツグラウンド』というプラットフォームを開発していた。任天堂の『Wii』やSonyの『Play Station Move』など、最近のゲーム機では実際に体を動かしてゲームをプレイするものも増えてきてはいるが、体全体を使い、グラウンド上でコンピュータゲームをプレイするというものは、今までなかったのではないだろうか。現在このプラットフォームはゲームの枠にとどまらず、さまざまな形での利用が検討されているが、一般の人々に公開されるのはこれが初めてだ。

伊藤ガビンさんの『無重力スポーツ』と同時期からeスポーツを推進してきたエウレカコンピュータの犬飼博士さん。スポーツ、ゲーム、身体というものを意識してきた両者の作品がこんなふうに合成されたのは必然だったのかもしれない。

エウレカコンピュータの犬飼さんも「作品を通して、たくさんの人と遊びたい」と言っていたが、この作品は見るより、ぜひ体験してほしい。筆者がみていた短い時間の中だけでも、親子、友達、恋人同士、いろいろな方々が訪れていたが、皆さんものすごく楽しんでいた。遊びの中で、きっと新しいスポーツとゲームの可能性を感じることができるだろう。

グランドオープン記念展の開催期間は7月24日(土)まで。
『グランドオープン記念展|3331 Presents TOKYO : Part 1』
http://www.3331.jp/go/introduction.html
『3331 Arts Chiyoda』 公式HP
http://www.3331.jp/

明日土曜日には伊藤ガビンさん、犬飼博士さんの実況中継が行われるほか、ゲームクリエーターの飯田和敏さん他も参加するトークイベントも行われるとのこと。

『e-Sportsを合成する』 実況中継イベント&トーク
作品で来場者があそぶ様子を、ゲストを交えて実況中継します。
http://www.3331.jp/schedule/000372.html
実況アナウンス:伊藤ガビン、犬飼博士(共に『eスポーツを合成する』企画者)
料金:無料 ※要展覧会チケット
会場:1F ギャラリーA
日時:2010年7月10日(土)、7月24日(土) 共に時間は14:00-17:30
※7月10日(土)は16:00-17:00にトークイベントあり ゲスト:飯田和敏 (ゲームクリエーター)ほか

ボストーク株式会社
http://www.boctok.co.jp/

エウレカコンピュータ株式会社 ※この展示に関するニュース
http://www.eurekacomputer.jp/news/2010/06/e6267253331-arts-chiyoda.html

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