一家につき2軒?「家余り」日本を管理放棄不動産が襲う

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読書猿Classic: between / beyond readers

家を持てない人が多い中、家が余っているという現実があります。今回はくるぶしさんのブログ『読書猿Classic: between / beyond readers』からご寄稿いただきました。

一家につき2軒?「家余り」日本を管理放棄不動産が襲う
かつて、「管理放棄不動産」といえば、不動産収入で食えるようになって耕作されなくなった農地や、安い木材の輸入によって木材価格が下落し伐採がペイしなくなった山林のことを指していた。

しかし近年、管理放棄された住宅が、耳目を集めるようになってきている。

人口減少がしぶしぶながら認められはじめたころ、ある学会は今後の世帯数減少と住宅ストック数の供給トレンドから、20~30年のうちに、世帯数が住宅ストック数の1/2になる、すなわちただ数だけを考えるなら1世帯あたり2軒という、猛烈な「家余り」が生じると算出した。

もちろん住宅の供給は、その時々の景気動向や不動産価格に左右される。「家余り」=過剰供給自体が、住宅価格の下落というシグナルを発して、供給に抑制がかかることも予想される。ドラスティックな事態がそのまま生じるとするには留保がいる。

しかし、人口減少や高齢化は、場所によって差が大きい。「家余り」効果は、まずは局所的に現れる。

実はこの国では、第二次大戦後の住宅不足の時代を脱してからは、世帯数と住宅ストックは、住宅の方が1割ほど多い(もっとも住宅法を持ってる国では「住宅」とは認められないものも含んでいるが)という時代が長く続いた。そこに人口が減り、世帯数が減り始めて、都市から外へ外へと広がっていった(虫食い状の)宅地開発と新興住宅地の前線は止まり、間もなく逆転することが予想された。

しかし、それよりも早く激しい形で生じたのは、市街地中心部での管理放棄家屋の増加だ。

そこに至る経路はさまざまだが、たとえばこんなケースがある。

一人暮らしの老人が、かつて子供達を育てた家に住み続けている。子供達は家を出て、違う地方や都市で働き、自分の家を構え暮らしている。その老人が亡くなり、特に遺言もないことから、その家屋と土地は、分割相続されたり、相続放棄されたりする。家は古く、すでに家屋としての資産価値はない。更地として売り払うには、家の取り壊しが必要であり、それには相続権者あるいは相続後なら共有者全員の同意がいる。亡くなった人がさらに高齢だと、相続した子も高齢で、早晩なくなり、さらにその持分が分割相続され、あっという間に共有者の数が膨れ上がる。数が増えていくと、そのうちの一部は、他の供給者たちもどこにいるのか知らない、という事態になりやすい。

こうなるともう、売ろうにも貸そうにも、全員の合意を取り付ける手間暇(コスト)が膨大になる。しかも無人の期間が長くなればなるほど家の痛みも激しく、かなりのお金をかけて修繕しないと住めない。こうした訳で、その不動産は実質的にアンタッチャブルになってしまうのである。

今、京都の東山では5軒に1軒がすでに空き家となっている(場所によっては3割を超えるところもあるという)。しかも空き家のごく一部(約5%)しか売却や賃借に出されていない。いや、そもそも住宅市場に出すことが不可能な状態にあるという。

同じことが、建築後数十年をむかえるマンションでも起こっている。一室に多すぎる共有者(しかも数人は行方がわからない)がいる部屋が、マンション一棟の中にかなりの割合で存在するようになっている。売る / 貸すはおろか、大規模修繕のための合意形成もままならない。

地価が上がり続ける時代には「財産」であった不動産が、いくつもの暗礁として都市の深部に沈む。管理放棄された不動産は、自ら朽ち果てるだけでなく、周囲の環境も悪化させる。環境悪化が、周囲の不動産価値の下落と人口流出の引き金を引くと、管理放棄不動産は幾何級数的に増殖していく。

執筆: この記事はくるぶしさんのブログ『読書猿Classic: between / beyond readers』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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