野菜が「安全」だった時期というのは、いつですか?
今ではあたりまえになっていますが、生野菜を食べるということは、ちょっと前まではびっくりするようなことだったのですね。今回はひえたろうさんのブログ『『digital ひえたろう』編集長の日記★雑記★備忘録』からご寄稿いただきました。
野菜が「安全」だった時期というのは、いつですか?
『中谷宇吉郎随筆集』(樋口敬二編 / 岩波書店)*1 を読んだ。中谷宇吉郎は雪の研究で名高い物理学者で、寺田寅彦門下らしく、随筆もよくしている。中でも『科学の方法』(岩波書店)*2 は名著の誉れも高く、私も先日やっと読んで、是非人に勧めたいと思う。
内容そのものに「なるほど」と思うところも多く、またそれを出発点にいろんな思考を巡らせてくれるような、そんな材料が随所にちりばめられた、とても刺激的な文章を書く人だ。
中には全文を紹介したいくらいの名随筆もあるが、中谷宇吉郎の著作権保護が切れるのが2年後ということで、いくつかやってみた全文文字起こしは青空文庫用に保管しておくことにする。(^O^)
で、そういう”本流”の話とは別に、明治から昭和に生きた1人の日本人の証言として、時代性を感じさせる話ももちろんあるわけで、これは「科学」や中谷宇吉郎の研究とは直接関係ないけれど、これもまた興味深いところがたくさんあった。
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中谷宇吉郎は1928(昭和3)年にロンドンに留学している。「サラダの謎」には、中谷が留学中の下宿先で食べたフランス風のサラダがとてもおいしかったという話が出てくる。
そのサラダが気に入った理由について。
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……それと今一つは、当時の日本の経済状態も、一つの要因をなしていた。清浄野菜などは夢にも考えられなかった時代のことである。寄生虫の心配なしに、生の野菜がばりばり食べられるということで、何だか別の世界に来たような気がしていた。
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*1 より引用
そして日本に帰ってきて北海道大学に赴任し家を持ったが、郷里(加賀)とは随分違う食材に戸惑ったという話が出てきて、その時にロンドンで食べたフランス風サラダを思い出す。
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北海道の気候は、ああいう西洋風の野菜の栽培には適しているはずである。しかし市場にあるものでは、下肥を使ったかもしれないという心配が大いにある。それで庭の一部に小さい畑をつくって、そこで妻がレタスを作ることになった。
——
*1 より引用
下肥(しもごえ)というのは、人の糞尿(ふんにょう)のこと。これが昭和初期の日本の野菜の状態だったのだなあ。
ここからわかる当時の日本の野菜は、
・生で食べたら体に悪い。
・市場で売っている(だれが作ったか判らない)野菜には肥料に何が使われているかわからない。
ということになる。
「化学肥料否定」「有機農法云々(うんぬん)」「昔はよかった」みたいな言葉を発する人が警告する現代日本の野菜の姿とさほど変わらないんじゃないのか? (^^;という点が、非常に興味深かった。
*1:『中谷宇吉郎随筆集』 樋口敬二編 岩波文庫
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/31/5/3112410.html
*2:『科学の方法』 中谷宇吉郎著 岩波文庫
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/41/2/4160500.html
執筆: この記事はひえたろうさんのブログ『『digital ひえたろう』編集長の日記★雑記★備忘録』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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