日本では規制されないヘイトスピーチの法的問題点

日本にヘイトスピーチを規制する法律はない

日本では規制されないヘイトスピーチの法的問題点

ヘイトスピーチとは、特定の人種や民族への憎しみをあおるような差別的な表現のことをいいます。欧州などでは、処罰をもってヘイトスピーチを厳しく規制する法律を制定している国もありますが、日本ではヘイトスピーチそのものを直接規制する法律は、現在のところありません。

京都地裁の判決は民法の「不法行為」成立による

先日、京都朝鮮第一初級学校を運営する京都朝鮮学園が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と会員ら9人を相手取り、学校周辺での街宣活動の禁止や損害賠償を求めた民事訴訟の判決が、京都地方裁判所でありました。判決では、在特会の会員らに対し、約1200万円の高額賠償および学校の半径200メートル内での街宣禁止が命じられました(京都地裁H25.10.7)。※「在日特権を許さない市民の会(在特会)」は21日までに、街宣活動の禁止と約1200万円の損害賠償を命じた京都地裁判決を不服として大阪高裁に控訴しました。

ただ、上記の判決においても、ヘイトスピーチにあたるとして直ちに損害賠償請求などが認められるという結論が導きだされたわけではありません。同校周辺において、在特会の会員らが「犯罪者に教育された子ども」「朝鮮学校を日本からたたき出せ」などと拡声器で怒号を浴びせた演説(街宣活動)などの行為により、個人に具体的な損害が発生していたことから、民法709条の「不法行為」が成立するとされ、損害賠償や街宣禁止が認められたのです。

威力業務妨害罪や名誉毀損罪、侮辱罪の適用も

また、ヘイトスピーチが刑事事件として処罰の対象となる場合として、威力業務妨害罪(刑法234条)や名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)の適用などが考えられます。上記の在特会の会員らによる街宣活動について、故意に威力をもって特定の民族の人々が営む業務(学校事業など)を妨害するとともに、公然と同校らを侮辱したものとして、威力業務妨害罪および侮辱罪が適用されました。そして、政治的表現行為として違法性がないとする弁護人の主張に対しては、正当な政治的表現の限度を逸脱した違法なものであると判断され、有罪が確定しています(京都地裁H23.4.21)。

ヘイトスピーチは新たな法律で規制すべきか

このように、現行法のもとでは、ヘイトスピーチによって民族全体ではなく、「具体的な個人が具体的な被害を受けた場合」にのみ上記のような個別の対応をすることしかできないことから、新たな立法によってヘイトスピーチそのものを規制すべきとする考え方も有力になっています。

しかし一方、このようなヘイトスピーチ規制に対しては、(1)法による規制を行うことの有効性に疑問があること(2)憲法で保障された「表現の自由」(憲法21条など)を侵害する危険が大きいこと(表現活動をその内容によって規制することは明確な線引きが困難であり、外国政府等に対する正当な言論活動にまで規制が及ぶおそれがある)などから反対論も少なくありません。

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