Googleは違法会社で、ヤフーは合法会社か?

takii

リスク承知で新しいものを生み出していく覚悟、なかなかもてないです。なかなかもてないからこそ大きな差が生まれるのでしょうね。今回は滝井秀典さんのブログ『滝井秀典 キーワードマーケティング・ブログ』からご寄稿いただきました。

Googleは違法会社で、ヤフーは合法会社か?
ヤフーの井上社長の記事が、日経ビジネスオンラインに掲載されていました。

「グーグル?すごいとは思わないね?」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20091222/211839/
『日経ビジネスONLINE』 2010年1月4日 ※閲覧には無料会員登録が必要

「インタレストマッチをどう考えているか」「米ヤフーのマイクロソフトとの提携に対する考え」などのところは、広告主には大いに関係のあるところで、読んでおいた方がいいと思います。

この記事の中で注目すべきポイントは、「グーグルのすごいは、いずれもグレーゾーンでは(法務的に)」と井上社長が苦言を呈しているところ。
———
検索連動広告は米ヤフーの真似だし、ストリートビューはすごいけど一種の「のぞき」。ブックサーチは著作権無視のコピーだ。YouTubeだって、違法の動画がトラフィックの多くを占めている」
———
※「グーグル?すごいとは思わないね?」『日経ビジネスONLINE』 2010年1月4日 より引用。

このへんのところですね。

さて、これからの日本は間違いなく訴訟社会になり、法務知識がビジネスマンにとっては、とても重要になるので、このポイントを私なりに解説しておきます。

このブログを読んでいる、ほとんどの人は、「法的にやってはいけないこと、やってよいこと」というのは、「事前に」決定していると勘違いしていると思いますが(以前の私もそうだった)、実際には違うのです。

実は、「何をもって”法律違反か”」を判断するのは、「最終的に訴訟で争って、裁判官が判断を下した瞬間」なのです。

なので、「だれがどうみたって違法行為」と思われるようなことも、裁判所で、「違法ではない」と判断されると、それは違法行為ではなくなります。

例えば、2004年に、『Google』は米大手保険会社の『Geico』に訴訟を起こされました。『Google』で『Geico』という商標を取った会社名を使って検索すると、結果のなかにライバルの広告が表示される。これは商標の侵害にあたるとして、GeicoがGoogleを訴えたわけです。

フツーに考えれば、『Google』は負けそうですね。でも、バージニア東部連邦地方裁はこれは違法ではない、と判断しました。だから違法ではないのです。

これは逆の視点もあって、「今まで合法とされてきたことが、突然、違法行為、と裁判所で言われて違法になる」というパターンもあります。このパターンで、2兆円の市場が生まれたのが、最高裁のグレーゾーン金利違法判決による、『過払いビジネス』です。

先の『Google』の商標の件も、他の企業が同じケースで訴えて、他の裁判所で、「いままで合法だったけどこれからは違法にするから」という風になることもあるわけです。

さらに言うと、「明らかに法律違反だけど、和解金を支払うことによって、自分のビジネスにしてしまう」というパターンもあります。

例えば、『GoTo.com』という会社が1997年にアメリカで設立されました。この会社は、今で言う『キーワード広告』の仕組みを考え、特許を取りました。

『Google』は、2000年に、この『GoTo.com』の『キーワード広告』の仕組みと同じものをつくり、検索連動型広告を出すことによって、売上、利益を出すようになりました。これが現在の『Googleアドワーズ』です。

で、この『Googleアドワーズ』は、『GoTo.com』から、「特許違反だ」と訴えられたわけです。

どうも裁判の判断も違反となりそうだったのか、『Google』は、和解金を支払うことを提示して、『GoTo.com』がこれを受け入れて、和解成立となりました。値段にして約270億円。現在、2兆円近い売上のうち、97%がキーワード広告経由、という『Google』にしてみれば、この和解金の費用は極めて安い投資だった、といえるでしょうね。

この和解が成立していなければ、今の『Google』はありません。『GoTo.com』とは、現在の『オーバーチュア(ヤフーリスティング)』です。資本主義というのは「トラブルをお金で解決できる」社会なので、こういう芸当も可能になってしまいます。これを倫理的にどう思うか、は人それぞれでしょうけれども。

実は、さらにいえば、検索エンジン会社(『ヤフー』、『Google』)というのは、基本的に著作権侵害をしているメディアだ、とも言える可能性があります(別に批判しているわけでもなんでもないので、誤解のないように)。

「だれかがつくったホームページを、ロボットで収集して、それを他人に検索経由で見せる無料サービス」でお客さんを集めて、広告で売上を立てる、というのが、検索エンジンのビジネスモデルなわけです。

で、基本的に『Google』も『ヤフー』も、メディアとしてのコンテンツは、自分ではつくらないで他人がつくったコンテンツ、で成り立たせています。当然、そこには著作権が発生します。つまり、コンテンツを作った人は(要するに私たちですよ)、企業であれ、個人であれ、だれであっても、「『ヤフー』や『Google』は、私がつくったコンテンツを勝手に使っているじゃないか。キャッシュはともかく二次使用は著作権侵害だ!」と主張して、訴訟を起こして、損害賠償請求をすることは可能なんですよ。実際に、ヨーロッパでは検索エンジンの収集行為は、著作権侵害、という判例も出ているようです。

なぜ、この明らかに違法と思われるメディアの行為が、問題にならないか、といえば、「著作権侵害をされる側に金銭的な損害が発生しない。むしろ、金銭的な利益をもたらす」というだけのことです。つまり、違法である可能性は高いが、「損害が発生しないので、訴訟にならない」ということなのです(※日本では今年から合法になるそうです。違法をビジネスのイノベーションで合法化した、いういい例なのではないでしょうか)。わかりますでしょうか。

まとめるとこういうことです。
 1)法律違反かどうかは、事前にきまっていることではなく、訴訟になって司法が判断してはじめて決まる(ほとんどがグレーだと言ってもよいくらい)。
 2)合法とされてきたことが、ある日突然、違法とされることもある。
 3)違法と判断されたとしても和解金を支払って、問題を解決することもできる。さらにビジネスとしての仕入れにすることもできる。
 4)明らかに法律違反のことであっても、迷惑がかからなければ、訴訟にすらならないことも多い。むしろ歓迎されることもある(それで法律が改正されることもある)。

これで『Google』が、いくら著作権侵害が大問題、といわれても『YouTube』を推し進め、プライバシー侵害、といわれても『Googleストリートビュー』を推し進めるか、が少しわかるのではないでしょうか。

要するに、『Google』という会社は、「法律という壁にチャレンジする」会社、なわけです。ビジネスは、競争優位がすべて、といっても過言ではありません。他人がやらないこと、他人が手を付けないこと、他人がやりたくても手を付けられないこと、をあえてやるから、価値が出るわけです。

法的リスクを果敢に取り入れて対処ができる『Google』と、最初から法的リスクを避ける日本の『ヤフー』では、その将来性の差は歴然かもしれません。

日本は法治国家ではなく(これは言い過ぎだが)、情緒国家なので、「法的トラブルのリスクを取ってビジネスをする」という風土が、なかなか根付かない、という背景もあると思います。日本の裁判所は、論理だけではなく、社会的情緒を優先することも多く、あまりにも不確実性が高くて、ビジネスとして手を出しにくいわけですね。

また、日本では法律は「守るもの」と考える人が多く、アメリカでは法律は「つくるもの」と考える人が多い、ということも関係しているかもしれません(訴訟にチャレンジして勝てば、判例によって法律が新たに作られる可能性が出てくる、ということです)。

良くも悪くも、これからの時代、日本は訴訟社会になっていきます。というか、もうなっています。法的なリスクにチャレンジし、適切に対処できる会社と、そうでない会社には、これからのネットビジネスでは、大きな違いが出てくると思います。『Google』の例をあげるまでもなく、法的なハードルの向こう側には、莫大(ばくだい)なチャンスがあるからです。これは大企業だけの話ではなく、これからの中小企業の重要なテーマでしょうね。

執筆: この記事は滝井秀典さんのブログ『滝井秀典 キーワードマーケティング・ブログ』より寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信

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