日本の強みは東京にある
小さな島国である日本・東京に、こんなにたくさんの世界を動かしている企業や人が集まっていることに驚きました。今回は青木理音さんのブログ『経済学101』からご寄稿いただきました。
日本国内のグローバル化
最近、○○すれば日本は勝ちみたいな記事が話題になった(○○には政治でも官僚でもマスコミでも好きなものをどうぞ)。しかし、何かを一つ解決すると日本の問題が解決するといううまい話は聞こえはいいが間違いだ。
日本が抱える問題の大きな部分が技術の変化によるものであり、コントロールできない部分が大きい。それについてよい記事があったのでご紹介:
琴坂将広さんのブログ『Cotton Articles v6』:「構造的に不可能に等しい挑戦」
http://www.kotosaka.com/article/136425908.html
多国籍企業の合理的行動の及ぼす影響が3項目並んでいる:
———
1.消費者にとって同じ品質であれば、絶えず絶対コストの低い方へ生産は移動して行く。
2.良い製品、サービス、アイデアに対して、比較的短期間で投資、人材が集まる様になる。その結果として普遍的な価値を持ち、ローカライゼーションのニーズが低い物品とサービスが世界に波及するスピードはこれまでになく早くなる。
3.さらに、グローバル人材と、ローカル人材に明確な区切りがつくだろう。全世界のオペレーションを担える人材を採用する枠と、そうではなくローカルな地域を担当する社員に明確にわかれる。
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※琴坂将広さんのブログ『Cotton Articles v6』:「構造的に不可能に等しい挑戦」より、一部を抜粋
http://www.kotosaka.com/article/136425908.html
これは国内でのグローバル化と対比すると面白い。地域毎に分散していた日本国内の生産消費は戦後急速にグローバル化した。輸送コストが下がれば生産は分業化し、相対的に有利な場所に集中していく。ある地域では農業をやり、またあるところでは車を作るということだ。日本国内において製品・サービス・アイデアに関するローカライゼーションの必要性は少ないので(参考:日本でFacebookは生まれない*1)、そういったものの生産は都市部に集中する。金融や広告なども都市に集まる。集積が集積を呼び、東京を中心に都市は超大規模化した。地方の需要には一般職というローカル人材が当たり、全体のオペレーションは総合職というグローバル人材が担当する。もちろん舵(かじ)を取るのは大都市に本拠をおく総合職だ。
ではこの流れが国際的なレベルで起こっている現在、日本はどうなるのだろうか。国内の歴史をみれば分かる。地方の都道府県はある程度独自の文化を持ちながらも、多くの場合緩やかな衰退をたどった。日本政府が地方の票を得るためもあり莫大(ばくだい)な再分配を行ってきたが都市部への人口流入は止まらなかった。優秀な若者は都市部へと移動し、農村は高齢化する一方だ。地方でそれなりの経済を保っているのは県庁所在地ぐらいだろう。
これを日本全体にあてはめれば、
・名目で見れば全体のGDPも一人当たりのGDPもゆるやかに減少。今後「日本国として」これまでのような成長を実現する可能性はない。
・東京といくつかの主要都市は全世界ハブの一つとしてこれからも主要都市として残り続ける。それはすでに資産を持つ層、そしてグローバル人材として活躍出来る層が集中して存在するマーケットであり、そして日本という依然として巨大なローカル市場の拠点だからである。
ということになる。
東京が地方の政令指定都市のような存在になるといってもよい。もちろん日本と外国との違いは国内のそれに比べはるかに大きいし、物資・サービスの移動も困難なのでグローバル化がそれほど簡単に起きることはない。しかし、その兆しは既に見えているし、国内のように地方への再分配を行う組織はない。どれだけの速度で進行するかは分からないが、個人としてこの来たるべき変化に準備していく必要があるだろう。
日本の強みは集積経済
グローバル化が日本に及ぼす影響を日本国内での地方の衰退と比較し、「東京が地方の政令指定都市のような存在になる」と主張した。この変化は一部の論者が騒ぎ立てるほど急速には進まないが、徐々に進行していくだろう。そのとき、日本の強みは何だろうか。
私は、将来日本の最大の強みは東京という巨大集積経済になると考える。都市の集積経済(urban agglomeration)の経済効果は莫大(ばくだい)だ。規模の小さな経済地域では成立しないようなビジネスも可能だし、集中した都市機能は企業活動を効率化する。また環境税を含めた資源価格の高騰は地理的な集中を有利にする。地価が高すぎると言う向きもあるが、地価の高さは逆に集積経済のメリットがどれだけ大きいかを示している。
再び国内との対比に戻れば都市の優位性は明らかだろう。都心部への労働人口の集中は総体としての地方の衰退をもたらしたが、その程度は地方の中でも辺境の地域において深刻であり、地方でもっともうまくやっているのはもともと規模のある都市部である。それが世界規模で進行するのなら、日本の頼みの綱は東京ということになる。
東京の規模
東京が大都市であることはだれでも知っているが、その経済規模が本当にずば抜けたものであることはあまり知られていない。行政区域としての東京、すなわち東京23区、の人口は約880万人で世界11位に過ぎない(首位はインドのムンバイで約1300万人だ)。しかし、行政区域がどこでしきられているかは経済的には重要ではない。例え、街の名前が違っていても街が完全に連続していれば途中で区切ることに経済的な意味はないし、ほとんどの人が東京に勤めているようなベッドタウンは実質的には東京の一部だ。
このような実質的な指標においては東京という都市は世界でも群を抜いて大規模だ。例えば、人口密度を元にしている国連による都市圏のトップ10は以下の通りだ:
1.東京(日本):3567万6000人
2.ニューヨーク(アメリカ):1904万人
3.メキシコシティ(メキシコ):1902万8000人
4.ムンバイ(インド):1897万8000人
5.サンパウロ(ブラジル):1884万5000人
6.デリー(インド):1592万6000人
7.上海(中国):1498万7000人
8.カルカッタ(インド):1478万7000人
9.ダッカ(バングラディシュ):1348万5000人
10.ブエノスアイレス(アルゼンチン):1279万5000人
Wikipedia; World Urbanization Prospects: The 2007 Revision Population Database より
http://en.wikipedia.org/wiki/World%27s_largest_urban_agglomerations
東京がいかに巨大かがよく分かる。人口が急激に伸びているインドの都市が目立つが、それでも東京の半分程度の規模だ。私が今住んでいるサンフランシスコとイーストベイを含む都市圏は人口・面積ともに東京都市圏の十分の一だ(道理で田舎っぽい気がするわけだ)。もしグローバル化によって都市への集積が進行し、都市経済の重要性が増すのであれば日本という国にとって東京の重要性はさらに増していくはずだ。
東京に集中するビジネス
近年の資源価格の高騰・去年からの世界的な不況・円高の急速な進行もあり、日本企業の収益は悪化しているが、東京への主要ビジネスの集積は変わっていない。これをFortune Global 500を使って見てみよう。2009年度のGlobal 500のトップ10は石油会社が台頭しており(参考:原油買うので手一杯*2)、日本の企業としては唯一トヨタ自動車が10位に入っているだけだ(石油関連以外ではあとWalmartとING Groupが入っている)。しかもトヨタは今年赤字決算であった。
しかし、Fortune 500に入る企業がどこに所在しているかを見ると面白いことが分かる。
1. アメリカ:140社
2. 日本:68社
3. フランス:40社
4. ドイツ:39社
5. 中国:37社
Wikipedia; Fortune Global 500 より
http://en.wikipedia.org/wiki/Fortune_Global_500
中国経済の拡大もあり、徐々に数は減らしているものの日本には多くの大企業が残っている。これをさらに都市別にすると、その東京への一極集中具合が分かる。ここでも東京の規模は圧倒的だ。二位・三位のフランス・中国もまた中央集権的な国家だ。
1. 東京:51社
2. パリ:27社
3. 北京:26社
4. ニューヨーク:18社
5. ロンドン:15社
Wikipedia;Fortune Global 500 より
http://en.wikipedia.org/wiki/Fortune_Global_500
まとめ
グローバル化が国内での都心への人口集中同様の効果をもたらすのであれば、日本の中心としての東京の重要性は増していく。東京は現時点で世界最大の集積経済であり、グローバル化で日本の国としての相対的優位がなくなっても、その地位を維持していく。地方へのばらまきをやめ、東京都市圏への適切な投資を行っていくことが重要になるだろう。
*1 『経済学101』:日本でFacebookは生まれない
http://rionaoki.net/2009/11/1685
*2 『経済学101』:原油買うので手一杯
http://rionaoki.net/2009/12/2117
執筆: この記事は青木理音さんのブログ『経済学101』より寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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