クリエイターとプロデューサーは「折り合う」のではなく支え合っている――映画製作の現場にあるポジティブな葛藤
2025年10月18日、文京学院大学にて開催されたトークイベント「映画×経営学:スクリーンの裏側に潜むヒットの数式」では、脚本家、映画プロデューサーと経営学者が登壇し、脚本、プロデュース、経営学それぞれの視点から、ヒット映画が生まれる現場の構造が語られた。
<登壇者(登壇順・左から)>
・吉田尚記アナウンサー(ニッポン放送)※司会
・藤田邦彦教授(文京学院大学 経営学部長)
・公野勉教授(文京学院大学 経営学部)
・まなべゆきこ氏(脚本家)
・武井哲氏(有限会社PADMA 代表取締役・プロデューサー)
各氏の今回のトークイベントの登壇のきっかけは、文京学院の創立者・島田依史子の自伝を原案にした映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』。司会をつとめた吉田アナは、この映画を紹介した上で、テーマは「映画製作と映画ビジネスの行方」「どうしたら映画を作れるようになるのか」であることを紹介した。会場には、映画ファンや映画製作に関心の高い大学生まで多くの来場者が会場を埋め、映画製作の舞台裏やキャリア形成に対する期待と関心の高さがうかがえた。
核心テーマ:「ヒット映画はどう作られるのか」
◆まなべゆきこ氏 ―「予算を承知しながらも、必要な“雨”は書きたい」
まなべ氏は脚本執筆に際し、時には、まず予算の規模を把握する。脚本において、例えば雨、宇宙、爆破など、構想と文字が製作費を大きく動かすからだ。「初稿には夢を詰める」。しかし「現場の段取りとクオリティの両立で、見えない節約を積み重ねて最終稿に着地させる」。なぜなら、「必要な雨は書きたい」からだ。つまり、脚本とは感情と数字の両立が求められる“最初の経営判断”である。
◆武井哲氏 ― 「夢を現実に着地させるのがプロデューサーの仕事」
武井氏は、自身の役割を船会社に例える。「船長(=監督)が示す夢の航路を、天候(=社会情勢や予算など)と照らし合わせて現実的な航海計画に変える」と語る。「離陸しすぎると届かない。夢と現実の折り合いをポジティブにとるのが僕らの仕事」。そのためには、「例えば、認知されたキャラクターを活かした始球式コラボなど、作品を街に出す仕掛けが必要」。ヒットの鍵は“まだ観ていない人”への届け方なのだ。
◆公野勉教授 ― 「映画は作品を残すための仕組みづくりでもある」
公野教授が円谷プロ時代に感じたのは、番組が終わってもイベントや商品展開で収益を循環させる“持続する仕組み”の重要性である。「権利・現場運営・市場を三位一体で設計することが、映画やキャラクターを“街で生き続ける存在”にする」のだ。
◆藤田邦彦教授 ― 「AIにはつくれない、心と経験が、人的資本となる」
武井氏は、「今、映画業界は作品数に対し人材が足りていない」と述べた。これを受けて藤田教授は、「AI時代の映画製作でも、感情への共感や現場で培われた経験は代替できない」と指摘。そのため「映画やクリエイティブを学んだ大学出身者だけではなく、多様な背景を持つ人材が必要だ」と強調し、このような多彩な人材が”人的資本”として価値を持つと述べた。
結論:映画製作における現実と夢は、「妥協」の結果の折り合いではなく、多様な人材による「共創」による支え合いで作品に結びつく
映画製作の現場は、すでに、映画づくりの思想が「苦しい現場」から「挑戦できる産業」へと更新されている。脚本家・プロデューサー・経営者が対立するのではなく、夢を守るために手を組んでいるのだ。作品をヒットさせ、生き続けさせるためには、さまざまなバックボーンを持つ、多様な人材の力が必要である。
(文:文京学院大学 経営学部教授 濵田俊也)
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