『リトルナイトメア3』レビュー:シリーズ最新作としての満足感を味わえる一作

一時は「シリーズ継続不可能ではないか……」という話も出回ったホラーアクションアドベンチャーゲーム「リトルナイトメア」シリーズ。しかしこの度、最新作である『リトルナイトメア3』が発売された。シリーズを通じてプレイしてきた筆者も、もちろん自腹で購入、クリアしたのでレビューとしてお届けしたい。
なお物語の核心など、直接的なネタバレは避けるものの、「ゲーム内容を一切知らずにプレイしたい!」と思う人は、ぜひ記事を読む前にゲームをプレイしてほしい。「買うかどうか判断するために、おもしろいかどうか知りたいんだよ!」という人のために結論を先に書いておくと、シリーズの持つ世界観はしっかり継承していて、「リトルナイトメア」シリーズの一作としてバッチリ楽しめる一作だ。
ただ、課題が一切ないかと言うとそんなことはなく、個人的に引っ掛かりを覚える部分もあった。それが具体的に何なのかを一言だけで表現することは難しいので、その点についてはこのレビューの中で語っていきたい。
トラブルを乗り越え発売されたシリーズ最新作! 2人プレイを特徴とする『リトルナイトメア3』

『リトルナイトメア3』は、不気味な世界における少年少女たちの旅を描いたホラーアクションアドベンチャーゲーム「リトルナイトメア」シリーズの最新作。本シリーズはこれまでスウェーデンのゲーム開発スタジオであるTarsier Studios(ターシア・スタジオ)が開発してきた。販売はバンダイナムコエンターテインメントが手掛けており、作品の権利も同社が保有している。
こうした中で、ターシア・スタジオがスウェーデンのゲーム企業Embracer Group(エンブレーサー・グループ)に買収されたため、「リトルナイトメア」シリーズ開発に関われなくなってしまった。本記事冒頭の「シリーズ継続不可能ではないか……」という話はこうした経緯によるものだ。
しかしその後、「アンティル・ドーン 惨劇の山荘」などの作品で知られるイギリスの開発会社・Supermassive Games(スーパーマッシブゲームズ)が開発を手掛けるかたちで、シリーズ継続となった。つまり、本作『リトルナイトメア3』は、「リトルナイトメア」&「リトルナイトメア2」とは異なる開発会社が作ったものということになる。この点は本作をレビューする上で重要なポイントだと思う。

「開発会社が変わって、ゲーム性が大きく変わったのか?」というと、もちろん新作ということで追加・変更された部分は存在するものの、基本的には「リトルナイトメア」シリーズを踏襲している。これまでのシリーズ同様、主人公が不気味な世界を舞台に旅を行う。プレイヤーは移動、ジャンプ、物体を掴んで押す&引っ張る……といったアクションを駆使して、主人公を目的地へ導くこととなる。

「リトルナイトメア」シリーズは3Dで描画・処理されているが、基本的な視点はサイドビューで、2D版「スーパーマリオブラザーズ」シリーズのように、画面右へ、右へと進めばOK。ただし、場面によっては左方向へ移動したり、手前・奥方向へ移動したりすることもある。
では、ゲーム的にも2D版「スーパーマリオブラザーズ」のように、敵の対処をしつつ、足場から足場へジャンプすればいいのか……というと、基本的にはその通り。足場から足場へのジャンプアクションを主体として、謎を解くパズル要素や、追ってくる敵から逃げるチェイスアクション、敵に気づかれないよう進むステルスアクションやボスとのバトルといった要素がシーンごとに用意されているかたちだ。

こうした「リトルナイトメア」の基本は押さえつつ、本作では2人の主人公を用意しており、プレイヤー2人によるマルチプレイが可能となった。マルチプレイではなく、ソロでプレイすることも可能で、その場合、もう一人の主人公を操作することとなるのはAIだ。このことは、本作のゲーム性に大きく影響を与えている。

というのも、本作の謎解きやバトルは主人公2人の協力や、分業が前提となっているのだ。
2人の主人公の1人、「ロゥ」は少年のような外見で、弓を使った遠距離攻撃が可能。弓を使うことで、手の届かない高所にあるスイッチを作動させたり、空を飛ぶ敵を倒したりすることができる。
一方、もう1人の主人公「アローン」は少女であり、スパナを使った強力な打撃が可能。ヒビの入った壁を破壊して通路を作ったり、ボルトにスパナを固定してハンドル代わりにしたり……といったことが行える。
本作を進めるためには、こうした主人公2人の特性を踏まえて、それぞれが得意なことを行ったり、あるいは2人が力を合わせて同時に行動したりすることが必要だ。

この「2人の主人公」という要素によって、「リトルナイトメア」シリーズとしての楽しさがどう変わったのか……と言うと、ゲームの核となる魅力や緊張感といった意味では基本的に大きく変わっていないように感じた。と言うのも、前作「リトルナイトメア2」の時点で既にモノとシックスという2人の主人公が存在していたからだ。
とは言え、前作ではプレイヤー2人によるマルチプレイは行えなかった。このため、マルチプレイで本作をプレイした場合、プレイ感は大きく異なるものになるのだろう。
ただ筆者は今回ソロでプレイしており、その場合のプレイ感は「シリーズを裏切らない」、「大きな変化がない」というどちらの意味でも、「リトルナイトメア」シリーズのものだった。

なお、主人公2人による協力・分業プレイという点でちょっと気になったのが、AIが担当するもう一方のキャラクターの動きだ。と言うのも、AIの動き方によってパズルの解き方が分かってしまうことがあったからだ。
おそらくAIは、何がアクション可能なポイントで、どう動かすべきか、次に何をすべきか……といったことをある程度学習しているのだろう。だから、筆者が気づくよりも先に行動してしまう。
逆にAIの動きが一足遅く、イライラしてしまうこともあった。特に、追ってくる敵から逃げるチェイスシーンで、自分のミスではないところで失敗してしまうと、イライラしてしまいがち。
もちろんこうした問題は、プレイヤー2人でマルチプレイをした場合にも起こり得る。プレイヤーによっては、いち早く謎解きの答えに到達するだろうし、アクションが苦手でついつい遅れてしまう……ということも十分あり得るからだ。
一方で友だちと対人プレイをした場合には、こうしたプレイヤー間の実力の差異が、イライラよりむしろ、楽しさに繋がることも考えられる。たとえば、2人同時プレイが可能な「New スーパーマリオブラザーズ」などがその好例で、片方のファインプレイに感謝したり、片方のミスに思わず笑ってしまったり……という予測不可能さが楽しいのだ。
しかし、ソロプレイで相手が人間ではなくAIとなると、残念ながらこうした楽しさは感じられない。

だったら本作は、プレイヤー2人によるマルチプレイを前提として楽しめばいい……そう結論づけることもできないわけではないが、これまでのシリーズ作がソロプレイ前提のゲームであったことを考えると、できればソロプレイでも楽しめるようAIを改善してもらえないかなとも思ってしまう。
しかしこれはそう簡単なことではないだろう。「どんなときもAIが賢すぎるのでダメ」とか、「どんなときもAIの判断が遅すぎるのでダメ」といった単純な話ではなく、状況に応じてプレイヤーが最も楽しめるような動きをしてほしいという要望だからだ。

だからと言って主人公を減らし、第一作目のような単独主人公にしてほしいとも思っていない。なぜなら本作において、主人公が2人いるということは、ゲーム的なおもしろさのみならず、ストーリー面・体験面での意義を担っているからだ。「欠かせない相棒がいる」という感情が芽生えることこそが本作のストーリーの肝となっている。

シリーズ最大の魅力! 考察し甲斐のある世界観は今作でも健在
「リトルナイトメア」シリーズにおいて、ストーリーはアクション以上に重要な要素だ。ただ、このシリーズでは、セリフやナレーションといったテキストを使ってわかりやすくストーリーを描くという手法は採っていない。この点は本作でも踏襲しており、ゲーム内の状況や風景といった環境を用い、プレイヤーに「感じてもらう」ことによって物語を描くという手法を採用している。

テキストを用いずに描かれたストーリーは、一見わかりにくい。というのも、大抵のプレイヤーは自分が「感じた」だけでは、それがゲーム世界にとっての事実かどうか自信や確信が持てないからだ。
たとえば、仲睦まじい男女のキャラクターがいたとしよう。プレイヤーは状況を見て、「仲が良さそうだな」「恋人かな?」「家族かな?」「友達かな?」などと想像する。しかしそれがテキストによって確定するまでは、「そう感じた」止まりであって、その想像はプレイヤーの推測に過ぎない。
とは言えただの推測も、複数の状況が重なれば、確度は上がっていく。たとえば、「男女のキャラクターが同じ家に住んでいる」とか、「キスをしている」といった状況が重なれば、二人は「恋人の可能性が高そうだ」という具合に。そして、最終的にはストーリーの全体像も見えてくる。
こんな風に、複数の状況からプレイヤーが感じたことをまとめ上げ、結論を出す行為には、おもしろさがある。それは「考察」するというおもしろさだ。「リトルナイトメア」は、そんな「考察」するおもしろさを持ったシリーズなのだ。

そして本作『リトルナイトメア3』でも、考察する楽しさはしっかりと用意されている。
主人公2人はどんな存在なのか?
舞台となっている場所はどこなのか?
敵として立ちはだかる連中は、いったい何者なのか?

また、「ノーム」のように過去作品と共通するキャラクターも登場しているため、『リトルナイトメア3』単体での考察に加えて、過去作とどう繋がっているのか関連性を考察するのも面白い。今作で開発会社が変わったことによって、「リトルナイトメア」の持つ世界観や考察の楽しさをどこまで継承できるのか、筆者は懸念していた。しかし本作ではしっかりと、シリーズの世界観や考察の楽しさを継承してくれている。

とは言え、本作の考察について若干気になった部分もあった。それは、ストーリーに「心理的要素」の影響を感じる点。
ネタバレを避けるため詳細の言及は避けるが、個人的にはこれまで「リトルナイトメア」シリーズ内での存在や出来事は、作品内で客観的に存在し、発生した出来事だったように捉えていた。もしこれが、「誰かの主観を通した場合にはAという出来事になるが、別の誰かの主観を通してみるとBという出来事になる」というかたちになった場合、「世界」ではなく「個人の心の中」を描くサイコロジカルホラー的な物語になってしまい、恐怖の立脚点がこれまでのシリーズと異なるものになってしまうように思う。

だが、これはあくまでも筆者の個人的な印象に過ぎないことを断っておく。ここまで書いてきた通り、「リトルナイトメア」シリーズとは、娯楽のひとつとして「考察」を含む作品だ。そして、「考察」とは、唯一絶対の答えを味わうものではなく、プレイヤーそれぞれの解釈を楽しむ行為にほかならない。
だから、本作をプレイした人々が筆者とは異なる解釈を持つのは自然なこと。その解釈がその人にとっての正解であり、それが「リトルナイトメア」というゲームの本質なのだ。

見方を変えると、筆者にとってこれまでの「リトルナイトメア」シリーズはサイコロジカルホラー的な物語ではなく、本作の出来事を解釈する場合も、「すべて作品内で客観的に存在し、発生した出来事」という前提で捉えなければならないのだろう。
だとすると、本作のストーリーは一体何を意味しているのか? こうやって考察を重ねていく楽しさは、まさしく「リトルナイトメア」だ。

最後にまとめると、ソロプレイ時のAIの挙動や、ストーリーから個人的に考察した内容などに引っ掛かりを感じる部分もあるが、全体的に見て本作はホラーアクションアドベンチャーゲームとして面白く、「リトルナイトメア」シリーズの一作に相応しい作品だ。開発会社の変更というトラブルを乗り越え、本作をリリースしてくれたことに感謝したい。
そしてそんな感想ゆえ、既に次回作以降への期待も膨らんでしまっている……ということもあえて強調しておきたい。

(文/田中一広)

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