映画『九⽉と七⽉の姉妹』アリアン・ラベド監督インタビュー「ティーンエイジャーが痛みを感じているのは、周りの世界をよく理解しているから」

第77回カンヌ国際映画祭2024「ある視点」部⾨正式出品、2024 年、カンヌ国際映画祭でのプレミア上映以降も各国映画祭で賞賛︕フランス⼈俳優として世界的に活躍するアリアン・ラベドがメガホンをとった⻑編デビュー作『九⽉と七⽉の姉妹』が公開中です。

史上最年少のマン・ブッカー賞候補となった作家デイジー・ジョンソンによる「九⽉と七⽉の姉妹」(原題︓Sisters)に着想を得て制作された本作。ラベドの公私に渡るパートナーであるヨルゴス・ランティモスを中⼼として⽣まれた映画ムーブメント<ギリシャの奇妙な波(Greek Weird Wave) >を継ぐ作⾵で脚光を浴びた。10 ヶ⽉違いで⽣まれた⼀⼼同体の姉妹・セプテンバーとジュライを演じたのは“カンヌの新星”として演技を⾼く評価されたパスカル・カンとミア・サリア。また、『関⼼領域』でアカデミー賞⾳響賞に輝いたジョニー・バーンによるサウンドデザインが物語を不穏な予兆で充たしていく。⼀体どこからどこまでが⾃分なのか̶̶互いの境⽬がわからないほど絡み合った姉妹の絆は、やがて醒めることのない悪夢へと姿を変える——。

アリアン・ラベド監督に作品のこだわりについてお話を伺いました。

(撮影:ヨルゴス・ランティモス)

——原作に惹かれた部分と映像化する上で一番意識したことはどんなことでしょうか。

原作を読んで、まずこの姉妹のキャラクターに惹かれました。原作者のデイジー・ジョンソンは日常生活のディティールを描きながらも超常現象的なものを表現出来る人で、そこが素晴らしいと思ったんですね。映画化する上ですごく気をつけたのは3人にフォーカスするということです。文学あるいは小説というものは、時間と空間を自由に飛び回ることができます。ですが、映画は1時間半ぐらいに納めなければいけないので、時期を限定しなくてはいけなくなります。なので、私は3人にフォーカスして、彼女たちの視点や経験を中心に映画を作っていこうと思いました。別の言い方をすると、女性の眼差しというものを中心にしようと思ったのです。

——ティーンにしか分からない痛み、嫌なことがありありと描かれていますが、監督ご自身の経験が活きている部分はあるのでしょうか。

もちろんそうです。私が10代の頃、ものすごく強烈な経験をしていたわけなわけなんですけれども、年を取ってくると、そういった出来事を忘れようとするわけなのですが、ティーンエイジャーが痛みを感じているのは、自分の周りの世界をよく理解しているからだと思います。この世の中はとても痛みに満ちた世界だという風に思っていて、10代の皆さんはそういった世界とどう付き合っていくか、やり方を築いていく時期だと思うんですね。そういった感覚は私は覚えていたいと思っています。
私たちは、みんな10代だったのですし、その時ものすごく深く色々なことをを感じていたわけですよね。

——辛いシーンの撮影でキャストのケアなど大切にしていたこと。

私の撮影に対するアプローチはあまり心理的ではなくて身体的だと思います。その身体的なアプローチが俳優さんたちを守っていたのかなと思います。例えば、個人的な心の闇を探って「こう表現してください」ということをやらなかったんですね。なので演技の指導というよりはダンスの演出に近かったと思います。そういう意味で、魂は守られたのではないかと思います。身体性を演出することによって、感情が表れてくるというアプローチを取ったわけです。
もちろんインティマシーーコーディネーターはいましたし、俳優さんそれぞれに性的なものを描く上での限界があるということもよく分かりました。俳優さんたちは18歳と23歳で、映画の中のキャラクターよりは年上ですけれども、常に「これをやって大丈夫か?」とチェックをしていました。

——プロップや衣装から2人の距離の近さや遠さを暗示させるような雰囲気を感じましたがこだわりを教えてください。

全体的に60年代から90年代のスタイルで、それは私が育ってきたスタイルでもあります。特に後半の方に変な洋服を着ていますけれど、あれはその家にあった箱から出してきたもので、前の世代のトラウマを洋服を通じてこう感じている、その重みを感じているということになります。
彼女たちが、箱の中から見つけたスカーフとか双眼鏡とかで遊んでいるわけですが、ゲームのツールであると同時に、その相手を操作する、マニピュレーションすること道具にもなっているということです。
あとメイクアップをしていないところもこだわりです。

——ストーリーはもちろん映像が素敵でしたがこだわった所を教えてください。

この映画をフィルムで撮影するということはすごく重要でした。空間の中で身体というもので語りたいと思っているので、クローズアップをなるべく使わないようにしています。また、いわゆる映画的な照明は使わない様にしていて、常に太陽がどこの位置にあるかということを考えて、夕暮れの光、朝日、自然光を使って撮影するようにしました。そういったものが全てビジュアルに現れていると思います。

——監督が作品を作っているときに一番楽しい瞬間はどんな時ですか?

実際の現場にいる時間、人々と一緒に仕事をしてる時間が一番好きです。脚本を書いている時間も好きなのですが、ちょっと孤独にもなります。映画というのはすごく共同的な作業なんですね。今回は、私の考えと同じ様に映画作りを望んでくれるスタッフに恵まれて、すごく感謝しています。撮影している時は時間が足りなかったり、プレッシャーがあったりするんですけれども、集団でストーリーを語っていくことができることの喜びというのはとても大きいものです。その後には編集という、非常にこう辛い作業が待っているわけですが(笑)。スタッフ、俳優さん、皆さんすごく寛大な人たちだったので、ありがたく思っています。

(撮影:ヨルゴス・ランティモス)

『九⽉と七⽉の姉妹』(原題︓September Says)
監督・脚本︓アリアン・ラベド
出演︓ミア・サリア、パスカル・カン、ラキー・タクラー
原作︓デイジー・ジョンソン『九⽉と七⽉の姉妹』(東京創元社刊)
© Sackville Film and Television Productions Limited / MFP GmbH / CryBaby Limited, British Broadcasting Corporation,
ZDF/arte 2024

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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